オフェブIPFluegel 2018 No.4

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IPF Topics

IPFの理解を深めるトピックワード
オートファジー機能の低下と肺線維化
桑野 和善 先生東京慈恵会医科大学 内科学講座 呼吸器内科 主任教授

Key words

オートファジー、マイトファジー、肺線維化、アポトーシス、細胞老化、筋線維芽細胞、活性酸素種(ROS)、血小板由来増殖因子(PDGF)

オートファジーは、細胞内環境の恒常性を維持するために、細胞質内のタンパク質や細胞小器官を分解し、再利用できる栄養素として提供する自己分解機構である。オートファジー機能はさまざまな細胞ストレスで誘導されるが、近年、IPF病態におけるオートファジー機能の低下と肺線維化とのかかわりが注目されている。ここでは、オートファジー機能の低下が肺線維化を進展させるメカニズムについて、細胞分子病態に着目して解説する。

オートファジーの役割と機構

細胞がもつタンパク質分解システムであるオートファジー(自食作用)は、半世紀前に電子顕微鏡下で発見されていたが、その過程に関与する因子が不明であったため、生体内での役割や機構については長らく研究の進展がみられなかった。しかしながら、1990年代にオートファジー関連遺伝子(ATG)群が同定されたことを契機に研究が飛躍的に進み、オートファジーの分解機構が明らかになってきた(図1)1)。オートファジーの分解機構は、細胞質において、前オートファゴソーム構造体(PAS)から二重膜様構造の隔離膜が形成されることに始まる。隔離膜は、不要になったタンパク質や損傷を受けた細胞小器官などを囲い込みながら伸長し、オートファゴソームと呼ばれる小胞を形成する。続いて、細胞内消化を担うリソソームと融合し、一重膜のオートリソソームとなる。オートリソソームに内包された細胞質成分は、リソソーム内に豊富に含まれる加水分解酵素によりアミノ酸や核酸に分解され、細胞内の栄養素として再利用される。

オートファジーには、分解対象となる細胞質成分を選択しない(バルク分解)非選択的オートファジー(図1a)と、特定の細胞質成分を分解対象とする選択的オートファジー(図1b)がある1)。非選択的オートファジーには、オートファゴソームで取り囲まれた内部全体を分解するマクロオートファジーや、オートファゴソームを介さず細胞質成分を直接リソソームに取り込んで分解するミクロオートファジー、シャペロン介在性オートファジーがある。選択的オートファジーでは、分解すべきタンパク質や細胞小器官をユビキチンシグナルで認識し分解する。主なものとして、ミトコンドリアを分解するマイトファジー、タンパク質凝集体を分解するアグリファジー、ペルオキシソーム(多様な物質の酸化反応を行う細胞小器官)を分解するペキソファジーなどがある。
細胞の恒常性維持の中心的な役割を担うオートファジー機能の低下は、さまざまな疾患の病態形成に関与すると考えられている。

オートファジー機能の低下による肺線維化の進展

粉塵やたばこの煙、ウイルスなどの外的環境因子が気道を通して直接臓器に進入してくるため、肺は細胞傷害性ストレスを受けやすい環境にある。これら外的環境因子のストレス刺激と、加齢・免疫異常といった内的因子との相互作用により細胞が損傷を受けると、細胞内の防御機構の1つとしてオートファジー機能が亢進する。しかし、IPFの病態では、外的環境因子によるストレス刺激が過剰となり、オートファジー機能の低下をきたしている(図2)2)。オートファジー機能の低下により、肺胞上皮細胞のアポトーシスおよび細胞老化が亢進し、また線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化が誘導され、肺線維化が進展すると考えられている(表)2-5)

筋線維芽細胞の増殖と線維芽細胞巣の形成は、IPFの特徴的病理像の1つである。要因として、ミトコンドリア特異的オートファジーであるマイトファジー機能の低下による血小板由来増殖因子(PDGF)受容体およびその下流シグナルの活性化が報告されている(図3)6)。マイトファジー機能の低下により、細胞内に損傷を受けたミトコンドリアが蓄積すると、活性酸素種(ROS)が過剰に産生され、PDGF受容体の自己リン酸化が持続的に誘導される。このPDGF受容体シグナルの活性化は、線維芽細胞の増殖・遊走を促進する一方で、マイトファジー機能の抑制に働き、損傷を受けたミトコンドリアがさらに蓄積する。このような悪循環により、筋線維芽細胞への分化・増殖が促進され、線維芽細胞巣が形成されると考えられる。

PDGF受容体シグナルを抑制することにより、オートファジー/マイトファジー機能の低下で誘導される肺線維化が抑えられることが報告されている6)。ヒト線維芽細胞で、オートファゴソームの形成に不可欠であるATG5遺伝子をノックダウンしオートファジー機能を抑制すると、α平滑筋アクチン(α-SMA)の発現の亢進が認められ、筋線維芽細胞への分化が誘導された。この分化誘導は、PDGF受容体阻害剤(AG1296)でPDGF受容体シグナルを阻害すると抑制された(図4a)6)。また、マイトファジーで分解対象の認識に不可欠なユビキチン化に関与するパーキン2(PARK2)遺伝子のノックダウンでも同様の結果が認められた(図4b)6)。さらに、マイトファジー機能が低下していると考えられるPARK2ノックアウトマウスにおいて、ブレオマイシン(BLM)で誘導される肺線維化がコントロールと比べて増強した。この線維化の増強は、PDGF受容体阻害剤(AG1296)の線維化形成初期投与により効果的に抑制された(図4c)6)。オートファジー/マイトファジー機能の低下による肺線維化がPDGF受容体阻害剤で抑制されたことから、肺線維芽細胞におけるオートファジー/マイトファジー機能の低下は、PDGF受容体を介したシグナル伝達経路で調節されていることが示唆される。

IPF病態へのオートファジーの関与について、詳細は未だ明らかになっていない。しかしながら、オートファジー機能の低下を抑制することは、IPFの肺線維化に対する有効な治療につながると期待される。今後、IPF病態を理解するための新たなアプローチである「オートファジー機能の解明」が進展し、IPF治療に大きく貢献することであろう。

文献

  1. 1)Kaur J, et al. Nat Rev Mol Cell Biol 2015; 16: 461-472.
  2. 2)Araya J, et al. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2013; 304: L56-69.
  3. 3)Patel AS, et al. PLoS One 2012; 7: e41394.
  4. 4)Kuwano K. Intern Med 2008; 47: 345-353.
  5. 5)Kuwano K, et al. Respir Investig 2016; 54: 397-406.
  6. 6)Kobayashi K, et al. J Immunol 2016; 197: 504-516.