医療 × インタビューリアルストーリー

  • ドクターズ・ストーリー
  • 経営

地域医療を守り、地域を活性化させる津山中央病院の“飽くなき挑戦”を支えるリーダーシップ:岡山県北の高度急性期医療最後の砦として

津山中央病院グループ 総院長 藤木 茂篤 先生

1979年岐阜大学医学部卒業。岡山大学第一内科入局。平田市立病院、津山中央病院を経て1983年岡山大学第一内科帰局。博士号取得後、1988年津山中央病院勤務。その後消化器部長、内科部長、主任部長、副院長、上席副院長を経て、2010年津山中央病院院長就任。2013年一般財団法人津山慈風会総院長を兼務。2017年より津山中央病院グループ総院長に就任。

藤木 茂篤先生

津山中央病院は、岡山県北部26万医療圏において、唯一の高度急性期医療を提供する中核病院です。津山中央病院の “オンリーワン”としての使命とそれに基づく経営課題、病院経営におけるチームマネジメントへのこだわり、郷土への思いについて、津山中央病院グループ 総院長の藤木茂篤先生にお話をうかがいました。

津山中央病院の経営戦略:高度急性期医療機能の維持・発展と、全国・世界からの集患を狙う地域活性化に向けて

がん陽子線治療センター

がん陽子線治療センター
(平成28年4月より)

津山中央病院の特徴は、高齢化、人口減少の進む岡山県北で唯一の三次救命救急センターを有する高度急性期病院であることです。津山中央病院の使命は、県北の医療の“最後の砦”として、“断らない救急”の提供と、幅広い疾患領域に対する高度急性期医療提供の体制を維持することです。この使命から、経営における王道である“機能の絞り込み”が成立しづらく、病院は効率化や診療単価を上げることが難しいというハンディキャップを抱えます。そのため、将来の人口減少を見据えて、病院自体の縮小を避けるための診療圏外からの集患の強化も重要な課題といえます。
高度急性期医療提供の体制については、特に、対応できるレベルの高い医療人材の確保、育成、定着の流れを最重要視しており、職員満足を目的とした施策に注力しています。例えば、単身赴任の上級医師用宿舎、研修医宿舎の設立、国際学会参加費や英語論文作成への金銭的援助、全科の手術に対するインセンティブなど、職員の職場満足度の向上、モチベーション向上のための施策は他に類をみないほど充実しています。
また、今後の人口減少を見据えた診療圏外からの集患施策として、“岡山”を超えて、「“日本・世界”に誇れる医療サービスの提供」をスローガンに、総額170億円をかけて、中四国地方初となるがん陽子線治療センターの設立、IMRT(強度変調放射線治療)の新設など、特にがん領域における高度先進医療の充実に取り組み、さらに、スーパーICUを完備した新病棟およびハイブリッド、ロボット手術室などを現在建設中とのこと。

藤木先生は、精力的に病院の改革に取り組んでおり、2010年の病院長就任から7年間で36のプロジェクトを立ち上げてきました(図1)。斬新なものも数多く、特に、最近開始したプロジェクトの中には、現在問題となっている「医師の働き方改革」に対する先進例をつくるべく導入された「2連続労働日制」があります。2017年8月より開始したこの施策が成功すると、医師不足に悩む地方の急性期病院の医師の働き方改善のモデルとなることへの期待が高まっています。これらに代表される藤木先生の“挑戦”が実を結び、全国病院改革ランキング※1においても、県内順位を7位から4位に上げ、躍進を評価されています。

図1:藤木先生在籍7年間の導入プロジェクト

図1:藤木先生在籍7年間の導入プロジェクト

  • *2連続労働日制:通常の当直制度では、17:30~翌朝8:30は時間外労働となり、月に4回の当直で月60時間を超える時間外勤務となる。これに対して、夜間当直日は、8:30~17:30を通常労働、当直に入る17:30~24:00を時間外労働、翌0:00~8:30を再び通常労働勤務とし、8:30以降は基本的に休みとすることで当直が時間外労働となることを避け、医師の業務負担を減らす試み。

