ジオトリフ 専門医インタビュー・座談会The Interview

第4回 QOLを意識したチーム医療と薬剤選択

市立長浜病院 呼吸器内科 責任部長
野口 哲男 先生

呼吸器診療における当院の位置づけ

市立長浜病院 呼吸器内科 責任部長 野口 哲男 先生

滋賀県は縦長の楕円のような形の県で、その中央にある琵琶湖の北東部に長浜市は位置します。滋賀県は昨年健康寿命が全国1位になりました。その要因の1つは喫煙率が低いことですが、湖北地方はそのなかでも喫煙率がやや高く、タバコを原因とした慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺がんが比較的多い印象があります。また呼吸器専門医は県南部に多く、北部には少ないという状況です。
当院はCOPD、喘息、間質性肺炎、気胸、肺炎、肺がんなど、すべての呼吸器疾患を地域完結型で診療することをモットーに、呼吸器内科5名、呼吸器外科3名をはじめとするチーム医療で診療にあたっています。1日あたりの外来患者数は60~80名、入院患者数は呼吸器内科で約40名、呼吸器外科は約10名です。患者は70歳以上の高齢者が多く、肺がんの患者が増えています。

呼吸器疾患の治療で心がけていることは

呼吸器専門医としてガイドラインを把握しておくことはもちろん重要ですが、ガイドラインの内容をそのまま適用することはできません。目の前に座っている患者の全身状態や臓器機能、合併症、家族のサポート、経済的な事情も加味して、患者と相談しながら現実的に一番よいと思う治療を選んでいきます。
肺がんの治療についてもガイドラインは参考にしますが、エビデンスとなる臨床試験は比較的若年でPSがよい患者を主に対象としています。当院は高齢の患者が多いため、臨床試験の治療法をそのまま適用すると副作用が強く出てしまうことがあります。日常診療においてはガイドラインを把握した上で、単に数字としての生存期間を延ばすだけではなく、QOLを重視した治療をするように心がけています。

チーム医療の必要性を実感

私は1996年に大学院を卒業して当院に赴任してきました。改めて感じたのは、肺がんは医師だけではどうしても治療が完結しない、不十分であるということです。それがチーム医療の必要性を強く感じたきっかけであり、今ではライフワークのようになっています。
特にチーム医療の大切さを気づかせてくれたのは、赴任して間もなく受けた緩和ケア講習会です。がんの緩和ケアは以前は疾患の終末期にのみ行うと考えられていましたが、最近ではがんと診断した時から緩和ケアを開始するようになっています。緩和ケアを行うには医師だけではなく、看護師や薬剤師の協力が必要です。緩和ケアチームに所属して活動をしていますと非常に熱意をもったメディカルスタッフの方が多く、その能力を引き出すのも医師の仕事なのではないかと感じるようになりました。
COPDや喘息の治療に使う吸入薬についても、正しい使い方を指導するには薬剤師の力を活用していきたいと考えました。そこで滋賀県の湖北地方で2011年に「湖北吸入療法病薬連携研究会」(略称KKR)を立ち上げ、薬剤師の吸入指導の支援を始めました。さらに滋賀県として吸入指導のレベルアップを図るため、翌2012年に「滋賀吸入療法連携フォーラム」(略称SKR)という形に発展させ、全国的なNPO法人「吸入療法のステップアップをめざす会」とも連携して吸入指導を行っています。
KKRを立ち上げてから約7年が経ちますが、薬剤師の先生がたが生き生きと活躍し頑張る姿が地域を問わずみられるようになったと思います。これまでの取り組みを通し、薬剤師は何か機会があれば専門職を生かした仕事をしたいという気持ちが強いことも感じました。実は最初は、医師一人で薬剤について患者に説明するのは大変だという意味合いで始めたのですが、現在は薬剤師としてのプロ意識に火をつけるべく、吸入指導にとどまらず、肺がん治療の副作用対策についても力を発揮していただきたいと思っているところです。

肺がん治療の副作用対策とチーム医療の役割

チームNiCE( Nagahama irAE Corporation Enhancement)

