ジオトリフ 専門医インタビュー・座談会The Interview

第1回 肺がん治療におけるチーム医療
─秋田赤十字病院での取り組みを中心に─

秋田赤十字病院でチーム医療を始めたきっかけ

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科 守田亮先生

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院
呼吸器内科 守田 亮 先生

がんの薬物療法を安全に継続的に行うには医師だけでなく、看護師や薬剤師など医療スタッフの協力が欠かせません。前勤務先の秋田赤十字病院呼吸器内科でチーム医療を行い、一定の成果が得られましたので、その経験を紹介させていただきます。
チーム医療を始めたきっかけの一つは、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター主催の教育プログラムJ-TOP(Japan Team Oncology Program)の講習会に参加したことです。講習会で出会った非常に意識の高い看護師や薬剤師との対話のなかで、こういった他職種の人たちと協力できれば、秋田でもより良い診療が広げられるのではないかと思いました。
また実際に診察をしているなかで、限られた外来の診療時間では情報は医師から患者さんへの一方向になりやすく、「本当はこんなことが気になっているが、診察中は言えなかった」、「実は薬が余っている」といった患者さんの話を、後になって看護師から聞くことがたびたびありました。そういった患者さんの声を拾い上げ、なんとか診療に反映させたいと思っていたことも、チーム医療の必要性を感じた理由です。
さらに後押ししたのは、肺がん診療へのジオトリフの導入です。発売前から、非常に有効性は高いが、下痢や皮疹といった副作用が強いという情報がありました。使いたいけれども、副作用マネジメントをどのようにしていけばよいか、自分一人の力では難しいが、他のスタッフの力を借りて、患者さんに薬を提供できる方法はないかと思案した結果、チーム医療に行き着いたという経緯があります。

チーム医療における外来サポートの実際

チーム医療のメンバーは医師、看護師、薬剤師で、最初は私と外来看護師2名、がん薬物療法認定薬剤師を含む薬剤師2名の計5名で始めました。外来看護師には今までの仕事の延長としてサポートをお願いし、薬剤師には「薬剤師外来」を新たに設けて対応をしてもらいました。薬剤部の通常業務から離れて患者さんとの面談にあたってもらうわけですから、その時間はほかの薬剤師がその人の仕事を担当しなくてはなりません。しかし、入院中にEGFR-TKI 投与を開始した患者が、その後服薬や副作用で困っていないかなどを、担当薬剤師は気にしていたことがわかりました。そこで、薬剤部に薬剤師外来の説明に行き、何回か話し合った結果、曜日と時間を限定して、あまり負担のない程度から実施することが決まりました。「やりたいんだけど、どうしよう」という薬剤師の葛藤があり、そこを良い落としどころとして始めたというのが実情です。
もう一つ、取り決めで工夫したのは、予約枠として薬剤師外来を作ったことです。例えば、医師の診察が10:00に予約されている場合、9:30~10:00の枠で、薬剤師外来の予約をしてもらいます。それにより薬剤師が事前に患者さんの状況を知って問題点を整理した上で、医師は診察にあたることができます。
医師の診察の前には、看護師がバイタル確認や採血、自宅での様子などを問診し、必要な検査をしていましたが、それでも診察までの待ち時間が長いことが患者さんの不満になっていました。薬剤師外来は、その待ち時間を利用して、入院時の担当薬剤師が患者さんの自覚症状の聞き取りや残薬の確認などをします(図1)。薬剤師は電子カルテに指導内容を記録しますので、医師が診察するときには情報が共有できる仕組みです。また病院の情報室に頼んで、薬剤師が記録したカルテだとすぐにわかるように、カルテの色を変えてもらいました(図2)。幸い、薬剤師外来は診察室と同じブース内にありましたので、何かあったらすぐに情報交換できるという最適な設備環境もありました。

図1 薬剤師外来の概要

図1 薬剤師外来の概要

守田 亮 先生ご提供

すべての肺がん患者さんに対応することはマンパワーの点からもできなかったため、EGFR-TKIを使っている患者さんで、副作用が出ている人、遠方から来院している人、また高齢者など医師とのコミュニケーションだけでは副作用の管理が難しい人などを対象として、薬剤師外来を実施しました。

薬剤師外来によるさまざまな成果

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科 守田亮先生

薬剤師外来を実際に始めてみると、患者さんからの評判が非常に良かったのです。薬剤に関する内容だけでなく、生活全般に関する質問や訴えも多かったようです。地域柄もあってか、患者さんは医師に遠慮する傾向が強く、診察では言えなかったことを、待ち時間を利用した薬剤師や看護師の介入で、話すことができるようになったということです。アンケートをとりますと、待ち時間に対する不満が少なくなり、納得して服用できるようになって、治療に対する満足感が高くなったことがわかりました。
また残薬調整をすることも少なくなりました。抗がん剤はきちんと服用していましたが、副作用対策に処方していた抗生物質や外用の塗り薬、下痢止め薬などは、何のために出されているかを理解していなかった患者さんもいました。薬剤師が介入する前はそういった薬剤が余っていたのですが、薬剤師から説明をしてもらうと、服薬のアドヒアランスが上がりました。さらに患者さんが服薬を止めたいというときに電話をしてくれるようになりました。
薬剤師もやりがいを感じ、薬剤師外来の受診数は徐々に増えていきました。また、薬剤師外来はがん薬物療法認定薬剤師が担当していましたが、薬剤部から新人の教育として、認定をもっていない薬剤師の同席を提案されました。

