ミカルディス 論文・ニュース高血圧治療ガイドライン2019のポイント

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【第四回】降圧目標達成のための高血圧治療ステップ

本シリーズでは、毎回、厳格な血圧コントロールによる降圧目標達成の重要性について述べてきた。わが国の高血圧患者は4300万人にのぼり、もっとも有病率の高い疾患であるにもかかわらず、本邦や海外の検討において、高血圧治療中の患者のうち、降圧目標を達成している患者は半数程度であると報告されている1,2)。加えて、日常診療においては、単剤で降圧目標を達成することは難しい。JSH2014から一貫して「降圧目標を達成するための降圧薬の使い方」が示されている()3)。そこでは、患者の高血圧分類と、脳心血管病リスクの層別によって開始される降圧薬の投与量や薬剤数と、その後の治療強化ステップを示している。一般的には、降圧薬を単剤(一部では少量の2剤併用)で開始し、降圧不十分な場合に薬剤を増量するか、作用機序の異なる降圧薬を少量で併用、それでも降圧不十分な場合は通常用量での併用、次いで3剤併用、4剤併用という治療強化のステップをたどる。

図:降圧目標を達成するための降圧薬の使い方

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019,77,2019

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降圧薬単剤で降圧不十分な高血圧患者に対する治療強化では、薬剤の増量または、作用機序の異なる降圧薬の2剤併用が推奨されるが、降圧薬の単剤増量と比較して、作用機序の異なる降圧薬を2剤併用するほうが、良好な降圧効果が得られるとJSH2019では述べられている3)。なお、第一選択薬であるARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、利尿薬の間で推奨される2剤併用療法の組み合わせとしては、ARB/ACE阻害薬とCa拮抗薬、ARB/ACE阻害薬と利尿薬、Ca拮抗薬と利尿薬であるとされている3)

ただし、治療を強化する際、服薬錠数が増え、服薬アドヒアランスが低下することが懸念されるが、海外のメタ解析の結果から、配合剤による治療は配合剤を用いない併用治療と比較して、服薬アドヒアランスに有用であると報告されている4)。降圧不十分な高血圧患者の治療強化の際、併用療法の薬剤を配合剤で処方することは、患者の服薬アドヒアランスを良好に保つために有用な選択肢であると考えられる。現在、わが国ではARBと利尿薬、ARBとCa拮抗薬の2剤配合剤、また、ARBとCa拮抗薬と利尿薬の3剤配合剤が承認されている。

近年の高血圧治療においては、配合剤を含めた様々な降圧薬が承認され、JSH2019のように治療の指針を示すガイドラインが作成され、厳格な血圧コントロールが重要であることを周知しているにもかかわらず、血圧コントロールが不十分なケースは依然として多い。この背景には服薬アドヒアランスやClinical inertia(臨床イナーシャ)が関連すると考えられている3)。Clinical inertiaの「inertia」とは、別の力を加えず状態が変化しない「慣性」と訳される。高血圧治療のClinical inertiaには、「治療を開始するべきであるのに開始しない状態」、または「降圧目標未達成であるにもかかわらず治療強化を行わない状態」、「難治性・治療抵抗性高血圧の原因を精査しない状態」などがある。
Clinical inertiaの問題の背景には患者側や医療関係者側などの要因が関与すると考えられ、問題解決には高血圧専門医と実地医家との連携や、JSH2019の浸透の推進、加えて患者・一般住民への啓発や教育プログラムにかかわる医療関係者の教育を充実させることが重要であり、社会全体で取り組む課題であるとJSH2019では述べられている。

高血圧治療において最も重要なことは降圧目標を達成し、心血管イベントの発症を予防することである。降圧目標達成のために、適切なタイミングで治療開始/強化を行うと同時に、社会全体で高血圧治療の重要性を啓発していくことが今後更に重要になると考えられる。

  • 【引用】
  • 1) Ohkubo T et al.: Hypertens Res 27(10): 755-763, 2004
  • 2) Go AS et al.: Circulation. 129(3): e28-e292, 2014
  • 3) 日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019, 2019
  • 4) Bangalore S et al.: Am J Med 120(8): 713-719, 2007

図:降圧目標を達成するための降圧薬の使い方

PC
2019年10月作成

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