ミカルディス 製品紹介第41回日本高血圧学会総会
スポンサードシンポジウム記録集
「これからの高血圧診療を考える-アドヒアランスの重要性」

共 催:
第41回日本高血圧学会総会/日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
開催日:
2018年9月14日(金)
会 場:
星野リゾートOMO7旭川
座 長:
檜垣 實男 先生(医療法人 仁友会 南松山病院 院長/愛媛大学名誉教授)
楽木 宏実 先生(大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 教授)

第41回日本高血圧学会総会スポンサードシンポジウム

Opening Remarks

座長 檜垣 實男 先生
医療法人 仁友会 南松山病院 院長/愛媛大学名誉教授

高血圧の診断や治療の発展により、高血圧患者の血圧を良好にコントロールすることが可能な時代となっている。しかし、十分な高血圧治療が受けられる環境でありながら、降圧目標を達成している患者はまだまだ不十分であるという矛盾「Hypertension Paradox」1)が問題となっている。この問題を考えるうえで、最近はアドヒアランスの重要性が大きくクローズアップされている。アドヒアランスの改善には、医師と患者との良好な信頼関係の構築とともに、高血圧治療に対する理解向上や服薬回数や服薬錠剤数を減らすなど服薬の単純化に関する工夫なども必要となり、配合剤の選択もそのひとつの方法として期待されている。そこで、本シンポジウムではさまざまな分野から専門の先生方をお迎えし、地域包括ケアシステムやリアルワールドデータについて、また、これからの高血圧診療のあり方についてご講演いただく。

講演1
高血圧を「知る」「診る」「治す」が当たり前の時代へ
~今、高血圧ガイドラインがHot Topic~

演者 岸 拓弥 先生
九州大学循環器病未来医療研究センター 循環器疾患リスク予測共同研究部門 准教授

日本と世界の高血圧治療の現状とガイドライン

わが国の高血圧患者数は4,300万人と推定され、高血圧治療を行っている患者のうち降圧目標を達成している患者比率は、年を追うごとに上昇してきているものの、男性で約30%、女性で約40%程度である2)。高血圧治療を考える際には、まずはこの現状を認識する必要がある。
この高血圧治療における降圧目標達成率の問題は、わが国だけでなく世界でも課題となっており、米国および欧州では、わが国と同様にガイドラインの改訂が重ねられてきた。なお、診断基準や降圧目標値はそれぞれ各国で異なり、米国では130/80mmHg以上が高血圧であると定義され、わが国や欧州では140/90mmHg以上と定義が異なる(図1) 3,4)。しかし、どのガイドラインにおいても厳格な目標血圧が設定され、また、近年、米国や欧州では配合剤を用いた1錠での高血圧治療戦略を、多くの患者に対して降圧薬の併用療法を強く推奨していることが特徴となっている。わが国においては、2019年に公表予定の改訂ガイドラインJSH2019(高血圧治療ガイドライン2019)策定のための作業が進められており、その動向に注目していきたい。

図1 欧米における血圧区分

図1 欧米における血圧区分 拡大する

血圧調節因子を考慮した治療戦略

塩分摂取量と尿中ナトリウム排泄による体液量と心収縮力によって規定される「心拍出量」、また、交感神経やRA(レニン-アンジオテンシン)系などにより制御される血管緊張調節によって規定される「末梢血管抵抗」、その2つの積が「血圧」であり(図2)5)、高血圧は、これらの調節因子が複合的に異常をきたすことによって発症すると考えられる。つまり高血圧治療においてはこの血圧調節システムをよく理解しておく必要がある。また、高血圧は、一時的な血圧の上昇を示すものではなく、血圧上昇が持続的に続いている病態であり、血圧は時間軸の異なるさまざまな上昇因子により変動している。中でも、血圧上昇に長時間関わるのは、腎臓による体液量のコントロールである6)。また、血圧変動は脳を介した圧受容器反射により安定化され、血圧を安定化するために交感神経出力が決定されている。しかし、何らかの理由で圧受容器反射における脳の役割が機能不全になると高血圧になり、最近ではこの主要因に塩分の過剰摂取があると考えられている。このように考えると、高血圧の原因の根本となる塩分の過剰摂取への対策を講じながら、厳格に血圧をコントロールすることが重要となる。わが国の降圧目標達成率を考えると、厳格な血圧コントロール実現においては、病態生理的に塩分過剰摂取への対策としての利尿薬と末梢血管抵抗に対する対策としてRA系阻害薬やCa拮抗薬の3つの降圧剤を上手く併用していくことが有用であると考えている。