肺がん治療においては、2002年にゲフィチニブが発売されて以降、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の副作用対策としてチーム医療が少しずつ始まりました。当院で本格的に開始したのは2014年にジオトリフが発売されたときです。当時、下痢の副作用が強いと聞いていましたので、導入にあたっては下痢を防ぐため、製薬企業の提供する各種資材も活用しながらチーム医療を実施していきました。
2015年12月には免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が発売されました。これは既存の肺がん治療薬とは全く異なる作用機序であるため、免疫関連副作用(irAE)について呼吸器内科・外科の医師が中心となって勉強会をし、講演会にも参加して情報を集めていきました。ICIを導入する前から、消化器内科や神経内科などお世話になりそうな診療科とも連携体制を作り、チームNiCE(Nagahama irAE Corporation Enhancement)として副作用の予防と予期せぬ副作用の早期発見に努めています。
対処としては、患者にはどういう症状が出たらすぐに病院に来るべきかをしっかり伝えることが大事です。また時間外や休日など、呼吸器科の医師が不在のときに患者が来た場合の対応として、例えば風邪のようにみえる症状であっても、そのまま帰してはいけない状況なのかどうかを判断するためのマニュアルを作成しました。症状ごとに必要な検査も記載し、救急の外来に置いてあります。
ここで最も大事なことは、その患者がICIを使っているかどうかを把握しておくことです。そうでないと、発熱や咳では風邪と判断してしまうかもしれません。少し気分が悪い、お腹が痛いといったときに、実は糖尿病の症状だったということもあります。そういう副作用が起こりうる薬剤だということを認識する必要があるのです。救急に来た患者に最初に対応するのは救急の看護師ですから看護師教育を徹底し、ICIを使っていることがわかるように電子カルテに付箋を貼って、必ずそれをチェックできるようにしています。当該科以外の関連する科、あるいは抗がん剤を扱わない科の医師でも初期対応ができるように、安心して当直ができるような体制づくりもチームNiCEの役割だと思っています。

EGFR 遺伝子変異陽性肺がんの治療の実際

非小細胞肺がんの30~50%を占めるEGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療にはEGFR-TKIが推奨されています。現在ファーストライン治療には3剤のEGFR-TKIがありますが、PS3~4症例や高齢者にはゲフィチニブが推奨され、実地臨床でもそういった患者にはゲフィチニブが使われていると思います。
私はどのEGFR-TKIを選択するかを考えたときに、重要なことはQOLを保ったうえでのOSであると考えています。そのため、副作用を制御しつつ高い効果が期待できる薬剤を最初から使うというのが私のポリシーです。
何らかの禁忌がない限り、基本的にはジオトリフを第一選択としています。
ジオトリフは通常1日に40mgで開始して副作用をみながら調節していきますが、高齢者では最初から減量して長く続けたほうが患者のためになるのではないかといった報告がされ、大変参考にしています1)
患者のなかには投与後、下痢や食欲不振が認められることがあります。通常、最初は2週間分を処方しますが、そういった副作用が出た場合には2週間を待たずに受診するように話しています。我慢して飲み続け、「この薬は嫌だ」と患者が思ってしまうと、休薬せざるをえません。副作用が例えば投与3日目に出た場合でもすぐに受診するように、予め伝えています。
実はジオトリフを最初に使った50歳代の患者は止瀉薬の投与が不十分で下痢のために投与を中止せざるを得ませんでした。1日40mgの投与で非常に効果があったのですが、トイレが近いと仕事に差し障るということで、毎日の服用ができていませんでした。その経験から止瀉薬のロペラミドは必ず事前に渡して、軽度の下痢であっても早めに受診してくださいと話しています。患者へのセルフマネジメント教育は、特に内服薬では重要であろうと思っています。

