ジオトリフ 専門医インタビュー・座談会The Interview

第3回 患者背景を考慮した薬剤選択

東北医科薬科大学医学部 内科学第一(呼吸器内科) 教授
吉村 成央 先生

現在のEGFR遺伝子変異陽性肺がん治療の課題

東北医科薬科大学医学部 内科学第一(呼吸器内科)教授 吉村 成央 先生

EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する第一選択薬はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であり、初回治療薬として第1世代のゲフィチニブ、エルロチニブ、第2世代のジオトリフが使用可能です。しかしこれらの薬剤をどのように選択するかは課題となっています。
第1世代EGFR-TKIと第2世代EGFR-TKIを直接比較したLUX-Lung7試験などの試験結果から、効果の点ではジオトリフにアドバンテージがあると考えられますが、毒性の点ではジオトリフの方が多少強いと報告されています。実地臨床においてはTKIの効果と毒性のバランスを考えて治療を行っていますが、特に高齢者や全身状態(PS)が不良の患者に対する治療選択は解決されたとはいえません。
そこでわれわれは高齢のEGFR遺伝子変異陽性進行肺がん症例を対象にジオトリフを初回治療に使用する臨床試験を行いました。その経緯は日本肺癌学会の作成した「肺癌診療ガイドライン2014年度版」にまでさかのぼります。「非扁平上皮がん、EGFR遺伝子変異陽性、PS 0~1.75歳以上」、「非扁平上皮がん、EGFR遺伝子変異陽性、PS 2」の症例にはゲフィチニブとエルロチニブがGrade Aで推奨されており、ジオトリフはそのサブグループにおけるデータが十分でないため、推奨されていませんでした。
試験開始当時、従来のEGFR-TKIであるゲフィチニブ、エルロチニブと、ErbB受容体ファミリー阻害薬であるジオトリフの効果に関して、直接比較したデータはありませんでした。しかし既に行われていた第Ⅱ・Ⅲ相臨床試験の結果、メジャーなEGFR遺伝子変異を有するNSCLC患者のPFSはゲフィチニブでは9.2~10.8ヵ月(WJOG3405、NEJ002)、エルロチニブでは9.7~13.1ヵ月(OPTIMAL、EURTAC、JO22903)、ジオトリフでは11.0~13.6ヵ月(LUX-Lung3、LUX-Lung6)であり、さらにLUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析では13.8ヵ月となっていました。
別々の試験ですので単純に比較はできませんが、これらの結果から毒性をコントロールさえすれば、「非扁平上皮がん、EGFR遺伝子変異陽性、PS 0~1.75歳以上」、「非扁平上皮がん、EGFR遺伝子変異陽性、PS 2」のような症例にもジオトリフの強い効果を享受できるのではと考えました。そこで、われわれは「非扁平上皮がん、EGFR遺伝子変異陽性、PS 0~2.75歳以上」を対象に、ジオトリフ30mg/日投与法の安全性と有効性を検討する単群第Ⅱ相試験を計画し開始しました。

75歳以上の患者には適切な投与量の検討が必要

 高齢者におけるジオトリフの有効性は、LUX-Lung7試験の年齢によるサブグループ解析でも報告されています1)。OSは各年齢(60 歳未満、65歳未満、70 歳未満、75歳未満)で区切っても、ジオトリフ群が有効な結果で はありましたが、75歳以上ではゲフィチニブ群とほぼ同等でした。一方、PFSでは75歳以上の症例数が少ないものの、中央値はジオトリフ群14.7ヵ月、ゲフィチニブ群10.8ヵ月でした。毒性はジオトリフ、ゲフィチニブともに75歳以上では、Grade3-4の下痢の頻度、All Gradeの食欲減退の頻度が上がりますが、頻度の絶対値はジオトリフ群で高いことが示されました。
このLUX-Lung7試験の結果を考えますと、75歳以上でジオトリフ40mg/日を治療用量とした場合、ジオトリフによるPFSの延長が十分にOSの延長に生かしきれていない可能性が考えられます。なおわれわれの第Ⅱ相試験では開始用量を30mg/日としていますが、オプションとして、30mg/日で3ヵ月以上継続できれば40mg/日に増量してもよいという増量基準を設けていました。しかし、現在のところ40mg/日に増量した人はいません。
このように第2世代EGFR-TKIは第1世代EGFR-TKIよりも良好な成績を臨床試験で示していますので、PS 0~1であればジオトリフを使用し、PS 2に関しては、ジオトリフのデータはまだ十分ではないため、実地臨床では第1世代EGFR-TKIを使用し、PS 3~4に関してはゲフィチニブを使用しています。

分子標的薬は減量や一時中断で毒性中止が減り長期投与が可能

東北医科薬科大学医学部 / 内科学第一(呼吸器内科) / 教授 / 吉村 成央 先生

LUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析の結果、長い治療期間を得た症例には毒性により減量した症例の割合が高いことが示されています2)(図1)。これは実臨床でも同じ印象をもっています。私が担当している患者でEGFR-TKIを3年以上使用している人の多くはEGRF-TKIを減量して使用しています。このような使用方法は、安易に減量してはならない殺細胞性抗がん薬とは異なる分子標的薬の特徴の1つであると思います。多くの殺細胞性抗がん薬のように投与期間が規定されているものとは違い、分子標的薬は長いPFSを得るためには毒性による中止を減らすことが重要であり、一定の基準を満たせば、休薬および減量に踏み切ることがEGFR-TKI使用の“肝”であると思います。

