ミカルディス 製品紹介Hypertension Paradox克服のために
~多職種連携と服薬アドヒアランスの重要性~

Hypertension Paradox克服のために
~多職種連携と服薬アドヒアランスの重要性~

監修 大石 充 先生
鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学 教授

治療経験の積み重ねや降圧薬の開発により進化してきた高血圧治療ですが、患者数や血圧管理の状況からその治療法を活かしきれていないのではという声も聞かれます。そこで、現在の高血圧治療の問題点やその解決策について、鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学 教授 大石充先生にお話をうかがいました。

1.我が国における高血圧の現状

約4,300万人にのぼる我が国の高血圧人口は、特に50~60歳代以上の割合が高く、今後の高齢化社会の進展に伴い、さらに増えることが予測されています。
一方で、高血圧治療についての研究は進み、米国のガイドラインにおいて高血圧の診断基準が130/80mmHg以上とされるなど1)、厳格に血圧をコントロールし、降圧目標を達成することの重要性が世界中で認識されるようになってきています。このような背景の中、2019年に改訂が予定されている我が国の高血圧治療ガイドラインでは、高血圧の診断基準や降圧目標がどのようになるのか注目されています。
しかし、現在の我が国の状況を鑑みると、配合剤を含む優れた降圧薬が多数あるにもかかわらず、一般的な降圧目標である140/90mmHg未満を達成している患者は全体の半数にも届いていません2)。このような矛盾した状況は“Hypertension Paradox”といわれ3)、克服すべき喫緊の課題としてさまざまな場面で取り上げられるようになってきています。

2.Hypertension Paradoxが生じる要因

このHypertension Paradoxが生じる要因は大きく2つあると考えています。
1つ目は、服薬アドヒアランスの不良です。現在我が国には多数の降圧薬が存在し、高血圧治療に多くの選択肢があります。しかし、高血圧治療が進歩した反面、高齢化に伴い患者さんは複数の疾患を有するようになり、その服用薬剤数が増加しています4)。服用薬剤数の増加により服薬アドヒアランスの不良を招く恐れがあることは、高血圧患者を対象とした調査においても示されています5)。また、服用薬剤数を減らすための手段のひとつである配合剤については、諸外国にくらべ普及率が高いとは言えず、患者さんの間でもその認知度は低いのが現状です(図1)6)

図1 配合剤を服用していない患者の配合剤の認知

図1 配合剤を服用していない患者の配合剤の認知 拡大する

2つ目は、医療従事者の高血圧治療に対する意識だと考えています。我が国の降圧目標の達成率はいまだ低いにもかかわらず、高血圧治療に対する医師の満足度は98.9%に達し、あらゆる疾患の中で最も治療に対する満足度が高いことが報告されています7)。このギャップには大きな問題意識を持っており、解決する必要があると考えています。自覚症状がほとんどない高血圧ですから、例えば収縮期血圧が145mmHg程度でも「この程度まで下がっていればいいのではないか」「少し様子をみようか」などと、それ以上の治療には踏み込まないといったことが実臨床では起こりがちであるという印象があります。しかし、本来は140mmHg未満の目標値に達していないため、さらに積極的な治療を行うべきところです。こうした状況は医師だけにとどまらず、患者指導を行う保健師や薬剤師にも身に覚えがあるのではないでしょうか。これは、降圧目標値に近づけば良いのではなく、その目標値の達成が重要であるということへの認識が医療従事者の間でさえ低いということが考えられます。また、日々変化する患者さんの、その時の病態に合わせ治療の見直しを行うということも重要ですが、さらなる降圧による副作用などへの懸念からか、病態に合わせた治療薬の選択ができていないということも考えられるでしょう。

3.服薬アドヒアランスを向上させるための対策

これらの要因を解決し、Hypertension Paradoxを克服するためにはひとつひとつ対策をとる必要があります。服薬アドヒアランスを向上させるための対策としては、医療従事者が常に患者の服薬アドヒアランスの状況に留意することから始めなければなりません。病態に合った降圧薬を処方しているにもかかわらず血圧が下がらない場合には、まずは服薬アドヒアランスの不良を疑う必要があります。医師や薬剤師は患者さん本人への聞き取りや処方内容から残薬の有無を、高血圧・循環器病予防療養指導士や保健師は家族や介護者への聞き取りから服薬状況を確認するなど、医療従事者それぞれが服薬アドヒアランスの不良の原因を探ることが重要です。得られた情報は医療従事者間で共有し、連携して服薬アドヒアランスを向上させるための計画を練ります。また、服用薬剤数を減らすことも服薬アドヒアランスを向上させるための一助となるため、処方内容の見直しや配合剤を活用するなどの工夫も効果的です。配合剤については、その認知度が患者さんの間で低い6)ことも問題です。配合剤についての情報提供は、患者さんが配合剤とおなじ組み合わせで処方されていたら、処方に関わる薬剤師から積極的に配合剤の存在についての情報提供を行うことも必要ではないかと考えています。一度、患者さんの配合剤に対する認知度や実際の使用満足度が高いことを経験すると、医師も配合剤を処方に取り入れやすくなり、服用薬剤数を減らすことへとつながるでしょう。