図2 血圧調節に関与する因子

図2 血圧調節に関与する因子 拡大する

高血圧診療と治療の未来

今後の高血圧診療や治療を考えるうえでは、目の前にある血圧値を下げるだけではなく、患者個々のライフログ(日々の活動記録)を適切に収集し、血圧上昇の要因を探りながら治療を考慮するような取り組みが重要になると考えている。既にライフログを収集するアプリケーションなども登場し、その実現が可能な時代に突入しつつある。さらにAI(人工知能)の技術を活用することで、より高度な医療への対応が可能になるとともに、医師にしかできないコミュニケーションなどアナログな部分を融合することで、患者個々に対応した高血圧診療が実施され、これにより心血管イベントゼロの未来を「創る」ことができるものと期待している。

講演2
地域包括ケアシステムに求められる生活習慣病の重症化予防

演者 川越 満 氏
木村情報技術株式会社 コンサナリスト®事業部 事業部長

病床再編とかかりつけ医機能の評価

人口構造の変化が医療提供体制に変化を求めている。しかし、地域の状況によって求められる対応は変わっていく。北海道でみると、「札幌」医療圏は高度急性期を含めて2040年まで入院医療需要が伸び続けると試算されている。また、旭川が含まれる「上川中部」医療圏は、2030年までに高度急性期・急性期機能相当の入院患者数がピークを迎えるため、高機能病床を中心とした病床数の低減が求められる。
病床の再編を進める一方で、国は「かかりつけ医」機能の充実を求めており、2018年度診療報酬改定では「機能強化加算」(80点)を新設するなど、驚くほどの評価をつけた(図3)7)

図3 かかりつけ医機能評価の充実
(2018年度診療報酬改定)

図3 かかりつけ医機能評価の充実(2018年度診療報酬改定) 拡大する

地域包括ケアとは「10年後の(地域の)アウトカムを考え、目の前の患者に対して治療を選択すること」

かかりつけ医を含めた地域の医療機関に求められること、それは、「10年後の(地域の)アウトカムを考えて、目の前の患者に対して治療を選択すること」だと考えている。これが地域包括ケアとは何か?に対する答えでもある。このアウトカムについては、①臨床的アウトカム、②患者の主観的なアウトカム、③経済的アウトカム――の3つをトレースすることがポイントとなる。
2018年度改定前の中医協で紹介された大阪府寝屋川市の「重症化予防事業の取組み」は、全国の重症化予防の参考になっている。専門医とかかりつけ医(地域医師会)という医療連携はどの地域でも行われているが、寝屋川市は「未受診者」、「脱落者」をフォローする役割に保健師を置いた。そして、そこが主催となり対象者に血圧教室などを行うことで生活習慣の改善や受診に結び付けることに成功した。臨床的、また、患者主観的アウトカムが改善したことはいうまでもなく、さらに、市の財政にも寄与し経済的なアウトカムも向上した。

図4 高齢者保健事業におけるアセスメント項目の例

図4 高齢者保健事業におけるアセスメント項目の例 拡大する

これからの重症化予防でポイントになるのは、高齢患者へのアセスメントの強化だと考えている。厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」には、高齢者保健事業におけるアセスメント項目の例が紹介されている(図4)8)。この項目を毎回の診察で少しずつ確認することが、早期発見・治療に結びつき、結果として将来の地域のアウトカムを改善することにつながるのである。特に、フレイルはアウトカムの悪化を招くことが報告されており、注意が必要である。
また、患者の主観的アウトカムには薬剤が影響すると推察される。「薬を減らしたい」というニーズに対して配合剤を選択し、また、患者本人の管理が難しい場合は、家族などの介護者が管理のしやすい用法にすることも服薬アドヒアランスの改善に有効である。

重症化予防とClinical inertia

重症化予防を行う上で最大の敵は何か。それはClinical inertia(臨床的慣性)かもしれない。最近は「ポリファーマシー」の改善を求める声の大きさに隠れているが、「アンダーユース」(治療すべきなのにされていないこと)も重要な問題である。ビジネス界では「現状維持バイアス」とも言われており、変化によるメリットよりもデメリットにフォーカスしてしまい、現状維持することの“心地よさ”を味わい続けたいという心理状態がある。しかし、高血圧を放置することは将来の重症化につながる。10年後の(地域の)アウトカムを良くするためにも、攻めの気持ちが求められるのではないか。

