ジオトリフ 診療サポート非小細胞肺がん治療最前線

LUX-Lung7におけるPFSの延長は、肺がん治療に何をもたらすか-2人のスペシャリストが読み解く

近年、目覚ましい進歩を遂げるがん治療の現場において、患者の生存期間は間違いなく延長している。一方、治療選択は多様化・複雑化し、単剤の効果のみで肺癌治療全体を評価することは困難になりつつある。また、薬剤同士の直接比較試験においても、全生存期間(OS)に有意差が表れることは少なくなっている。

こうしたなか、薬剤自体の効果を評価するうえで、改めてその重要性が評価されているのが無増悪生存期間(PFS)だ。今回は、「アファチニブ(製品名:ジオトリフ)」と「ゲフィチニブ」を直接比較したランダム化非盲検第IIb相試験「LUX-Lung7(LL7)」の結果をベースに、横浜市立大学医学部臨床統計学教室の山中竹春先生には統計家の立場から、新潟県立がんセンター新潟病院内科:呼吸器の三浦理先生には臨床医の立場から、PFSに対する考えを伺った。

※本取材は、ESMO2016にてLL7のOSデータが発表される以前の2016年9月に行われました。

LL7の結果は「過去の試験結果と整合性が取れている」

-LL7の意義をどのようにお考えですか?

横浜市立大学 医学部臨床統計学教室 山中竹春先生
横浜市立大学 医学部臨床統計学教室 
山中竹春先生

【山中】従来、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に関しては化学療法との比較試験のみでした。複数試験に基づく間接比較も有用ですが、直接比較でないと踏み込んだ議論はしにくいので、300例以上のデータで直接比較試験を行い、これまで分からなかったことの一部が明らかになった意義は大きいと考えています。むろん第II相試験ですので、ガイドラインを書き換えるような一律の判断を下すことは困難ですし、すべきではありません。ただし、ジオトリフに関して過去に行われたLux Lung3(LL3)、Lux Lung6(LL6)で見られたPFSの結果を再現できた部分もあり、ESMO2016で公表される全生存期間(OS)の結果次第ですが、日々の薬剤選択に影響を与えるデータになる、という意見を多くの肺癌専門医が持っておられるようです。

-LL3やLL6の結果を再現できたと考えられる点を具体的に教えてください

【山中】過去の行われたゲフィチニブと化学療法を比較したNEJ試験、WJTOG試験、IPASS試験とジオトリフと化学療法を比較したLL3とLL6の合計5つの試験のデータから、間接比較となりますが、エクソン19欠失変異症例でのPFSは、ジオトリフの方が良好であることが示唆されていました。LL7ではエクソン19欠失変異症例のPFSは、ハザード比で見ると0.76で、ジオトリフの方がやはり良好な傾向にあります1)。この点が過去の試験結果と同様の傾向が確認されている、と考える部分です。

-LL7の直接比較で新たに示唆されたこと、あるいは予想外だったことは何でしょうか?

【山中】ジオトリフは、頻回な下痢や発疹などの副作用がゲフィチニブよりも強いと認識されています。しかし、LL7では、EQ5D、EQ-VASによるQOL評価においてゲフィチニブと同程度の値でした2)

これはやや意外な結果でした。理由は2点考えられると思います。まず、ジオトリフではゲフィチニブとは異なり減量ができるため、ジオトリフの副作用発現時は休薬・減量ですみやかにコントロールが可能だったことです。LL7ではジオトリフ群の42%が減量に至っていますが1)、減量の有無により有効性に違いが見られなかったこともLL3やLL6のデータと同様でした。すみやかな休薬・減量による副作用管理に加え、ジオトリフ群ではPFS延長や奏効率向上により、肺がん症状である呼吸困難、咳、疼痛などが改善されています。その結果、ジオトリフ群の副作用によるQOL低下分が相殺されたと解釈しています。このQOLデータは興味深いと感じました。

一方、エクソン21のL858Rの点突然変異の症例に対しては、前述の過去の5つの試験データからは、ジオトリフとゲフィチニブのPFSに差はないことが示唆されています。LL7でのエクソン21のL858R点突然変異症例のPFSは、ハザード比は0.71で、ジオトリフの方がやや良好な傾向がありましたが1)、過去の5つの試験データとの整合性を考慮すると、ジオトリフの方がPFS良好であることは、現時点でLL7のみのデータであることを踏まえた方がよいと思います。

