肺がんエキスパートの知見EGFR遺伝子変異別、年齢および全身状態(PS)でみたEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する治療戦略
治療ベネフィットの最大化に向けて

日時:2017年10月28日

場所:TKPガーデンシティ名駅西口シリウス

  • 山口 哲平先生

    座長

    山口 哲平 先生

    愛知県がんセンター
    中央病院
    呼吸器内科部 医長

  • 伊藤 健太郎先生

    出席者

    伊藤 健太郎 先生

    松阪市民病院
    呼吸器内科

  • 丹羽 崇先生

     

    丹羽 崇 先生

    神奈川県立
    循環器呼吸器病センター
    呼吸器内科 医長

  • 大舘 満先生

     

    大舘 満 先生

    豊橋市民病院
    呼吸器内科
    副部長

  • 井谷 英敏先生

     

    井谷 英敏 先生

    伊勢赤十字病院
    呼吸器内科

本座談会では、東海エリアの肺癌治療専門医を迎え、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)による一次治療の臨床試験データ、各遺伝子変異に対する効果、副作用発現プロファイル、副作用管理の実際を視野に、NSCLCに対する一次治療、さらには生存の延長を念頭においた逐次療法における薬剤選択についてご討議いただき、EGFR 遺伝子変異陽性NSCLCにおける治療戦略を浮き彫りにしていただきました。

第一世代EGFR-TKI 臨床試験データ

井谷:
これまでに第一世代EGFR-TKIの大規模試験から多くの報告がなされていますが、まず、プラチナダブレットとの直接比較でゲフィチニブのEGFR 遺伝子変異陽性例に対する化学療法に優る有効性が示され、EGFR-TKIがEGFR 遺伝子変異陽性進行NSCLC例に対する標準治療と位置付けられるにいたっています1)EGFR 遺伝子変異陽性進行NSCLC 例に対する一次治療として化学療法との比較でゲフィチニブによるPFS の有意な延長が認められ、OSでは同程度の結果が示されたほか2,3)、エルロチニブでも化学療法との比較で同様の結果が示されています4,5)
これまでのデータから、EGFR-TKI ではPFS中央値は約8.4ヵ月~13.1ヵ月であり、OSは化学療法を先行した場合と統計学的な差は報告されておらず、化学療法、EGFR-TKIのいずれを一次治療とした場合もOSは変わらないと考えられています1-11)

第二世代EGFR-TKI 臨床試験データ:LUX-Lung 3/6/7 試験を中心に

大舘:
第二世代EGFR-TKIアファチニブでは多くのLUXLung試験の結果が報告されていますが、LUX-Lung 3/6試験9-11)ではともに未治療NSCLC 例を対象にプラチナベース化学療法とアファチニブ単剤が比較され、アファチニブでPFS が延長された一方、OSではアファチニブで延長傾向はみられたものの差は認められなかったという結果でした(表1)。しかし、発現頻度の高い遺伝子変異(commonmutation)による層別解析では、EGFR-TKIでははじめて化学療法に比べOSを延長することが示されました。

表1 EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの一次治療:EGFR-TKIと化学療法(CT)の比較試験

大舘:
また、Del19、L858R点突然変異による層別解析ではDel19 例でのOS の延長が認められています。
LUX-Lung 7試験12)ではアファチニブとゲフィチニブの直接比較がなされ、PFS中央値の差(11.0 vs. 10.9)は小さいものの1年目くらいから差が開き始め、ハザード比は0.73(0.57-0.95)とアファチニブで病勢進行の抑制が示されています(図1)。OS の中央値(月)は、ゲフィチニブの24.5ヵ月に対し、アファチニブは27.9ヵ月でした12,13)
また、安全性の比較では、アファチニブでは下痢、皮疹、口内炎、爪囲炎などの皮膚・粘膜障害が、ゲフィチニブではALT/AST上昇などの肝障害および間質性肺疾患(ILD)がみられ、毒性プロファイルが異なることが示されています。

図1 LUX-Lung 7試験におけるPFS(海外データ)