EGFR-TKIのシークエンス治療を考える

EGFR-TKIのシークエンスを考えるにあたっては耐性の問題と変異部位がかかわってきます。既存のEGFR-TKIでは耐性になる機序としてEGFRのT790M変異が多いことが知られており、第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブはT790M変異を有する肺がんで効果が認められています。
一方EGFR遺伝子変異のおよそ90%を占めるEGFRエクソン19欠失変異とエクソン21のL858R変異のみならず(図1)2)、それ以外のuncommon mutationに対してもジオトリフは効果を示します(表1)3)~6)。そう考えますと、オシメルチニブをセカンドラインにとっておくこともかなり有用な選択肢ではないかと思います。
EGFR-TKIの新薬が次々に開発されそれらに期待をする声がありますが、治験に参加していない病院においては臨床試験によるエビデンスだけをもって薬剤の評価を決めるわけではありません。新薬が実地臨床で使われ、がん専門病院だけでなく一般病院でどういった評価がされているかが非常に参考になります。承認時には報告されていない副作用が出てくることもあり得ますので、新しい薬剤を導入する際には慎重に行うのがよいのではないかと思っています。

EGFR 遺伝子陽性肺がんの治療目標

EGFR遺伝子変異が陽性であるということは、効果が期待できる薬剤が複数あるということです。基本的にはできるだけ効果が高く、いろいろな量の使い分けができるようなラインナップをもった薬剤を使っていきます。
EGFR-TKIが効かなくなりPDになったときは、プラチナ系製剤の併用療法を行います。EGFR遺伝子変異が陽性の患者はEGFR-TKIが使える分、OSの延長が期待できるわけです。
現時点で進行肺がんを根治させる薬剤はないですから、効果がある薬剤を用量を調節して長く使うこと、かつ患者の生活レベルをできる限り落とさないようにすることが大切です。がんのために仕事をやめるなど、それまでの生活を変えないで済むようにすることが、非常に重要な治療薬選択のポイントと考えています。延命といっても数字だけ長くなることは全く意味がないと思いますので、QOLを担保しつつ1日1日がそれほど辛くないような治療が一番よいのではないかと思います。

図1 Del 19/L858R遺伝子変異のある日本人患者の無増悪生存期間(サブグループ解析)
図1 Del 19/L858R遺伝子変異のある日本人患者の無増悪生存期間(サブグループ解析)
  1. 2) Kato T, Yoshioka H, Okamoto I, et al. Afatinib versus cisplatin plus pemetrexed in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer harboring activating EGFR mutations:Subgroup analysis of LUX-Lung 3. Cancer Sci. 2015; 106: 1202-11.
    本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。
表1 uncommon mutationのある患者におけるジオトリフ治療に対する反応3)
uncommon mutationのある患者におけるジオトリフ治療に対する反応3)
  1. 3) Yang JC, Sequist LV, Geater SL, et al. Clinical activity of afatinib in patients with advanced non-small-cell lung cancer harbouring uncommon EGFR mutations: a combined post-hoc analysis of LUX-Lung 2, LUX-Lung 3, and LUX-Lung 6. Lancet Oncol. 2015; 16: 830-8.
  2. 4) Yang JC, Shih JY, Su WC, et al. Afatinib for patients with lung adenocarcinoma and epidermal growth factor receptor mutations( LUX-Lung 2): a phase 2 trial. Lancet Oncol. 2012; 13: 539-48.
  3. 5) Sequist LV, Yang JC, Yamamoto N, et al. Phase III study of afatinib or cisplatin plus pemetrexed in patients with metastatic lung adenocarcinoma with EGFR mutations. J Clin Oncol.2013; 31: 3327-34.
  4. 6) Wu YL, Zhou C, Hu CP, et al. Afatinib versus cisplatin plus gemcitabine for first-line treatment of Asian patients with advanced non-small-cell lung cancer harbouring EGFR mutations(LUXLung 6): an open-label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2014; 15: 213-22.