講演3
リアルワールドデータとは何か。そのコンセプトと実例

演者 漆原 尚巳 先生
慶應義塾大学薬学部 医薬品開発規制科学講座 教授

臨床試験からリアルワールドデータへ

臨床試験の計画、実施、記録および報告に関して、その倫理的、科学的な質を確保するための国際的に統一された基準であるICH-GCPが規定され、さまざまな国で臨床試験を行う際の統一基準として活用されている。そして、この基準に則り、国際共同臨床試験が行われることも一般的となってきた。また、製薬企業が参加する非営利組織であるTransCelerate BioPharma Inc.が結成され、臨床研究を支えるインフラのさらなる標準化が進み、より効率的・効果的で高品質な医薬品を提供するための評価システムが整いつつある。しかし、臨床試験で観察される事象はあくまでも確率論的であるため、決定論的な実臨床における判断に反映させるには限界がある。
そこで、実臨床データの積み重ねから、適正使用情報が得られる仕組みが求められ、米国ではLearning Health Systemという概念が提示されてきた9)。これは、診療記録を電子的に管理し、リアルワールドデータとして、それを解析しながらよりよい治療法を探索する仕組みであり、「研究が臨床を変え、また臨床が研究に影響する」という循環型の概念となっている9)。Learning Health Systemは大規模な時系列の診療データやヘルスケアデータを利用し、医療の改善を目指す自動化システムとして期待されている。

このようなリアルワールドデータの利用は、2020年に予定されているGCP刷新においても顕著であり、規制当局に提出する臨床データの範囲が拡大され、観察研究も対象とされるようになった。将来的にはPragmatic Trials(実際的研究)を筆頭に様々なリアルワールドデータを新たに薬事申請に用いることが可能となる見込みである10)。なお、わが国のリアルワールドデータは、医療機関での診療情報(電子カルテなど)、診療報酬請求情報(レセプト情報)、健康保険組合が受領した診療報酬請求情報および特定健康診査データなどから収集する仕組みが構築されている(図5)。

図5 Pragmatic study designと薬事利用

図5 Pragmatic study designと薬事利用 拡大する

リアルデータを用いた調査

本シンポジウムでは、われわれが現在行っているリアルワールドデータの研究の一つである、健康保険組合レセプトデータベースおよび特定健康診査データベースを用いた、日本人労働者40歳から74歳の被保険者を対象とする生活習慣と生活習慣病について調査した結果を報告した。リアルワールドデータはさまざまな情報が収集可能で、今後、医薬品の薬事申請を含めて、リアルワールドデータがさらに活用されることが期待される。

講演4
長く続く生活習慣改善指導、服薬指導

演者 下澤 達雄 先生
国際医療福祉大学医学部 臨床検査医学 主任教授

生活習慣改善継続のコツ

減塩による心血管疾患への影響を検討した介入研究としてTOHP研究などが知られているが、この結果を見ると減塩による心血管疾患への影響が確認されるまでには10年以上の長い年月を要することがわかる11)。つまり、減塩や食事制限などの生活習慣の改善は長期間にわたって続けていく必要がある。しかし、このような生活習慣の改善を行っても、初期は効果があっても、長期的には多くの患者で体重などにリバウンド現象が認められることが知られている。そこで、食事療法による減量プログラムを実施中のBMI 27-40kg/m2の患者50例に対する調査が行われている。その結果、減量により体重再増加を促してしまうホルモン濃度の上昇が観察され、空腹感も増えることが示されている12)。ニコチン依存性の基礎研究が進んでいる13)ように食欲、塩分依存性のメカニズムが明らかになると新たな治療法が開発されるかもしれない。しかし、現状では、生活習慣の改善を長期にわたり持続させるためには、指導する際の、医師と患者との良好な信頼関係の構築が欠かせないと考えている。

