肺がんエキスパートの知見腫瘍外科医の視点から考える
EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する治療戦略

実施日:2018年4月21日

場所:ホテル日航福岡

  • 杉尾 賢二先生

    座長

    杉尾 賢二 先生

    大分大学医学部
    呼吸器・乳腺外科学講座
    教授

  • 矢野 篤次郎先生

    出席者

    矢野 篤次郎 先生

    国立病院機構
    別府医療センター 副院長

  • 岡本 龍郎先生

     

    岡本 龍郎 先生

    大分大学医学部
    呼吸器・乳腺外科学講座
    准教授

  • 山口 正史先生

     

    山口 正史 先生

    国立病院機構
    九州がんセンター
    呼吸器腫瘍科 医長

  • 小副川 敦先生

     

    小副川 敦 先生

    九州大学大学院
    医学研究院
    消化器・総合外科 助教

非小細胞肺がん(NSCLC)日本人患者の全生存期間(OS)は化学療法での15ヵ月程度から、近年、EGFR遺伝子変異陽性例を対象としたアファチニブで47ヵ月へと大きく改善がみられている。さらに新たなEGFR-TKIが選択肢となることが予想される現在、北部九州エリアの腫瘍外科医にお集まりいただき、局所進行NSCLCに対する外科療法との関連を含め、EGFR-TKIの基礎・臨床エビデンス、臨床経験に基づく臨床使用をめぐって、今後の治療戦略についてご討議いただいた。

EGFR-TKIの基礎

小副川:

これまでにEGFR-TKIではEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する一次治療の選択肢として、第一世代のゲフィチニブ、エルロチニブ、第二世代のErbBファミリー阻害薬アファチニブが臨床使用されており、さらに今後第三世代のオシメルチニブが認可されることが想定されます。化学構造では、第一世代、第二世代はキナゾリン環、第三世代はピリミジン環を有し、第一世代は可逆的EGFR-TKI、第二世代は不可逆的ErbBファミリー阻害薬、第三世代は遺伝子変異選択的阻害薬という違いがあります。

EGFR-TKIのATP結合部位におけるスレオニンのメチオニンへの置換によるT790Mの発現ではEGFR-TKIの親和性が低下し、耐性が発現することが報告されていますが1)、アファチニブは、主にホモダイマーを形成するEGFのリガンドのほかに、ヘテロダイマーを形成するヘレグリンなどのErbBファミリーのリガンドに対する阻害作用を有し2-4)、第一世代、第三世代のEGFR-TKIに比べ、広範なEGFR遺伝子変異に対して有効であることが基礎データで示されています5)。また、レトロウイルスベクターを用いて様々な遺伝子を導入し、薬剤存在下で培養した細胞株の検討6)では、common mutationはいずれのEGFR-TKIにも感受性を示す一方、G719X、L861Qなどの比較的発現頻度の高いuncommon mutationは、第一世代、第三世代EGFR-TKIに比べ、アファチニブに高い感受性を示すことが報告されています。

Doctor's eye

  • アファチニブは、主にホモダイマーを形成するEGFのリガンドのほかに、ヘテロダイマーを形成するヘレグリンなどのErbBファミリーのリガンドに対する阻害作用を有し、第一世代、第三世代のEGFR-TKIに比べ、広範なEGFR遺伝子変異に対して有効であることが基礎データで示されている。
小副川:

EGFRの活性化では、EGFRのEGFへの結合により二量体(ダイマー)が形成され、EGFRキナーゼドメインの活性化ループが開いてATPがリン酸化され、調節ドメインのチロシン残基に移されたリン酸化チロシンが、様々なタンパクと結合することで下流のシグナル伝達経路が次々に活性化されていく機序が想定されています7)。活性化遺伝子変異はEGFRキナーゼドメインのATP結合部分に集中しており8)、L858RはEGFとの結合がなくとも二量体を形成し活性化するのに対し、del19は、エクソン20挿入変異、T790Mなどと同様、二量体を形成せずとも活性化することが報告されています9)。今後、遺伝子変異レベルにおけるEGFR-TKIの作用・効果の違いの解明には、G719Xなどのuncommon mutationの活性化機序の検討が求められます。

