ジオトリフ 専門医インタビュー・座談会The Interview

第8回 EGFR遺伝子変異陽性肺がんのtranslational research

市立岸和田市民病院腫瘍内科 医長
谷﨑 潤子 先生

留学先で実感した海外での治療開発

市立岸和田市民病院腫瘍内科 医長 谷﨑 潤子 先生

近畿大学大学院在学中に米国のDana-Farber Cancer InstituteのPasi A. Jänne先生の研究室に留学する機会を得て、2年8ヵ月にわたって肺がんに関する細胞レベルの基礎研究や患者さんから採取した検体を用いた研究をしてきました。そのなかで強く感じたのは、日本と米国の治療開発の進め方に違いがあることです。
大学院で在籍した教室では精力的に研究を行っていて、実験の手技や考え方を鍛えていただきましたので、留学先でも自分の研究を進めることができたと思っています。また、日本の研究者は一般的に真面目で丁寧、手先が器用であることなど、自分の良い点を再発見することができました。しかし米国の機関ではネットワークづくりやコラボレーションを重視していて、組織的に研究や治療開発を進めるため、学会発表や論文の数に優れ、日本との違いを感じました。
この違いは、「自分でできることは自分でしなければならない」、「周りにあまり頼らない」という日本人の特性が大きく影響しているのではないかと思います。米国は分業社会ですから、自分がやるべきタスクはこれ、それ以外はこの人に任せるという考え方が明確にできています。多少自分ができる手技であっても、スピードや効率のためであれば自分でせずに他の人に任せます。人に任せることは悪いことではないと認識されていますので、ネットワークやコラボレーションといったつながりがより発展していくのだと考えています。自分たちの研究所だけではできない仕事でも、他の機関と手を組むことで、より大きなプロジェクトとして動いていき、成果になっていきます。研究を進めるときにはそういったことも非常に重要であることを、留学を通して実感しました。

EGFR-TKIによる薬剤耐性の研究

EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対しEGFR-TKIは非常に有効性が高いことが知られていますが、どのEGFRTKIでもいずれは効果が落ちて耐性となります。これまでの研究で耐性獲得に関与する因子が判明し、T790M二次変異に対するオシメルチニブなど新規EGFR-TKIの開発に繋がっています。現在でも第3世代EGFR-TKIの獲得耐性の機序解明ならびに克服が大きな研究課題になっており、熱心な研究が進められています。
私がDana-Farber Cancer Instituteに留学していたときからすでに第3世代EGFR-TKIの獲得耐性の研究は動き出していました。第3世代EGFR-TKIであっても、開発の方法はこれまでの第1世代、第2世代EGFR-TKIの場合と大きな違いはなく、細胞レベルの実験研究では肺がん細胞に各種EGFR-TKIを曝露して、そこで起こった細胞の変化を遺伝子解析などで調べます。また実際にその薬剤を投与された患者さんの肺がん組織や胸水を採取して遺伝子解析などを行います。細胞レベルの実験研究で検証したことが実際に患者さんの体の中で起こるのかどうかを確認することは、とても大事な作業です。
ところが第3世代EGFR-TKIは従来薬に比べて長期間有効性が続くのが特徴で、これは喜ばしいことではあるのですが、投与後増悪した時点での患者さんの組織検体がなかなか得られず、これまで以上に治療開発に時間を要しています。そのため細胞レベルで出てきた結果はあっても、それを実際の臨床で十分に検証できていないのが現状です。
先ほど、日本と米国の機関での治療開発の違いを述べましたが、米国の特に大きな機関の場合、新しい化合物が、開発段階の早い時期から扱えるという強みがあります。耐性モデルの構築はどれだけ早く新しい化合物を手に入れるかにかかっています。それらに曝露させて耐性モデルを作るには細胞レベルでも時間がかかります。そのため、まずは新しい化合物を入手して他施設よりも早く耐性モデルを作ることが、いち早く耐性メカニズムを解明するためには必要です。