大舘:
なお、LUX-Lung 2/3/6 試験統合解析14)では発現頻度が低い遺伝子変異(uncommon/minor mutation)例(エクソン18-21の点突然変異・重複例、T790M変異単独・他の変異併発例、エクソン20挿入変異例)での有効性比較がなされ、エクソン18-21点突然変異・重複例で、化学療法に比べ、アファチニブでPFS の延長が示唆されています(図2)。
以上の結果から、アファチニブはNSCLCに対し治療効果が期待されるEGFR-TKIでありますが、アファチニブの治療効果を最大化するためには、QOLやPSの低下につながる皮膚・粘膜障害の管理が重要となります。

図2 発現頻度の低いEGFR遺伝子変異を有図2するNSCLC例におけるPFS(海外データ)

Doctor's eye

  • アファチニブはEGFR-TKIのなかで治療効果が期待される薬剤であるが、アファチニブの治療効果を最大化するためには、QOLやPSの低下につながる皮膚・粘膜障害の管理が重要となる。

EGFR-TKIにおける副作用・用量調整

伊藤:

アファチニブでは、第一世代EGFR-TKI に比べ皮疹、下痢が多く認められていますが、皮膚障害下痢症状は外用薬や内服で管理し、症状を軽減することで、投与が継続できる可能性があると考えられます。
自施設ではアファチニブ導入時から看護師、皮膚科、歯科口腔外科、歯科衛生士などの集学的な介入体制を敷いており、入院時に皮膚洗浄法、爪の手入れ、口腔ケア、入浴回数、外用薬使用のタイミング、抗菌薬の処方に至る綿密な指導徹底によりこれまで投与中止に至る患者はほとんど経験していません。

また、Chen らの検討では、皮膚障害の管理により皮膚科受診回数は6ヵ月後に減少が示されており16)、原因薬剤の如何にかかわらず、EGFR-TKI 投与患者での積極的な皮膚ケアの重要性が示唆されます。
なお、自施設では休薬および減量を基本とし、導入の際に入院時および退院後の下痢への対処が可能となるロペラミド十分量を処方していますが、長期服用による下痢症状の改善傾向が認められており、下痢および皮疹による投与中止は投与中止患者9例中2例という結果が示されています。また、患者さんからはつらい副作用として口内炎が一貫してあげられる一方、アファチニブの継続投与が延命につながるのであれば皮疹・下痢の症状は気にならない、という声がきかれました。医師・患者間で副作用のとらえ方、希望する治療効果のとらえ方に違いがあることが示唆され、アファチニブ継続投与に向けた副作用対策の重要性が示唆されました。
また、LUX-Lung 3/6 試験の統合解析9)でも減量によってもPFS が短縮されることはなかったと報告され、用量調整により薬物血中濃度の患者間差、副作用を減少させ、治療効果を維持することが重要と考えられますが(図3、4)、自施設においても休薬と減量による内服継続が多くの患者で可能となり、治療効果もほぼ臨床試験を再現する結果が得られています。

以上から、アファチニブでは早期の休薬・減量を原則として、皮膚科の介入による皮膚障害の管理、止痢剤投与の徹底による下痢の管理が可能となるケースもあり、副作用に応じた減量でも副作用の軽減とともに治療効果が見込まれると考えられます。したがって、今後、副作用管理を通じて患者主体で見直すことで薬剤選択の在り方が変わっていくものと思われます。

図3 用量調整によるアファチニブの血中濃度

図4 アファチニブ減量群、非減量群でのPFSの比較

Doctor's eye

  • 皮膚障害下痢症状は外用薬や内服で管理することで症状を軽減し、継続投与できる可能性がある。
  • アファチニブでは、早期の休薬・減量を原則として、皮膚科の介入による皮膚障害の管理、止痢剤投与の徹底による下痢の管理が可能となるケースもあり、副作用に応じた減量でも副作用の軽減とともに治療効果が見込まれる。

アファチニブの治療ポテンシャルを探る

伊藤:

ゲフィチニブとアファチニブを直接比較したLUXLung7 試験12)におけるPFS のハザード比は0.73(95%CI 0.57-0.95)でした。一般的に、治療効果はハザード比でみることが重要といわれています。また、EGFR 遺伝子変異の生存率は、Del19 のハザード比が0.83(95% CI0.58-1.17)、L858R のハザード比が0.91(95% CI 0.62-1.36)でした(図5)。
LUX-Lung 7 試験13)はPhase2B という試験設定であり、情報としては限界があるものの、薬剤のパワーを測るには重要な情報と考えます。
なお、アファチニブ長期投与例ではT790M の発現頻度は約50%と、第一世代EGFR-TKI 治療後のPD 例と同程度であることが示されています17)

