ジオトリフ 診療サポート非小細胞肺がん治療最前線

肺がん治療の“個別化”で転換期を迎えた患者とのコミュニケーション-LUX-Lung7がインフォームドコンセントに与えた影響とは

1997年、「説明と同意」を行う義務が医療法に初めて明文化されてから20年。治療を提供するという意味だけではなく、患者の意向を汲んだ治療を提供するためにもインフォームドコンセント(IC)に基づいた患者との円滑なコミュニケーション形成は欠かせない。しかしながらその在り方は、新薬や新たな手技が登場するたび、常に変化し続けている。その1例が非小細胞肺がん(NSCLC)治療におけるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の登場による治療の個別化と言えるだろう。

QLifePro特集「LUX-Lung7を読み解く」。第4回は、大阪医科大学附属病院呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科 科長の藤阪保仁先生に、NSCLCの薬物治療時に留意したい患者とのコミュニケーションの考え方や情報の引き出し方、EGFR-TKIとして初めて直接比較を行ったランダム化非盲検第IIb相試験「LUX-Lung7(LL7)」の結果が患者への情報提供にどのような影響を与え得るか、お話を伺った。

治療の意思決定の主体は患者さん自身、決して薬剤ではない
治療選択時のICのポイントは「個に応じた最適な治療を行う」と明確に伝えること

-現在、切除不能な非小細胞肺がんでは、薬物治療の選択肢が増加しています。この点は患者さんとのコミュニケーションを図るうえで、どのような影響をおよぼしているとお考えですか?

大阪医科大学附属病院 呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科 科長 藤阪保仁先生
大阪医科大学附属病院 呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科 
科長 藤阪保仁先生

現在の肺がん治療は、肺がんの確定診断後に遺伝子変異を探索して薬剤を選択する個別化医療となっています。このドライバー遺伝子検索が臨床上不可欠になった頃から患者さんとのコミュニケーションは大きく変化したと感じます。それ以前の治療選択肢は殺細胞性抗がん剤のみで、肺がんの告知が終われば、具体的な治療選択肢をすぐに提示できました。

しかし、現在は肺がん告知後に上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子検索を行い、その結果で治療法を提示する形となり、告知から治療法提示までに1週間前後のタイムラグがあります。この間に患者さんの心は、告知の衝撃、これからの生活のこと、治療面では分子標的薬への期待と、またその適応が無かった場合の不安などで揺れ動きます。多くの場合、各医師がすぐに治療を開始するわけではなく、このドライバー遺伝子検索の間、患者の期待と不安が交錯する、この思いをいかに支えていくかが求められるという点が従来とは決定的に異なることを改めて理解をする必要があります。

-告知後、遺伝子検査の結果が判明するまでの患者さんの気持ちをつなぐためには、告知時の情報伝達が大きなカギを握ると思いますが、その際の留意点とは?

医療者が患者さんに悪い話を伝えるときに、自己防御反応として、例えば「EGFR遺伝子変異があったら、良い治療がある」と励ますことがあります。しかし、このような伝え方をすると、患者さんの中では期待だけが膨らみ、検査でEGFR遺伝子変異がなかったと知っただけで、告知時以上に落胆する危険性があります。EGFR遺伝子変異が無ければ良い治療は受けられないのか、ということになるのです。ポイントは「あなたのがんに合った薬を選択する時間をほしい」との趣旨をお伝えし、EGFR遺伝子変異陽性の場合、ALK融合遺伝子陽性の場合、いずれもない場合の治療選択肢を提示し、検査結果が出た際に「あなたには、この治療法が最適です」という形で説明することに私はしています。

また、常に医療人として意識しておきたいのは、「患者と私達が一緒に最適な治療法、薬剤を選ぶのであり、薬剤が患者を選ぶわけではない」ということです。治療の主体は患者さんで、薬が主役ではないということです。この点は、大きく強調しておきたいと思います。

-もっとも患者さんにとっては告知さえもショックなのに、人生で初めて聞くような用語を多く耳にすることになります

私自身は最初の告知時は患者さんとその時間(とき)を共有するよう心掛けます。全部手書きで紙に書いて患者さんの理解度をチェックしながらご説明します(私は、その際ペン先の鋭い細いペンは使用せず、なるべく柔らかい優しい印象を与える太めのボールペンや万年筆を用いています、ちょっとしたことかもしれませんが)。患者さんによってはご自身で全部ファイリングし、2~3年の付き合いになると、その枚数が10枚を超えられる方もおられます。これにより治療道程を振り返れるうえに、今現在の自分自身の置かれている状況を把握するのにも役立っているようです。

また、最近は患者さんやご家族が遺伝子検査判明までの1週間にインターネットで治療法などの情報を調べることも普通に行われています。そこでネット検索する時のキーワード、例えば「非小細胞肺がん」、「個別化治療」、「EGFR 肺がん」などという形で具体的にお示しします。その方が患者さんの安心が得られやすいと感じています。

-患者さんと共有する情報については、治療選択肢以外は、どのようなものが挙げられますか?