第一世代、第二世代EGFR-TKIに対する獲得耐性(AR)の機序は、EGFR標的変異が60%程度、そのうちT790Mが大部分を占めていますが、バイパス経路が20%程度、小細胞肺がん(SCLC)への形質転換が10%程度、その他の不明な機序が10%程度と報告されている一方10)、第三世代EGFR-TKIに対するARの機序としては、ATP結合部分でのC797Sの発現のほか、T790Mに加えて他の遺伝子に変異が加わったもの、T790Mの消失(25%)、SCLC への形質転換などが報告されています11-17)。T790M、C797Sの発現はdel19陽性例で多いことから18,19)、遺伝子変異別の遺伝子変異の活性化の違い、薬剤の有効性の違いが今後の検討課題と考えられます。また、第三世代EGFR-TKI耐性後には、EGFR標的変異(C797S)、バイパス経路による活性化、がん細胞の形質転換(SCLC、上皮間葉形質転換〔EMT〕)に対する治療戦略が求められています。
なお、ゲフィチニブが奏効し、その後耐性を発現したG719X陽性例の検討20)では、ゲフィチニブ耐性はPI3経路の活性化によるARが示されており、uncommon mutationにおいても耐性機序の検討の重要性が示唆されています。

以上から、EGFR-TKIのうち、common mutationのみならずuncommon mutationに対しても有効であると考えられるアファチニブでは、今後G719Xなどのuncommon mutationのEGFRの二量体形成や、リン酸化に及ぼす機序の検討が必要と思われます。また、第三世代EGFR-TKIでのARにはC797Sを含む機序が重要な意義を有すると思われます。

Doctor's eye

  • EGFR-TKIのうち、common mutationのみならずuncommon mutationに対しても有効であると考えられるアファチニブでは、今後G719Xなどのuncommon mutationのEGFRの二量体形成や、リン酸化に及ぼす機序の検討が必要と考えられる。

ディスカッション

杉尾:
del19陽性例ではT790Mが発現しやすく、C797Sも発現しやすいのですか。
小副川:
del19が二量体の形成を要さず活性化することに関連するのかよくわかりませんが、最近の報告19)ではC797S陽性例の91%がT790M陽性という結果が示されています。
杉尾:
T790MとのC797Sのcompound mutationでは同一アレル上(in cis)と別アレル上(in trans)はどの程度の頻度で発現しているのでしょうか。
小副川:
ほとんどがin cisで起こりますが19)、in transでのcompound mutationでは第三世代、第一世代EGFR-TKIの併用が奏効した症例の報告21)はありますね。
杉尾:
基礎データの裏付けは臨床医にとっても今後重要な手がかりとなりますね。

アファチニブ臨床試験のエビデンス~臨床に活かすには

岡本:

アファチニブを臨床に活かすうえで、アファチニブの臨床試験の主なエビデンスとしては、プラチナダブレットと有効性を比較検討したLUX-Lung3/6試験22,23)およびその統合解析24)、アファチニブと第一世代EGFR-TKIを比較したLUX-Lung7試験25)、アファチニブ後の後治療のアウトカムを比較検討したLUX-Lung3/6/7試験の統合解析26)が注目されます。

まず、LUX-Lung3/6試験22,23)では、全生存(OS)では差はみられなかったものの、アファチニブ、プラチナダブレットによる無増悪生存期間(PFS)中央値はそれぞれ11.14/11.0ヵ月、6.9/5.6ヵ月、ハザード比(HR)は、それぞれ0.58(0.43-0.78; P<0.001, 層別log-rank検定)/0.28(0.20-0.39; P<0.0001, 層別log-rank検定)と、アファチニブで有意に長かったという結果でした。また、遺伝子変異別の解析では、del19陽性例でのプラチナダブレットに対するアファチニブのOSのHRは、それぞれ0.54(0.36-0.79; P = 0.0015, 層別log-rank検定)/0.64(0.44-0.94;P = 0.023, 層別log-rank検定)とアファチニブで延長したのに対し、L858R陽性例におけるプラチナダブレットに対するアファチニブのOSのHRは、それぞれ1.30(0.80-2.11;P = 0.29, 層別log-rank検定)/1.22(0.81-1.83; P = 0.34,層別log-rank検定)でした。