また、LUX-Lung 7 試験ではオシメルチニブへの移行例が、アファチニブ治療例、ゲフィチニブ治療例でそれぞれ、13.7% と14.6% という点からも、T790M の発現率はほぼ同程度であると考えられます。それであれば同じようにオシメルチニブの後治療を受ける事が出来ます。その際、重要になってくるのが、クローンの選択的蓄積(clonal selection)と呼ばれる考え方です。アファチニブではEGFR 変異細胞に対する広範な効果があり、uncommon/minor mutationやcompound mutation を阻害することが知られています18)。アファチニブではT790M 変異クローンのclonalselection が長期的な効果につながっていると考えられています13,19-21)

以上から、現在一次治療に使われているEGFR-TKI の中でアファチニブはPFS を延長する可能性が示されており、T790M の発現頻度では第一世代EGFR-TKI との差は認められず、OS を延長する可能性もあることから、第三世代EGFR-TKIの将来的な使用を念頭とした一次治療ではアファチニブが有力な選択肢となる可能性があると考えられます。

図5 LUX-Lung 7 におけるEGFR遺伝子変異による生存率の比較

図5 LUX-Lung 7 におけるEGFR 遺伝子変異による生存率の比較
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Doctor's eye

  • アファチニブはEGFR変異細胞に対する広範な効果があり、uncommon/minor mutation やcompound mutation を阻害することが知られている。アファチニブではT790M 変異クローンの選択的蓄積(clonal selection)が長期的な効果につながっていると考えられる。
  • 第三世代EGFR-TKIの将来的な使用を念頭とした一次治療ではアファチニブが有力な選択肢となる可能性がある。

アファチニブ導入時の留意事項

大舘:
アファチニブでは、最初の下痢管理が重要なため教育入院の意味を含め1~ 2 週間の入院による導入が主流と考えられますね。
井谷:
皆さんは、ほぼ肝代謝されるアファチニブでは腎機能に応じた減量を要しない、という意見ですね。
山口:
私の経験では下痢が懸念材料となる透析例でも、減量による使用ではアファチニブで下痢も皮疹も認められず、薬物血中濃度も維持されています。
丹羽:
入院による導入であれば、減量ではなく、安全性を担保しつつ、治療効果を考え、常用量で始めることも考慮すべきではないでしょうか。
伊藤:
アファチニブでは血中濃度が高い場合に副作用が認められ、減量により改善することから、アファチニブは副作用をみながら用量調節すべき薬剤ではないかと考えられます。
したがって、入院による導入では、入院中に副作用の発現パターン、治療継続の可能性、至適濃度などを見定めることが重要と思われます。
丹羽:
今後は、患者さん個々に合わせた開始用量の検討も重要になるかもしれません。

