肺がんエキスパートの知見EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける治療選択
~長期生存を視野に入れた治療シークエンスを考える

実施日:2018年4月7日

場所:ホテルニューオータニ大阪

  • 里内 美弥子先生

    座長

    里内 美弥子 先生

    兵庫県立がんセンター
    化学療法担当部長
    兼 呼吸器内科部長

  • 立原 素子先生

    出席者

    立原 素子 先生

    神戸大学大学院
    医学研究科
    呼吸器内科学分野 助教

  • 津端 由佳里先生

     

    津端 由佳里 先生

    島根大学医学部
    呼吸器・臨床腫瘍学 講師

  • 津谷 あす香先生

     

    津谷 あす香 先生

    大阪市立総合医療センター
    腫瘍内科 医長

  • 岡田 あすか先生

     

    岡田 あすか 先生

    大阪府済生会吹田病院
    呼吸器内科 医長

治療の進歩によりEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)における全生存は5年を目指す時代になり、NSCLCの一次治療として新たな展開が予想される現在、関西地区の女性肺がん治療専門医にお集まりいただき、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対する長期生存に向けた治療シークエンスに関するエビデンスを整理し、併せて仮想症例にそった治療戦略についてご討議いただいた。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療戦略

里内:

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの一次治療として新たな展開が予想される現在、第一あるいは第二世代EGFR-TKI後にオシメルチニブを使うシークエンス療法1-3)と、オシメルチニブ単独療法4)のいずれを考慮すべきかが今後の検証課題と思われます。その際、一次治療では、脳転移に対する効果、OSの延長のための至適治療シークエンスなどの検討も必要となると考えられます。

まず、LUX-Lung7試験のOSの最新報告5)では、第一世代EGFR-TKIより、アファチニブ後のオシメルチニブの後治療でOSが長い傾向が示され、LUX-Lung3/6/7 試験6)の統合解析では、アファチニブからオシメルチニブへのシークエンス療法が有望である可能性が示唆されています。
肺がん患者ではcompound mutationが25%の頻度で確認され、有意に予後が不良であることが示されていますが(P=0.020;Breslow検定)7)、invitroにおけるEGFR遺伝子変異のEGFR-TKI感受性の検討8-10)では、uncommon mutationcompound mutationを含む幅広いEGFR遺伝子変異が、アファチニブに高い感受性を示すことが報告されています(表1)。

EGFR遺伝子変異検査により確認されたEGFR遺伝子変異陽性例(n=840)のうちuncommon mutation陽性例(n=130;15.5%)中56例(6.7%)を対象とした台湾での検討11)では、EGFR遺伝子変異別にグループ1(エクソン20挿入変異)、グループ2(del19/L858R併存uncommon mutation)、グループ3(uncommon mutation単独または他のuncommonmutation併存)に分けてアファチニブ、第一世代EGFR-TKIの有効性を比較検討したところ、グループ2/3におけるPFS中央値は、アファチニブ、第一世代EGFR-TKIでそれぞれ11.0(0-22.8)ヵ月、3.6(0.1-7.1)ヵ月と、アファチニブで長いことが報告されています(P=0.03;log-rank検定)(図1)。

表1 In vitroにおけるEGFR-TKIの各種EGFR遺伝子変異に対する活性

表1 In vitroにおけるEGFR-TKIの各種EGFR 遺伝子変異に対する活性
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図1 第一世代・第二世代EGFR-TKIによる一次治療におけるuncommon mutation/compound mutation陽性例の無増悪生存期間(PFS)中央値

図1 第一世代・第二世代EGFR-TKIによる一次治療におけるuncommon mutation/compound mutation陽性例の無増悪生存期間(PFS)中央値
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一方、第Ⅱ相オープンラベル・ランダム化比較試験12)では、エルロチニブ・ベバシズマブ併用で良好な成績が示されており13)、今後の展開によりエルロチニブ・ベバシズマブ併用を一次治療とし、オシメルチニブを後治療とする治療シークエンスも考慮されます。
また、高腫瘍遺伝子変異負荷(TMB)/PD-L1強陽性NSCLCでは免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有効性が示唆され14)、高TMB EGFR遺伝子変異陽性例ではT790MステータスにかかわらずICIによる治療の可能性も考えられます15)

