ジオトリフ 専門医インタビュー・座談会The Interview

第5回 高齢者の薬剤選択と治療課題

飯塚病院呼吸器腫瘍内科 部長
海老 規之 先生

化学療法はどの診療科の患者でも1つの病棟で行う

飯塚病院呼吸器腫瘍内科 部長 海老 規之 先生

飯塚病院のある飯塚市は福岡県の中央部に位置し、筑豊地区の中心的な都市です。人口も福岡市、北九州市、久留米市に次いで多いのですが、全国平均に比べて高齢者の割合が高く、当院の患者も高齢者が多くなっています。
当院は地域がん診療連携拠点病院として、筑豊地区のがんの診断と治療を担っており、PET検査や超音波ガイド下気管支鏡検査、CTガイド下生検、超音波ガイド下経皮的生検など、がん診断に必要な検査ができる設備を整えています。肺がんの治療は、呼吸器病センター(呼吸器内科、呼吸器腫瘍内科、呼吸器外科、呼吸器腫瘍外科)が担当し、年間の新規抗がん剤治療の肺がん症例は約120人、肺がん手術症例は約150人です。週2回のカンファレンスでは4つの診療科が集まって症例検討を行っています。
当院の特徴は、どの診療科の患者でも化学療法は1つの病棟で開始しているということです。病棟と外来化学療法室からなる「がん集学治療センター」を2004年に開設し、化学療法はすべて同センター内で行っています。化学療法にかかわる業務の集約化により、看護師や薬剤師はがんに特化したケアが可能になり、スタッフ間の情報共有もしやすく、やる気のあるスタッフが多いようにも感じます。
また化学療法を専門とする看護師や薬剤師の育成にも力を入れており、毎月、医師を交えてがん治療に関する勉強会を実施しています。がん専門の資格をもったOncology Nurseを目指して、院外の教育施設に通っている看護師もいます。薬剤業務はがん専門のOncology Pharmacistを中心に調剤や服薬指導にあたっています。
外来においては、基本的に患者への病気や治療の説明は医師がすべて行っていますが、精神的にショックを受けていると見受けられる患者や、うつを疑う症状がある場合には緩和ケア専門の看護師に外来を依頼することがあります。また最近では医療ソーシャルワーカーが高額療養費制度の説明など生活面のサポートをしています。

治療決定は患者の選択を支持する姿勢で

治療選択にあたっては、医師から各種治療の良い面と悪い面を患者に説明し、ご自身で治療を選んでもらうようにしています。このときに重要なのは、その選択を支持するという姿勢を示すことです。例えば、効果の高い薬剤であっても、副作用を心配してほかの治療薬を希望したときも、無理に説得はせず、患者の意思を尊重します。そうでなければ、選んでもらう意味がないともいえます。
その一方で、治療の選択を医師に任せる患者も少なくありません。その場合はこちらから治療法を提案して、もう一度、話し合います。意見が食い違うこともあるのですが、そういった方は自分の意思をもっている人なので、悩みながらも自分で答えを出すと考え、患者の考えがまとまるのを待つようにしています。
われわれ医師は自分たちにできる最善の治療を患者に提供することが基本ですから、ガイドラインを参考に、標準治療はもちろんのこと、臨床試験や治験など、ほかの可能性も考えていきます。当院の場合は、西日本がん研究機構(WJOG)や九州肺癌機構(LOGi K)にも積極的に参加し、またLC-SCRUM-Japanにも参加しています。そのため、患者の同意を得て、稀な遺伝子の検査も行い、該当する試験があれば参加を検討していきます。
ただし、臨床試験はエビデンスを構築していくという意味で大事ではあるのですが、最近の肺がん治療は変化が目覚ましく、試験を開始したときとは状況が変わっていることもしばしばです。当時は臨床的意義のある試験であっても、いまの時代にマッチしない試験になっていることがあるのです。臨床試験に参加するときは、患者のメリットにつながる試験なのかを吟味して決める必要があるだろうと思います。

治療開始後の下痢症状が落ち着くまで入院で管理

飯塚病院呼吸器腫瘍内科 部長 海老 規之 先生

EGFR遺伝子変異を有する進行肺がんの1次治療では、現在3つのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が使用できます。通常EGFR-TKIは投与後1年前後で耐性化して再発するといわれていますが、3剤のなかで第2世代EGFR-TKIであるジオトリフは長く投与できる場合が比較的多く、2年近く投与を続けている人もいます。また75歳以上でもジオトリフの有効性が確認されていることから(図1、2)1)、全身状態が良好であれば、1次治療には基本的にジオトリフをまず検討するようにしています。ただし80歳を超えた患者には、副作用による負担を可能な限り減らすことを考え、第1世代EGFR-TKIのゲフィチニブを使用することが多いです。脳転移がある場合は、エルロチニブおよび併用可能であればベバシズマブを選択することもあります。
ジオトリフを導入するときは、副作用の出方をチェックするためにも約2週間の入院で行っています。投与後1週間ほどしてから下痢症状が認められるケースが多く、症状が強いときは休薬することになります。特に身体の小さい女性や高齢者では毒性が強く出ることもあるので、十分な注意が必要と考えています。症状が落ち着いたのちに、減量して投与再開するのですが、下痢症状が十分コントロールできてから退院するスケジュールとしています。また皮疹もジオトリフ投与でよく見られる副作用であり、入院中から認められますが、それほど重篤にはならないと考えています。
外来に移行してからは、問題になるのが爪囲炎です。治験時の成績では1ヵ月前後で発現していたようですが、私の経験では爪囲炎は多くの場合、投与後2〜3ヵ月後になってから発現し、患者によっては歩くのもつらくなり、薬剤を中止せざるをえない場合があります。発現時期が遅いため、投与開始前に「爪のところが腫れてできものができることがあります」と説明していても、実際に爪囲炎が出ても治療薬の影響と思わない場合があります。そのため、薬剤による症状であることを再度説明し、「今日は頑張れますか」と声がけして、患者と相談しながら休薬も検討していきます。爪囲炎はステロイド薬を使っても改善しないことが多々ありますが、休薬して完全に落ち着くのを待っていると、がんが増悪する可能性があるため、休薬は2週間を目安としています。