EGFR-TKIを用いた治療の実際と今後の方向性

市立岸和田市民病院腫瘍内科 医長 谷﨑 潤子 先生

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの1次治療には、EGFR-TKI単剤が標準治療となっています。LUX-Lung7試験やLUX-Lung 3、6試験の後治療に関する後ろ向き解析などの報告1)から、全身状態がよく、比較的若い患者さんにはジオトリフを投与するようにしています。PS 2の患者さんでも、投与を危惧するような合併症がなければ投与は可能です。実臨床ではPS 3~4の患者さんも多いのですが、そういった方にはエビデンスや副作用の点からジオトリフは投与しにくいため、ゲフィチニブを選択することになります。
ジオトリフの投与は40mg/日から開始し、副作用が出れば無理をせずに休薬および減量をしていきます。減量しても効果が落ちないことが明確なエビデンスとしてあります2)ので、「恐れずに使って、潔く減量していく」ことができると考えています。
また、ジオトリフは年齢に関係なく同程度の効果が得られることがLUX-Lung3、LUX-Lung6およびLUXLung7試験の統合解析で示されています。ジオトリフのPFS中央値は、LUX-Lung3試験では65歳以上で11.3ヵ月、65歳以下で11.0ヵ月、LUX-Lung6試験ではそれぞれ13.7ヵ月と11.0ヵ月でした(図1)3)。LUX-Lung7試験につきましても、ジオトリフのPFS中央値は、75歳以上で11.0ヵ月、75歳以下で14.7ヵ月でした(図2)3)。ただし、一般的に高齢者は臨床試験や治験に入れる人と入れない人の差が大きい集団であり、治験に入れるようなfit elderlyの患者さんであればジオトリフは適応できると思いますが、実臨床では治験に入れないような高齢者を多く目にするのが実状です。そういった方は心疾患や脳血管疾患など、さまざまな合併症をもっています。例えば強い下痢が起こって脱水状態になると、その合併症が悪化する可能性があります。下痢が起こったときに、再び下痢が出てしまうのを心配して飲まず食わずになり、脱水状態になってしまう例もあります。来院時には血液濃縮が起こっていたり、腎機能が低下していたりということも起こりうるのです。そのため、高齢者に関しては一概に臨床試験の結果をもって投与できるとは考えていません。そこは腫瘍内科医が見極めていく、腕の見せ所なのかと思っています。
EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療で今最も関心がもたれているのは、どのようなシークエンスで治療を行うかということです。現在のデータに基づけば、第1世代あるいは第2世代EGFR-TKIを投与してから第3世代EGFRTKIを投与するほうが全生存期間や合計の無増悪生存期間は長くなるという考え方があります(図3)4)。ただ、T790M変異による獲得耐性をもつ人は50~60%であり、それ以外の人では2次治療に第3世代EGFR-TKIは使用できない可能性があります。そうなると、第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブが1次治療に加わったときには、1次治療はオシメルチニブを投与したほうがよいのではないかという考え方も十分支持されると思われます(インタビュー時点では、一次治療におけるオシメルチニブの使用は未承認)。
一方で、第3世代EGFR-TKIの獲得耐性のメカニズムが明らかでないため、その後の治療戦略が立てられない点も課題です。細胞レベルではさまざまなメカニズムが示されていますが、それが実臨床には結びついていません。
血液検体などを利用して事前にT790M耐性となる場合とそうでない場合を予測できるのが理想的であり、それがわかればジオトリフを先行してオシメルチニブへと繋げる集団と、最初からオシメルチニブを投与する集団を分けることができるでしょう。

図1 65歳以上のEGFR遺伝子変異陽性NSCLC(Del19/L858R)に対する
PFSの経過(LUX-Lung 3試験とLUX-Lung 6試験の総合解析)

図1 65歳以上のEGFR遺伝子変異陽性NSCLC(Del19/L858R)に対するPFSの経過(LUX-Lung 3試験とLUX-Lung 6試験の総合解析)
  1. 3) Wu YL, Sequist LV, Tan EH, et al. Afatinib as First-line Treatment of Older Patients With EGFR Mutation-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer: Subgroup Analyses of the LUX-Lung 3, LUX-Lung 6, and LUX-Lung 7 Trials. Clin Lung Cancer. 2018 Mar 17. pii: S1525-7304(18)30051-2. doi: 10.1016/j.cllc.2018.03.009. [Epub ahead of print]

本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

図2 EGFR遺伝子変異陽性NSCLC(Del19/L858R)に対するPFSの経過(LUX-Lung7試験)

図2 EGFR遺伝子変異陽性NSCLC(Del19/L858R)に対するPFSの経過(LUX-Lung7試験)
  1. 3) Wu YL, Sequist LV, Tan EH, et al. Afatinib as First-line Treatment of Older Patients With EGFR Mutation-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer: Subgroup Analyses of the LUX-Lung 3, LUX-Lung 6, and LUX-Lung 7 Trials. Clin Lung Cancer. 2018 Mar 17. pii: S1525-7304 (18) 30051-2. doi: 10.1016/j.cllc.2018.03.009. [Epub ahead of print]

本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの2次治療に、「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2017年度版」(日本肺癌学会 編)ではT790M陰性であればプラチナ併用療法などの細胞障害性抗がん剤が推奨されています。しかしながら、現在のところT790M陰性例に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果については議論のあるところです。
近畿大学からもEGFR遺伝子変異陽性でT790M陰性の患者さんにおけるニボルマブのデータを報告しています5)。またニボルマブとカルボプラチン+ペメトレキセドを比較するフェーズ2試験(WJOG8515L)も行っており、その結果が注目されます。T790M陰性例はT790M陽性例に比べて、治療戦略が1つ減るわけですから、そういった患者さんにおいて免疫チェックポイント阻害薬が使用できるかを今後積極的に検討していくべきだと思います。

図3 治療中断後に第3世代EGFR-TKIを投与された患者のOS

図3 治療中断後に第3世代EGFR-TKIを投与された患者のOS
  1. 4) Paz-Ares L, Tan EH, O'Byrne K, et al. Afatinib versus gefitinib in patients with EGFR mutation-positive advanced non-small-cell lung cancer: overall survival data from the phase IIb LUX-Lung7 trial. Ann Oncol. 2017; 28(2):270-277.

