ジオトリフ 専門医インタビュー・座談会The Interview

第7回 ターニングポイントとなった地域での繋がり

手稲渓仁会病院 呼吸器内科 副部長
横尾 慶紀 先生

診療科間の垣根が低く連携しやすい環境

手稲渓仁会病院 呼吸器内科 副部長 横尾 慶紀 先生

手稲渓仁会病院は36の診療科からなる総合病院で、病床数は670床、札幌市内では規模の大きい病院の1つです。救命救急センターを擁し、道央のドクターヘリ基地病院でもあります。集中治療の診療に力を入れており、麻酔科が中心となって各科が協力し合うスタイルで24時間体制の治療に対応しています。
当院の肺がん患者数は年々増え、小樽市や余市町からも患者さんが紹介されてきます。肺がんの手術件数が多いのも特色で、呼吸器内科における入院患者の約70%が肺がん患者です。診療科間の垣根が低いため連携しやすく、呼吸器外科との関係も良好で、治療がしやすい環境が整っていると感じています。

勉強会への参加がターニングポイント

以前勤務していた釧路市の病院では、ガイドラインに則った標準治療が難しい患者さんに直面する機会が多くありました。そのようななかで、出身大学以外の道内の大学の先生方から、勉強会への誘いを受けました。自分たちだけで解決するのは難しいと感じる局面が多々あったこともあり、勉強会に参加し、ガイドラインの治療フローチャートに当てはまらない症例への対応の仕方を学びました。またその後、勉強会で知り合った先生方に、メールで症例の相談をさせていただけるようになりました。その先生方から、大学の垣根を越えて連携し、北海道の肺がん診療を盛り上げたい、と言われたことが私にとっては大きなターニングポイントだったと思っています。
北海道各地にさまざまな病院がありますが、道東の一病院だけでは解決できない症例が少なからずあります。多くの治療経験のある先生に相談に乗ってもらい、札幌市の病院へ患者さんを紹介することで解決できた例も少なからずありました。これは最終的に患者さんのメリットになるわけですが、治療に難渋しているときに手を差し伸べてもらったり、一緒に勉強をしていこうと言ってもらえたりしたことは、私自身にとっても得難い経験でした。
釧路市にいる間は勉強会の内容を職場のスタッフと共有するようにしていましたし、私が異動した後も札幌市の先生方とのつながりを続けていくことが、将来的には地域の肺がん診療レベルの向上のためにも大切だろうと感じました。ただ、それを他の先生方に無理強いすることはできませんから、私が仲介役になって、患者さんを紹介したり、勉強会の内容を還元する仕組みをつくったりして、間接的に地域医療の進展に寄与できればと考えました。
その一環として現在、道東での肺がん勉強会を3ヵ月に1回程度の頻度で開催しています。先の勉強会で高齢者や合併症が多い患者さん、転移巣に対する治療方法など、ガイドラインに載っていないような症例への対応の仕方を経験のある先生方に相談できたことはとてもよい経験だったと思っています。ですから、道東の勉強会でも基本的に治療の難しい症例について、現場でどのように対応することが予後に貢献できるかを念頭におきながら、症例検討会を中心に行っています。

良くないニュースはジャブではなくストレートに

手稲渓仁会病院 呼吸器内科 副部長 横尾 慶紀 先生

患者さんにとって、肺がんと診断されることは青天の霹靂です。病状について紙に書きながら時間をとって説明をしますが、患者さんが受け止められない気持ちにあるときは特に、事実を淡々と伝えるようにしています。まず現実を受け止めてもらわなければならないという思いから、こういった良くないニュースは小出しではなく、「酷な言い方をして申し訳ないですが」と前置きをした上で、ストレートに伝えています。
話をすると患者さんは驚き困惑して、その日だけでは受け止められない状況になることもあります。その場合は3日後くらいにご家族にも一緒に来てもらうなど、複数回に分けて説明しています。3日後に来てもらってもまだ事実を受け止めるのが難しいときには、さらに時間をおいて、改めて話す機会を設けています。
治療方針や薬剤を決定するときには、まず治療の一般的な流れを伝え、その後で、患者さんの状況を聞いて、「◯◯さんの場合はどうしたらいいか、一緒に考えていきましょう」と話し、治療の仕方を掘り下げていきます。
そして患者さんの希望を聞きながら、治療の目標設定をしていきます。患者さんからは、「がんはなくなるのか」、「治るのか」とよく聞かれますが、薬物療法の対象となる患者さんでは現時点では治癒は難しいと考えています。難しいなかでも病状と付き合って、病勢をコントロールしつつ、今までの生活を少しでも維持できるように治療をしていくことを伝えています。そのために、通院しながら仕事を続ける、旅行に行くなど、直近の目標を決め、そこから少しレベルを上げた目標を設定して、治療を選択していきます。しかし、なかには痛みを軽減する緩和的治療が主体となる場合もあります。
一方で、どうしても薬物療法を希望しない患者さんもいます。患者さんにとって治療することのデメリットは副作用などが挙げられますが、治療することで得られるメリット、治療しないことによるデメリットを事細かに話します。その上で「治療をしない」という選択をされたら、それはその患者さんの人生観ですから、尊重しなければならないと思っています。しかし、外来には定期的に来てもらい、気持ちが変わったらいつでも言ってほしいと伝えています。

