ジオトリフ 専門医インタビュー・座談会The Interview

第9回 PFSを指標にしてシークエンス治療で長期生存を目指す

神奈川県立がんセンター 呼吸器内科
齋藤 春洋 先生

長期生存を得るためEGFR-TKIをいかに使いこなすか

神奈川県立がんセンター 呼吸器内科 齋藤 春洋 先生

肺がん診療において細胞障害性抗がん剤しかなかった時代には、進行肺がん患者さんの全生存期間中央値は1年ほどでした。しかし分子標的薬が使えるようになり、明らかに肺がん患者さんの予後は延びています。EGFR遺伝子変異陽性肺がんにはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が奏効し、しかも第1世代から第2世代、さらに第3世代のEGFR-TKIも使用されるようになりました。しかし、EGFR-TKIだけでは十分な治療とはいえません。そのためEGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療は、いかに長期生存が得られる治療を行うかが重要になってきます。
EGFR遺伝子変異陽性肺がんの1次治療にはゲフィチニブ、エルロチニブ、ジオトリフが使用されており、各薬剤の特徴を理解して使い分けていきます。長期生存という観点から、臨床試験における無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)のデータを基に、長期生存に寄与する薬剤を選択するのですが、EGFR遺伝子変異陽生肺がんの治療は1剤だけで完了するものではありません。その後に細胞障害性抗がん剤やEGFR-TKIのリチャレンジも含めて、シークエンス治療で生存を延ばしていくことが大切です。実際には1剤によるOSデータは、臨床試験が行われた期間に実施可能だった後治療の影響を受け判断しにくいため、PFSを指標に薬剤を選択しています。
われわれの日常診療では、長いPFSが期待できるジオトリフをメインに使用していますが、高齢者やPS不良例にはゲフィチニブを選択しています。また胸水や心囊水のある患者さんにはエルロチニブ+ベバシズマブ、脳転移のある患者には髄液への移行性を考えて、エルロチニブ(+ベバシズマブ)を選ぶことが多いのが現状です。

EGFR遺伝子変異の種類によって異なるEGFR-TKIの効果

EGFR遺伝子変異の種類によって、EGFR-TKIに対する効果は異なるといわれています。肺腺がん患者の80~90%に認められるcommon mutation(エクソン19欠失変異、エクソン21のL858R変異)に対しては、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ジオトリフのいずれも有効性が確認されています。しかしそれ以外のuncommon mutation、あるいは複数のEGFR遺伝子変異が存在するcompound mutationに対しては、第1世代EGFR-TKIは効きにくいといわれています1)
韓国の報告によれば、EGFR遺伝子変異陽性肺腺がん患者において、uncommon mutation単独を有している患者は8%、compound mutationを有している患者は25%でした2)。また埼玉県立がんセンターのデータによると、uncommon mutation単独は7%、compound mutationは22%です3)
Uncommon mutationを有する患者さんを対象とした大規模な臨床試験はありませんが、ジオトリフのLUXLung2, 3, 6試験の統合解析でuncommon mutationに対する効果が示されています4)。この結果から、米国ではuncommon mutationであるエクソン18のG719X、エクソン20 のS768I、エクソン21のL861Qの変異を有する非小細胞肺がんに対してジオトリフの適応拡大がなされています。また少数例での検討ではありますが、uncommon mutationを対象とした検討でもジオトリフの有効性が示唆されています(表1)5)

表1 Uncommon mutationに対するPFS

表1 Uncommon mutationに対するPFS
  1. 5) Shen YC, Tseng GC, Tu CY, et al. Comparing the effects of afatinib with g efitinib or Erlotinib in patients with advanced-stage lung adenocarcinoma harboring non-classical epidermal growth factor receptor mutations. Lung Cancer. 2017; 110: 56-62.