なお、LUX-Lung3/6試験の統合解析24)では、common mutation陽性例の生存期間中央値(MST)は、アファチニブ、プラチナダブレットでそれぞれ27.3(24.2-31.0)ヵ月、24.3(20.6-27.0)ヵ月(HR, 0.81 [0.66-0.99]; P = 0.037,層別log-rank検定)とアファチニブで延長が示されましたが、これはdel19陽性例での延長によるものと考えられます。また、LUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析27)でもcommon mutation陽性例におけるアファチニブ、およびプラチナダブレットによるOS中央値は、それぞれ46.9(35.3-NE)ヵ月、35.0(28.2-NE)ヵ月と、アファチニブで長かったという結果が報告されています。以上の結果から、アファチニブは、del19陽性例におけるOS延長効果でプラチナダブレットに対する優位性が示された薬剤と考えられます。
一方、未治療EGFR遺伝子変異陽性例を対象に、PFS、治療成功期間(TTF)、OSを主要評価項目としてアファチニブ、ゲフィチニブによる一次治療の有効性を直接比較したLUXLung7 試験25)のPFSは、それぞれ11.0(10.6-12.9)ヵ月、10.9(9.1-11.5)ヵ月(HR, 0.73 [0.57-0.95]; P = 0.017,logrank検定)と、アファチニブで延長がみられたほか、del19陽性例、L858R陽性におけるゲフィチニブに対するアファチニブのHRは、それぞれ0.76(0.55-1.06)、0.71(0.47-1.06)と、いずれにおいてもアファチニブで良好な結果が示されています。TTFもそれぞれ10.1(5.6-16.8)ヵ月、8.4(6.2-13.1)ヵ月と、やはりアファチニブで良好な結果が示されています。また、副次評価項目をみても、アファチニブ、ゲフィチニブの奏効率(ORR)は、それぞれ70.0%、56.0%(P =0.0083, ロジスティック回帰モデル)とアファチニブで有意に高い結果でした。なお、減量を要した有害事象、薬剤に関連した重篤な有害事象の発現は、ゲフィチニブに比べ(それぞれ2%、4%)、アファチニブで多く(それぞれ42%、11%)、治療中止に至る有害事象、グレード3 以上の有害事象の発現は同程度という結果でした。ただし、LUX-Lung7試験ではOSが未達であり、非盲検かつ探索的試験であるためバイアスの存在は否定できません。

なお、LUX-Lung3/6/7試験の統合解析26)で、アファチニブ投与患者中、オシメルチニブによる後治療を受けた患者における治療期間中央値は20.2ヵ月、OSは未達、25パーセンタイル値は59.3ヵ月でした。
なお、日本人NSCLCにおけるOS中央値の変遷をみると、化学療法で11.3ヵ月28)~14.8ヵ月29)、ゲフィチニブで21.6ヵ月30)~27.7ヵ月31)、エルロチニブで36.3ヵ月32)、アファチニブで46.9ヵ月27)と、過去10年間で大きな改善がみられますが、今後の治療シークエンスでは、特にアファチニブによる一次治療とオシメルチニブによる後治療で生存期間を延長する可能性が考えられます。

LUX-Lung3/6試験統合解析

LUX-Lung3/6試験統合解析
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LUX-Lung3試験日本人サブグループ解析

LUX-Lung3試験日本人サブグループ解析
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LUX-Lung7試験

LUX-Lung7試験
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LUX-Lung3/6/7試験統合解析

LUX-Lung3/6/7試験統合解析
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ディスカッション