EGFR変異陽性肺腺がんに対する4thラインを見越した治療

肺腺がんと診断された段階で、薬物療法として分子標的薬、殺細胞性抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬という3つがあることを患者さんに説明します。どれが一番適しているかを各種検査で調べ、それが分子標的薬だった場合も、分子標的薬が効かなくなったときには殺細胞性抗がん薬を使うことができると話します。3つの治療のうち1つしか選べないのではなく、さまざまな治療を試していく可能性があることを知らせます(図1)。
EGFR変異陽性肺腺がんの治療では、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の説明に加え、耐性化することが多く、T790Mが検出されなかった場合には殺細胞性抗がん薬の治療に移るといった、長い治療スケジュールを治療説明の初回面談で話します。これは、EGFR-TKIが効かなくなったときのショックを少しでも小さくするためです。そのような場合でも、他の治療法があることを認識してもらいたいと思っています。
EGFR-TKIの効果が乏しくなってからの薬剤選択は重要で、プラチナ系抗がん薬を用いた併用療法、ドセタキセル(±ラムシルマブ)、S-1は投与する機会を作るべきだと考えています。TKIが効かなくなった後にいかに全身状態(PS)を落とさないで、殺細胞性抗がん薬を継続できるかが大切です。PSを落としうる脳転移や骨転移など、臓器転移には早期のケアが必要ですから、痛みなどの訴えを気軽に言ってもらえるような関係性をつくるようにしています。
EGFR変異陽性肺腺がんのファーストラインで使用できる第1・第2世代EGFR-TKIは現在3剤があります。患者さんには臨床試験で得られている有効性の結果や副作用の特徴を話し、どれを選択するか尋ねます。現在のところ、当院では、75歳未満でPSが良好であればジオトリフを40mgから投与することが多くなっています。副作用が発現しても減量方法が明確化してきているため1)(図2)、使いにくさを感じることはありません。処方する際に、患者さんには下痢などの副作用があればすぐに減量することをはっきりと伝えます。減量することに対して不安をもたれることがありますが、自分にあった用量を見つけることが大切であると説明します2)(図3)。

図1 EGFR変異陽性肺腺がんに対する4thラインを見越した治療

図1 EGFR変異陽性肺腺がんに対する4thラインを見越した治療

図2 ジオトリフの休薬・減量基準

図2 ジオトリフの休薬・減量基準
  1. 1) 効能・効果、用法・用量 4. 用法・用量の解説 ジオトリフ適正使用ガイド.

ほとんどの副作用は減量で抑えられるのですが、2週間の入院後に発現がみられる爪囲炎に関しては特に注意し、保湿を行うように指導しています。またジオトリフ投与で口内炎も報告はされていますが、早めの減量のおかげか、最近は口内炎で悩まされることはほぼありません。適正ガイドでは、Grade3だけでなくGrade2になった場合から休薬・減量の判断をすることを推奨していて1)(図2)、副作用の管理がしやすいように思います。
臨床研究ではさまざまなTKIの投与法が検討されていますが、現時点では少なくとも診療ガイドラインに準拠した使い方をするべきだと思っています。次々に新しいデータが出てきますが、どの治療選択が正しいかをしっかり考え、治療戦略を選んだほうがよいと考えています。

図3 日本人患者の治療期間と投与量(サブグループ解析)

図3 日本人患者の治療期間と投与量(サブグループ解析)
  1. 2) Kato T, Yoshioka H, Okamoto I, et al. Afatinib versus cisplatin plus pemetrexed in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer harboring activating EGFR mutations:Subgroup analysis of LUX-Lung 3. Cancer Sci. 2015; 106: 1202–11

本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

新しい知見に基づいたがん治療を提供するために

手稲渓仁会病院 呼吸器内科 副部長 横尾 慶紀 先生

札幌市には大学病院やがんセンターといった、がん治療に長けた病院がいくつもあり、治験や臨床研究が随時行なわれています。当院もHOT(北海道肺がん臨床研究会)に所属して臨床研究を行っています。そのようにして、患者さんの治療選択肢を広げるため、実施されている治験について常に情報収集しています。市内の勉強会に参加したり、他の病院の先生方とコミュニケーションを取ったりして、参加できそうな治験についてメールで問い合わせることもあります。何よりも、呼吸器内科を専門にしている医師として、患者さんのほうが治療について詳しく知っているという状況は避けなければいけません。常にさまざまな情報に精通して、当院だからこそできる状況をつくっていかなければならないと感じています。

一人一人に真摯な態度で接することが基本

若手の先生に常に伝えているのは、一人一人の患者さんに真摯な態度で接するということです。これは、大学時代に教授(札幌医科大学呼吸器・アレルギー内科の高橋弘毅教授)から「一例一例、症例報告をする気持ちで深く考察して対応するように」と言われていたことに基づいています。日々多忙のなかで、それは難しいなと当時は思うこともあったのですが、今では核心を突いた言葉であり、皆が意識すべきことだと思っています。
私たちの仕事は臨床、研究、教育の3本柱です。患者さんを診ながら、臨床を深め、そこで生まれた疑問について研究し、その積み重ねが教育につながっています。ですから、しっかりとした診断、治療をしていくことが、臨床、研究、教育の最初のステップになるという認識をもって日々の業務にあたってほしいと思います。
また、一人一人に真摯な態度で接するということは、患者さんに限ったことではありません。後輩に対しても真摯に向き合い、均等に機会を与えられるよう常に心がけているところです。

参考文献

  1. 1)効能・効果、用法・用量 4. 用法・用量の解説 ジオトリフ適正使用ガイド.
  2. 2)Kato T, Yoshioka H, Okamoto I, et al. Afatinib versus cisplatin plus pemetrexed in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer harboring activating EGFR mutations: Subgroup analysis of LUX-Lung 3. Cancer Sci. 2015; 106: 1202–11

2)の研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。