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Patient Talk

「ほかに気になることはありませんか?」の一言に安心。
コミュニケーションって大切ですね。

レスリング選手 吉田 沙保里さん

吉田沙保里さん(レスリング選手)

3歳でレスリングを始め幼少期から頭角を現わし、2002年以降世界選手権13連覇、オリンピック3連覇という前人未到の記録をもつ吉田沙保里さん。他に類を見ない強さからメディアでは「霊長類最強女子」とも称され、強靭な肉体の持ち主で病気しらずというイメージですが、実は貧血や喘息などを経験し、乗り越えてきたという一面もあります。「好きなスポーツ選手ランキング」でも常に上位に選ばれる、まさに“国民的人気”を誇る吉田さんの、30年にもおよぶレスリング人生を支えてきた体調管理法や医師との関わりについてお話を伺いました。

ドーピング検査に影響しないよう、薬は必ず医師に相談

幼いころから食が細くて好き嫌いも多かったという吉田さんは、もともと体は強いほうではなかったと言います。

「子どものころはよく熱を出していましたね。大学生になっても厳しい練習が続くとすぐに貧血になったり、扁桃腺が腫れて発熱したりと体調を崩すこともよくありました」

アスリートにとっては日頃からの体調管理も重要ですが、きちんと自己管理をし始めたのは大学に入ってからでした。

「とくに貧血はパフォーマンスにも影響が出るため、日頃から鉄分を意識した食事を心がけたり、サプリメントや鉄剤を飲んで補ったりしていました。体調が気になるときはすぐに受診して検査を受け、必ず医師に相談しながらドーピング検査に影響しない薬を処方してもらっています。どの先生に診てもらうかは、家族や監督、マネージャーなどから紹介してもらうことが多いですね。信頼している人からの紹介なら、安心して身を任せられます。ときどき、抜き打ちのドーピング検査もあるので、自己判断で市販の薬を使うことはありません」

吉田さんが練習している道場は、夏は暑くて冬は寒い環境。冬場でも練習中には汗をかきますが、終わった後、仲間とおしゃべりが弾んで時間が経つと気が付かないうちに体が冷え、体調を崩すことがよくあったそうです。これではいけないと、練習が終わったらすぐにシャワーを浴びるようにしました。そのことが、選手同士の接触が多いレスリングにはつきものの白癬や単純ヘルペスといった皮膚疾患の予防にもなっていると言います。

「監督から『一人が罹るとみんなにうつってしまうから、自己管理をしっかり』と普段から言われていますし、後輩たちには気がついたら『すぐにシャワーを』と教えています」

素晴らしいチーム、そして、いい先生に巡り合ってきた

吉田さんは、家族や監督など周囲の人から紹介してもらった医師のほかに、地方で急に風邪をひいたり、体調に不安があったりしたときは、飛び込みで一般の病院を受診することもあるそうです。

「これまで監督やコーチ、チームなど、人間関係には恵まれてきたと感謝していますが、病院でもいい先生に巡り合ってきたと思います。初対面でもしっかり話を聞いてくれたり、薬についても丁寧に調べてくださったり。そしてなにより、最後に『ほかに気になることはありませんか?』と気にかけてくれたりすると、とても安心できるし、信頼感も生まれます。こういうとき、コミュニケーションって大切だなと感じますね。

学生時代に選手として毎日、練習をしていたときよりも、社会人になり、レスリング以外の仕事が増えた今のほうが、さらに体調管理には気を使うようになったと話します。

「練習のときは自分一人が休めばいいかもしれないけれど、仕事は周りの人に迷惑をかけてしまいますからね。現在はテレビに出演させていただいたり、これまで以上に多くの方々とご一緒することも増えたので、これまで以上に気を遣わないといけないと思っています」

長年、トップアスリートであり続けるにはストレス対策も必要ではとたずねると「あまり感じたことがないんです」と意外な答えが返ってきました。

「これまで、レスリング一筋。好きなことをさせてもらっています。目標をもって、夢を目指してがんばっていることは、ストレスにはならない。もちろん、苦しいときや、もういやだなと思うときもあります。でも、そんなときには目標や夢を思い出して『勝つためにやっているんだ』と再確認。気持ちを切り替えていますね」