以上、これまでのデータからは、長期生存を目指す治療シークエンスとして、第一世代EGFR-TKI、アファチニブ、エルロチニブ・ベバシズマブ併用それぞれによる一次治療と、その後のT790Mのステータスによるオシメルチニブ、あるいは化学療法(± ICI)、さらにその後のICIによる治療が考えられます(図2)。
このほかにEGFR-TKIによるリチャレンジ16)、化学療法の適切な使用17)も生存に貢献する可能性があることを念頭に置いておく必要があると思われます。以下では、これらのエビデンスをもとに仮想症例に即して治療方針を討議したいと思います。

図2 長期生存を目指す治療シークエンス

図2 長期生存を目指す治療シークエンス
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仮想症例に基づく治療方針の検討

症例 1

  • 70歳女性
  • 身長:150cm/体重:50kg
  • PS:1
  • 病期等:Stage Ⅳ NSCLC・腺がん・脳転移なし
  • EGFR遺伝子変異:L858R
  • PD-L1 発現: ≥ 50%
  • 喫煙歴:あり(20年前まで)

1 一次治療におけるEGFR-TKIの選択をどう考えるか

津谷:
LUX-Lung7 試験2)でdel19/L858Rのいずれに対しても効果が示されていますから、PSが良好であればアファチニブを選択します。
岡田:
高齢で小柄ということからゲフィチニブも選択肢に入りますが、津谷先生と同じ理由でアファチニブを選択します。
津端:
小柄、L858R、PD-L1強陽性などの特徴は一次治療の選択にあまり関係しないと思われますが、EGFR-TKIを選ぶ前提では、PSが良好か、服薬管理ができるか、副作用管理ができるか、などを判断し、問題がない場合にアファチニブを考慮し、すべての選択肢を挙げて患者さんに選択してもらうことになります。
立原:本症例はL858陽性で喫煙歴がありますが、喫煙歴がある場合EGFR-TKIの効果が低く、L858Rなどcompoundmutationが多い遺伝子変異ではアファチニブを考慮しますが、エルロチニブ・ベバシズマブ併用も選択肢と考えられます。
里内:
毒性が軽度なゲフィチニブ、その次にエルロチニブ・ベバシズマブ併用、毒性が増加するアファチニブを提示して選んでいただくということになりますが、喫煙歴、PD-L1強陽性、L858Rという背景から効果はあまり期待できないことから、薬剤選択の際にそのように説明する必要があるかもしれませんね。

2 ICIによる二次治療を考慮するか

里内:
PD-L1発現 ≥ 50%だからといって二次治療にICIを用いることにはなりませんが、再生検でT790M陰性が確かめられ、喫煙歴、PD-L1強陽性ということになるとやはりICIが選択肢になると考えられます。
津端:
再生検でT790M陰性であってもすぐにICIは選択せず、まずは通常の化学療法か、オシメルチニブを選択することになると思います。
岡田:
喫煙歴がありますからICIが奏効する症例だと思いますが、このPD-L1強陽性というデータは最初のもので、PD-L1の発現がEGFR経路に起因する場合もありますから再生検の際にPD-L1の発現を再度確認することも必要であると考えます。基本的には、T790M陰性であれば化学療法を選択し、その次にICIを考慮します。
津谷:
T790M陰性例ではまず二次治療では化学療法を考慮することになりますから、三次治療でICIを選択するかどうかということになります。EGFR遺伝子変異陽性例では効きにくいこともあり、選択肢の一つではありますが、ICI自体あまり積極的に考慮することはないと思います。
里内:
PD-L1強陽性でもEGFR遺伝子変異陽性例では二次治療にICIを考慮するのは難しいですね。

EGFR遺伝子変異陽性例における用量調整とICIの位置づけ

立原:

LUX-Lung3試験18)で女性、体重50kg未満、65歳以上の高齢被験者および日本人被験者におけるアファチニブの減量率が高く、増量率は少ないことが示されています。減量により全体的な副作用の発現も減少し、グレード3以上の副作用も減少する一方、用量変更前後のアファチニブの血中濃度をみると40mgから30mgへの減量で適正濃度となる症例もあり、投与開始6ヵ月以内の減量の有無によってPFSに差はみられないことが示唆されます。

