ジオトリフ 専門医インタビュー・座談会The Interview

第2回 長期的な視野で見据える治療戦略

5年生存を目指した治療方針

熊本中央病院 腫瘍内科 / 呼吸器内科 / 緩和ケア内科 牛島 淳 先生

熊本中央病院 腫瘍内科 / 呼吸器内科 / 緩和ケア内科
牛島 淳 先生

臨床病期IV 期の肺がん治療では、長期生存を得ることが治療ゴールとなります。そのためには殺細胞障害性抗がん剤や分子標的薬を組み合せ、治療シークエンスを考えることが大事です。またプラチナ製剤併用療法を行ったときは可能な限り、維持治療まで行います。
EGFR変異陽性肺がんの第1選択薬はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)ですが、第1~第2世代EGFRTKIの治療で耐性化が起こったときは、耐性遺伝子のT790Mの発現を確認し、T790M 変異が認められた場合は第3世代EGFR-TKIに移行します。T790M変異の発現がない場合には殺細胞性抗がん剤治療を行い、EGFRTKIでのリチャレンジを試みることも念頭においています。肺がん細胞は一様でないため、耐性化が起こった際に殺細胞性抗がん剤に切り替えることによって、EGFR-TKIが効くクローンが増えてくると考えられるためです。また、PD-L1が高発現であれば抗PD-1抗体などのがん免疫療法も治療戦略に入ってきます。
現在は治療選択肢が増えていますが、使える治療を使い切ることがEGFR変異陽性肺がん治療のポイントであり、同じ作用機序にならないように使う順番を考えることが重要です。これにより最低で3年、できれば5年生存を目指して治療に取り組んでいます。

1次治療におけるEGFR-TKIの使い方

現在1次治療で使用できるEGFR-TKIは3剤あります。第1世代EGFR-TKIのゲフィチニブと第2世代EGFRTKIのジオトリフを比較したLUX-lung7試験では、無増悪生存期間(PFS)中央値は10.9ヵ月、11.0ヵ月とほぼ同じでしたが、中央値に達した後で2群の生存曲線は開いており、ハザード比は0.73(95%信頼区間0.57~0.95)でした1)。EGFR変異のタイプ別にみると、エクソン19欠失変異ではハザード比は0.76(95%信頼区間0.55~1.06)、L858R変異ではハザード比が0.71(95%信頼区間0.48~1.06)でした。これらのデータに基づき、当院ではジオトリフを投与する機会が増えており、高齢でも全身状態がよければジオトリフを投与することがあります。
全生存期間(OS)に有意差はありませんが、最近更新された報告(フォローアップ期間中央値49.2ヵ月)では治療開始後11ヵ月辺りを境に両群間の生存曲線の開きは大きくなっています2)
なお、中枢神経系(CNS)転移やがん性胸膜炎の合併など、ベバシズマブを併用したほうがよい症例の場合は、エルロチニブ+ベバシズマブ併用療法を行うこともあります。JO25567試験では16.0ヵ月という長いPFSが得られており、サブグループ解析ではがん性胸水、心嚢水合併症例でも同程度のPFSが示されています3)。なお全身状態がよくないPS3~4の症例には、ガイドラインにもあるようにゲフィチニブ単剤を投与しています。

長い目でOSを見据えた治療を

LUX-Lung7試験のデータでは、ゲフィチニブあるいはジオトリフ治療後に耐性化して第3世代EGFR-TKIへ変更した患者のOS中央値はゲフィチニブ群で48.3ヵ月、ジオトリフに至っては中央値に達しておらず、5年に及ぶのではないかと推察される良好な結果が得られています(図1)2)。ただ、第1~第2世代EGFR-TKI後にT790M変異が発現する症例は50~60%ですから、第3世代EGFR-TKIに移行できるのは半数の患者です。また治療後は再生検が難しく、いかにT790Mを証明するかが課題にはなっています。
現時点においては、目先のPFSの長さや有害事象の少なさに捕らわれるのではなく、長い目でOSを見据えた治療を行うことが重要と考えています。

図1 耐性後、第3世代EGFR-TKIで治療をした患者の全生存期間
図1 耐性後、第3世代EGFR-TKIで治療をした患者の全生存期間

2)Corral J, Park K, Yang JCH, et al. Afatinib versus gefitinib in patients with EGFR mutation-positive(EGFRm+)NSCLC:updated overall survival data from the Phase IIb trial LUX-Lung 7.
Ann Oncol. 2017; 28( suppl 2): ii28-ii51.
本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