2015年、突然の喘息——不安を乗り越え、克服

吉田さんが幼いころから付き合ってきた症状のひとつにアレルギーがあります。現在でも毎日1錠、薬をのんでいますが、毎年秋になると咳が出やすくなり「またこの季節が来たな」と思うそうです。

最近では講演やテレビ番組の生放送などで話す仕事が増え、思わぬタイミングで出てしまう咳のケアにも苦心することも。

「少しでも違和感があったら水分をとったり飴をなめたりして喉をうるおしています。でも、咳って出てほしくないときに限ってなぜか出ちゃうから困るんですよね」

2015年の秋、全日本選手権が目前に迫り、翌年にはリオデジャネイロオリンピックも控えた大事な時期の咳は、いつもと様子が違っていました。

「のどを潤しても咳が止まらなくなって、練習中もゼーゼーしてきました。息が上がると呼吸がしにくくなって、練習にも影響が出始めたんです。何日か経って寝ているときも苦しくなり、ちょっと大げさかもしれないけど『もしかしたら、このまま死んじゃうんじゃないか』と不安になったこともありました」

監督に相談して、すぐに医療機関を受診。検査した結果、喘息と診断されたのです。吸入薬を処方してもらい治療後は回復に向かいました。幸い、これまでに再発はしていません。

「もともと私の父や兄も喘息の持病があり、幼いころから喘息の症状を間近に見てきました。だから、もしかしたら喘息かもしれないとは思いましたが、本当に急だったので、大人でも突然発症するんだなと、驚きましたね」

症状が重かったときは、また息が上がって苦しくなったらどうしよう……と練習に集中できなかったという吉田さん。喘息で息が上がるようでは、試合前のアップも十分にできないだろうし、全力で競技することは難しい、しっかり症状をコントロールできてよかったと、当時を振り返ります。

2020年、そして、その先へ——

レスリング選手として、コーチとして今後の活躍も期待される吉田さん。2020年には東京オリンピックを控えていますが、今後の夢や展望を聞くと……。

「2020年も『出たい』という気持ちはあります。そのとき私は38歳になり、後輩たちもどんどん強くなってきていますから、もしかしたら出られないかもしれません。もし、選手として出場できなかったとしても、なんらかの形でレスリングには携わっていけたらと思います」

とまっすぐな眼差しで答えてくれました。そして、一人の女性としての夢は「結婚・出産を経験したい」という吉田さん。先日、初めて婦人科健診を受けてきたそうです。

「選手としても一人の女性としても、体調管理は大切。これからも健康第一でレスリングに仕事に、プライベートでは恋愛にと全力で臨みたいと思っています」

PROFILESaori Yoshida

1982年10月5日生まれ。三重県出身。久居高から中京女子大(現・至学館大)卒。レスリング選手兼女子日本代表コーチ。至学館大副学長。父・栄勝が自宅の道場で開く一志ジュニア教室で3歳から競技を始め、幼少から各世代大会を制する。2002年、世界選手権に初出場初優勝し、25年大会まで13連覇。五輪では04年アテネ大会から12年ロンドン大会まで3連覇。12年に五輪と世界選手権を合わせ、世界大会13連覇を達成し、国民栄誉賞を受賞した。16年リオデジャネイロ五輪銀メダル。世界大会16連覇、個人戦では206連勝。
現在もレスリング選手としてトレーニングを続けながら、女子レスリング日本代表コーチとして若手の選手育成にも注力している。その他、講演で各都市を訪れるほか、、テレビ・CMなどの各種メディアでの活躍もめざましい。

吉田沙保里さん公式ホームページ
https://yoshidasaori.jp/

公式Twitter
https://twitter.com/sao_sao53

公式Instagram
https://www.instagram.com/saori___yoshida/

【監修】上村 公介先生(江戸川病院 スポーツ総合診療科)

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