肺がんエキスパートの知見EGFR遺伝子変異陽性NSCLC治療の未来予想図を描く
~OSのさらなる延長に向けて

実施日:2018年5月19日

場所:ホテルオークラ札幌

  • 横尾 慶紀先生

    座長

    横尾 慶紀 先生

    医療法人渓仁会
    手稲渓仁会病院
    呼吸器内科 副部長

  • 三浦 理先生

    アドバイザー

    三浦 理 先生

    新潟県立がんセンター
    新潟病院
    内科 内科部長

  • 高橋 守先生

    出席者

    高橋 守 先生

    札幌医科大学医学部
    呼吸器・アレルギー
    内科学講座 助教

  • 本庄 統先生

     

    本庄 統 先生

    社会医療法人北海道恵愛会
    札幌南三条病院
    腫瘍内科 医長

  • 田中 悠祐先生

     

    田中 悠祐 先生

    JA 北海道厚生連
    札幌厚生病院
    呼吸器内科 医長

EGFR遺伝子変異陽性日本人NSCLC患者においてEGFR-TKIの導入後のOSの改善が報告されてから10年が経過した。本座談会では、新潟県立がんセンターの三浦理先生をアドバイザーに、札幌エリアの肺がん治療専門医にお集まりいただき、現在のエビデンスを総括し、さらなるOSの延長に向けた現在および今後の治療戦略をご討議いただいた。

社会医療法人北海道恵愛会札幌南三条病院 呼吸器内科 医長 本庄 統 先生

EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC):
日本人における全生存(OS)の変遷

本庄 統 先生 社会医療法人北海道恵愛会札幌南三条病院 呼吸器内科 医長

社会医療法人北海道恵愛会札幌南三条病院 呼吸器内科 医長 本庄 統 先生

本庄 統 先生 社会医療法人北海道恵愛会札幌南三条病院 呼吸器内科 医長

EGFR 遺伝子変異陽性日本人NSCLC 患者における生存期間中央値(MST)は、ゲフィチニブ承認前13.6ヵ月、承認後27.2ヵ月( ハザード比[HR],0.48[0.32-0.71];P<0.001)と変化したことが報告されている1)。その報告からさらに10 年以上が経過した現在における日本人EGFR 遺伝子変異陽性例におけるOSをみると、化学療法(EGFR-TKI を含む)未治療かつEGFR遺伝子common mutation(del19/L858R) 陽性NSCLC患者を対象にプラチナダブレットと第二世代EGFR-TKI アファチニブの有効性・安全性を比較した国際共同第Ⅲ相試験LUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析2)では、アファチニブ群(n = 50)、シスプラチン・ペメトレキセド群(n = 27)における無増悪生存期間(PFS)はそれぞれ13.8ヵ月、6.9ヵ月(HR,0.28 [0.15-0.52]; P < 0.0001, 層別log-rank 検定)、OSはそれぞれ46.9ヵ月、35.0ヵ月(HR, 0.57[0.29-1.12]; P = 0.0966, 層別log-rank 検定) (図1)と、EGFR遺伝子変異陽性例における従来の成績を上回るOSの延長が認められるほか、アファチニブ群ではアファチニブの後治療として第三世代EGFR-TKIオシメルチニブが含まれておらず2)、今後の病勢進行(PD)においてはT790M 陽性例でオシメルチニブによる後治療でさらにOS の延長が期待される。