長く投与するための副作用マネジメント

熊本中央病院 腫瘍内科 / 呼吸器内科 / 緩和ケア内科 牛島 淳 先生

ジオトリフ治療ではいかに長く投与できるかが重要であり、継続して投与することが治療効果の持続に繋がるといえます。実際のところ、当院でも40mg/日投与ができている患者は多くありません。体格のよい人には40mg/日で開始しますが、肺がん患者でそういった体格の方は多くはありません。
また長期投与のためには、ジオトリフの有害事象である下痢や皮疹、口内炎などの管理が必要です。下痢については、当院では導入前より医師、看護師、薬剤師で資料を集め、当院独自のフローチャートを作って対応してきました(図2)。下痢の発現はジオトリフ投与初期に多いものの徐々に減りますので、急性期をうまく乗り越えることが大切です。軟便の段階からロペラミドを2カプセル投与して、5時間後に効果がなければ追加します。ロペラミドをきちんと内服させることで制御でき、現在のところ下痢で困った症例はありません。

図2 当院のジオトリフによる下剤発現時の対応フローチャート
図2 当院のジオトリフによる下剤発現時の対応フローチャート

牛島 淳先生ご提供

皮疹については、「Rashマネジメントチーム」を2012年に立ち上げ、当科の医師、看護師、薬剤師で連携して対応しています。実は数年前に当院の皮膚科がなくなり、われわれが対応せざるを得なくなりました。院外の講演会へ出向いて知見を広め、院内講演会の開催や勉強会を繰り返して、試行錯誤しながらもブラッシュアップしてきました。
皮疹の管理はスキンケアの基本である保清、保湿、保護が非常に重要です。皮疹発現前より保湿剤の塗布の指導(予防的スキンケア)を実施し、最近では大腸がんでのJ-STEPP 試験の好成績に基づいてミノマイシンの予防投与も行っています。その結果、皮疹の発現頻度は随分減ってきています。
しかしそもそも外来の短い診察時間のなかで、患者が普段どういったスキンケアをしているのかを聴き出すのは容易ではありません。そこで当院では「Rashマネジメント外来」という特殊外来を設けて、皮疹の管理が上手くいかない患者を対象に、1週間に2日、1日4枠の外来で、1人1時間を掛けて、専任看護師が日頃行っているスキンケアを患者に目の前で行ってもらい、問題点を考えます。ステロイドの塗り方や患部の洗い方などの改善点がわかれば、薬物療法は変えずにスキンケア指導のみで解決するケースも多いのです(図3)。

図3 予防的スキンケアの基本3項目
図3 予防的スキンケアの基本3項目

牛島 淳先生ご提供

口内炎についても、皮疹と同じ上皮障害ですので、保清、保湿、保護が非常に大事です。口腔内を清潔に保つのが第一で、そのためにも適切な歯みがきを適時行うことが必要です。また意外と知られていないのがうがい(保湿)の重要性です(図4)。これまでうがいは1日3回程度と考えられていましたが、がん患者の診察経験が多い歯科医によれば、1日6~8回は必要で、口腔内の保湿には頻回のうがいがよいとのことでした。これはジオトリフをうまく使うときの重要なポイントだと考えています。

図4 当院の口内炎予防の含嗽指導書
図4 当院の口内炎予防の含嗽指導書

牛島 淳先生ご提供

うがいにはアズレンを処方しています。これも歯科医に教えてもらったことですが、生理食塩水によるうがいも勧められます。生理食塩水の濃度は0.9%ですから、1リットルのミネラルウォーターに9gの塩を入れて作ります。生理食塩水を使ってみた患者によれば、傷口がしみることがなく、口内炎も軽快したそうです。
このほか、爪囲炎への対応も大切です。通常、EGFR-TKI導入は2 週間の入院で行っていますが、爪囲炎が発現するのは退院後であるため、難渋することがあります。爪が皮膚に食い込まないように爪をスクエアカットにするなど爪の切り方を指導し、必要に応じてテーピングで食い込まないように外に引っ張り出す工夫もしています。また創部を清潔にすることも重要ですから、洗い方やステロイド軟膏の塗り方を説明します。
EGFR-TKIでは爪の発育が阻害されるため、爪が薄くなり、割れやすいという訴えがあります。爪も上皮ですから保湿が大切で、マニキュアなどを爪の保湿に役立てている患者もいます。
こういった副作用マネジメントには多職種によるチーム医療が不可欠です。これまでの経験から、チーム医療を始めるきっかけは医師が作る必要がありますが、うまく機能するには看護師、薬剤師を主体にすることが大切と考えています。この領域に興味をもつ看護師や薬剤師を見つけ出し、勉強会などを通して知識や情報を共有します。
理解が深まると、面白味が出て、チームとしてのレベルも上がっていきます。
また、多岐にわたる副作用に対しては違う分野の人の話を聞くことが非常に参考になります。先ほど述べたように、がん治療にあたる歯科医の話は目から鱗でした。医科と歯科の連携がいかに大事かを実感しています。