杉尾:
LUX-Lung3/6試験の統合解析ではdel19陽性例のみにアファチニブが有効という印象を受ける一方、LUXLung7試験ではdel19陽性例、L858R陽性例ともにアファチニブで良好な結果が示されています。先生方は、del19陽性例とL858R陽性例でEGFR-TKIの使い分けをどのようにお考えですか。
矢野:
現在では、アファチニブはdel19陽性例、L858R陽性例で効果に差はないという認識です。使い分けを考慮するのはPSや年齢ですね。
岡本:
われわれの施設でも遺伝子変異によって区別はしていません。PSなどで問題がなければアファチニブを選択しています。
小副川:
有害事象の問題はあるため、PSや年齢を考慮しますが、若年患者さんやPSの良好な患者さんではアファチニブを選択しています。
山口:
がんセンターではLUX-Lung3/6試験の結果やその統合解析の結果が出た頃、実臨床ではdel19陽性例やuncommon mutation陽性例でアファチニブを使っていましたが、現在では、L858R陽性例を含め、投与可能な患者さんにはアファチニブを使っています。
杉尾:
先生方は術後再発例、手術不能例とも診ておられますか。
矢野:
両方とも診ていますね。
山口:
術後再発例、手術不能例とも診ています。
小副川:
術後再発例を診ています。
杉尾:
手術例でもEGFR遺伝子変異検査をしていますか?
矢野:
最近では全例で検査していますね。
小副川:
全例で検査しています。
山口:
やはり全例で検査しています。
杉尾:
Compound mutationは依頼検査では検出されませんが、最近、次世代シーケンサー(NGS)による検討でcommon mutation例でもcompound mutationが16~25%程度で検出されることが示されています33)。今後、EGFR-TKIによる効果が低くなるuncommon mutation陽性例に対する治療戦略を考えていく必要がありますが、uncommon mutationに対してはどのような治療を考慮されますか。
矢野:
基本的にはLUX-Lung3/6試験でuncommon mutationに対して効果が示されているアファチニブを考慮します。
岡本:
Uncommon mutationのうち、G719Xは他の遺伝子変異と併存する頻度が高い33,34)と思われますから、検索して有効と考えられるEGFR-TKIを使用することになります。
山口:
エクソン20挿入変異以外のuncommon mutationに対してはアファチニブを使用しています。
杉尾:
すると、先生方は、uncommon mutation陽性例では基本的にアファチニブを選択されているという理解でいいでしょうか。では、第一世代EGFR-TKI、アファチニブによる一次治療後の病勢進行(PD)はどのように判断されていますか。
山口:
基本的にはRECIST 基準35)に基づいてPD を判断します。症状の増悪などがあれば臨床的PD の判断となりますが。
杉尾:
PDの判断ではEGFR-TKIの投与を継続せず、一度化学療法を実施するのが基本となりますね。
小副川:
ええ、ただ、PDで脳転移のみが認められる場合は、脳への放射線照射をしてEGFR-TKIの治療を継続できるかどうかを検討しますね。
山口:
脳は化学療法から護られているサンクチュアリー部位と言われる通り、OSが長くなるEGFR-TKIによる治療では、脳転移による中枢神経障害が発現する可能性がありますから、無症候性脳転移例ではエルロチニブ・ベバシズマブ併用を、症候性脳転移例では当然脳への放射線照射を考慮しますね。
杉尾:
脳転移巣や髄膜転移巣であればエルロチニブ・ベバシズマブ併用を考慮しますね。

九州がんセンター呼吸器腫瘍科におけるアファチニブの使用経験

山口:

切除不能又は再発非小細胞肺癌患者のEGFR遺伝子変異陽性例に対する一次治療は2010年頃までは第一世代EGFR-TKIのいずれかを使用していましたが、近年、第二世代アファチニブが治療選択肢に加わり、第三世代オシメルチニブも加わることが予想される現在、状況は大きく様変わりしました。また、これまでに、第一世代EGFR-TKIとの比較で、第Ⅲ相試験においてオシメルチニブ18)の優越性が示され、第Ⅱb相試験においてアファチニブ25)でもデータが示されていることから、切除不能又は再発非小細胞肺癌患者のEGFR遺伝子変異陽性例に対しては、治療効果としてPFS あるいはOSのベネフィットが高く、年齢、PSによってより毒性の低いEGFR-TKIを選択することが重要と考えられます。