JA 北海道厚生連札幌厚生病院 呼吸器内科 医長 田中 悠祐 先生

EGFR遺伝子変異陽性例に対する一次治療:
アファチニブの血漿濃度と副作用管理の考え方

田中 悠祐 先生 JA 北海道厚生連札幌厚生病院 呼吸器内科 医長

JA 北海道厚生連札幌厚生病院 呼吸器内科 医長 田中 悠祐 先生

田中 悠祐 先生 JA 北海道厚生連札幌厚生病院 呼吸器内科 医長

 LUX-Lung3試験3)では、アファチニブ投与患者における投与前アファチニブ血漿濃度は個体差が大きいものの、忍容性に基づく用量調整により投与サイクルが進むにつれてばらつきが小さくなり、最終トラフ測定値は全用量群で同程度であった。
また、LUX-Lung3/6試験の統合解析4)では、アファチニブの平均血漿濃度は用量変更前(投与開始22日目)には、非減量群(40mg)に比べ、減量群(30mg)で高く、増量群で低かったが、用量変更後(投与開始43日目)には全用量群で同程度であったことが示されている(図2)。
また、LUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析3)では、約75%の症例で減量を要したが、減量例でも投与期間は短くならず、長期投与が可能となったことが報告されている。さらにLUX-Lung7試験5)では減量群(< 40mg)と非減量群(≥ 40mg)におけるPFS中央値はそれぞれ12.8ヵ月、11.0ヵ月と有意差は認められなかった(HR, 1.34 [0.90-2.00]; P =0.1440, log-rank 検定)。
以上、本試験においてアファチニブでは副作用管理のための減量による有効性の低下は認められないことから、減量により個々の患者で適切な用量を見出していくことが重要と考えられる。

新潟県立がんセンター新潟病院 内科 内科部長 三浦 理 先生

EGFR-TKIの各種EGFR遺伝子変異に対する
活性からみた治療選択

三浦 理 先生 新潟県立がんセンター新潟病院 内科 内科部長

新潟県立がんセンター新潟病院 内科 内科部長 三浦 理 先生

三浦 理 先生 新潟県立がんセンター新潟病院 内科 内科部長

現在、EGFR遺伝子変異陽性例に対する一次治療の治療選択肢としてEGFR-TKIでは第一世代ゲフィチニブ、エルロチニブ、第二世代アファチニブが臨床使用され、第三世代オシメルチニブも一次治療での使用が予想されるが、それぞれ可逆性EGFR阻害、不可逆性EGFR阻害・汎HER 阻害・T790M阻害(in vitro)、不可逆性EGFR阻害・T790M阻害をその作用機序とする。
各種EGFR遺伝子変異に対するEGFR-TKIの活性に関する最近のin vitroでの検討6)では、第一世代EGFR-TKI のゲフィチニブ、エルロチニブはcommon mutationに対しては有効性が期待される。一方、同検討で第二世代アファチニブはcommon mutation、uncommon mutation を含む広範な遺伝子変異に対する有効性が示されている(表1)。
また、第三世代オシメルチニブはcommon mutationに対する高い効果に加え、T790M変異に対する効果とともにエクソン20 挿入変異に対する効果もある程度期待できる活性を有する。
一方、LUX-Lung2/3/6試験統合解析7)ではアファチニブのエクソン18~21のuncommon mutation陽性例における客観的奏効率(ORR)は71%、PFSは10.7ヵ月と、第一世代EGFR-TKIでは報告されていない成績が示されており8)in vitroの報告を裏付けるデータとなっている。

