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「匠」第2回:AED~日本光電工業株式会社~

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突然の心停止から命を救うカギとなる、AED(Automated External Defibrillator:自動体外式除細動器)。日本ではここ十数年で急速に普及し医療機関をはじめ、さまざまな施設に設置されています。そのAEDの国内トップシェア企業にして唯一の国産メーカーが、脳波計や生体情報モニタなどで知られる日本光電工業株式会社です。同社のAEDが選ばれる理由とは?同社営業本部ご担当者に伺いました。

AEDを扱うようになった経緯を教えてください。

当社は、「エレクトロニクスで病魔に挑戦する」をモットーに掲げる医療機器メーカーです。当社製品は多くの医療現場に導入されており、おかげさまで、脳波計や生体情報モニタ、医療従事者向け除細動器などは国内トップシェアをいただいています。AEDについては、医療従事者向け除細動器を1965年から扱っておりますので、コア技術は以前からありましたが、実際に手掛けるようになったのは、2001年に日本航空の国際線機内にAEDが搭載されたことがきっかけです。それまで医療従事者に限定していた使用条件が緩和され、社会環境が大きく変わる兆しが見えたのです。とはいえ、まだ一般市民のAED使用は認められていなかったので、自社で開発・製造する十分な市場がありませんでした。そこで、まずは米国製のOEM製品の販売から始めました。これが2002年のことです。その後、2004年に法律の解釈が変更され、一般市民もAEDを使えるようになり市場は急速に拡大し、2009年6月に満を持して自社製造品の販売をスタートさせたのです。

発売から8年、品質の向上に尽力されて、今では「世界最短8秒*でのスピード解析・スピード充電」という高品質のAEDを提供しています。この機能へのこだわりを教えてください。

日本蘇生協議会のガイドラインでは、電気ショック前後の心肺蘇生中の胸骨圧迫比率(全心肺蘇生時間に対する胸骨圧迫に費やす時間の比率)はできるだけ高くして、少なくとも60%以上とすることが推奨・提案されています。そのためには、心電図解析と充電の時間をいかに短くするか、つまり、心肺蘇生の中断をいかに短くするかがポイントになります。そこで当社は、世界最短8秒で解析・充電する技術を開発しました。一般的なAEDでは、まず解析を行い、電気ショックが必要だと判断したら充電を始めますが、当社製品では解析と充電を同時に行います。電源が入ったと同時に充電を開始することで、時間のロスをなくしているのです。コロンブスの卵のような発想ですが、当然、実現するには高度な技術が必要です。今後も、これに満足することなく少しでも短くできるようにチャレンジしていきます。

*2014年11月にシカゴで行われた蘇生科学シンポジウムで発表された文献より。
(発表文献: Resuscitation Science Symposium
Session Title: Session VII: Best Original Resuscitation Science Poster Session
Abstract 124: An AED Is Not an AED: Extreme Variation in No-Flow Fraction, Perishock Pause and Time to First Shock Among Different Commercially Available Public Access Defibrillators  より)

「Made in Japan」がこのような品質を支えているのだと思いますが、それ以外で国内生産のメリットは何かありますか?

お客さまの利便性が良いことです。例えば海外製造のAEDであれば、国内で修理対応できないものは航空便や船便で本国に送る、もしくは部品の取り寄せを本国から行うなど、時間と費用がかかる可能性がでてきます。当社は国内で生産しているので、このようなことはありません。加えて、お客さまの声を容易に開発へフィードバックできるのも、大きなメリットです。日本のお客さまは、使い勝手や品質を非常に気にかけますし、「もっと良いもの」を望まれます。国内でつくっていれば、そうした細かなご要望を製品に反映させやすいのです。たとえば数年前まで、当社製品を含むすべてのAEDの動作条件は0℃以上でした。しかし寒冷地の冬は、屋内でも場所によっては氷点下になりますし、寒い時期は心臓突然死が増える傾向にあります。こうしたことから、氷点下でも使えるAEDが欲しいというご要望が、医師をはじめとする多くのお客さまから寄せられました。ニーズに応えるのが我々メーカーの責務です。そこで私たちは、低温下でも大きな電流を取り出せるタフなバッテリーを採用し、筐体などの設計も変更して-5℃でも使えるAEDを実現しました。
東北のお客さまから「学校などでは玄関に置くことが多く、氷点下になることもあり得るので、これは非常にありがたい。」という言葉をいただいています。

今や、病院、駅、商業施設、学校など至るところでオレンジ色の日本光電製AEDを見かけます。ずばり、国内トップシェア*の理由は何だと考えますか?