1つは副作用です。副作用には患者さんが自覚するものと、臨床検査値の異常に大きく2つに分けられますが、自覚症状である悪心・嘔吐、下痢、便秘、口内炎、倦怠感、脱毛、末梢神経障害、味覚異常などの症状を伝えるときにはその発現時期をお伝えすることが重要です。そのことで、患者さんはそれに備えることも出来ますし必要以上に副作用に怯えてしまうことも少なくなると思います。

なお、副作用に関して、末梢神経障害のしびれや味覚障害などは、医療者側が聞かないと引き出せないこともありますので注意が必要ですし、「あなたに応じた薬の量の調節が必要なので些細なことでもお話してください」と伝えています。

また、化学療法を施行する患者さんでは注意しなければならない臨床検査値の基準値もお伝えしています。ただ、基準値外の結果が出ることもよくありますので、その患者さんにとって許容できる基準値オーバーに関しては、問題がないことも説明します。これを怠ると、基準値内に入らないだけで、患者さんがストレスに感じ、時としては治療の妨げになるからです。

-患者さんが自己申告しやすいように注意していること、それは“一呼吸(ひとこきゅう)”

がん治療では、患者さんの中にはことさら緊張している方もいらっしゃいます。私自身はなるべく柔和な態度で、患者さんがお話している間も一つひとつ内容を確認し、ゆっくり相槌を打ちながらお聞きするように注意しています。また、こちらからお話する際は早口にならないように、患者さんからの質問で即答できるようなものでも一呼吸おいてから答えています。一呼吸はほんの数秒なのですが、こちらの表情次第では相手に圧迫感を与えますので、一呼吸の間の表情も軽く微笑みながらということを心がけています。

このような注意点を課すことで、患者さん側も話しやすくなり、結果として患者さんの情報を引き出す労力は最小化されると感じています。何よりも信頼関係が醸成されます。

高い有効性の薬剤を使いこなすポイント。患者の症状・訴えに応じた個別化対応を

-近年の治療選択肢の増加と伴に患者さんにお伝えする情報も多岐にわたるのが現実です。そこで重要なものの1つが選択肢となる薬剤同士の直接比較結果です。最近ではEGFR遺伝子変異陽性患者に対するEGFR-TKI1剤目のゲフィチニブと3剤目のジオトリフとの直接比較試験LUX-Lung7(LL7)の結果が明らかになりました

フェーズIIb試験ではあるものの、初めてEGFR-TKI同士の直接比較でジオトリフはゲフィチニブに比べ無増悪生存期間(PFS)を延長する可能性が示された意義は大きいと思います1)。一般的に両剤の違いは患者さんが自覚する副作用の発現頻度が低いゲフィチニブと、それが高いジオトリフという理解ですが、患者さんへの説明の際に「効果は?」と質問されたときに、LL7の結果を提示できます。

一方、私個人の評価としては、従来からエクソン19欠失変異、エクソン21のL858R点突然変異のそれぞれに対して、ジオトリフはゲフィチニブと同様に効果があるだろうと考えていましたが、LL7の結果でもそのことが改めて確認されたと解釈しています1)

過去のジオトリフと化学療法を比較したLUX-Lung3や6の層別解析では、エクソン21のL858R点突然変異での全生存期間(OS)は化学療法がジオトリフに対して良い傾向があると解釈され、エクソン21のL858R点突然変異にジオトリフを使うのは望ましくないと理解する向きも一部にありましたが、今回の結果でこの見方は部分的に崩れたかもしれません2)

-一方、言及のあった副作用の強さですが、LL7ではかなりの症例で減薬が行われ、その結果、副作用がコントロールできる可能性が示唆されています

減量により効果が減弱するわけではないことも明らかになったので、患者さんから副作用がきついと訴えられれば、ためらわず休薬・減量ができる根拠になります。実際、ジオトリフに関する様々なデータを参照しても、減量投与を実施した患者さんが圧倒的に多いことが分かっていますし、私の患者さんでも約8割が減量しています。

私自身はジオトリフの副作用はほぼコントロール可能と考えていますし、患者さんにもそのようにお伝えしています。ただ、それを可能にするために「副作用の症状をきちんと伝えしてください」「おかしいと感じた場合は休薬してご連絡下さい」と繰り返しお伝えしています。

LL7では試験上の取り決めとしての減量基準が示されていますが、副作用の支持療法も実施しているうえで患者さんがつらい、休薬したいとおっしゃった場合は、たとえそれが副作用のグレード1でも減量を検討します。LL7の休薬・減量基準はあくまで参考であり、ここでも患者さんの症状・訴えに応じた個別化対応が必要と理解しています。

-具体的にEGFR-TKI内で薬剤選択を迫られる患者さんにはどのようにご説明されていますか?

薬剤選択時に個々の患者さんの長期的結果は分からないので、副作用はゲフィチニブの方がやや軽く、ジオトリフの方はやや重いが、効果の点で見るとややジオトリフの方が良い傾向がありますとご説明します。ただ、患者さんは2つの薬剤のどちらかをご自身で選択するよう促されてもわからないのが本音で、個人的には医師が患者さんにすべて委ねるのは無責任だと考えています。

私は70歳未満のPSも0、1の患者さんにはジオトリフ、75歳以上の患者さんならばゲフィチニブを自分ならば選択すると一歩踏み込んでお話しています。実際、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインでもPSが2以上や75歳以上の高齢者でゲフィチニブが推奨されています3)

もっとも、70~74歳くらいの患者さんでの薬剤選択は悩ましいものですので患者さんの状態と要望をお聞きして、一緒に考えていくように心がけています。

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藤阪保仁先生(大阪医科大学附属病院 呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科 科長)

1988年3月  大阪医科大学医学部医学科卒業
2013年2月~ 大阪医科大学附属病院 臨床治験センター センター長
2013年6月~ 大阪医科大学附属病院 がんセンター 副センター長
2014年1月~ 大阪医科大学附属病院 臨床研究センター 准教授・センター長
2016年3月~ 大阪医科大学附属病院 呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科 科長

1) Park K. et al.:Lancet Oncol. 2016 May;17(5):577-89. ※
2) Yang JC. et al.:Lancet Oncol. 2015 Feb;16(2):141-51. ※
3) 日本肺癌学会ガイドライン検討委員会:EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2016年版、日本肺癌学会
※本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された