さらなるOSの延長を念頭にした治療シークエンスの展望:
LUX-Lung7試験からの考察

三浦 理 先生 新潟県立がんセンター新潟病院 内科 内科部長

三浦 理 先生 新潟県立がんセンター新潟病院 内科 内科部長

ゲフィチニブとアファチニブの有効性を比較したLUX-Lung7試験5)では、試験開始時(2010-2011年)にエビデンスが皆無に近かったことからエビデンスに基づく事前の仮説を立てずに探索的な第Ⅱb 相試験として実施された9)。主要評価項目であるPFS中央値の差は(10.9 ヵ月 vs. 11ヵ月)と小さいものの、1年以降に開きはじめ、ハザード比(HR)は0.73(0.57-0.95)と、アファチニブのベネフィットは1年以降に大きくなることが示されている(図3)。
なお、EGFR-TKIに対する獲得耐性(AR)機序としてT790M以外にも、HER2増幅が全体の10%程度を占めるAR機序であることが報告されている10-2)。LUX-Lung7 試験における2 年時点におけるPFSでの10%の差(図3)は、T790M発現、HER2増幅などのARの抑制による可能性が考えられる。
また、LUX-Lung7試験におけるゲフィチニブ/アファチニブによるPFS 中央値はdel19陽性例でそれぞれ11.0/12.7ヵ月(HR, 0.76 [0.55-1.06]; Cox 比例ハザードモデル)、L858R陽性例で10.8/10.9ヵ月(HR, 0.71 [0.47-1.06]; Cox 比例ハザードモデル)と、ともに有意ではないものの アファチニブで長く、del19陽性例、L858R陽性例で同様のPFS の延長が認められていることから、アファチニブはいずれの遺伝子変異に対しても同様の生存ベネフィットをもたらす薬剤として期待したい。
がんは様々なドライバー遺伝子変異の影響を受けつつ多様性(腫瘍内不均一性)を獲得し、治療をも回避する進化を遂げるものと考えられる13)EGFR遺伝子変異陽性例からの組織検体の次世代シーケンサー(NGS)による解析では、この腫瘍内不均一性を示すと思われる複数の遺伝子変異、すなわちcompound mutationが検体の約25% で検出され、単一EGFR遺伝子変異に比べ、予後が不良であることが報告されている14)。特にL858R 変異、L861Q変異、G719C変異で高率にcompound mutationが認められていることから15)、長期生存の観点からはこれまでcommon mutation として扱われている可能性があるcompound mutationへの対応が重要と考えられる。
また、血漿cell-free DNA解析に基づくサブクローンを標的としたEGFR-TKIによるシークエンス治療の可能性が症例報告レベルであるが示されている16)。アファチニブによる一次治療後にオシメルチニブの治療成功期間が長くなるとの後ろ向き解析も報告されている17)。これはuncommon mutation/compound mutationを含む広範な遺伝子変異に対して有効なアファチニブを先に用いることでサブクローン(腫瘍内不均一性)を抑制し、オシメルチニブによる後治療の効果を高めていると推察される。