お客さまに、なぜ当社製品を選んでいただけたのか伺うと、よく言われるのが「価格は高かったけれど、モノが一番良かった」ということです。これは、医療従事者の方はもちろん、自治体や企業のご担当者さまなど、多くのお客さまからいただく言葉です。確かに当社製品は安くありません。必要十分な機能や性能を搭載し、品質を担保すると、安く売ることはできません。たとえば当社では、AEDに関しては、作業者数人が一組で製品を組み立てる分割セルによる流れ生産方式を採用し、1台1台に作業者のネームシールを貼っています。こうすることで、作業者に責任感と誇りが生まれ、作業ミスが少なくなるのです。また、万一の際の不良解析にも役立ちます。工場のある群馬県富岡市にちなんで「富岡品質」と呼んでいますが、世界に誇る高い品質と安全性を備えた医療機器を生産することが、当社の使命です。大切なのは、効率よりも品質です。当社が国内トップシェアを持つことができているのは、多くのお客さまがモノづくりの姿勢や品質に共感してくださっているからだと受け取っています。

*2016年度(単年度)AED販売台数国内シェア40.4%(矢野経済研究所推計)

液晶画面のイラスト表示にもこだわっているようですね。

基本的にAEDの操作は難しくないので、音声ガイドだけでも使えるのですが、駅や野球場など騒音の激しい場所では、音声が聞き取れない可能性もあります。また、耳が不自由な人が使う状況も考えられます。そのため、医療従事者はもちろん、扱いに不慣れな一般の方にもスムーズに使っていただけるよう、音声と併せてイラスト表示によるガイドを行っています。AEDは「緊急時にきちんと使ってもらえること」が何よりも大切です。そのための労力は惜しみません。

それでは、日本光電が描くAEDの未来について教えてください。

一つにはパーソナル化、つまり、家電のように一家に一台、AEDを置いていただきたいです。突然の心停止の多くは自宅で起きるため、小型で安価な家庭用AEDの開発は、取り組むべき課題で、今後の方向性の一つだと考えます。そしてもう一つは、AEDのバイリンガル化です。現在、英語や中国語など16カ国語対応の機種を用意していますが、グローバル化する社会に対応するAEDをさらに広げていきたいです。特に2020年には東京オリンピックを迎えますので、多くの国の方がAEDを使えるようにしたいと考えています。AED開発を、単なる製品開発ではなく、日本発の安全・安心を国際社会に広める活動として取り組んでいきたいです。

<コラム>
「あれ!AEDが使えない…」という事態をゼロにする取り組み

AEDが確実に役割を果たすためには、定期的なセルフテストと消耗品の交換が欠かせません。そのため日本光電では、独自開発のAEDリモート監視システムによる管理を無償で行っています。当システムは、全国に設置済みのAEDをリモート監視し、本体の状態、バッテリーの残量と廃棄期限、パッドの使用期限などをリアルタイムに把握し、Web上でユーザーが確認できるシステムで、2011年から導入しています。きっかけは、海外製品をOEM販売していた時代に、約10万台のリコールを起こしてしまったことです。すべての設置先を訪問し、点検・回収作業を行ってみると、バッテリー切れやパッドの使用期限切れが意外に多いことがわかったのです。それどころか、設置してあるはずの場所に見当たらない、ということさえありました。これに対して同社の出した結論が、当システムの導入だったのです。AEDはいつ出番が来るかわからないものです。つねに使える状態にしておかなければいけません。AEDは命を救う製品、売って終わりにはしない。それが、日本光電のメーカーとしてのプライドなのです。

<取材を終えて>

一人ひとりの作業者が誇りと責任を持って、製品一つひとつをつくり込む。お客さまのご要望には全力で応え、売りっぱなしにはしない。こうした日本光電のこだわりは、高級宝飾メーカーや世界的ファッションブランドにも共通する企業姿勢です。そしてこれは、自社の技術に対する自信の証でもあります。この企業姿勢こそが、国内トップシェアの最大の理由なのだと感じました。

<会社概要>

会社名 日本光電工業株式会社
事業内容 医用電子機器の開発・製造・販売
設立 1951年8月7日
資本金 75億4千4百万円
役員 代表取締役社長執行役員 荻野 博一
所在地 〒161-8560 東京都新宿区西落合1丁目31番4号