また、LUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析19)では、40mgを維持した被験者は24.1%のみで、30mg、20mgへの減量を要した被験者はそれぞれ33.3%、42.6%と20mgへの減量を要した被験者が最も多く、20mgへの減量を要した被験者で投与期間が最も長いことが示されています。なお、アファチニブの患者背景別AUCの検討20)では、参考モデル(NSCLC、女性、体重62kg、CCr 79mL/min、ECOG PS 1、ALP値 106 U/L、LDH値 241U/L、総タンパク 72g/L)に対し、体重 < 42kg、CCr < 30mL/min、PS > 2、ALP 値 > 509U/L、LDH値 > 893U/Lの症例でAUC高値が認められることが示されています。

次に、NSCLCに対するICIの一次治療試験CheckMate026では、TMBは喫煙の現病歴・既往歴のある症例で高く、ICIによる一次治療におけるPFSも高TMB例で良好であることが示されています21,22)。また、EGFRの下流のシグナル伝達経路はPD-L1の発現に関連することがあるため23,24)、ICIの効果とは関連しない可能性がありますが、EGFR-TKI後の再生検で、PD-L1の発現があればEGFR遺伝子変異陽性例でもICIが有効である可能性は示唆されています15)

症例 2

  • 78歳女性
  • 身長:150cm/ 体重:60kg
  • PS:0
  • 病期等:Stage Ⅳ・腺がん・脳転移なし
  • EGFR遺伝子変異:del19
  • PD-L1:陰性

1 一次治療におけるEGFR-TKI の選択をどう考えるか
  暦年齢以外に重視する項目は

津谷:
先ほどの症例とは異なり、高齢女性ですが、セルフケアに問題がなければアファチニブを考慮します。ただし、より副作用が少ないことを重視され、無理を望まない場合はゲフィチニブを推しますね。
津端:
そうですね。78 歳ともなればPS は0 であっても自己管理能力、認知機能での問題がでてきますが、ある程度自己管理やセルフケアができる方であればアファチニブを、難しければゲフィチニブを勧めることになります。アファチニブが可能であれば副作用と効果の両面のお話をして選んでいただきます。
立原:
75 歳がある程度高齢者の基準と考えられますが、この年齢では個人差が大きくなりますから、やはり有害事象の自己管理、理解力、家族のサポートなどがない場合はアファチニブの投与は難しくなると思います。患者さんの状態やご家族などの環境を考慮し、すべての選択肢の副作用の特徴や効果を提示したうえで、アファチニブの投与が可能であれば考慮したいと思います。
里内:
お元気であれば78 歳でもアファチニブも選択肢となると考えていいでしょう。また、暦年齢よりも、自己管理能力、家族の協力などが重要になりますね。

75 歳以上のEGFR遺伝子変異陽性例に対する一次治療

津端:

2017 年版の日本肺癌学会ガイドライン25)では、高齢EGFR遺伝子変異陽性例ではゲフィチニブとエルロチニブを推奨しており、ゲフィチニブでPFS 中央値12.3 ヵ月、DCR90% が報告され26)、エルロチニブでPFS 中央値11.8 ヵ月かつ75 歳以上と未満で同程度の有効性が報告されている27)ことを根拠として挙げていますが、もともとガイドラインの趣旨は遺伝子変異を有する75 歳以上の患者で、各遺伝子を標的とするキナーゼ阻害薬の使用を推奨する(推奨レベル:グレード1C)ことにあると考えられますから、75 歳以上の患者でアファチニブが除外されるわけではない、と考えます。

LUX-Lung 7 試験における75 歳以上の患者における治療成績28)をみると、年齢別のサブグループ解析において、ゲフィチニブ、アファチニブによる一次治療におけるPFS 中央値はそれぞれ10.8 ヵ月、14.7 ヵ月(HR, 0.69 [0.33-1.44])、OS 中央値はそれぞれ19.7 ヵ月、27.9 ヵ月(HR, 1.05[0.50-2.21])と、少数ながら75 歳以上の症例(n = 19)においてもアファチニブは有効であり、新規あるいは未知の有害事象は認められず、投与中止に至る副作用は同程度であることが示されています。また、日本人患者を対象とした特定使用成績調査29)においても、間質性肺疾患(ILD)は75歳未満(3.5%)に比べ、75 歳以上(6.8%)で多いものの、他の有害事象の発現は同程度であることが示されています。