図2 電子カルテ ー薬剤師記録ー

図2 電子カルテ ー薬剤師記録ー A
図2 電子カルテ ー薬剤師記録ー B
図2 電子カルテ ー薬剤師記録ー C

守田 亮 先生ご提供

薬剤師外来を薬剤師の教育の場として活用するという、いわゆる相互利益があったことも、薬剤師外来がうまくいった秘訣ではないかと思っています。
医師にとっても薬剤師外来は利点が多く、診察時間は短縮し、副作用や症状に対しての対応がしやすくなりました。また救急外来を含めて予定外の受診が減りました。薬剤師が早期から介入するので、どうしたらよいか迷っていてぎりぎりまで我慢して緊急で受診に至ることが減ったということかと思います。

医師による電話サポートと看護師による心のケア

秋田県は呼吸器内科専門医の数が少なく、しかも秋田市に集中しています。そのため遠方の患者さんをどのようにサポートしていくかが課題でした。そこで独自に電話でのサポートも行っていました。例えばジオトリフを服用していた患者さんの外来の間隔は1ヵ月でしたので、その中間の2週間目に、電話サポートを希望していた患者さんに電話をしていました。体調を確認し、副作用が出ていないかを聞いて、患者さんの状態が悪くなる前に受診を勧めることもありました(図3)。ただ実際のところ、電話での話は患者さんの仕事や家族のことにも及び、「家族旅行はどうでしたか」、「もうすぐ稲刈りだけど田んぼの状態はどうですか」など、日常会話が大半になることもしばしばでした。
電話サポートを開始して、治療に対する安心感が強くなったという意見が多かった一方で、その時間に家にいなければならないと気を揉んでしまう様子も伺えました。また電話で医師が尋ねると、皮疹や下痢が出ていても、「大丈夫です」と言う患者さんもいましたので、そういう患者さんには薬剤師外来で話を聞いてもらうようにしていました。
患者さんを支えるには精神的な面も非常に重要です。ある女性の肺がん患者さんは小学生の子供にがんのことをどう伝えたらよいか思い悩んでいました。医師には何も言いませんでしたが、看護師がいち早く患者さんの様子に気づいて尋ねたところ、「お母さん、がんなの?と子供に聞かれたが、私はなんて答えたらいいかわからない」と話しました。このケースは看護師によるケアで対応できましたが、チーム医療のなかで精神的な面をサポートしてくれるスタッフの存在が、治療継続につながることを実感した出来事でした。

早期からの副作用マネジメントで悪化を防ぐ

EGFR-TKIではさまざまな副作用が発現します。下痢に対してはブリストルスケールを使って便の状態を患者さんに記録してもらい、下痢止め薬を服用するタイミングを伝えておきます。一方、対応に苦慮するのが皮疹でした。痛みが伴わない場合はひどくなるまで医師に伝えないため、院内の皮膚科に紹介したときには「こんなにひどくなる前から相談してほしかった」と言われることが多かったのです。
ところがチーム医療が開始されてから、薬剤師外来で副作用の相談や処方提案がなされ、副作用マネジメントが早期から行われるようになりました。また皮膚の副作用対策について勉強会を開き、テーピングや軟膏の処方の仕方などを看護師に学んでもらい、患者指導に役立ててもらいました。その結果、皮疹の発現頻度は減り、重症度も軽減しました1)
また遠方の患者さんには電話サポートはしていましたが、通院に2~3 時間かかる場合は患者さんの近隣の病院の先生と直接やり取りをして緊急時の受診先として連携を依頼し、入院が必要になったときは連絡してもらうようにしました。
副作用マネジメントを長期的に行っていくには、治療の主体となる病院とそれを支援してくれる病院とで役割分担をして患者さんをサポートする必要があると思います。そのときに大切なのは、各病院のキャパシティを超えたお願いをしてはいけないということです。呼吸器内科医がいない病院に専門的なことをしてもらうのは難しいですから、副作用が出たときの対応を伝え、それでもおさまらないときは当院で引き受けるといった連絡体制を整えておくことが大事です。

図3 電話相談、直接相談の分類

図3 電話相談、直接相談の分類 A:電話相談
図3 電話相談、直接相談の分類 B:直接相談

守田 亮 先生ご提供

地域におけるがん治療の今後

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科 守田亮先生

現在の職場である国立がん研究センター中央病院では、看護師、薬剤師のほか、医療ソーシャルワーカーや臨床心理士、さらに他科の医師も加わってチーム医療が行われています。また治療による外見の変化にはアピアランス支援センターの協力がありますし、がん対策情報センターのがんサバイバーシップ支援部が行っている就労支援もチーム医療の一環として行われています。
そうした体制がどこの病院でもできるわけではないですが、肺がんに対する新しい経口抗がん剤は今後も増えていきますので、多職種の医療スタッフによる患者さんへのサポートはより重要になってくると思います。そのなかでも、がんという不安な病気に対するメンタル的なサポートが、患者さんの家族を含めて必要です。また副作用による脱毛や肌の色、爪の変化などのアピアランスに関する介入を治療前から行うことで、治療に対する患者さんの理解が進みますので、円滑な治療には大切な部分だと思っています。
昨今はスマートフォンを活用して、患者さんの副作用の状態を簡便に把握できるアプリケーションの開発も進んでいます。また将来的にはセキュリティを確保した上で、連携病院間の画像の共有や、テレビカンファレンスを通じて患者さんの情報を共有することも可能になるかもしれません。病院と病院の良いつながりをつくって、地域にいても適切な治療を受ける機会を失うことのない環境づくりに向け、私も努めていきたいと考えています。

参考文献
1) 守田亮, 田口伸, 七海泰彦, 黒川博一. 当院の肺がん診療における薬剤師外来の臨床的アウトカム. 肺癌. 2016; 56(6): 601.