4.医療従事者の高血圧治療に対する意識変容を促すための対策

降圧目標達成の重要性についての認識を高め、日本人の病態に合った薬剤選択を推進するためには、高血圧専門医や日本高血圧学会などが中心となり啓発活動をより広く積極的に行っていく必要があると考えています。啓発活動の対象となるのは医師だけではなく、薬剤師や高血圧・循環器病予防療養指導士などを含むすべての医療従事者です。高血圧治療に携わる医療従事者が共通の目標をもつことで、同じ方向を向いて患者さんへの指導や治療にあたることができます。また、副作用などへの懸念は、例えば利尿薬であれば定期的に血清カリウム値や尿酸値をチェックする、など使用する薬剤に合わせた対策を行うこともできます。その対策のノウハウについても医療従事者間で共有する必要があります。特に大事なことは、降圧目標を達成していない場合は、処方変更の可能性を常にすべての医療従事者が考える、ということです。処方についての考え方はそれぞれですが、その処方が本当に患者さんの病態に合っているか、降圧目標は達成できているのか、という共通の視点をもつことで医療従事者間の治療方針や指導内容も同じ方向にそろえることができます。私は、現在の我が国の降圧薬をうまく使えば、より少ない薬剤数で降圧目標を達成させることが可能であると考えています。ポイントは患者さんの病態に合った薬剤を使用すること、さらに配合剤を活用することです。
意識変容という点に関してだけいえば、それが必要なのは医療従事者だけではないということもここで述べておきます。患者さんやその他一般の人々の意識変容も重要です。市民公開講座などを通じた患者さんや一般の人々への疾患啓発活動にも積極的に取り組み、国民全体の意識変容を促す必要があると考えています。

5.血圧管理向上のための多職種連携の取り組み

これまで述べてきたことですが、高血圧治療においては、医師だけではなく多職種が連携したチーム医療による取り組みが重要となっています。我が国では団塊の世代が75歳以上となる2025年問題への取り組みの一環として、医療・介護・行政・地域が連携して地域の高齢者の生活を支えていく「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。高血圧の予防や診療こそ、この地域包括ケアシステムの中で多職種連携によって取り組まれるべきテーマであると考えています。

多職種連携による厳格な高血圧治療を実現するため、鹿児島県垂水市において行われているプロジェクトがあります。現在の垂水市の高齢化率は約40%で、これは40年後の我が国の姿を表しています。私自身も全体責任者として参加している本プロジェクトでは、垂水市や垂水中央病院、鹿児島大学が垂水市民の健康管理を行い、同時に高齢者コホート研究も行います。多職種としては医師、歯科医師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、栄養士、保健師などに垂水市が加わります(図2)8)。具体的な活動としては、プロジェクトの参加者への家庭血圧計の無料配布や、約2カ月ごとの高血圧教室の開催などがあげられます。多職種が連携して高血圧に関する啓発活動を行い、それらがどのように家庭血圧に影響し、予後を改善するかについて検討する予定です。このプロジェクトを通し、我が国が将来直面するであろう問題について重要な情報を発信することができればと考えています。
また、医薬分業が進んだ現在では、薬局で高血圧患者への服薬指導が行われるケースが多く、地域包括ケアシステムの中でも薬剤師の役割が注目されています。平成27年の薬局の実態調査によると、薬局と医療機関との連携により残薬が減った、服薬アドヒアランスが向上したなどの結果も示されています(図3)4)。私は、特に多職種連携という場において、薬剤師などの医師以外の医療従事者の力に大きな可能性を感じています。それぞれが患者さんにメリットになることができるという立場にあるとの自覚を持ち、その立場をいかして積極的に多職種連携に取り組んでいただきたい、と考えています。

図2 垂水市における多職種連携の取り組み

図2 垂水市における多職種連携の取り組み 拡大する

図3 医療機関と薬局の連携の効果

図3 医療機関と薬局の連携の効果 拡大する

6.高血圧治療に携わる医療従事者の方へ

この記事を読んでくださる医療従事者の方へHypertension Paradox克服のためのポイントとして次のことをお伝えします。まずは、降圧目標達成の重要性についての認識を高めること、そして、医療従事者同士で共通の目標を持ち、その目標に向かってそれぞれの役割を精一杯果たすことです(図4)。
Hypertension Paradoxを克服することは医師だけ、患者だけ、というような限られた人の間での問題ではありません。高血圧治療をとりまく全員で取り組むべき問題です。そのための「厳格な降圧および病態に合わせた薬剤選択についての認識の向上」「降圧目標達成に対する医療従事者間の共通意識の構築」「患者さんへの疾患啓発」この3点をまずは意識を持って取り組んでいきましょう。

図4 Hypertension Paradox克服のためのポイント

図4 Hypertension Paradox克服のためのポイント 拡大する
  • 引用文献
  • 1) Whelton PK, et al.:J Am Coll Cardiol 2018;71(19):e127-e248.
  • 2) Miura K, et al.:Circ J 2013;77:2226-2231.
  • 3) Chobanian AV:N Engl J Med 2009;361(9):878-887.
  • 4) 中医協:個別事項[その4薬剤使用の適正化等について] 2015.
  • 5) 齊藤郁夫:血圧 2006;13(9):1019-1025.
  • 6) 西村誠一郎, ほか:血圧 2018;25(5):364-376.
  • 7) 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団:国内基盤技術調査報告書(2015年度) 2016.
  • 8) 鹿児島ハート倶楽部:垂水研究(https://www.k-heartclub.com/blank-5).
  • * 本試験は日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の支援により行われた。
PC
2018年12月作成

図1 配合剤を服用していない患者の配合剤の認知

図2 垂水市における多職種連携の取り組み

図3 医療機関と薬局の連携の効果

図4 Hypertension Paradox克服のためのポイント