本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

TKI世代の医師がいかに免疫の世界に足を踏み入れるか

私は大学院に入って研究を始め、その後、留学先でもEGFR-TKIの研究を中心に行ってきました。まさにEGFR-TKIやALK-TKIの全盛期に育ってきたのがわれわれの世代です。しかし今は免疫療法の時代になってきましたので、TKIに慣れ親しんだ研究者がどうやって免疫の世界に足を踏み入れていくのかが大きな課題になっていると思います。免疫学は古くから基礎研究が行われ、免疫学を専門とする研究者が中心になって研究を進めてきました。がんを専門にしてきた腫瘍内科医にとって、学問的に離れた分野でしたので、どう取り組むべきかを今まさに模索しているところです。
研究をするにしてもわれわれが従来用いた手技とは異なるため、新しい手技を習得するのが難しいという面もあります。例えば、EGFR遺伝子変異陽性肺がんはドライバー遺伝子への依存が強いためin vitroでの再現がしやすかったのですが、免疫療法では腫瘍周囲の環境が大きく作用するためin vivoでの実験系が多く要されるようになっています。
腫瘍内科医のわれわれが今、免疫療法に関する研究でできることは何かを考えますと、患者さんに直結するデータ、すなわち臨床的に得られる採血データや画像データの情報と免疫チェックポイント阻害薬の効果との関連性などを検討し、それらにいかに科学的な裏付けが得られるかを他施設とのコラボレーションも交えながら証明していくことではないかと思っています。

女性医師も多様な生き方ができる環境に

市立岸和田市民病院腫瘍内科 医長 谷﨑 潤子 先生

女性の医師の数は年々増加傾向にあります。診療科によってその人数は異なりますが、腫瘍内科医のなかでも女性は増えてきています。
女性医師が働き続けるのはまだ難しいところが多いものの、以前に比べれば働く女性を支援する制度は整ってきていると思います。しかし、産前産後休業や育児休業などで年数があいてしまうと、かなり低いキャリアから復帰しなければならないという実情はあります。
これも米国に行って初めて知ったことですが、米国では産後早々に復帰して、子供はnanny(保母)に預けて働く女性医師が多いのです。自身の月給はほとんど保育費に使ってしまうことになりますが、それでも働き続けるのは、そこで早く戻ることによって自分のキャリアが落ちない、あるいは少し下がっても回復しやすいためです。これは社会的な立場のことだけでなく、経済的にも、一時的なロスは大きいですが結果的にはプラスになるためです。日本とは社会的な背景も文化も違うので同じようにはいきませんが、女性医師にとっていまだ日本は働きにくい環境にあることは間違いないと思います。米国のようなやり方や考え方があることをもっと広く知ってもらいたいと考えています。
大学を卒業して医師になった20代後半から30代、それから40代というのは、女性にとって周りの環境や考え方に振り回される時期でもあると思います。私自身も自分の方向性はこれでいいのだろうかと悩むことはありますが、医師という職業を選んだ時点で、仕事に割く時間が少ない生活を選んだ女性とは明らかに違う道を進んでいるという自覚もあります。それによってさまざまな制限を受けることはありますが、今は多様化が受け入れられやすい時代になっています。自分が納得のいく道を自信をもって取り組んでいく強さが大事なのだろうと思います。日々悩むことは多いですが、一人で頑張りすぎず、家族や同僚など周りにも頼りながら、自分の思う道を進んでいきたいですし、周囲にもそのような女性医師が増えることを願っています。

参考文献

  1. 1)Schuler M, Paz-Ares L, Sequist LV, et al. First-line afatinib for advanced EGFRm+ NSCLC: Analysis of long-term responders( LTRs) in the LUX Lung(LL) 3, 6 and 7 trials. Ann Oncol. 2017; 28( suppl 2): ii28-ii51.
  2. 2) Kato T, Yoshioka H, Okamoto I, et al. Afatinib versus cisplatin plus pemetrexed in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer harboring activating EGFR mutations: Subgroup analysis of LUX-Lung 3. Cancer Sci. 2015; 106: 1202–11
  3. 3)Wu YL, Sequist LV, Tan EH, et al. Afatinib as First-line Treatment of Older Patients With EGFR Mutation-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer: Subgroup Analyses of the LUX-Lung 3, LUX-Lung 6, and LUX-Lung 7 Trials. Clin Lung Cancer. 2018 Mar 17. pii: S1525-7304(18)30051-2. doi: 10.1016/j.cllc.2018.03.009. [Epub ahead of print]
  4. 4)Paz-Ares L, Tan EH, O'Byrne K, et al. Afatinib versus gefitinib in patients with EGFR mutation-positive advanced non-small-cell lung cancer: overall survival data from the phase IIb LUX-Lung 7 trial. Ann Oncol. 2017; 28(2):270-277.
  5. 5)Haratani K, Hayashi H, Tanaka T, et al. Tumor immune microenvironment and nivolumab efficacy in EGFR mutation-positive non-smallcell lung cancer based on T790M status after disease progression during EGFR-TKI treatment. Ann Oncol. 2017 Jul 1;28(7):1532-1539

1)~4)の研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。