治療方針を事前に説明して患者に安心感を与える

熊本中央病院 腫瘍内科 / 呼吸器内科 / 緩和ケア内科 牛島 淳 先生

患者にはまずEGFR-TKIと化学療法のどちらも使用することがOS延長に繋がるため、どの治療法も余すことなく使い切ったほうがよいことを伝えます。投与の順番については、現時点でどちらを先行したほうがよいかの結論は出ていませんが、EGFR-TKIを先行すると、2次治療が遅れて、十分な化学療法ができない可能性があることを話します。ただ実際には推奨グレードの関係上、EGFR-TKI先行のほうが多くはなっています。
EGFR-TKI先行で治療を開始する場合に重要なのは、症状の増悪時点(Clinical PD)ではなく、画像上増悪した時点(RECIST PD)で化学療法へ移行することを、予め患者に説明しておくことです。EGFR-TKIは副作用が比較的軽度で楽なため、患者からは「もう少し続けたい」と言われますが、症状が出てから化学療法に移行すると、全身状態が悪く、十分な治療ができないことがあります。早めに移行することが、2次治療以降でも化学療法を行える秘訣だと思います。最近では第3世代EGFR-TKIも登場しましたので、第1~第2世代EGFR-TKIで効果が減弱した際に再生検で耐性遺伝子が証明されれば、第3世代EGFR-TKIへ移行する可能性があることを患者に話します。
EGFR-TKIの選択にあたってはPSを基に考え、患者には1次治療で使用できる3つのEGFR-TKIの副作用と効果を説明します。3剤の違いについて、あまりこまごまとした臨床試験のデータを示すことはしていませんが、第1世代EGFR-TKIよりも第2世代EGFR-TKIのほうが比較的副作用は強いことや、最近の臨床試験(LUX-Lung7)でジオトリフが若干良好な成績を上げていること、特にエクソン19欠失変異に対してはジオトリフを使う価値があることなどを話します。その上で、副作用と効果のどちらを優先したいかを伺って薬剤を選択していきます。ただ殆どの患者は副作用が多少出ても、治療効果が高い薬剤を選択する傾向があります。
患者やご家族に説明するときは、わかりやすい言葉を心がけていますが、詳しい話は理解しにくいためか、「先生はどう思いますか?」と逆に質問される場合が少なくありません。医療についてはほとんどの方が素人ですので、データを並べて、さあどれがよいですかというだけではなく、医療者側が解釈をして、誘導ではなくある程度はリードする必要があると考えています。

肺がん治療に対する期待や今後の抱負

分子標的治療の躍進およびがん免疫療法の登場で肺がん患者の予後は10年前と比べるとかなり改善しています。抗がん剤治療については新しい薬剤の登場はありませんが、今後、作用機序の異なる分子標的治療やがん免疫療法との組み合わせで、さらに予後が改善するのではないかと考えています。がん免疫療法においては、バイオマーカーとしてPD-L1だけでは十分に効果を期待できる患者集団を選別することはできません。新たなバイオマーカーの登場が待たれます。次世代シークエンサー(NGS)など遺伝子解析技術も進歩しており、遺伝子レベルでの個別化医療(precision medicine)がさらに発展していく時代が直ぐそこまで来ていると思います。手術不能な進行肺がんの患者が治癒する日も来るのではないかと期待しています。

  
  1. 参考文献
  2. 1) Park K, Tan EH, O'Byrne K, et al. Afatinib versus gefitinib as first-line treatment of patients with EGFR mutation-positive non-small-celllung cancer( LUX-Lung 7): a phase 2B, open-label, randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2016; 17: 577-89.
  3. 2) Corral J, Park K, Yang JCH, et al. Afatinib versus gefitinib in patients with EGFR mutation-positive( EGFRm+) NSCLC:updated overall survival data from the Phase IIb trial LUX-Lung 7. Ann Oncol. 2017; 28( suppl 2): ii28-ii51.
  4. 3) Seto T, Kato T, Nishio M, et al. Erlotinib alone or with bevacizumab as first-line therapy in patients with advanced non-squamous non-small-cell lung cancer harbouring EGFR mutations( JO25567): an open-label, randomised, multicentre, phase 2 study. Lancet Oncol. 2014; 15: 1236-44.
  5. 1)~ 3)の研究は,ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。
  6.