肺がんエキスパートの知見粘って長い生存が得られる治療を

インタビュー日:2018年3月23日

松阪市民病院 呼吸器センター長 / 副院長
畑地 治 先生

集学的治療で地域の肺がん医療を支える

松阪市民病院 呼吸器センター長/副院長 畑地 治 先生

松阪市は三重県中部に位置し、当院の診療圏は県中部から以南、面積にして県全体の半分ほどです。ただし、県内の人口が県北部に比較的集中していることもあり、人口ベースでは県全体の4分の1程度です。
当院は市内の2医療機関(済生会松阪総合病院、松阪中央総合病院)とともに地域の二次救急医療を担っていますが、呼吸器内科専門医で肺がん医療に携わっている内科医がいるのは、松阪地区では当院だけです。私が赴任した15年ほど前は当院には肺がん患者さんは一人もいなかったのですが、現在では県中南部だけでなく県北部や和歌山県南部など県外からも来院されています。非小細胞肺がんの新規患者数は年間約200名、小細胞肺がんは約40名です。当院の呼吸器センター(呼吸器内科、呼吸器外科)では、肺がんを含む呼吸器疾患に対して他科と連携して集学的治療を行っています。

肺がんの診断においては他科との協力は不可欠です(図1)。肺生検の場合、気管支鏡検査は呼吸器内科で行いますが、気管支鏡検査で確定診断ができない部位や小さな腫瘍の場合はCTガイド下生検を放射線科に依頼しています。表在リンパ節の生検は呼吸器外科で行うことが多く、肝生検は超音波(ECO)ガイド下生検を消化器内科に、あるいはCTガイド下生検を放射線科に依頼しています。副腎についても放射線科にCTガイド下生検を行ってもらいます。以前はCTガイド下生検を私自身が行うこともあったのですが、最近では放射線科に依頼するようになっています。

図1 EGFR陽性肺がん(生検)

図1 EGFR陽性肺がん(生検)

縦隔リンパ節生検は超音波気管支鏡ガイド下穿刺吸引生検(EBUS-FNB)を呼吸器内科で行うこともあれば、消化器内科に超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引生検(EUS-FNB)を依頼することもあります。EUS-FNBでは病変部までの距離はやや長くなるのですが、EBUS-FNBよりも十分な組織が採れることもあるため、ルートが安全であれば実施しています。
治療については、手術は呼吸器外科に、StageⅢ肺がんは呼吸器内科で化学療法を行いつつ、放射線科で放射線療法を行います。StageⅣ肺がんは呼吸器内科で治療をし、緩和ケアを希望する場合は併設している緩和病棟で、緩和ケアの医師と連携を取りながら治療をしています。

患者さんへの説明と実践指導が副作用克服のカギ

松阪市民病院 呼吸器センター長/副院長 畑地 治 先生

StageⅣのEGFR陽性非小細胞肺がんに対する治療はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が第一選択ですが、TKIに特有の副作用が発現することがあります。それらの副作用は、発現したら投与を中止しなければならない副作用と、管理次第でコントロールできる副作用に分けることができます。

たとえば間質性肺疾患(ILD)はEGFR-TKIの致死的な副作用ですので、ILDが疑われた場合は投与を中止します。この場合はどの施設で起こっても対応は変わりません。それに対し、適切な管理によってコントロールできる副作用は医療者の腕の見せ所だと思っています。とはいえ、単一の診療科が頑張るだけでは難しく、また医師だけが頑張ってもうまくいきません。各科の医師との連携、薬剤師や看護師との連携が非常に大切なところです。

一次治療に使われるEGFR-TKIの1つであるジオトリフは当院では1~2週間の入院で導入します。治療前には薬剤の効果と副作用を説明し、薬剤師が服薬指導を行って、薬剤に関する質問に答えています。ジオトリフの主な副作用である下痢、口腔粘膜炎、皮膚障害については副作用マネジメントチームで対応しています(図2)。
口腔粘膜炎皮膚障害はそれぞれ歯科口腔外科と皮膚科と連携して副作用対策を行っています。病棟看護師はスキンケアの仕方を実践指導し、保湿剤の塗り方皮膚洗浄の仕方を患者さんに説明します。保湿剤を実際に塗るときも看護師がそばにいて、どの部分にどのくらい塗ったらよいのかを指導します。またお風呂まで付き添って、石鹸の泡立て方や洗い方を患者さんに覚えてもらうこともあります。
下痢に対しても、なかには嫌がる患者さんもいますが、看護師が便の性状を観察して、ブリストルスケールの点数を参考に、止瀉薬の服用などを指導します。
また結膜炎などの眼の障害も報告されていますので、眼科との連携も必要です。EGFR-TKIでは毛の生え具合が変わるため、睫毛の乱生で眼に睫毛が入りやすくなり、眼科で睫毛を抜いてもらうことがあります。頭髪が巻き毛になったり、眉毛が太くなったり、髭が生えてくることもあります。さらに眼の周りの皮膚が乾燥して荒れることがありますので、そのときは皮膚科に相談しています。

