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医療 × 名作検証ブラック・ジャックを「今」読みとく

第23回座談会「肩書き」1977年 初出

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ディスカッサー

順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長 天野 篤先生

天野 篤先生

順天堂大学医学部附属順天堂医院
院長

長島整形外科 院長 長島 公之先生

長島 公之先生

長島整形外科 院長

長島先生:
今回は、天皇陛下の執刀医として高名な順天堂医院 天野篤院長にお越しいただきました。よろしくお願いいたします。
天野先生:
よろしくお願いいたします。
長島先生:
先生は、ブラック・ジャック(以下、B・J)はよく読まれていましたか?
天野先生:
一通り読んでいましたよ。今回、「肩書き」の回を紐解くということですが、肩書きと言えばB・Jが無免許医であることを避けて通れませんよね。B・Jはなぜ無免許医なのか、語られている部分はあるんですか?
長島先生:
直接的には描かれていません。ですが、考えられる点はあります。まず、医師免許を持っていながら医療行為を行ったことの無い作者との対比として、無免許にもかかわらず多くの患者を助けるB・Jという設定にしたという面があります。B・Jでは、当時の医療体制や権力などに反発する描写が出てきますが、そんなB・Jが医師免許を持っていてはおかしいということもあるでしょうね。ある回では、患者に医師免許の無い理由を聞かれ、「医師免許があると面倒なことがある」と言っています。実は、医師会が免許交付に乗り出すというストーリーもあるんですよ。ただ、そのときピノコの体調が悪くて手続きに行けなかった。また、B・Jは幼少期に気胸を患っていて、その苦しみがトラウマで気胸の手術時に手が震えるので、医師免許を取れない、ということもあります。
天野先生:
そんなに逸話があるんですね。どれもこれも細かく裏打ちされた物語上の設定ですよね。これに、先生方の医療考証をもとにすれば、シリーズ物の医療ドラマがすぐ作れちゃうんじゃないかと思いますね。現代版B・Jへの焼き直しですよ。
長島先生:
それはいいアイディアですね、今度、制作会社と打ち合わせてみましょうか!それでは、その医療考証から進めていきましょう。本話では、A国のブリリアント三世陛下が、B・Jの技に興味があり、国賓として来日する際に、患者を帯同しました。B・Jに手術させるのが目的です。帯同された患者は先天的な冠状動脈異常とされていますが(図1)、まず、この疾患はどのようなものでしょうか。
天野先生:
疾患としてはBWG(Bland-White-Garland)症候群ですね。BWG症候群は左冠状動脈が肺動脈から出ている生まれつきの病気で、そのほとんどが生まれてまもなく重篤な心筋障害を起こして、手術をしないと亡くなってしまう。ですが、患者は成人女性ですね(図2)。小児期の心臓障害が致死的にならず、成人期に見つかって治療するというまれなケースの典型例だと思います。このような例では、成長にしたがい側副血行路が発達するので突然死はなく、狭心症として発現するんです。
長島先生:
この疾患は当時から知られていましたか?
天野先生:
知られていました。当時、国内の小児心臓外科では、ここに出ている順天堂大学の鈴木章夫先生らが有名でしたね。図1のカットはおそらく血管造影の図ですね、この分野は血管造影ができるようになって、飛躍的に発展したんです。
長島先生:
ここに出ているとおっしゃいましたが。
天野先生:
図1に「日本ではまだJ大学の鈴木教授にしか手術に成功していない」とあるでしょう。これはまぎれもなく順天堂大学の鈴木先生ですね。先生は私の先々代にあたる先生です。ですので本話に私が呼ばれたのは、とても縁を感じますね。
図1
図1
図2
図2
  • ※ 血管の異常を補うよう自然に発達してくる別の血流路。