ジオトリフと化学療法を比較した過去のLL3、LL6については、エクソン21のL858Rの点突然変異で、ジオトリフの化学療法に対する良好なPFSが認められています3)。さらにジオトリフがQOLを有意に向上させることが示されています。したがって、対化学療法という点では、ジオトリフはPFSや奏効率の改善を通じて、呼吸困難などの肺がん症状を大きく改善しており、臨床的に意味のあるPFS延長をしていると考えられます。L858Rでは、ジオトリフ vs 化学療法のOS結果に目が行きがちですが、これらのことを総合的に踏まえた上で、ジオトリフ 対 化学療法を議論すべきです。

患者本位のリスク・ベネフィットのバランス判断を

-今回のLL7のPFSは中央値で見るとあまり差がないように見えます

【山中】PFSの差をどのように表現するかという点では、通常はカプラン・マイヤー生存曲線全体の差を評価することが基本で、ログランク検定という統計的手法で比較します。2群の差を表す指標がハザード比です。中央値の比較は便利で、我々も使い慣れているのですが、1時点の値は画像の測定間隔にも大きく依存しますので、一般には、中央値とハザード比は相互補完的に捉えていくことが必要です。LL7の場合はゲフィチニブ群と比してジオトリフ群のハザード比は、全体集団で0.73でした1)

-今後発表されるLL7のOSが注目されるところです

【山中】症例数からみて、OSで明確な有意差がつくというのは考えにくいですが、OSに関して、たとえば、ジオトリフにハザード比0.8~0.9くらいの延長傾向がみられれば、エクソン19欠失変異例において、過去の5試験のOSの結果との整合性が得られます。その場合、臨床現場では「副作用発現→すみやかに休薬・減量」というストラテジーこみでファーストラインのジオトリフが好意的に受け止められると予想しています。

一方、エクソン21のL858R点突然変異では、過去の5試験のデータからはジオトリフとゲフィチニブのOSに差はないことが示唆されていますので、LL7でジオトリフのOS延長傾向が示されたとしても、ファーストラインでジオトリフとゲフィチニブのどちらがよいかは継続的な検討事項になるのではないでしょうか。

もしジオトリフとゲフィチニブの間でOSにまったく差がなければ(生存曲線が一致していれば)、LL-7ではジオトリフはPFSを伸ばすのみの薬剤ということになりますので、その場合は、ゲフィチニブが第一選択肢になるのではないかと思います。

現時点においては、エクソン19欠失変異例とエクソン21のL858R点突然変異例のいずれにおいても、ファーストラインの「選択肢」として、ジオトリフとゲフィチニブの両剤を患者さんに提示することは必要だと思います。その上で、どちらの薬剤を選択すべきか?という「推奨度」を決めるのは、リスク(R)とベネフィット(B)のバランス評価です。一般にR/Bバランスの評価は、OSの上乗せ分、PFSの上乗せ分、奏効率の上乗せ分、副作用の上乗せ分、QOL評価、等々の総合判断からなります。

一口にR/Bバランスと言っても、医師の考える、患者さんの考える、患者家族の考えるR/Bバランスがあります。現実には、医師の方で「使い慣れた薬が良い」という価値判断が往々にして入ってきますので、出来る限り、そういった要素はなくした上で、ジオトリフとゲフィチニブのR/Bバランスを様々な観点から検討して、薬剤を選択していくことが「患者本位」だと考えています。

副作用管理が困難な場合は躊躇せず休薬・減量を

-LL7の結果がもたらした意義をどのように捉えてらっしゃいますか?

新潟県立がんセンター新潟病院 内科:呼吸器 三浦理先生
新潟県立がんセンター新潟病院 内科:呼吸器 
三浦理先生

【三浦】ジオトリフはLL3とLL6でOSを延長したというインパクトを有して日本の臨床現場に登場しましたが、いままでの試験でゲフィチニブ、エルロチニブでOS延長が認められなかったなかで、なぜジオトリフだけ有意差が示されたのかは大きな疑問でした3)

ジオトリフはEGFRチロシンキナーゼへの阻害活性を高め、さらにT790MやHER2などに阻害活性を広げることで耐性克服を目指してきた薬剤です。LL7の結果では治療開始2年後のPFS比率は、ジオトリフ群が17.6%でゲフィチニブの7.6%の2倍超であり、長期奏効例が増えていました1)。このことが2つの薬剤の”違い”を示唆するものであり、LL3、LL6におけるOS延長の要因の1つであると考えています。

-実際の臨床での印象と比較してはいかがですか?

