ミカルディス 製品紹介第41回日本高血圧学会総会
ランチョンセミナー記録集
-Hypertension Paradox克服のために-

共 催:
第41回日本高血圧学会総会/日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
開催日:
2018年9月16日(日)
会 場:
星野リゾートOMO7旭川

第41回日本高血圧学会総会ランチョンセミナー

Opening Remarks

座長 島本 和明 先生
日本医療大学 総長

超高齢社会を迎えたわが国では、高血圧の患者数が増加の一途をたどっている。一方で、これまでにさまざまな作用機序の降圧薬が登場し、高血圧治療が目覚ましく進歩してきたにもかかわらず、血圧が良好にコントロールされている高血圧患者は半数にも満たない。このような矛盾した状況のことを「Hypertension Paradox」といい、近年、この矛盾が問題となっている1)。本セミナーでは、鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学の大石充先生をお招きし、Hypertension Paradoxの原因がなぜ生じるのか、これらを克服するための対応策などについてご講演いただく。

講演

演者 大石 充 先生
鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学 教授

高血圧治療の基本は厳格な降圧

血圧を下げることで脳卒中の発症リスクが低下することは良く知られているが、80歳以上の高齢高血圧患者を対象としたHYVET試験2)や、厳格に血圧をコントロールしたSPRINT試験3)の結果などから、降圧が心血管疾患に加えて、心不全の発症抑制にも大きく寄与することが確認され、近年注目されている。さらに、降圧による心血管疾患発症抑制には、左室肥大の新規発症や退縮などのサロゲートマーカーなどはあまり関与せず、厳格な降圧によって抑制されると示唆されている4)。以上を踏まえ、米国では高血圧の診断基準を130/80mmHg以上とし、降圧目標値を130/80mmHg未満とした(図1)5)

図1 ACC/AHA 高血圧ガイドラン

図1 ACC/AHA 高血圧ガイドラン 拡大する

一方で、高血圧治療には多くの治療法があり、厳格な血圧コントロールが可能となった現在でも、血圧コントロールが不良な高血圧患者が多数存在する。2009年、この矛盾に対し「Hypertension Paradox」という概念がNEJM誌に提唱された1)。わが国においては、高血圧治療における目標達成率がわずか45%程度であるが6)、総合内科専門医に行った60疾患に対する治療満足度調査では、治療満足度が最も高い疾患は高血圧で、総合内科専門医の98.9%が高血圧治療に満足しているという結果が報告されている7)

「血圧=循環体液量×末梢血管抵抗」に応じた降圧薬の使い方

高血圧治療における目標達成率が低い原因として、医師側の意識、降圧薬の使い方、患者の服薬アドヒアランスなどに問題があると考えている。医師側の意識としては、起立性低血圧や急性腎障害などを危惧し、厳格な降圧を躊躇する場面が多く見受けられる。しかし、診察時にふらつきや立ちくらみ、むくみ、尿量などについて聞き取り、定期的に腎機能をチェックするなどのきめ細かな対応をし、問題がないことを確認できれば、より厳格な降圧が可能であると考える。
また、血圧は病態生理的にも「循環体液量×末梢血管抵抗」で表すことができる。循環体液量が増加して起こる高血圧の要因には、食塩感受性や食塩摂取過多などが考えられ、そのような場合、降圧利尿薬の使用や減塩療法が効果的である。一方、末梢血管抵抗によって起こる高血圧の要因には、主に血管リモデリングなどが考えられ、RA(レニン-アンジオテンシン)系阻害薬やCa拮抗薬の使用が推奨される。実臨床においてはRA系阻害薬とCa拮抗薬の使用が多く確認されるが、夜間高血圧にみられるような循環体液量が増加して起こる高血圧には、降圧利尿薬をより積極的に使用し、厳格な血圧コントロールを行う必要があると考えている。

SPRINT試験においては、厳格な降圧を達成するために、厳格降圧群は通常降圧群に比べ1剤多い平均2.8剤使用し、さらに約7割の高血圧患者が降圧利尿薬を服用している(図2)3)。このことから厳格な降圧を達成するためには利尿薬を含む3剤程度の降圧薬の必要性が示唆される。しかしながら、我々が実施した降圧薬使用状況を調査した結果では、ARB及びCa拮抗薬の両剤を処方されている高血圧患者の3rdラインの薬剤を調査したところ、12%程度しか、利尿薬を追加されていないことが確認されている8)。我が国の降圧目標を達成している患者が半数以下であることを踏まえると、利尿薬を含む降圧が適した高血圧患者が多く存在することが推察される。