本研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。

当センターでは遺伝子変異検査として、common mutationであるエクソン19欠失変異とエクソン21のL858Rに加え、EGFR-TKI獲得耐性の主な原因であるエクソン20のT790M、さらにエクソン18のG719X、エクソン20のS768I、エクソン21のL861Q、エクソン20の挿入変異を調べています。なおエクソン20の挿入変異にはEGFRTKIを行わないことが「肺がん診療ガイドライン2017年版(日本肺癌学会 編集)」では推奨されています。
実臨床ではuncommon mutationが検出される頻度は低いため、当センターでもuncommon mutationにジオトリフを使用した経験は多くはありません。しかし、おそらく各種EGFR遺伝子変異の割合によって薬剤の効果は異なってくるのだと思います。生検では一部の組織あるいは細胞しか採取しないため、進行がんの全体像はわかりません。将来的により精度の高い検査で全体像がわかれば、遺伝子変異の種類に応じたTKIの選択が可能になるのではないかと思います。

検査結果が出るまでの期間を利用して、数回に分けて患者に説明

日常診療において、初診から治療方針の決定までは従来に比べて時間がかかるようになっています。小細胞肺がんか非小細胞肺がんかを判断し、非小細胞肺がんであれば扁平上皮がんか非扁平上皮がんかを調べます。さらにEGFR遺伝子変異とALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子といったドライバー遺伝子の有無を調べ、PD-L1の免疫染色も行います。また治験や臨床試験への参加も検討した上で治療方針を決めていきます。
実際には、まず生検を行って、その1週間後に受診したときには組織型がわかり、その翌週に遺伝子検査の結果がわかります。生検から治療を開始するまでの2~3週間は、患者さんは落ち着かない気持ちでいると思いますので、検査結果でここまではわかっているということを逐次伝えるようにしています。
非小細胞肺がんであることがわかった段階で、基本的な治療の流れも説明するようにしています。ドライバー遺伝子の異常がなければ細胞障害性抗がん剤を、EGFR遺伝子変異があればEGFR-TKI、ALK融合遺伝子があればALK-TKIを選択することを伝えます。さらに遺伝子検査の結果が判明したときには各治療薬の説明をする、といったように何回かに分けて説明をしています。また最初に、分子標的薬を使うことになった場合でも、細胞障害性抗がん剤を使う可能性があることは触れておきます。
EGFR-TKIを使うことが決まれば、1次治療に使われる薬剤の効果と副作用を説明し、患者さんの希望を聞いて治療薬を決めていきます。ただ現実的には患者さんだけでは決められないので、医療者の意見も伝え、相談して決めていくことになります。

副作用管理は医師、看護師、薬剤師、栄養士の連携で

神奈川県立がんセンター 呼吸器内科 齋藤 春洋 先生

治療の全体像は主治医が説明しますが、具体的な薬剤の特徴や副作用対策については薬剤師が説明するようしています。ジオトリフの通常量(40mg/日)の投与は1週間ほどの入院で開始します。投与後初期に出やすい下痢などの状態に応じて、問題がなければ数日で退院することもあります。入院中に下痢が起こったときは、栄養士が病棟に出向いて患者さんから話を聞き、食事内容の変更などのサポートも行っています。
外来での対応は副作用の出方によって変わりますが、私の場合は原則的に投与開始の4週間は、1週間ごとに受診してもらっています。ジオトリフを投与した患者さんでは、下痢などの副作用や食欲、全身状態をみて、胸部X線写真を撮り、採血では肝障害がないかを確認します。4週目にはCT撮影も行います。患者さんは副作用が出ても次の受診日まで我慢する傾向がありますので、最初のうちはこまめにフォローアップすることを心がけています。4週を過ぎたあとは通常、2週間おきの受診に切り替えます。
副作用が軽い患者さんは主治医だけで対応が可能なことが多いですが、当センターにはがん看護専門看護師などによる「外来相談室」を設けており、副作用対策や日常生活での不安などを相談できるシステムになっています。

EGFR-TKIで発現しやすい副作用への対応

ジオトリフを含めEGFR-TKIで比較的早期にみられる副作用として、下痢のほか、口内炎や皮疹、また発現時期は少し遅れますが爪囲炎があります。ジオトリフではそれほど重篤な発疹はみられないものの、なかには頭皮にざ瘡様の皮疹が発現する場合があります。化膿したような皮疹ができて、痛みと痒みがあり、医療者が考えるよりも患者さんにとっては不快で、投与中止を希望される例も過去にはありました。皮膚科へ紹介し、軟膏や、抗アレルギー剤、ステロイドの投与を行ったり、あるいは重症の場合は減量せざるをえないこともあります。爪囲炎についても皮膚科と連携し、早期に処置してもらうことが大切です。
まれに、投与開始3~4週を過ぎてから肝障害が出ることがあります。その場合は休薬となりますが、回復には1~2週間はかかりますので、その間は腫瘍増大を注意深く観察する必要があります。なお薬剤性の間質性肺疾患(ILD)については投与前および投与中の注意深い観察と管理により、最近ではほとんど認められません。
EGFR-TKIによる治療が長期に及ぶと、全身の倦怠感や食欲がなくなる患者さんが、特に高齢者で見受けられます。皮疹が出ている患者さんでは倦怠感が強くなると、皮疹も重症化していきます。
EGFR-TKIは細胞障害性抗がん剤と違ってがん細胞が死滅することはなく、EGFR-TKI投与中止後はほぼ再発します。ですから、いかに1剤を長く続けるかが重要になってきます。ジオトリフに関しては減量しても効果が維持できることが確認されていますので6)、患者さんの様子をみて用量を調整しながら副作用を軽減し、長期に継続することが大切と考えています。