一方、高齢患者では、加齢に伴う身体機能・臓器機能の低下(老化)、複数の併存症、栄養状態不良、認知機能の低下、多剤併用、うつ状態、独居などの社会的背景が問題として挙げられ、多面的な評価と介入が求められることも事実であり、適切なサポートの下、有効性の高い薬剤を使っていくことが必要と考えられます。

Doctor's eye

  • 2017 年版の日本肺癌学会ガイドラインの趣旨は、遺伝子変異を有する75 歳以上の患者で、各遺伝子を標的とするキナーゼ阻害薬の使用を推奨することにあると考えられ、75 歳以上の患者でアファチニブが除外されるわけではない。
  • 高齢患者では、加齢に伴う身体機能・臓器機能の低下(老化)、複数の併存症、栄養状態不良、認知機能の低下、多剤併用、うつ状態、独居などの社会的背景が問題として挙げられ、多面的な評価と介入が求められるが、適切なサポートの下、有効性の高い薬剤を使っていくことが必要と考えられる。

症例 3

  • 50歳女性
  • 身長:155cm/ 体重:55kg
  • PS:0
  • 病期等:Stage Ⅳ・腺がん・脳転移なし
  • 遺伝子変異:L858R
  • PD-L1:陰性
  • 喫煙歴:なし
  • 肺癌であることにショックを受けており、長期生存を望んでいるが副作用への恐れもあり。

1 一次治療におけるEGFR-TKIの選択をどう考えるか

立原:
基本的にPS が良好で何も問題もないため、長期生存に向けアファチニブを考慮します。しかし、副作用への恐れもあるとのことですので、どのような副作用を恐れているかを伺い、副作用管理のお話もしつつ、ゲフィチニブかアファチニブを選択いただくことになります。しかし、基本的にはアファチニブをお勧めします。
津端:
基本的にはアファチニブをまずはお勧めすると思いますが、爪囲炎皮疹が問題になりますから、副作用について十分お話したうえで、予防的に保湿剤によるケアを丁寧にしていただきつつ使用することになります。ただ、PS が0 で症状がない場合、治療を拒むことも考えられますから、肺がんの自然史などについてご説明し、納得いただく必要があるかもしれません。
津谷:
アファチニブをお勧めすると思いますが、副作用を懸念されているとのことですから一応3 剤とも提示させていただいて検討することになると思います。長期の生存を目指すうえで、治療拒否や治療中止は一番の問題となりますから、アファチニブが継続困難な場合はゲフィチニブを選択することも考えられます。
岡田:
アファチニブによる副作用の発現の可能性は説明しますが、どうしたら副作用を軽減できるか、どのような場合に減量を考慮するか、などを理解していただいたうえで、アファチニブを選択いただくということになると思います。

2 皮膚障害などへの対策は

立原:
EGFR-TKI は入院での導入を行っていますが、その際、薬剤師から院内で冊子をもとに説明させていただき、EGFR-TKIとともに皮膚障害対策セットと下痢対策セットを処方し、チーム医療による対応をしています。外来では、処方から2 ヵ月以内の患者さんに対して、医師による診察の前の看護師との面談時に、皮膚障害や爪囲炎などの状態を撮影し、電子カルテに反映のうえ、診察時に発現がみられる副作用について重点的に問診するようにしています。また、QOL を損なうような爪囲炎や、皮疹が遷延する場合は皮膚科に紹介するようにしています。
里内:
われわれの施設では早めに皮膚科にかかわっていただき、悪化した場合に皮膚科との併診という形で対応しています。アファチニブによる爪囲炎の発現は2 ヵ月以内を目安とするのはわかりますが、それ以後の発現に対してはどう対処されていますか。
立原:
副作用対策を見直すと同時に、随時皮膚科にコンサルトしています。
津端:
高齢者が多いこともあり、われわれの施設も入院による導入を行っていますが、副作用対策チームはありません。1週間程度の入院では副作用はほとんどみられないため、将来的な副作用の発現の可能性とその対策を担当医、薬剤師、看護師から説明し、退院時には予防薬の処方をするという形をとっています。また、外来ではがん看護外来での面談を通じて、診察前に情報を得るようにしています。
岡田:
われわれの施設も入院による導入を行っていますので、その段階で医師、薬剤師、看護師から副作用に関する説明を行い、皮疹や下痢に対する予防薬を処方するようにしています。また、病棟看護師から外来化学療法看護師に申し送りの形で情報を共有し、外来受診では看護師との面談で皮膚科への紹介、薬剤の調整、再教育などを行うようにしています。
津谷:
われわれの施設ではほとんどが外来による導入ですが、アファチニブ投与開始前(検査結果に基づく主治医による診察、説明および副作用対策のための処方、薬剤師および看護師による説明)、投与中(看護師による問診・診察、医師による診察・薬剤処方・他科への紹介、薬剤師による説明)にわたり、チーム医療による副作用管理を行っており、アファチニブでの副作用への取り組みから、経口抗がん剤看護相談外来を設置するに至っています。また、チーム医療による早期からの副作用管理により治療継続が可能となったほか、看護介入により適切な休薬・減量が可能となり、治療成績(治療成功期間)の改善もみられています。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療戦略~患者さんとの向き合い方