さらに、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン36)ではPS不良例で第一世代EGFR-TKIの使用が推奨されていますが、第一世代EGFR-TKIでも遺伝子変異により生存ベネフィットが異なる可能性が示されていることから37)、各遺伝子変異に対する有効性がより高い薬剤の選択が重要と考えられます。
これらの結果を踏まえ、九州がんセンター呼吸器腫瘍科では、多くの場合、75歳未満のcommon mutation陽性例では、選択肢と各々の効果と副作用を説明しご選択いただき、75歳以上のcommon mutation陽性例でPSが良好な場合は低用量のアファチニブも選択肢として、uncommon mutation陽性例にはアファチニブを選択する方針をとっています(図1)。

2014年5月から2017年12月までの期間に男性患者、女性患者それぞれ23例、18例、計41例でアファチニブを使用しています。患者背景は年齢中央値66(41-82)歳、common mutation陽性例32例、uncommon/compoundmutation陽性例9例、脳転移例14例、一次治療36例、二次治療以降5例ですが、昨年12月31日時点で16例が治療を継続しています。
第一世代EGFR-TKI、アファチニブによる一次治療後のT790Mの発現は40%~60% 程度で38-42)、薬剤による違いも認められないことから、現在のところ、可能であれば、アファチニブによる一次治療からT790Mの発現予測に基づいてオシメルチニブによる後治療につなげる治療シークエンスが有効と考えられます。

図1 国立病院機構九州がんセンターの治療方針

図1 国立病院機構九州がんセンターの治療方針
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ディスカッション

小副川:
九州がんセンターではエルロチニブ・ベバシズマブの併用をどのように位置づけていますか。
山口:
エルロチニブ・ベバシズマブ併用では第Ⅱ相試験43)の結果しかありませんから、脳転移例における一次治療としてはあまり積極的には考慮していません。
杉尾:
高齢者は少なくて、若年患者で原則40mgで投与を開始しているわけですね。
山口:
ええ、原則40mgとしていますが、非常に痩せていて低体重の患者さんではカンファランスで主治医の判断をもとに用量を決定しています。
小副川:
40mgからの増量・減量についてはどうですか。
山口:
増量したことはないですが、アファチニブは副作用が生じた場合は無理に40mgで続けず、休薬、中止または減量します。回復後も場合によっては増量する必要はないこともあります。
杉尾:
われわれの経験でも、忍容性に応じて適切に休薬と減量を行うことが、長く使う上でいい結果につながると思いますね。
山口:
当科でも低用量でも長く投与できると生存が長い症例を経験しています。

別府医療センターにおけるアファチニブの副作用対策とチーム医療

矢野:

われわれの施設では、現在、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌患者を、75歳未満・PS良好な患者、75歳以上の高齢患者・PS不良な患者、uncommon mutation陽性の患者に分けて、EGFR-TKIによる一次治療とその後の治療を決定しており、75歳未満・PS0-1の患者に対しては、基本的にアファチニブ、その後、T790M陽性例でオシメルチニブ、T790M陰性例で化学療法、75歳以上の高齢患者・PS不良例に対してはエルロチニブあるいはゲフィチニブ、さらにuncommon mutation陽性例に対してはアファチニブ、その後の化学療法、という治療方針を策定するに至っています(図2)。

日本でアファチニブが承認される際に評価されたLUXLung3試験の日本人サブグループ解析27)では、第一世代EGFR-TKIに比べ、グレード3以上の下痢、皮疹、爪囲炎が多いことが示されていましたから、2016年前半まではエルロチニブを第一選択の一つとしていました。その後アファチニブを第一選択の一つとする現在の治療方針を策定しています。その根拠としては次の2 つが挙げられます。
まず、2015年のLUX-Lung 7 試験25)の結果です。第Ⅲ相試験ではないという理由でガイドラインでは重視されませんが、われわれはゲフィチニブとの比較で生存曲線が10ヵ月を過ぎた頃から乖離しはじめるという、アファチニブに特徴的な延び方がその後大きな差となっている結果に注目し、この生存ベネフィットをきちんと患者さんに還元する必要があるのではないかと考えています。加えて、LUXLung7試験25)のサブグループ解析では、del19陽性例、L858R陽性例におけるPFSのゲフィチニブに対するアファチニブのHRは、それぞれ0.71(0.48-1.06)、0.76(0.55-1.06) と、同程度の有効性が示されたことから、common mutationに対してはアファチニブを第一選択とすることとしました。