患者の生存を延長するために期待すること

神奈川県立がんセンター 呼吸器内科 齋藤 春洋 先生

肺がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬への期待は高まっていますが、ドライバー遺伝子異常のある肺がんに対する効果はまだ未確定です。したがってEGFR遺伝子変異陽性肺がんで長期生存を目指していくには、いかにEGFR-TKIを使用していくかが課題になります。
2018年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2018)で発表されたようなEGFRTKIと化学療法との併用、あるいはベバシズマブなどの血管新生阻害薬との併用、あるいはuncommon mutationに対してはEGFR-TKIをシーケンシャルで使用するなどの方法を組み合わせていくことが重要です。ただシーケンシャル治療の場合、すべての患者さんが次の治療に移れるわけではないため、できるだけ最初に効果の高い薬剤を使うことが望まれます。
EGFR-TKIで進行(PD)になったときはT790Mがなければ細胞障害性抗がん剤が推奨されています。しかし細胞障害性抗がん剤の後にEGFR-TKIをリチャレンジする、あるいは別のEGFR-TKIを使用することも実際には行われています。EGFR-TKIのbeyond PDのエビデンスは十分とはいえませんが、投与継続でがんの進行がゆっくりになっている、あるいは患者さんの生活が保てている現状もありますので、他に選択する治療法がないときは治療を続ける機会をつくってあげることも大切なのではないかと思います。
薬剤の選択肢が広がるなかで、医療費の問題も考慮せざるをえない状況にはありますが、長期生存につながる治療が最終目標だと思っていますので、医療費を考慮して薬剤を選択することはありません。しかし、高額療養費制度を利用しても医療費の負担が大きく、途中で治療をやめてしまった患者さんが過去に何人かはいました。TKIは長期投与が大事ですから、患者さんの負担を考えて、投与方法を工夫し、続けられる治療を提示することも必要かと思います。

参考文献

  1. 1)Wu JY, Yu CJ, Chang YC, et al. Effectiveness of tyrosine kinase inhibitors on "uncommon" epidermal growth factor receptor mutations of unknown clinical significance in non-small cell lung cancer. Clin Cancer Res. 2011; 17: 3812-21.
  2. 2)Kim EY, Cho EN1, Park HS, et al. Compound EGFR mutation is frequently detected with co-mutations of actionable genes and associated with poor clinical outcome in lung adenocarcinoma. Cancer Biol Ther. 2016; 17: 237-45.
  3. 3)Yamamoto G, Kikuchi M, Kobayashi S, et al. Routine genetic testing of lung cancer specimens derived from surgery, bronchoscopy and fluid aspiration by next generation sequencing. Int J Oncol. 2017 ; 50: 1579-89.
  4. 4)Yang JC, Sequist LV, Geater SL, et al. Clinical activity of afatinib in patients with advanced non-small-cell lung cancer harbouring uncommon EGFR mutations: a combined post-hoc analysis of LUX-Lung 2, LUX-Lung 3, and LUX-Lung 6. Lancet Oncol. 2015; 16: 830-8.
  5. 5)Shen YC, Tseng GC, Tu CY, et al. Comparing the effects of afatinib with g efitinib or Erlotinib in patients with advanced-stage lung adenocarcinoma harboring non-classical epidermal growth factor receptor mutations. Lung Cancer. 2017; 110: 56-62.
  6. 6)Kato T, Yoshioka H, Okamoto I, et al. Afatinib versus cisplatin plus pemetrexed in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer harboring activating EGFR mutations: Subgroup analysis of LUX-Lung 3. Cancer Sci. 2015; 106: 1202-11.

4)、6)の研究は、ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。