津谷:

日本肺癌学会肺がん医療向上委員会監修のもとNPO法人キャンサーネットジャパンが実施した「肺がん治療(抗がん剤治療)に関するアンケート」(2015 年6 月~11月)では、「抗がん剤治療に期待すること」として、「これまでと同じ生活の維持」、「副作用が少ない」という回答も多い一方、「生存期間が延びること・がんが進行しない期間が延びること」、「がんが小さくなること」が最も多く、治療効果に対する期待が大きいことが示されています。また、「抗がん剤治療を選ぶ際の効果と副作用」については、「副作用を軽減する対処療法を十分うけられるのであれば、最も効果の高い治療を受けたい」という回答も多い一方、「効果は一番高くなくていいので副作用があまりない治療を受けたい」「副作用が嫌なので抗がん剤治療は受けたくない」という回答も少なからずあり、副作用への不安が患者さんの治療選択に大きく影響していることが示唆されています。

翻って、第一世代、第二世代EGFR-TKI の有効性データ2,30-32)をみますと、有効性は第一世代EGFR-TKI ゲフィチニブ、エルロチニブで同程度である一方、アファチニブは第一世代EGFR-TKI に比べ、より有効性が高いと考えられます。また、L858R 陽性例に対しては化学療法を考慮する余地はあるものの、アファチニブはdel19 陽性例、L858R 陽性例に対して同様に有効であることが示されています2,33)
一方、各EGFR-TKI の日本人における副作用発現状況(表2)12,19,34-36)をみると、皮疹はエルロチニブ、アファチニブで同程度ながらゲフィチニブよりも多く、下痢爪囲炎はアファチニブで多く、肝機能障害ではゲフィチニブで多くアファチニブで少ない一方、ILD はほぼ同程度という結果が示されています。したがって、アファチニブは第一世代EGFR-TKIに比べ、副作用の発現が強い一方、有効性も高いことから、アファチニブの使用では長期生存に向けた副作用管理が重要と考えられます。

表2 EGFR-TKIによる副作用の発現状況(日本人)

表2 EGFR-TKIによる副作用の発現状況(日本人)
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症例 4

  • 65歳女性
  • 身長:160cm/体重:60kg
  • PS:0
  • 病期等:StageⅣ・腺がん
  • 2cmの単発無症候性脳転移巣あり
  • EGFR遺伝子変異:del19
  • PD-L1:陰性

1 一次治療におけるEGFR-TKI の選択・放射線療法/EGFR-TKIによる治療戦略をどう考えるか

津谷:
2cmと言えばそれなりの大きさの脳転移巣ですから、ガンマナイフの依頼をしつつ、並行してEGFR-TKIの投与を開始します。がん性髄膜炎も考慮されますが、脳転移に対する有効性がより考えられるエルロチニブ、アファチニブでは、アファチニブを第一選択に考慮します。また、脳表に病巣がある場合はエルロチニブを選択するかもしれません。
岡田:
2cmの大きさがあればやはり局所療法としてガンマナイフを考慮し、EGFR-TKIの投与を同時に開始します。単剤であればアファチニブでもエルロチニブでもいいと思いますが、放射線療法の後にベバシズマブの投与も考慮しますのでエルロチニブにするかもしれませんね。
津端:
このような症例の検討は個人的に非常に興味があります。基本的にはEGFR-TKIを投与しつつ、放射線の準備をすることになりますが、おそらくエルロチニブ・ベバシズマブ併用を選択すると思います。無症候性の単発転移巣ですので、全脳照射はできるだけ避け、ガンマナイフを選択することになると思います。EGFR-TKIが有効なため放射線は必要ではないという考えもありますが、放射線療法、特にガンマナイフ後のEGFR-TKIの投与で生存が延長されることが多施設のレトロスペクティブな解析37)で示されていますから、ガンマナイフは一応考慮したいと思います。
里内:
放射性脳壊死による浮腫でベバシズマブの使用を考えますが、この症例の場合、脳転移巣の大きさからガンマナイフの使用、それに伴うエルロチニブ・ベバシズマブ併用が考えられる症例と言えますね。