【三浦】ジオトリフが臨床の場に登場して約2年半が経過しました。LL7の結果が示唆するとおり、ジオトリフで開始された方は長期にわたり継続できている患者さんが多いとの印象を今になって実感しつつあります。また、LL7では治療成功期間(TTF)もジオトリフが長いことが示されました1)。当初は毒性が強い薬剤として敬遠されがちであったジオトリフですが、副作用の管理という点で医師側の習熟度も高くなってきたことがこの背景にはあると解釈しています。

LL7ではジオトリフ群で42%の患者さんが投与量を減量されています1)。既にジオトリフでは減量しても有効性は低下しないというデータも明らかになっていますので2)、副作用管理が困難な場合は躊躇せずいったん休薬し、減量するという対応で構わないと思います。実際、私自身の症例でも最終的に8割の患者さんは減量を行っています。

-ジオトリフを選択することが望ましい患者像を教えてください

【三浦】エクソン19欠失変異症例に限定すれば、LL3、LL6で有意なOS延長があり3)、LL7のサブ解析では、PFSのハザード比は臨床的に意義があるとされる0.7~0.8の範囲でした1)。この結果から、PSが0、1のCommon mutation、特にエクソン19欠失変異症例の患者さん、または他のTKIが有効性を示せておらず、ジオトリフにおいて有効性が示されているUncommon mutationの患者さんもジオトリフを第一選択としています。

また、ジオトリフでは自覚症状のある副作用が多く、その管理が重要ですが、これは医療従事者による医学的な管理にとどまらず、患者の自己管理も大きな要素と考えています。したがって私見ですが、自己管理が行える患者でPS0ならば75歳前後の高齢者でも適応になりえると考えています。逆に若年者でも自己管理が困難な患者さんには不向きと考えています。

初回治療の長期継続、臨床医として極めて重要な役割

-ESMO2016でOSの結果が公表されますが、それを見越してジオトリフとゲフィチニブの選択を迫られる場合に、PFSとOSの観点からどのような選択肢が考えられるでしょう?

【三浦】ジオトリフを中心に据えた際に、OSでジオトリフがゲフィチニブを「上回った場合」と「下回った場合」の答えははっきりしています。問題は、「ジオトリフの方がややOSが良い傾向にあった場合」です。エクソン19欠失変異の患者さんという前提で、私が患者さんにご説明できるのは、『ゲフィチニブとジオトリフという薬があり、長期に治療効果が維持できる割合はジオトリフの方が高く、延命効果も良好な傾向があります。ただし、副作用は強く、しっかりとした管理が必要です。どのようにしましょうか?』ということになると思います。

-現在、薬剤同士の直接比較試験では、OSで差がつくことは少なくなっています。その意味ではPFSで有意差がつき、OSでは差がないという状況も想定されます。この場合、PFSのみが延長する薬剤の存在意義とは何でしょう?

【三浦】ジオトリフやゲフィチニブを投与される切除不能な非小細胞肺がん患者は、告知を受け、治癒しないという絶望の中で治療を開始します。多くは初回治療で一定の反応があり、この時期は患者さんも精神的な不安定さから回復し、人生の見直しをする時期です。医学的な側面とは別にこの時期は患者さんにとって非常に重要であり、それをより長く続けるように努めるのは、臨床医として極めて重要な役割を担っていると考えます。

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山中竹春先生(横浜市立大学 医学部臨床統計学教室)

2000-2002年 九州大学医学部附属病院 文部教官助手
2002-2004年 米国国立衛生研究所 (NIH) リサーチフェロー
2004-2005年 神戸先端医療振興財団 研究員
2006-2012年 国立病院機構九州がんセンター 室長
2012-2013年 国立がん研究センター東病院 室長
2013-2014年 国立がん研究センター 部長
2014年-現在 横浜市立大学 医学部 教授

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三浦理先生(新潟県立がんセンター新潟病院 内科:呼吸器)

2000年 新潟大学卒業
2002年 新潟大学第二内科(現:呼吸器感染症内科)入局
2009年 静岡県立静岡がんセンター薬物療法修練医レジデント
2011年 新潟大学医歯学総合病院 呼吸器感染症内科非常勤講師
2013年 新潟大学医歯学総合病院 高次救命災害治療センター特任助教
2015年 新潟県立がんセンター新潟病院 内科医長
2016年-現在 新潟県立がんセンター新潟病院 内科部長

1) Park K. et al.:Lancet Oncol. 2016 May;17(5):577-89. 本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された
2) Hirsh V. at al. J Clin Oncol 34, 2016 (suppl; abstr 9046). 本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された
3) Yang JC. et al.:Lancet Oncol. 2015 Feb;16(2):141-51.  本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された