“医は仁術“から、”算術も“:躍進の秘訣は職員の意識改革

津山中央病院の“躍進”のきっかけは、藤木先生の経営に関する気づきを、職員の意識改革に繋げたことにありました。津山中央病院は、現在でこそ、経営効率やユニークなプロジェクトによる病院改革実績という視点で評価されていますが、藤木先生が病院長に就任して間もないころは、病院全体として経営やお金に関する意識はそれほど高くありませんでした。むしろ、“医は仁術である”“患者さんのためなら”という医療者の職人気質から、コストを度外視しても患者さんを助けたいという文化がありました。藤木先生もまた、同様の考えを持っていたといいます。しかし、藤木先生が病院長となって実際にお金を動かし、病院の未来を考える立場に立ったことをきっかけに、“患者さんにとって、未来の津山中央病院はどうあるべきか”ということを考えるようになりました。その結果、収支バランスのとれた健全な経営をめざすこと、それによって蓄えた資金で病院の機能を高めること、医師のさらなる技術研鑽のための教育、優秀な医師の確保への投資を行う事が、患者さんにとってより価値の高い津山中央病院を作るのではないかという結論に行きつきました。「“患者さんのため“という大義のために適正なコスト管理を行わず、その結果、医療機能を縮小せざるを得なくなり、患者さんが救えなくなることは”患者さんのため“か、本当の”仁術“と言えるのか。”医が仁術“であるためには算術も大切ではないか。という気づきを得ました。」と藤木先生は振り返ります。その時から5年をかけて組織のコスト意識に関する改革に取り組みはじめました。その成果として、院長就任後から医業収益、経常利益を上げ続け、「日本・世界に誇れる医療サービスを」というさらに大きな目標に向かう投資につながっています。「それぞれの職員の持っている職業人としての価値観から変えていく作業だったので、はじめはなかなか受け入れられませんでした。」と藤木先生は当時の苦労を振り返ります。

組織の意識改革に必要なリーダーの行動:夢やビジョンの発露、職員のことを真摯に考える姿勢

大きな組織において、全体の意識や行動を変えることは簡単なことではありません。リーダーが明確な夢やビジョンを持ち、それを職員が理解し、各々の行動に反映させることが重要だと藤木先生はいいます。藤木先生が常に行っていることは、「夢やビジョンを、組織の中で耳にタコができるほど語り、浸透させること」であるといいます。「職員には、『藤木先生がまた言っている』と半ばあきれたような顔をされていますが、それでいいと思っています。私の言う夢が、職員の“当然”になったとき、職員の行動や考えなどのアウトプットにも自然と反映され、組織全体が一体となって一つの目標に向かうことができます。」実際に、職員の行動や、勉強会のプレゼンテーションなどに藤木先生の話している夢やビジョンの断片が現れると、組織の行動への自身の考えの浸透を実感するといいます。

また、“この人の夢のためなら”と思ってもらうことも大切だといいます。患者さんを思うことも大切ですが、藤木先生は、リーダーとして、職員を第一に考える姿勢を徹底しています。一貫して、「職員に対して、『あなたたちが津山中央病院の未来にとって一番大切な資産だ」ということを、言葉と経営施策として伝えるようにしています。」と藤木先生はいいます。「あとはひたすら、正直に。裏表なく、私利私欲に走らない、自分の功績にのみつながるようなずるい仕事はしないと決めています。」裏表なく、ストレートに「職員が大切」と言い切り、夢に対して正直な道を歩むリーダーのためならば、多少の無理はしても力になりたいと思うものです。

津山の発展を夢見る藤木先生の“医・商・工連携による地域活性化構想”