脳転移例に対する治療方針をめぐって

岡田:

日本脳腫瘍学会の脳腫瘍診療ガイドライン38)では、転移性脳腫瘍の薬物療法の選択では、症候性あるいは局所治療を要する脳転移巣に対する放射線治療・腫瘍摘出術、化学療法感受性病巣に対する全身薬物療法単独または病巣に対する局所治療が推薦されています。津端先生が触れられたデータは海外のレトロスペクティブデータですが、今後症状の発現が考えられる場合や、病巣が大きい場合はやはり放射線を優先して考えていく必要があると考えられます。

一方、LUX-Lung3/6試験のサブグループ解析39)における脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性NSCLC例に対するアファチニブ/プラチナダブレットによる一次治療の比較では、脳転移例のPFS中央値はそれぞれ11.14/5.39ヵ月(HR,0.54[0.23-1.25];P = 0.1378, log-rank検定)、8.21/4.67ヵ月(HR,0.47[0.18-1.21]; P = 0.1060, logrank検定)とアファチニブで良好であり、奏効率、DCR、脳転移・がん性髄膜炎による病勢進行(CNS PD)率ともアファチニブで良好であることが示されています。

なお、LUX-Lung3/6試験でのアファチニブ、プラチナダブレットによるCNS PDまでの期間中央値はそれぞれ15.2/15.2ヵ月、5.7/7.3ヵ月と、アファチニブで脳転移抑制効果も高いことが示されていますが(図3)39)、EGFR-TKI治療における初回増悪時におけるCNS PD率はゲフィチニブ(25.1~ 39.4%)、次いでアファチニブ(6.6 ~ 9.1%)、エルロチニブ(2.6 ~ 3.4%)となっており、髄液移行率ではゲフィチニブ(1%)、次いでアファチニブ(1.7%)、エルロチニブ(5%)と示されています40,41)
 以上から、脳転移例に対しては、症状があれば局所治療が優先され、無症候性であればEGFR-TKIによる治療を優先することも可能と考えられます。また、CNS PD率や薬剤の髄液移行性などから、アファチニブとエルロチニブの選択が妥当と考えられますが、今回のような浮腫が考えられる症例ではベバシズマブの併用も選択肢と考えられます。

Doctor's eye

  • 脳転移例に対しては、症状があれば局所治療が優先され、無症候性であればEGFR-TKIによる治療を優先することも可能と考えられる。また、CNS PD率や薬剤の髄液移行性などから、アファチニブとエルロチニブの選択が妥当と考えられるが、浮腫が考えられる症例ではベバシズマブの併用も選択肢となりうる。

図3 LUX-Lung3/6試験における脳転移・がん性髄膜炎による病勢進行(CNS PD)率

図3 LUX-Lung3/6試験における脳転移・がん性髄膜炎による病勢進行(CNS PD)率
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里内:
本日は、現在のエビデンスに基づく長期生存を目指すEGFR-TKIからICIを含む治療シークエンスの流れを整理し、仮想症例の検討、および総括を通じて、今後の実臨床における治療シークエンスの在り方を探る大変良い機会となりました。活発な議論ならびに発表をいただき、誠にありがとうございました。

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表1 In vitroにおけるEGFR-TKIの各種EGFR 遺伝子変異に対する活性

図1 第一世代・第二世代EGFR-TKIによる一次治療におけるuncommon mutation/compound mutation陽性例の無増悪生存期間(PFS)中央値

図2 長期生存を目指す治療シークエンス

表2 EGFR-TKIによる副作用の発現状況(日本人)

図3 LUX-Lung3/6試験における脳転移・がん性髄膜炎による病勢進行(CNS PD)率