ディスカッション
今後の最適な治療シークエンスを探る

横尾 慶紀先生

里内:
三浦先生には様々な観点から今後の治療シークエンスの可能性に関する総括をいただきました。ありがとうございます。現在のところ、最適な治療シークエンスに関する結論は出ていないと考えられますが、これまでのエビデンスではオシメルチニブの一次治療での使用頻度が増える可能性がある一方、長期生存を見据えた治療シークエンスの検討が重要になると考えられます。また、オシメルチニブ耐性後の後治療の選択肢が不透明である一方、LUX-Lung3/6/7試験統合解析ではオシメルチニブによる後治療を含まずともOSの延長が示されているほか、アファチニブによる一次治療後のオシメルチニブ投与で治療成功期間の長期化が示されていることから、現在、アファチニブによる一次治療とオシメルチニブによる後治療という治療シークエンスが有望と考えられます。先生方はどのようにお考えでしょうか。
高橋:
オシメルチニブによるOS データが今後どうなるかによって考え方が大きく変わってくると思われます。今のところはオシメルチニブを選択する方向性ですが、オシメルチニブがすべての患者さんで有効とは考えられませんし、アファチニブを一次治療としたほうがいい場合も考えられます。
今の段階では、最初からT790M発現例を予測できれば、アファチニブによる一次治療の後にオシメルチニブによる後治療というシークエンスがおそらく一番長いPFSを得られると思います(図4)。
横尾:
アファチニブの一次治療ではT790Mの発現がなくオシメルチニブによる恩恵を受けられない患者さんが少なからず出てきますからやはりオシメルチニブを選択する方向性も考えられますね。
三浦:
EGFR-TKIで治療できる期間ということを考えるとアファチニブを一次治療、オシメルチニブを後治療とするシークエンスにより、治療期間を長くできる可能性があります。LUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析では、オシメルチニブによる後治療がなくてもOS中央値4年が達成されていることを考えると、若年患者ではやはりアファチニブによる一次治療を選択することも選択肢として妥当ではないかと思います。
本庄:
三浦先生がおっしゃるように、確立している薬剤をしっかりつかっていくことが妥当ではないかと思いますね。したがって、長期生存を達成するうえでは、4年のOSが報告されており、さらにオシメルチニブによる後治療によってOSの延長が見込めるアファチニブを一次治療とすることがエビデンスからも妥当と考えられます。ただし、われわれ医療者がきちんと毒性管理を指導していくことが重要になります。
横尾:
EGFR-TKIによる治療をRECIST基準によるPDで切り替えるか、臨床的PDで切り替えるかという点については、最近は、あまりEGFR-TKIによる治療を臨床的PDまで引き延ばさないほうがいいという考え方が浸透していると思いますが、いかがでしょうか。
三浦:
おっしゃる通りだと思います。アファチニブは毒性管理が比較的困難なこともあり、切り替えに悩むことはないと思いますが、薬剤によっては必要以上に引き延ばしてしまう可能性が考えられます。RECIST基準によるPDから臨床的PDまでの3ヵ月は、オシメルチニブ以外のEGFR-TKIでは再生検をきちんと行い、T790M の発現が確認できなければ化学療法に切り替えることを患者さんに納得してもらう期間と考えるべきだと思います。
横尾:
効果も安全性も高い薬剤でのPDは患者さんにショックを与えることがありますから、そういう事態を回避し、先生のおっしゃるように、臨床的PDまでの3ヵ月を、しっかり説明をして患者さんに次の治療方針を伝え、希望をもっていただく期間とすることが重要と思われます。
高橋:
本日の座談会では、三浦先生の豊富なご経験と知見に基づく総括、横尾先生の司会による全参加者の活発な議論を通じ、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおける現在および将来におけるアファチニブの重要性を改めて認識する機会となりました。まことにありがとうございました。
高橋 守先生

引用文献

  1. 1) Takano T, et al. J Clin Oncol. 2008 Dec 1;26(34):5589-95.
  2. 2) Kato T, et al. Cancer Sci. 2015 Sep;106(9):1202-11.
  3. 3) Sequist LV, et al. J Clin Oncol. 2013 Sep 20;31(27):3327-34.
  4. 4) Yang JC, et al. Ann Oncol. 2016 Nov;27(11):2103-2110.
  5. 5) Park K, et al. Lancet Oncol. 2016 May;17(5):577-89.
  6. 6) Kobayashi Y, Mitsudomi T. Cancer Sci. 2016 Sep;107(9):1179-86.
  7. 7) Yang JC, et al. Lancet Oncol. 2015 Jul;16(7):830-8.
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  9. 9) Park K. Ann Transl Med. 2016 Dec;4(23):476.
  10. 10) Socinski MA, et al. Oncologist. 2017 Jan;22(1):3-11.
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  13. 13) Yates LR, Campbell PJ. Nat Nev Genet. 2012 Nov;13(11):795-806.
  14. 14) Kim EY, et al. Cancer Biol Ther. 2016;17(3):237-45.
  15. 15) Kohsaka S, et al. Sci Trensl Med. 2017 Nov 15;9(416).
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  17. 17) Sequist L, et al. Ann Oncol. 2017;28(suppl_5):v460-v496.10.1093/annonc/mdx380
集合写真

図1 LUX-Lung 3 試験日本人EGFR 遺伝子common mutation 陽性例におけるOSの比較

LUX-Lung 3 試験日本人サブグループ解析

図2 LUX-Lung 3/6 試験における用量変更前後の血漿中アファチニブ濃度(海外データ)

LUX-Lung 3/6 試験統合解析(海外データ)

表1 In vitro におけるEGFR-TKI の各種EGFR 遺伝子変異に対する活性

図3 LUX-Lung 7 試験におけるPFS の比較(海外データ)

LUX-Lung 7 試験(海外データ)

図4 長期生存を目指す治療シークエンス