図1 LUX-Lung7試験におけるPFS:75歳以上サブグループの推移と年齢層別解析
図1 LUX-Lung7試験におけるPFS:75歳以上サブグループの推移と年齢層別解析
  1. 1)Wu YL, Sequist LV, Tan EH, et al. Afatinib as First-line Treatment of Older Patients With EGFR Mutation-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer: Subgroup Analyses of the LUX-Lung 3,LUX-Lung 6, and LUX-Lung 7 Trials. Clin Lung Cancer. 2018 Mar 17. pii: S1525-7304(18)30051-2. doi: 10.1016/j.cllc.2018.03.009. [Epub ahead of print]

本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

図2 LUX-Lung7試験におけるOS:75歳以上サブグループの推移と年齢層別解析
図2 LUX-Lung7試験におけるOS:75歳以上サブグループの推移と年齢層別解析
  1. 1)Wu YL, Sequist LV, Tan EH, et al. Afatinib as First-line Treatment of Older Patients With EGFR Mutation-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer: Subgroup Analyses of the LUX-Lung 3,LUX-Lung 6, and LUX-Lung 7 Trials. Clin Lung Cancer. 2018 Mar 17. pii: S1525-7304(18)30051-2. doi: 10.1016/j.cllc.2018.03.009. [Epub ahead of print]

本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

EGFR 遺伝子変異陽性進行肺がんの治療課題

飯塚病院呼吸器腫瘍内科 部長 海老 規之 先生

EGFR 遺伝子変異のある肺がんに対してEGFR-TKIの有効性は確かですが、EGFR 遺伝子変異のサブタイプによってその有効性は異なります。EGFR 遺伝子変異の90%を占めるエクソン19欠失やL858R変異に対しては、いずれのEGFR-TKIも有効性が検証されています。しかし、それ以外のuncommon mutationに対してはEGFR-TKIによって50%阻害濃度(IC50)は異なり、ジオトリフでは臨床的な効果も示唆されていますが2)、比較試験がないのが現状です。
また、第1世代EGFR-TKIの耐性化の主な原因であるT790M 変異に対しては、第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブの有効性が臨床試験で示され、EGFR T790M 変異陽性の進行非小細胞肺がんの治療薬として使われています。しかし、ジオトリフを1次治療として投与した場合にT790M 変異の発現頻度がどの程度なのかはわかっていません。そのため、どのような投与順番が長期の治療につながるかがいまだに判明できないでいます。
肺がん治療は効果の高い薬剤を先に使っていくことが大切だと考えられています。かつて治療薬の種類が少ないときは、殺細胞性抗がん剤とEGFR-TKIのどちらを先に投与するかが議論になっていました。一方、現在は選択肢が増え、さらに今後も良い治療薬が出てくる可能性が高いですから、効きそうな薬剤から投与していくというコンセプトは間違っていないだろうと思います。
しかし、殺細胞性抗がん剤とEGFR-TKIではがんを完全に死滅させることは難しく、ごく稀に「治った」といえるような症例もありますが、多くはがんが消えているように見えても再発してきます。EGFR-TKIでは表面的なところを叩いているだけで、がんの根本的なところを叩きにいかないと治癒に持ち込めないのだろうと思います。そのため別の戦略を考えないと進行肺がんは治らないといわれてきたのです。ところが免疫チェックポイント阻害薬が開発されてからは、根治を目指すことも理論上は夢ではなくなったと考えています。がんがゼロにはならなくても、免疫が活性化されて、担がんの状態で命を全うできる可能性もあるのではないかと思います。
殺細胞性抗がん剤とTKI、免疫チェックポイント阻害薬をどのように使っていくかが今後の肺がん治療の課題であり、もしかすると現時点では予想できないような新たなアプローチが出てくるかもしれません。また近い将来、リキッドバイオプシーと次世代シーケンサー(NGS)による解析で、治療のバイオマーカーが検索されていくことによって、耐性遺伝子変異に対する治療や投与順番もわかってくるのではないかと期待しています。

参考文献

  1. 1) Wu YL, Sequist LV, Tan EH, et al. Afatinib as First-line Treatment of Older Patients With EGFR Mutation-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer: Subgroup Analyses of the LUX-Lung 3, LUX-Lung 6, and LUX-Lung 7 Trials. Clin Lung Cancer. 2018 Mar 17. pii: S1525-7304(18)30051-2. doi: 10.1016/j.cllc.2018.03.009. [Epub ahead of print]
  2. 2)Yang JC, Wu YL, Schuler M, et al. Afatinib versus cisplatin-based chemotherapy for EGFR mutation-positive lung adenocarcinoma(LUX-Lung 3 and LUX-Lung 6): analysis of overall survival data from two randomised, phase 3 trials. Lancet Oncol 2015; 16: 830–38.

1)、2)の研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。