看護をサポートする歩行・食・脳の評価法

メディカルチーム

肺がん治療とはやや離れますが、当院では患者の状態を総合的に把握する試みを進めています。誤嚥性肺炎の患者を多くみていると、「歩く」、「食べる」、「認知機能」がその人の状態を示すポイントではないかと感じます。というのも、誤嚥性肺炎で入院して肺炎が治っても、家族の受け入れがよくなかったり、なかなか日常生活に戻れなかったりする人がいます。その差は何なのかと考えていた時に、患者自身が自分で歩けて、自分でご飯が食べられ、認知機能も問題ない人は退院時に家族がすっと受け入れてくれることに思い至りました。
そこで入院当初から上記3つを評価するための実用的で簡便な方法として「WEB(Walk-Eat-Brain)」(表2)を考案しました。各項目を3 段階で評価し、1は自立、3は全介助、2は介入できるレベルとしました。例えばW2E1B3であれば、現在の歩行状態「2」を「1」にもっていくことを入院中の目標にして、当初から病棟の看護師や理学療法士と一緒に取り組んでいきます。肺炎の治療に注力するあまり嚥下訓練が遅れて、さらに嚥下機能が落ちてしまうこともあります。それを看護の側から気づくツールとしても活用してもらえればと思っています。
このような試みをベスト(BWEST:Brain, Walk and Eat function to Share in medical Team)プロジェクトと名付け、2018年1月から動き出しています。メディカルチームでWEBをシェアし、より効率的な医療看護を目指しています。できれば訪問看護ステーションにも導入されて、病院と診療所と在宅の継続した連携ができればと考えています。

表2 ベスト(BWEST:Brain, Walk and Eat function to Share in medical Team)プロジェクト
表2 ベスト(BWEST:Brain, Walk and Eat function to Share in medical Team)プロジェクト

野口 哲男 先生ご提供

さいごに

進行した肺がんは現時点では治癒は望めません。1人として同じ患者はいませんので、その患者の背景や家族の状況などから、本人が納得するような、許容できるような治療を今後ともしていきたいと思います。それには看護師や薬剤師との連携がとても重要であることを、最後に強調したいと思います。

参考文献

  1. 1) Fujimoto D, Yokoyama T, Yoshioka H, et al. A phase II study of low-dose afatinib as first-line treatment in patients with EGFR mutationpositive non-small-cell lung cancer( KTORG1402). ESMO Asia 2017 Congress.
  2. 2) Kato T, Yoshioka H, Okamoto I, et al. Afatinib versus cisplatin plus pemetrexed in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer harboring activating EGFR mutations: Subgroup analysis of LUX-Lung 3. Cancer Sci. 2015; 106: 1202-11.
  3. 3) Yang JC, Sequist LV, Geater SL, et al. Clinical activity of afatinib in patients with advanced non-small-cell lung cancer harbouring uncommon EGFR mutations: a combined post-hoc analysis of LUX-Lung 2, LUX-Lung 3, and LUX-Lung 6. Lancet Oncol. 2015; 16: 830-8.
  4. 4) Yang JC, Shih JY, Su WC, et al. Afatinib for patients with lung adenocarcinoma and epidermal growth factor receptor mutations( LUXLung 2): a phase 2 trial. Lancet Oncol. 2012; 13: 539-48.
  5. 5) Sequist LV, Yang JC, Yamamoto N, et al. Phase III study of afatinib or cisplatin plus pemetrexed in patients with metastatic lung adenocarcinoma with EGFR mutations. J Clin Oncol. 2013; 31: 3327-34.
  6. 6) Wu YL, Zhou C, Hu CP, et al. Afatinib versus cisplatin plus gemcitabine for first-line treatment of Asian patients with advanced non-smallcell lung cancer harbouring EGFR mutations(LUX-Lung 6): an open-label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2014; 15: 213-22.
  7. 2)、3)の研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。
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参考

  1. 1) 呼吸器の総合情報サイト: 呼吸器ドクターNのHP(https://resdoctorn.jimdo.com/
  2. 2) 呼吸器の最新論文紹介:呼吸器ドクターNのブログ(https://ameblo.jp/resdoctorn
  3. 3) 一般向けの呼吸器メルマガ:ドクターNの呼吸器通信(http://www.mag2.com/m/0001681055.html
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