もう一つの理由としては、われわれの施設では、治療継続に向けた皮膚障害対策(患者指導、予防的スキンケア、治療的スキンケア)、免疫チェックポイント阻害薬の有害事象(irAE)に関するカンファランスなどを通じ、がん専門薬剤師、外来がん治療認定薬剤師、がん看護専門看護師、認定看護師などの専門医療スタッフががん診療を支える医療チームとして機能しており、情報共有により、医師の負担の軽減、関連診療科の協力を可能にしていることが挙げられます。
なお、現在の治療方針・体制が整った2016年中盤以降、アファチニブによる一次治療はこれまでに9例で行っており、アファチニブ40mgにより長期的な奏効が得られた後局所的な腫瘍の増大を認めたステージⅢBの症例で外科的切除を経験しています。

図2 国立病院機構別府医療センターにおけるEGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発NSCLCに対するEGFR-TKIによる一次治療とその後の治療方針

図2 国立病院機構別府医療センターにおけるEGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発NSCLCに対するEGFR-TKIによる一次治療とその後の治療方針
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ディスカッション

副作用対策におけるチーム医療

杉尾:
別府医療センターは多職種のスタッフを交えたチーム医療が機能している施設と言えますね。副作用対策を病院全体でチーム医療として実施することが重要と考えられますが、先生方の施設ではどう対応されていますか。
山口:
われわれの施設でも化学療法を含め、診療科横断的な皮膚障害対策チームに対応してもらっています。EGFR-TKIの場合、皮膚障害が発現するのは退院後ですから、最初の1週間から10日間の入院時に、皮膚保湿用のクリームやローションのセットを使って患者指導をしておき、退院後、外来での診察時に症状がある方に、適宜、主治医が必要な薬剤を処方するという形をとっています。
杉尾:
EGFR-TKIでは皮膚障害対策が主体となり、アファチニブではさらに下痢対策が重要ですが、別府医療センターも九州がんセンターもうまく対応できているようですね。大学病院ではどうでしょうか。
小副川:
九州大学では、皮膚障害については皮膚科に紹介して患者指導をしていただいており、対応できていると思います。
岡本:
大分大学でも副作用対策には皮膚科に積極的にかかわっていただいています。
杉尾:
特に皮膚障害対策では専門医のほかに看護師が対応してくれると「よく診てもらっている」という安心感にもつながりますから、看護師の役割は重要ですね。
矢野:
アファチニブの副作用の対策では、皮膚障害よりも下痢が先になりますが、下痢対策を指導していても対応が間に合わず休薬、減量に至るケースが多いですね。
杉尾:
患者さんは支持療法をあえてしたがらない傾向がありますから、副作用への対応を最初にどう説明するかがポイントとなりますね。また奏効例で有害事象のために投与を中止せざるを得ない状況があるとすれば非常に残念なことですから、有害事象の管理によりそうした事態を回避しつつ、長期継続することが重要ではないでしょうか。

EGFR遺伝子変異陽性例における外科的治療

杉尾:
矢野先生からアファチニブ投与後の腫瘍増大に対しての外科的切除のお話がありましたが、今後、EGFR-TKI治療や化学療法の後のいわゆるサルベージ手術が重要となると考えられます。先生方はどのような症例でサルベージ手術を考慮されますか。
矢野:
基本的には大学病院やがんセンターなどで一連の化学療法を実施したステージⅢなどの症例が対象となると思いますが、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発例でEGFR-TKIが長く奏効すると考えられる症例でも、EGFR-TKI治療後にサルベージ手術が必要となる可能性はあると思います。
杉尾:
オシメルチニブも今後治療選択肢となりますし、EGFR-TKIで長い奏効が得られるのであれば手術は必要ないという考え方もありますね。
矢野:
現在のところ、サルベージ手術の適応に関してコンセンサスはないですから、必要となれば、ディスカッションをしながら考慮することになると思いますね。
杉尾:
Ⅳ期でもEGFR-TKI治療中あるいは化学療法中に増悪する病巣、いわゆるオリゴメタの切除などが考えられますね。
矢野:
EGFR-TKIや化学療法が効いている場合でも遠隔転移巣が画像で確認できる場合がありますが、手術による遠隔コントロールは難しいと思います。
岡本:
第一世代EGFR-TKIが長く奏効した患者さんで手術を何例か経験し、やはり再発があってあまり手術のメリットはないと感じたことがありましたが、最近はさらに生存も延びていますし、オリゴメタという考え方がありますから、手術によって治癒を期待できる症例や、局所コントロール不良で次の化学療法の効果が期待できないような症例での局所療法としての意義はあるかもしれません。
小副川:
やはり一箇所だけ増悪が認められるT790M陰性例などでは外科療法や放射線療法の意義はあるのではないでしょうか。
矢野:
われわれが経験したステージⅢBの症例では腫瘍体積を肉眼で確認して外科的切除を行いましたが、断端は陰性で線維化の痕がありました。