投与初期の副作用が落ち着いたら退院となります。その後は外来で対応しますが、診察に入る前に、EGFR-TKIで発現しやすい副作用について問診表を外来看護師が渡し、該当部分に○をつけてもらいます(図2右)。何か問題があれば、診察前に看護師から医師に報告があります。あるいは、がん化学療法認定看護師や皮膚科などの看護師に相談し、それを医師に伝えてくれます。
下痢や口腔粘膜炎、皮膚障害は介入の仕方次第で軽減できる副作用だと思いますので、これらの副作用でジオトリフの投与が中断されることがないように、細やかな対応が必要です。実は、皮膚障害で第1世代EGFR-TKIが服用できなくなった患者さんでも充分スキンケアを指導した後にジオトリフを開始したところ、問題なく投与継続でき、現在までに3年ほど継続できている例もあります。治療前からの患者さんへの説明、副作用対策の実践指導によって、克服できる部分もあるのではないかと思っています。

図2 ジオトリフ副作用マネジメントチーム

図2 ジオトリフ副作用マネジメントチーム

長期生存を望む患者さんに効果の高い治療を

治療方針は患者さんと相談して決定していきますが、治療前にまず考えなくてはいけないのは患者さんが何を望んでいるかということです。患者さんに聞きますと、多くの方が望んでいるのは、長生きしたいということです。決して楽な治療で生きていたいと思っているわけではなく、少し副作用が強くても、効果の高い治療を多くの患者さんは希望しています。長生きできる治療が最良であると患者さんは考えていることを、われわれは常に頭に入れてがん治療にあたらなければならないと思っています。
そのため、一次治療に使える3剤のEGFR-TKIのうち、生命予後の観点からジオトリフを選ぶことが多いのが現状です。第1世代EGFR-TKIでは約1年で耐性ができてしまうこともあり、投与継続が難しいケースもあるようですが、ジオトリフでは2年以上継続している患者さんの割合が高いことを実感しています。またEGFR遺伝子変異にはいくつもの種類があり、種類によってジオトリフの効果は異なるといわれますが、エクソン19欠失変異でもエクソン21 L858R変異であっても、2年以上継続できる割合は比較的高いと思います。

ジオトリフとゲフィチニブを比較したLUX-Lung 7試験では、無増悪生存期間(PFS)で有意な差が認められ、全生存期間(OS)も観察期間が長くなるに従い、2群の生存曲線は開いています1)。この結果は臨床で実感するところと一致しています。

なお、高齢者へのジオトリフ投与は議論があるところかと思います。暦年齢と実際の活動性は違うところがありますので、全身状態が良く、ECOG PSが0/1の高齢者に対してはジオトリフも考慮しています。PS2の患者さんには、若年者の場合はジオトリフを使う場合が多いですが、高齢者ではゲフィチニブやエルロチニブを使うことが多いと思います。したがって、ジオトリフの適応は若年者ではPS 0/1/2、高齢者ではPS 0/1と考えています。
また脳転移を有する場合、EGFR-TKIのなかでも脳への移行率が異なるといわれていますが、脳転移例に対してもジオトリフは効果を示します(図3)2)。特に若年者であれば、脳転移がある患者さんでもPFSを延ばす効果が高い治療が最適だと思います。

図3 脳転移のあるEGFR遺伝子変異陽性NSCLC(Del19/L858R)に対するPFSの経過
(LUX-Lung 3試験とLUX-Lung 6試験の統合解析)

図3 脳転移のあるEGFR遺伝子変異陽性NSCLC(Del19/L858R)に対するPFSの経過(LUX-Lung 3試験とLUX-Lung 6試験の統合解析)
  1. 2) Schuler M, Wu YL, Hirsh V, et al. First-Line Afatinib versus Chemotherapy in Patients with Non-Small Cell Lung Cancer and Common Epidermal Growth Factor Receptor Gene Mutations and Brain Metastases. J Thorac Oncol. 2016; 11(3):380-90.

