オフェブIPFluegel 2018 No.4

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医療の現場から

インタビュー
自治医科大学におけるIPF患者さんとの向き合い方
坂東 政司 先生自治医科大学内科学講座 呼吸器内科学部門 教授
坂東 政司 先生

呼吸器専門医を目指したきっかけは、「原因不明の難治性疾患が多かったから」と語る坂東先生。自治医科大学 呼吸器内科は、びまん性肺疾患の病態解明や新しい治療法の開発に尽力してきた歴史ある教室で、そこに身を置き研鑽を積む中で、びまん性肺疾患の診療に携わっていく覚悟をもったと話す。「まだ私が学生だった30年前から、自治医科大学ではほぼ毎週1回、肺がん症例を中心に呼吸器内科医・外科医、放射線科医、病理医が参加するChest Conferenceがすでに実施されていた。今、思い返すとそれはMDD(multidisciplinary discussion:集学的検討)の原点のようなものであった」と当時を振り返る。
また、地域医療に従事した経験から学んだ「常に患者さんを中心とする医療」を今でも大切にしていると語る。呼吸器疾患は命に直結することが多く、治療はたやすくないが、患者さんのニーズを考え、寄り添う姿勢を忘れないことで、自ずと進むべき道、解決に導く方法が見えてくるという。今回は、自治医科大学におけるIPF患者さんとの向き合い方について、坂東先生にお話しいただいた。

Point

  • 病名の告知時や、治療の導入についての説明時には患者さんだけでなく、ご家族にも同席していただくことで、IPFがどのような疾患であるのかを理解しやすくなり、納得·安心して治療を受けていただけるようになる。
  • 精神的因子の影響を大きく受けるため評価が難しい「息切れ」の多面的評価などにおいては、限られた診察時間の中で、他職種との情報共有などにより、患者さんの病態や経過を的確に把握することが必要不可欠である。
  • 患者さんが抱える社会的、心理的、経済的な諸問題の軽減のため、MSWと連携して患者さんを包括的に支援することが重要である。

自治医科大学におけるIPF患者さんの特徴

当院は、北関東地域で高度医療を提供する呼吸器専門施設として重要な役割を担っています。特にびまん性肺疾患の臨床・研究に力を入れており、重症度Ⅰ度からⅣ度までのさまざまな重症度のIPF患者さんが紹介受診されます。また、当院は地域医療の担い手でもあり、IPF急性増悪の患者さんの緊急入院も多く経験します。

自治医科大学におけるIPF診断・治療の方針

IPF治療では、疾患を治療するだけでなく、患者さんが抱える心理的な負担や経済的な問題なども同時に解決していく必要があり、さまざまな職種による包括的なケアが重要です(図)。また、長く続く闘病生活を支えるためには、患者さんのご家族に対するサポートも欠かせません。

1診断のプロセス

当科におけるIPFの診断・治療はガイドラインに則ったものですが、最新のエビデンスをさらに加えた医療の提供を目指しています。当科ではIPFの病名告知に関して、がんと同程度に配慮すべきと考え慎重に行っており、告知の際には可能な限り患者さんのご家族にも同席をお願いして、IPFがどのような疾患であるのかをご家族の方にも情報共有するように努めています。今はインターネットから情報が容易に得られる時代ですから、IPFという病名が独り歩きしないように、そして患者さんとご家族が過剰に心配することがないように対応することを心がけています。

2治療薬の導入

抗線維化薬の登場によって、IPF患者さんが治療の機会を得られるようになりました。そこで私たちは、治療選択肢があることを情報提供した上で、症状の有無や臨床経過により治療開始のタイミングを検討しています。無症状のIPF患者さんは、まず経過観察を行い、病状の悪化傾向を認めた時点で治療導入を検討します。ただし、最適な治療導入のタイミングを逸しないよう、定期的に患者さんの状態をチェックし、細心の注意を払います。一方、症状がすでにあるIPF患者さんは、できるだけ早期から積極的に治療導入を検討します。
治療が必要な患者さんであっても、その治療を受けるかどうかの判断は患者さんと十分話し合ってから決定します。しかしながら、1回の説明で決断できる患者さんは限られています。そこで私たちは、スムーズに治療を受けていただくために、診断時から治療法があることを説明し、治療が必要と判断した時点で、ご家族にも同席していただいて、改めて治療内容について説明しています。患者さんとそのご家族に納得して治療を受けていただくため、実際の治療開始は説明から1~2ヵ月後と余裕をもって臨んでいます。

3患者フォローアップ

外来でのフォローアップでは、IPF急性増悪の早期対応に力を注いでいます。患者さんが「いつもと違うな」と感じた場合には、早期の定期外受診を勧めています。また、急性増悪への対応の遅れは、たとえ数日でも命にかかわりますから、急性増悪リスクの高い患者さんの情報は院内で共有し、緊急受診時でも適切に対応できる態勢を整えています。
また、限られた診察時間で患者さんの病態や経過を的確に把握するには、さまざまな工夫が必要です。例えば、「息切れ」という症状は精神的因子に大きく影響されるため、実は患者さんの訴えからだけでは判断できない難しい症状です。ご家族からの情報を看護師から、日常生活での身体活動の情報を理学療法士からフィードバックしてもらうなど、他職種との連携も欠かせません。
さらに、外来でのフォローアップでは患者さんが抱える社会的、心理的、経済的な諸問題の軽減にも努め、当院の患者サポートセンター内にある医療福祉相談室と連携し、医療ソーシャルワーカー(MSW)と協力しながら患者さんを包括的に支援しています(➡医療の現場から 鼎談 自治医科大学における患者サポートセンターの役割と院内連携について)。IPF治療は医療費が高い上、長期にわたるため、経済的な問題が治療開始やアドヒアランスに影響を与えることが少なくありません。しかし、当院ではこれまでにもMSWとの連携によって医療費に関する問題を解決した事例を数多く経験しています。

IPF診療における課題と今後の期待

IPFは現時点では完治が困難である(難治性)疾患ですが、早期の診断・治療により進行を抑えることができるようになりました。日本は国民皆保険制度や検診体制が充実しており、無症状のIPF患者さんの発見割合は諸外国と比較すると高いと考えられます。一方で、残念ながらIPFに精通する専門医の数が十分でなく、自覚症状があっても未診断の患者さんが一定数存在することも事実です。この課題の解決に向けては、IPFを含めた特発性間質性肺炎を早期発見するための病診連携の構築と、非専門・かかりつけの先生方に対するガイドラインの普及を含めた情報提供が必要だと考えています。もちろん、IPFの科学的な疾患概念・定義の確立は重要ですが、治療薬が登場した現在はIPFという疾患概念を広く捉えて治療機会を逃さないようにすることも大切なことのように思います。
私の希望は、疫学的研究や基礎的研究を含め、多方面からのアプローチによってIPFから「I(idiopathic)」をなくすことです。「idiopathic」は「原因不明」という意味ですが、原因のない疾患はありません。今後、原因が究明されるとともに、再生医療分野などの発展によりIPFの「Cure」が可能になることも期待しています。