耐性を考慮したEGFR-TKIの薬剤選択

LUX-Lung 3、6、7 試験の後治療に関する後ろ向き解析の結果、フォローアップ期間中央値4年以上において、ジオトリフ後に第3世代EGFR-TKI(オシメルチニブ)を投与した患者のOS中央値は未到達であり、そのシーケンシャル治療の成績はとても良好でした3)。一方で、EGFR-TKIによる初回治療は第1世代EGFR-TKIに比べて、有意にPFSを改善することが報告されています4)。しかしながら現時点では第2世代EGFR-TKI→第3世代EGFR-TKIがよいのか、第3世代EGFR-TKIを初回治療から使用するのがよいのかはまだ明らかではありません。
そもそもEGFR遺伝子変異のなかには、1つのキナーゼドメインに複数の遺伝子変異が入っているCompound mutationが存在します。肺がん患者61例を対象にold model NGSで測定した結果、Compound mutationが25%の頻度で確認されたという報告があります5)。またCompound mutationがある患者は、ない患者に比べてOSが短いことも示されています。
これは仮説ですがCommon mutationにminor mutationが混在するintratumor heterogeneityの場合、minor mutationに有効性が証明されているジオトリフを初回治療に用いることにより、ジオトリフ→オシメルチニブのシーケンシャル治療は非常に有効な治療法である可能性があると考えています(図2、図3)。すなわち第1世代EGFR-TKIによる初回治療ではminor mutationをもつがん細胞が残って耐性の原因の1つになりますが、第2世代EGFR-TKIではminor mutationをもつがん細胞も減るためPR 期間が長くなると予想されます。

図1 日本人患者の治療期間とジオトリフ投与量(サブグループ解析)
図1 日本人患者の治療期間とジオトリフ投与量(サブグループ解析)

3)Kato T, Yoshioka H, Okamoto I, et al. Afatinib versus cisplatin plus pemetrexed in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer harboring activating EGFR mutations:Subgroup analysis of LUX-Lung 3. Cancer Sci. 2015; 106: 1202–11
本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

図2 第1世代EGFR-TKIから第3世代EGFR-TKIへのシーケンシャル治療
図2 第1世代EGFR-TKIから第3世代EGFR-TKIへのシーケンシャル治療

吉村 成央先生ご提供

図3 第2世代EGFR-TKIから第3世代EGFR-TKIへのシーケンシャル治療
図3 第2世代EGFR-TKIから第3世代EGFR-TKIへのシーケンシャル治療

吉村 成央先生ご提供

肺がん治療に対する期待と今後の抱負

東北医科薬科大学医学部 / 内科学第一(呼吸器内科) / 教授 / 吉村 成央 先生

ドライバー遺伝子変異をもつ肺がん患者の治療成績が著しく向上してきています。しかし、著効する分子標的薬もいずれ耐性を生じ、その効果を失います。第1世代EGFR-TKIあるいは第2世代EGFRTKIによる治療を行った後ではおよそ半数の患者でEGFR T790M変異が検出されます。その場合は第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブを用いることができますが、組織や血液で検出されなかった場合、EGFR遺伝子変異陽性肺がんといえども現在有望な分子標的薬はなく、免疫チェックポイント阻害薬の効果も明らかではありません。そのため通常の殺細胞性抗がん薬を中心とした治療となります。したがって、耐性となった肺がんの治療法はいまだ十分ではなく、多様な耐性の原因を解明すること、そしてT790M以外の耐性メカニズムをもつ症例に対する治療開発を行うことが急務であると考えています。
また、ドライバー遺伝子変異をもたない肺がんに関しては、殺細胞性抗がん薬や免疫チェックポイント阻害薬などが治療の中心をなします。現在免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーとして使用されているPD-L1は十分なものとはいえません。新たなバイオマーカーの開発こそがこの分野を発展させると考え、われわれ東北医科薬科大学でも免疫学などの教室と共同で研究を進めています。

参考文献

  1. 1) Corral J, Park K, Yang JCH, et al. Afatinib versus gefitinib in patients with EGFR mutation-positive(EGFRm+) NSCLC:updated overall survival data from the Phase IIb trial LUX-Lung 7. Ann Oncol. 2017; 28(suppl 2): ii28-ii51.
  2. 2) Kato T, Yoshioka H, Okamoto I, et al. Afatinib versus cisplatin plus pemetrexed in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer harboring activating EGFR mutations: Subgroup analysis of LUX-Lung 3. Cancer Sci. 2015; 106: 1202–11
  3. 3) Schuler M, Paz-Ares L, Sequist LV, et al. First-line afatinib for advanced EGFRm+ NSCLC: Analysis of long-term responders(LTRs) in the LUX Lung(LL) 3, 6 and 7 trials. Ann Oncol. 2017; 28(suppl 2): ii28-ii51.
  4. 4) Soria JC, Ohe Y, Vansteenkiste J, et al. Osimertinib in Untreated EGFR-Mutated Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2018; 378: 113-25.
  5. 5) Kim EY, Cho EN, Park HS, et al. Compound EGFR mutation is frequently detected with co-mutations of actionable genes and associated with poor clinical outcome in lung adenocarcinoma. Cancer Biol Ther. 2016; 17: 237-45.
  6. 1)、2)の研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。
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