もともと、藤木先生は、県北唯一の消化器・内視鏡専門医として活躍する臨床家でした。大学病院や県外の病院からの、いわゆる出世の道へのオファーも数多く受けてきています。しかし、最終的にはそれらの道を選択せず、津山の医療を守り、津山中央病院を発展させるという選択をしてきました。その根底には、生まれ育った津山への愛と、自分の手で津山の医療を発展させたいという夢がありました。この“夢”こそが、“地域に唯一の高度急性期病院“という環境から生まれるシビアな経営課題に立ち向かいながら改革を進め、津山中央病院を発展させる力の源泉となっています。
また、「“オンリーワン“の津山中央病院グループの総院長としての立場以前に、津山を故郷とする一市民として、活気づく津山が見たいという純粋な気持ちを持っています。医療にとどまらず、行政、経済界も巻き込み地域活性に貢献したいというのが、これからの私の夢です。」と藤木先生はいいます。 藤木先生は、今後、津山中央病院の陽子線治療をはじめとする先進医療に、行政や工業、近隣の商業施設を巻き込み、充足し、独立した生活圏を作りたいという大きな構想を描いています。県議会でも何度か提案しており、関心を持つ議員も増えてきているとのこと。現在、地方では、医療に限らずさまざまなインフラ産業において、高齢化、人口減少、減収の流れが大きな経営上の課題となっている中、藤木先生の描く津山の活性化への”挑戦“は、今後の地方産業における地域活性化への道標となることでしょう。

【ココがポイント】

藤木先生は、
組織の改革の局面においてチームが一つの方向を向くために、必要なリーダーの行動として、
追い続ける夢やビジョンを持つこと、 その夢やビジョンをチームに繰り返し発露すること
また、リーダーとして人望を集めるために、常にチームのメンバーを大切にすること、リーダーが夢やビジョンに対して真っ直ぐでぶれないことを挙げられました。

内視鏡検査年間1万件突破記念写真

内視鏡検査年間1万件突破記念写真
(術者は研修医、藤木先生は被験者)

天然温泉を持つ健康増進センター

天然温泉を持つ健康増進センター
(カルヴァータ)

藤木先生は、
組織の改革の局面においてチームが一つの方向を向くために、必要なリーダーの行動として、
追い続ける夢やビジョンを持つこと、 その夢やビジョンをチームに繰り返し発露すること
また、リーダーとして人望を集めるために、常にチームのメンバーを大切にすること、リーダーが夢やビジョンに対して真っ直ぐでぶれないことを挙げられました。

藤木先生が津山について、病院について、また、職員についてお話される場面では、非常に生き生きとした表情をされていたのが印象的でした。藤木先生のこの表情から、裏表なく津山と病院、職員を愛し、津山の医療を守りたいという心からの思いの存在を感じました。また、夢に向かって、職員と一致団結して“挑戦”を打ち出していくことに楽しみや喜びを感じておられることも、津山中央病院が躍進を続ける秘訣なのでしょう。

職員や研修医との心の距離の近さも藤木先生の特徴の一つです。常時開放の院長室には職員が気軽に訪れて藤木先生と立ち話を交わし、内視鏡検査年間一万件記念の際には研修医に自ら患者として身体を委ね、休日は、職員の働く津山中央病院内フィットネス・スパ施設のカルヴァータで患者さんと一緒に汗を流しているとのこと。気取らなく、ユーモアにあふれる藤木先生の人柄もあり、岡山県北の医療の大将でありながらも、どこか人としての愛らしさを感じる場面がありました。藤木先生のリーダーとしての人望に加え、職員に愛される人柄もまた、職員の“この人のためなら頑張ろう”というモチベーションを支えているのでしょう。

ドクターズ・ストーリー編集局が選ぶ先生の一言「夢やビジョンに対してまっすぐでありつづけ、裏表なく向き合い続けることが組織の意識や行動を一つにします。」

資料:

  1. ※1 全国病院改革ランキング 週刊ダイヤモンド 2016年3月19日号.