本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

粘って治療をすることが長い生存には大切

松阪市民病院 呼吸器センター長/副院長 畑地 治 先生

EGFR陽性非小細胞肺がんの治療でよく話題にのぼるのが、EGFR-TKIの投与順番です。どの治療シークエンスが最も予後延長に繋がるかが問題ですが、1次治療後に再生検をして、EGFR-TKIの耐性変異であるT790Mが陽性の場合はオシメルチニブ、陰性あるいは不明の場合は化学療法を行うことが推奨されています4)。ジオトリフのLUX-Lung 3、6、7試験の後ろ向き解析では、ジオトリフ投与後にT790M陽性でオシメルチニブが投与された症例のOSは非常に良好でした5)。実臨床では臨床試験のような症例ばかりではありませんが、他剤に比べジオトリフのみで2年以上奏効している患者さんが外来にはたくさんいます6)。患者さんが長期生存を希望していることを考えますと、ジオトリフを先に使うシークエンスでよいのではないかと個人的には思っています。実際、ジオトリフ投与、化学療法を行っている間に、3回再生検を行って、ようやくT790Mが出た例もありますので、粘って治療をすることが長い生存を得るには大切なことかと思います。

10年、20年先を見据えた課題と展望

私は地域に根ざした医療をしようと思って松阪に赴任しました。現在では地域の支援を得て、県内から多くの患者さんが集まってくださり、非常にありがたい状況だと考えています。さらに贅沢をいえば、良い医療を続けて、地方であっても日本中から患者さんが来るような病院にしたいと思っています。
そのためにも臨床医として診療を一つ一つ丁寧にするといった地道な努力を繰り返していくのですが、丁寧な診療は医師だけではできません。医療チームとして高いモチベーションをもって毎日の診療にあたる必要があり、またチームを維持するには全員をまとめる求心力が必要とされます。リーダー役である医師はチームが空中分解しないように、個人個人の長所を見極めながら、みんなで高いところを目指すようにし続けなければなりません。 当院を見ましても、診療が得意な先生もいれば、検査が得意な先生、データをまとめるのが得意な先生がいます。

それぞれの先生の力があって初めて呼吸器センターとしての力が発揮されるのです。全員がオールラウンダーである必要はなく、得意な分野を伸ばしていければよいと思っています。一人の先生が学会発表する背景には他の先生の協力があるわけですから、全員が一丸となって、それぞれの長所を延ばしていければと思います。
もちろんチーム内で意見が合わないこともありますが、それをまとめるのもリーダー役の仕事かなと思います。私自身のモチベーションが下がらない限り続けることができると思いますが、10年、20年後を見据えて、若い先生方を育てることが私の定年までの使命だと思っています。
また、普段は若手の先生にあまり言っていないことですが、若いときは楽なほうに流れることなく、できるだけ苦労をしてほしいと思います。実験をして苦労して論文を書く、診療して苦労して患者さんの信頼を得る。そういう苦労を医師として積極的にすることで、自分自身も成長しますので、診療や研究など仕事のなかで苦労しながらも楽しみを見出してほしいと思っています。

参考文献

  1. 1)Paz-Ares L, Tan EH, O'Byrne K, et al. Afatinib versus gefitinib in patients with EGFR mutation-positive advanced non-small-cell lung cancer: overall survival data from the phase IIb LUX-Lung 7 trial. Ann Oncol. 2017; 28: 270-7.
  2. 2)Schuler M, Wu YL, Hirsh V, et al. First-Line Afatinib versus Chemotherapy in Patients with Non-Small Cell Lung Cancer and Common Epidermal Growth Factor Receptor Gene Mutations and Brain Metastases. J Thorac Oncol. 2016; 11: 380-90.
  3. 3)Soria JC, Ohe Y, Vansteenkiste J, et al. Osimertinib in Untreated EGFR-Mutated Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2018; 378: 113-25.
  4. 4)Ⅱ. 非小細胞肺癌(NSCLC)、6. Ⅳ期非小細胞肺癌、『EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2017年版』(日本肺癌学会 編).
  5. 5)Schuler M, Paz-Ares L, Sequist LV, et al. First-line afatinib for advanced EGFRm+ NSCLC: Analysis of long-term responders(LTRs) in the LUX Lung(LL) 3, 6 and 7 trials. Ann Oncol. 2017; 28( suppl 2): ii28-ii51.
  6. 6)Fujiwara A, Yoshida M, Fujimoto H, et al. A Retrospective Comparison of the Clinical Efficacy of Gefitinib, Erlotinib and Afatinib in Japanese Patients with Non-small Cell Lung Cancer. Oncol Res. 2018; doi: 10.3727/096504018X15151523767752.

1)、2)、5)の研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。