医師と患者のコミュニケーションギャップ

しかし、高血圧治療において、医師と患者には大きなコミュニケーションギャップが存在することが、わが国の調査研究で報告されている14)。本調査の対象は、高血圧治療を行う医師321名と降圧薬を服用している高血圧患者1,000名で行われた。その結果で、初診時の説明に関しては86%の医師が治療目的を説明したと回答したのに対し、説明されたとする患者は39%にとどまっており、コミュニケーションギャップが見られた。また、95%の医師が降圧目標値について説明したと回答したのに対し、44%の患者は説明を受けていない、または覚えていないと回答している。さらに、49%の医師が治療選択肢を説明したと回答したが、患者でその認識のあるのは18%のみとなっており(図6)14)、治療に関するどの質問をとっても医師と患者には大きなコミュニケーションギャップが存在していた。このように、高血圧治療や生活習慣の指導においては、医師と患者にコミュニケーションギャップがあることをよく認識し、これを改善していく必要がある。
一方、高血圧治療を行っていても血圧コントロールが良好でない場合には、服薬アドヒアランスの低下が要因となっていることを考慮する必要がある。実際、治療抵抗性高血圧患者は実際に処方された降圧薬の半数程度しか服用しておらず、血圧コントロールが不十分なのは服薬アドヒアランスの不良が原因となっていることを示唆する研究結果も報告されている(図7)15)。また、先述のアンケート調査では、残薬状況について医師の“確認している”と患者の“確認されている”との回答には大きな隔たりがあることがわかった14)。加えて、患者が考える良好な服薬アドヒアランスで服用できる服薬錠数は医師が考える服薬錠数より1種類少ないという結果が得られている14)。実臨床においては、単剤での血圧コントロールが難しく、複数の降圧薬を併用する必要な高血圧患者が多く確認されるが、そのような高血圧患者に対しては、配合剤が有用な選択肢になると考えている。

図6 医師と患者のコミュニケーションギャップ
-治療選択肢の説明-

図6 医師と患者のコミュニケーションギャップ -治療選択肢の説明- 拡大する

図7 治療抵抗性高血圧と言われた患者の服薬の実際

図7 治療抵抗性高血圧と言われた患者の服薬の実際 拡大する
Closing Remarks

座長 楽木 宏実 先生
大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 教授

服薬アドヒアランスの向上については、さまざまな手法が論じられるものの、実臨床においてそれらを実行していくことは容易ではない。しかし、近年は作用機序の異なる降圧薬の配合剤が登場し、複数の薬剤を服用する必要がある高血圧患者の服薬アドヒアランス向上のための選択肢とされている。また、最近は、ARB/Ca拮抗薬/利尿薬3剤の配合剤による治療が通常の高血圧治療に比べて6ヵ月後の降圧目標達成患者の割合を増加させたという興味深い無作為化比較試験の結果が海外で報告された16)。ミカトリオ®配合錠(テルミサルタン80mg/アムロジピン 5mg/ヒドロクロロチアジド 12.5mg配合剤)の登場により、わが国においても3剤の配合剤の使用が可能となった。配合剤の使用により服薬アドヒアランスが向上し、また、個々の患者に応じた適切な高血圧治療によって、降圧目標達成率が上昇することを期待している。

  • 文献
  • 1) Chobanian AV: N Engl J Med 2009; 361(9): 878-887
  • 2) Miura K, et al.: Circ J 2013; 77(9): 2226-2231
  • 3) Whelton PK, et al.: J Am Coll Cardiol 2018; 71(19): e127-e248
  • 4) Williams B, et al.: Eur Heart J 2018; 39(33): 3021-3104
  • 5) 日本高血圧学会 編:高血圧専門医ガイドブック 改訂第3版, 診断と治療社, 東京, 2014; p8
  • 6) Guyton AC:ガイトン生理学 第11版, エルゼビア・ジャパン, 東京, 2010, p240
  • 7) 厚生労働省:「平成30年度診療報酬改定の概要」
  • 8) 厚生労働省:「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」
  • 9) Greene SM, et al.: Ann Intern Med 2012; 157(3): 207-210
  • 10) 漆原尚巳, 種村菜奈枝.: 医学のあゆみ2018; 265(11): 945-951
  • 11) Cook NR, et al.: BMJ 2007; 334(7599): 885-888
  • 12) Sumithran P, et al.: N Engl J Med 2011; 365(17): 1597-1604
  • 13) Mineur YS, et al.: Science 2011; 332(6035): 1330-1332
  • 14) 西村誠一郎, ほか: 血圧 2018; 25(5): 364-376*
  • 15) de Jager RL, et al.: Hypertension 2017; 69(4): 678-684
  • 16) Webster R, et al.: JAMA 2018; 320(6): 566-579

*本試験は日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の支援により行われた。

PC
2018年10月作成

図1 欧米における血圧区分

図2 血圧調節に関与する因子

図3 かかりつけ医機能評価の充実(2018年度診療報酬改定)

図4 高齢者保健事業におけるアセスメント項目の例

図5 Pragmatic study designと薬事利用

図6 医師と患者のコミュニケーションギャップ -治療選択肢の説明-

図7 治療抵抗性高血圧と言われた患者の服薬の実際