図2 降圧による心不全への影響

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服薬アドヒアランスへの対応

もちろん降圧薬は患者の病態を理解して処方するべきだが、効果的な降圧薬を処方しても、患者が服用しなければその効果は表れない。そのため、服薬アドヒアランスや服薬遵守率を常に留意しておく必要がある。降圧薬を服用している高血圧患者を対象としたわが国の検討では、降圧薬の服用薬剤数が増えるほど服薬アドヒアランスが悪化し、服薬アドヒアランス不良は、服薬アドヒアランス良好と比較して、降圧目標達成率が有意に低いことが報告されている9)。実臨床では複数の降圧薬を併用する高血圧患者が多くいるが、そのような場合は、積極的に配合剤を使用し、服用薬剤数を減らすことが降圧目標達成のための有効な手段になると考えている。実際に17,465例の高血圧患者を対象とした研究において、配合剤による服薬アドヒアランスの改善が示されている。ARB、Ca拮抗薬、利尿薬の単剤の3剤併用よりも、2剤配合剤+1剤、3剤配合剤と、配合剤の使用に伴って薬剤数が減ると、服薬アドヒアランスの向上が認められた(図3)10)
また、服薬遵守率を維持するためには、医師が残薬の確認をしながら服薬指導を行うことも重要だが、わが国のアンケート調査によると、90%以上の医師が残薬確認を行っていると回答したのに対し、50%以上の患者が残薬確認はされていないと回答している(図4)11)。また、われわれが行った調査においても、降圧目標値などについて医師側の伝えている割合と患者側の聞いている割合との間には差があることが示された12)。これらのことからも医師は常に患者側の目線から説明をすることを心がけ、医師と患者のコミュニケーションギャップを改善していくことが必要である。

図3 服薬アドヒアランスと配合剤

図3 服薬アドヒアランスと配合剤 拡大する

図4 高血圧患者への残薬の確認頻度

図4 高血圧患者への残薬の確認頻度 拡大する

加えて、アドヒアランス向上させる上で、高齢患者に対する隠れ認知症への留意も重要である。認知機能が正常と思われている外来通院中の高齢糖尿病患者を対象に認知機能評価を行ったところ、約30%の患者に認知症が疑われたという結果も報告されており13)、日常診療においてアドヒアランスを低下させている認知機能低下が見落とされがちであることが伺える。

Hypertension Paradox 克服のために

Hypertension Paradoxには多面的な要因が背景にあり、克服に向けた取り組みも「理論的な降圧」や「降圧実態の把握」、「配合剤使用などによる服薬アドヒアランスの向上」、「医師の意識改革」といった多方向からアプローチをすることが必要となる(図5)。
特に、降圧目標を達成している高血圧患者は半数にも満たないにもかかわらず、多くの医師が高血圧治療に満足している現状を踏まえると、高血圧治療では降圧目標達成を目指して治療を強化するといった「医師の意識改革」が重要となる。

図5 Hypertension Paradox克服のために

図5 Hypertension Paradox克服のために 拡大する

わが国では、利尿薬が適している患者がいるにもかかわらず、あまり処方されていない降圧不十分な高血圧患者が多く存在すると推察される。加えて、SPRINT試験において示された通り、厳格な降圧の達成のためには、利尿薬を含めた約3剤の降圧薬が必要であることが示唆される。3剤で高血圧治療を行う場合は、服薬アドヒアランスを考慮すると配合剤の使用が推奨されるが、わが国では、利尿薬を含む3剤の降圧薬を配合したミカトリオ®配合錠(テルミサルタン80mg/アムロジピン5mg/ヒドロクロロチアジド12.5mg配合剤)が使用可能であり、ミカトリオ®配合錠は、厳格な降圧目標を達成するための有用な選択肢の1つであると考えている。

  • 文献
  • 1) Chobanian AV: N Engl J Med 2009; 361(9): 878-887
  • 2) Beckett NS, et al.: N Engl J Med 2008; 358(18): 1887-1898
  • 3) Wright JT Jr, et al.: N Engl J Med 2015; 373(22): 2103-2116
  • 4) Soliman EZ, et al.: Circulation 2017; 136(5): 440-450
  • 5) Whelton PK et al.:J Am Coll Cardiol 2018; 71(19):e127-e248
  • 6) Miura K, et al.: Cric J 2013; 77(9): 2226-2231
  • 7) 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団: 国内基盤技術調査報告書(2015年度)、2016
  • 8) Hiroi S, Ohishi M, et al.:Hypertens Res 2016; 39(12):907-912
  • 9) 齊藤郁夫: 血圧 2006; 13(9): 1019-1025
  • 10) Xie L, et al.: Curr Med Res Opin 2014; 30(12): 2415-2422
  • 11) 西村誠一郎 ほか: 血圧 2018; 25(5): 364-376*
  • 12) Ikeda Y, et al.: Circ J 2018; 82(4): 1051-1061
  • 13) Yamazaki Y, et al.: Endocr J 2011; 58(2): 109-115

*本試験は日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の支援により行われた。

PC
2018年10月作成

図1 ACC/AHA 高血圧ガイドラン

図2 降圧による心不全への影響

図3 服薬アドヒアランスと配合剤

図4 高血圧患者への残薬の確認頻度

図5 Hypertension Paradox克服のために