Doctor's eye

  • 局所進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する術後補助療法に関する試験結果が待たれ、術後再発予防でEGFR-TKIの使用が考えられる現在、アファチニブなどのEGFR-TKIの位置づけが今後の検討課題と考えられる。

今後のアファチニブの使用について

杉尾:
最後に、今後のアファチニブの使用についてご意見いただけますか。
矢野:
現時点では、使用可能な患者さんにはできるだけアファチニブを使用するとともに、uncommon mutation陽性例でもアファチニブを第一選択に考慮することになります。また、オシメルチニブによる治療でのPDに対しては当面化学療法と思われますが、化学療法後の免疫療法も選択肢となる可能性も考えられます。
岡本:
T790Mの発現を念頭においたアファチニブを一次治療とする治療シークエンスで、まず結果が示されることを期待したいですね。
小副川:
今回の座談会から、臨床的には通常化学療法の適応となる局所進行肺がんに対するEGFR-TKIの位置づけ、基礎的にはuncommon mutationに対するEGFR-TKIの作用機序についての解明が、今後取り組むべき課題だと考えています。
山口:
一次治療の選択肢に変化があったとしても、一次治療としてこれまで通りアファチニブを使用するのかというのが今後の課題ですね。また、局所進行肺がんのEGFR-TKIによる非切除例における5年生存率が、同時化学放射線療法(CCRT)による5年生存率よりも高くなりつつある現在、CCRTの適応を考え直す必要があるとも考えられますし、サルベージ手術が適応となる症例についても考えていく必要があると思います。
杉尾:
今後、NGSが保険適応となり、いわゆる精密医療が浸透してくると、より細かな遺伝子変異の解析が可能となり、compound mutationなどの有病率が明らかになるにつれて、EGFR-TKIの各遺伝子変異に対する効果も臨床試験で検証される必要が出てくると思います。その意味で、EGFR遺伝子変異陽性例では診断と治療をどう組み合わせていくかが重要となりますが、われわれ外科医は、局所進行肺がんのみならず、進行肺がんでも、組織サンプリングが薬剤選択やアウトカムにも影響することを念頭に、有効性の高い薬剤の使用を心掛けていく必要があると思います。本日は大変充実した議論の場となりました。ありがとうございました。

Doctor's eye

  • EGFR遺伝子変異陽性例では診断と治療をどう組み合わせていくかが重要となるが、外科医の立場からは、局所進行肺がんのみならず、進行肺がんでも、組織サンプリングが薬剤選択やアウトカムにも影響することを念頭に、有効性の高い薬剤の使用を心掛けていく必要がある。

引用文献

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  4. 4) Yang JC, et al. Lancet Oncol. 2012 May;13(5):539-48.
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22)、23)、24)、25)、26)、27)、42)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された

LUX-Lung3/6試験統合解析

LUX-Lung3試験日本人サブグループ解析

LUX-Lung7試験

LUX-Lung3/6/7試験統合解析

図1 国立病院機構九州がんセンターの治療方針

図2 国立病院機構別府医療センターにおける<i>EGFR</i>遺伝子変異陽性の手術不能又は再発NSCLCに対するEGFR-TKIによる一次治療とその後の治療方針