肺がんエキスパートの知見より長く、より快適に生活が送れるようにサポートしていきたい

インタビュー日:2018年7月23日(月)

自治医科大学内科学講座 呼吸器内科学部門 助教
長井 良昭 先生

EGFR-TKIは患者さんの状態や副作用で選択

自治医科大学内科学講座 呼吸器内科学部門 助教 長井 良昭 先生

EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療において、現在のところ、第1世代EGFR-TKIのゲフィチニブとエルロチニブ、第2世代EGFR-TKIのジオトリフが主に使用されていると思います〔現在(2018年12月時点)では第3世代EGFR-TKIが主に使用されています〕。日常診療では患者さんに各薬剤の効果と副作用を説明し、病気の状態や生活環境、患者さんの希望を聞いて、どの薬剤がよいかを相談して決めていくことになります。しかし患者さんに薬剤の特徴を話しても迷われることも多く、こちらから患者さんの状態に合わせて適切と考えられる薬剤を勧めることもあります。

例えばゲフィチニブは全身状態(PS)が不良の人や高齢者でも効果があることが知られていますので、実際の治療でもPS不良例にはゲフィチニブを使用します。また脳転移例に対しては、どのEGFR-TKIでも効果があることはわかっていますが、日常診療では脳転移例にはエルロチニブを使用することが多いです。
一方、若年で元気な人に対して、「肺癌診療ガイドライン」においては上記3剤がGrade Aで推奨されています〔現在(2018年12月時点)では変わっております〕。その使い分けは難しいところですが、効果の面では、第2世代EGFR-TKIのPFSは第1世代EGFR-TKIよりも長いため1)、若年で元気な人、なるべく長く効果を維持させたい人にはジオトリフを選んでいます。また職業的なことで皮疹が出ては困るという人にはゲフィチニブを使用するなど、副作用によって薬剤を選択することもあります。

さらに第1世代EGFR-TKIと第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブの比較試験(FLAURA試験)でオシメルチニブ群のPFSは有意に延長することが示されています2)。しかしながら、生存期間を延ばす1次治療として、第1世代から第3世代のEGFR-TKIをどのように使うかは議論のあるところです。その理由の1つはオシメルチニブの使い方にあります。T790M変異陽性であれば2次治療で使うことができますが、現状では第1、第2世代EGFR-TKI後にT790M変異が検出されるのは50%程度、実臨床では30%程度ともいわれています。1次治療にゲフィチニブ+化学療法を使用した場合、PD後にオシメルチニブが使える患者さんは限定されています。ただし、現時点で十分なデータは出揃っていませんので、個人的にはOSが延びるというデータがあるレジメンを使いたいと思います。

またジオトリフのLUX-Lung7試験では、ジオトリフを先行させて耐性後にオシメルチニブへ変更する治療法で長期生存が示されています(図1)3)。LUX-Lung3、6、7試験のレトロスペクティブ解析でもジオトリフ後にオシメルチニブによる治療を受けた人の治療期間中央値は20ヵ月でした4)
一方で、ジオトリフはEGFR uncommon変異への効果が知られており、common変異(エクソン19欠失変異、エクソン21のL858R変異)とuncommon変異をもつcompound変異の患者さんに対してはジオトリフが期待できるでしょう。今後compound変異を含め、適応となる患者さんを選別できるようになれば、生存延長をもたらす治療シークエンスの選択肢になると考えられます。

図1 治療中断後に第3世代EGFR-TKIを投与された患者のOS

図1 治療中断後に第3世代EGFR-TKIを投与された患者のOS
  1. 3) Paz-Ares L, Tan EH, O'Byrne K, et al. Afatinib versus gefitinib in patients with EGFR mutation-positive advanced non-small-cell lung cancer: overall survival data from the phase IIb LUX-Lung 7 trial. Ann Oncol. 2017; 28(2):270-277.

※本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

次世代シーケンサー(NGS)を用いた遺伝子異常の検出

自治医科大学内科学講座 呼吸器内科学部門 助教 長井 良昭 先生

肺がんの治療では遺伝子変異をターゲットにした薬剤選択が進んでおり、最近では次世代シーケンサー(NGS)を用いて遺伝子異常を検出して診断に用いる試みが増えています。自治医科大学でもMINtSという包括的遺伝子変異検査システムを使った研究を進めています。

通常、診断時に組織を採取し、EGFR、ALK、ROS1、場合によってはBRAF、PD-L1を調べることになりますが、多くの組織を採取しなければならないという現状があります。そこでMINtSを使用して細胞診レベルでそれらを検査できるようになればと考えています。細胞診検体からDNA、RNAを抽出し、NGSでEGFR、ALK、ROS1、BRAF、さらにHER2やMETなどを調べます。MINtSでは1回の検査で96検体以上を同時に測ることもできます。また、MINtSではcompound変異を調べることもできます。例えばレトロスペクティブに、EGFR-TKI治療歴がある患者さんを対象としてcompound変異を調べ、それに対する薬剤の効果をみるといった研究は、EGFR-TKIの治療シークエンスを考える上で非常に興味深いデータが得られるのではないかと思います。

おわりに

自治医科大学内科学講座 呼吸器内科学部門 助教 長井 良昭 先生

肺がんにおいてEGFR遺伝子変異が発見され、EGFR-TKIが治療に使われるようになる以前は、肺がん患者さんの予後は1年ほどでした。しかし現在、NEJ009試験ではOS中央値が50ヵ月以上にもなっています。EGFR-TKIは化学療法に比べて毒性が低く、PSが悪い人でもQOLを維持して日常生活を送ることができます。予後を延ばすことも重要ですが、PSを保って、いかに苦痛のない生活を送れるかということは、肺がん患者さんの長期にわたる治療において今後より重要になってくると思います。EGFR-TKIだけでは治癒を目指すことはできません。治療経過のなかのどこかで再発してしまうのですが、より長く、より快適な生活ができるように、医師や看護師、薬剤師などによるチーム医療で、薬剤の面だけでなく、緩和ケアや心理的なケアなども含め、患者さん本人とその家族をサポートしていくことが大切ではないかと思っています。

(2018年7月30日、インタビュー実施)

参考文献

  1. 1)Park K, Tan EH, O'Byrne K, et al. Afatinib versus gefitinib as first-line treatment of patients with EGFR mutation-positive non-small-cell lung cancer( LUX-Lung 7): a phase 2B, open-label, randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2016; 17: 577-89.
  2. 2)Soria JC, Ohe Y, Vansteenkiste J, et al. Osimertinib in Untreated EGFR-Mutated Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2018; 378: 113-125.
  3. 3)Paz-Ares L, Tan EH, O'Byrne K, et al. Afatinib versus gefitinib in patients with EGFR mutation-positive advanced non-small-cell lung cancer: overall survival data from the phase IIb LUX-Lung 7 trial. Ann Oncol. 2017; 28(2):270-277.
  4. 4)Sequist LV, Wu YL, Schuler M, et al. Subsequent therapies post-afatinib among patients with EGFR mutation-positive NSCLC in LUX-Lung(LL) 3, 6 and 7.ESMO 2017 Congress, abstract 1349.

1)および3)、4)の研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

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2018年12月作成