生存ベネフィットを念頭にした副作用管理と薬剤選択

丹羽:
LUX-Lung 7試験では、LUX-Lung 3/6 試験に比べ、副作用発現の安定化がみられます。現在は、ASCOの下痢対処(止痢剤の使用)に関するガイドラインの浸透により下痢は管理すべき副作用という認識ができつつあることから、プラチナダブレット使用の際の嘔吐同様、アファチニブでもきちんと下痢を管理しつつ投与するという考え方にシフトしていく必要があると思います。
山口:
毒性の発現は血中濃度に依存することが予測されますから、個々の患者で至適血中濃度を見定めることで効果と副作用の発現のバランスが得られると考えられます。したがって、アファチニブでは、副作用管理というよりも、皮膚症状・下痢症状の発現とともに早期に血中濃度の適正化を図り、治療を継続する用量管理が重要と考えられます。副作用の管理においては、コメディカルや他の診療科の役割の重要性が示唆されますが、いかがでしょうか。
大舘:
現在のところ、残念ながら、われわれの施設では、コメディカルによる介入はなく、爪囲炎、頭皮症状などは患者の自己申告で検知されることもあるというのが現状です。
井谷:
われわれの施設では、EGFR-TKI 服用患者に対する口腔ケアチームによるケアが有効に機能しており、外来での患者フォローアップもできています。
伊藤:
われわれの施設では、治療効果の最大化を念頭に、外来での看護師によるアンケートベースの副作用モニタリング、歯科口腔外科、皮膚科による副作用管理が日常的に行われており、治療継続につながっています。
山口:
これまでアファチニブの副作用として口内炎はクローズアップされていませんでしたが、思いのほか発現が多い副作用と思われます。皆さんはどう対応されていますか。
丹羽:
外用薬ケナログ、口腔洗浄剤ハチアズレ、キシロカインなどを用いて対処しています。
井谷:
ハチアズレは多用しますね。真菌感染症リスクからステロイドは慎重投与をする旨、歯科口腔外科からアドバイスがありました。
大舘:
口内炎がひどいときにはキシロカイン、ハチアズレを用います。ステロイド口腔内用軟膏ではご指摘のように真菌感染症が問題となりました。
伊藤:
副作用管理で重要なのは、患者にとってのエンドポイントはやはり生存であることから、EGFR-TKI の使用では患者QOL の担保と管理の容易さを目的としたいわゆるダブルQOLではなく、医師として、一次以降の治療を考え、副作用に対応しつつ、患者の生存延長への期待に応えていくことではないかと思われます。
山口:
その通りですね。最近FLAURA 試験の結果が示されましたが、一次治療における第一選択をどのようにお考えですか。
井谷:
副作用管理が大変であることも確かですが、一次治療に第三世代EGFR-TKI を選択することが生存の改善につながるかどうかが不明な現在、今後、EGFR-TKI それぞれの逐次使用を検討していく必要がありますね。
丹羽:
今後は、プラチナダブレットを二次治療に用いる機会を逸さないようなEGFR-TKI の選択に留意するとともに、クローン選択を念頭にアファチニブを選択し、T790M の発現を待ってオシメルチニブによりOS ベネフィットを最大化するという方向性も考えられますね。
伊藤:
アファチニブの有効性は高齢者でも示されていますが、高齢者で説明同意を得るのは困難という側面もあり、患者により、生存ベネフィットの優先、QOL の優先、PS 改善の優先、等、個々に考えていく必要もありますね。
山口:
アファチニブの有効性を活かすためには、皮膚症状・下痢症状の発現を認めたら早期に血中濃度の適正化を図り、用量管理による治療継続を通して生存を延長させる治療戦略が必要と考えられますね。

Doctor's eye

  • 患者にとってのエンドポイントは生存期間の延長であることから、EGFR-TKI の使用においては副作用管理の容易さを目的とするのではなく、副作用に対応しつつ患者の生存期間延長への期待に応えていくことが医師としては重要である。
  • 現在は、ASCOの下痢対処(止痢剤の使用)に関するガイドラインの浸透により下痢は管理すべき副作用という認識ができつつあることから、アファチニブでもきちんと下痢を管理しつつ投与するという考え方にシフトしていく必要がある。
  • アファチニブでは、副作用管理というよりも、皮膚症状・下痢症状の発現とともに早期に血中濃度の適正化を図り、治療を継続する用量管理が重要と考えられる。

EGFR遺伝子変異陽性NSCLC に対する各パネリストの治療戦略

EGFR 遺伝子変異陽性NSCLC に対する各パネリストの治療戦略
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引用文献

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  11. 11) Wu YL, et al. Lancet Oncol 2014;15:213-22.
  12. 12) Park K, et al. Lancet Oncol 2016;17:577-89.
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表1 EGFR 遺伝子変異陽性NSCLCの一次治療表1:EGFR-TKIと化学療法(CT)の比較試験

図1 LUX-Lung 7試験におけるPFS(海外データ)

図2 発現頻度の低いEGFR 遺伝子変異を有図2するNSCLC例におけるPFS(海外データ)

図3 用量調整によるアファチニブの血中濃度

図4 アファチニブ減量群、非減量群でのPFSの比較

図5 LUX-Lung 7 におけるEGFR 遺伝子変異による生存率の比較

EGFR 遺伝子変異陽性NSCLC に対する各パネリストの治療戦略