オフェブIPFluegel 2019 No.5

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IPF Topics

IPFの理解を深めるトピックワード
新規バイオマーカー研究の今
高橋 弘毅 先生札幌医科大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学講座 教授

Key words

バイオマーカー、肺線維化、線維芽細胞、マイクロバイオーム

IPFの診断は、臨床所見および検査所見より総合的に判断することが重要であることは言うまでもない。血液検査は診療には欠かせない項目となっている一方で、感度・特異度が十分に検証されたIPF特異的な血清マーカーは現在のところ存在しない。
IPFの病態にはさまざまな因子が関与しており、中でも線維芽細胞はその増殖、筋線維芽細胞への分化、さらには細胞外基質産生などの作用を介して線維化の進展における中心的な役割を担っている。近年、これら線維化の分子メカニズムに関する研究は発展がめざましく、その分子をターゲットとした新規バイオマーカーにも注目が集まっている。本稿では開発が強く望まれている新規バイオマーカー研究の現況について概説する。

世界標準の血清バイオマーカーはジャパンメイド

現在、世界で広く用いられている間質性肺疾患の代表的な血清バイオマーカーは、Krebs von den Lungen-6(KL-6)、surfactant protein D(SP-D)およびsurfactant protein A (SP-A)であり、いずれも本邦において開発された。KL-6は、膜貫通型非分泌型ムチンMUC1上のシアル化糖鎖抗原であり、Ⅱ型肺胞上皮細胞および気管支上皮細胞の管腔側に発現している。SP-DおよびSP-Aは、肺コレクチンに属する親水性分泌型糖タンパクであり、Ⅱ型肺胞上皮細胞およびクラブ細胞で産生され、肺局所の自然免疫に関与している。これらは肺胞-毛細血管透過性の亢進により、気管支上皮被覆液より血中へ移行し、血中濃度が上昇すると考えられている。KL-6やSP-D、SP-Aの値はIPF特異的に上昇するものではないが、診療における早期発見や疾患活動性の評価、予後の予測に有用であることが示されている1-3)

血清バイオマーカーで急性増悪を予測する

IPFは一般的に慢性かつ進行性の経過を示す予後不良な疾患である。一方で、時に急性増悪を引き起こし、短期間で死に至ることもある。安定期および急性増悪時のIPF患者67例を対象に、血清バイオマーカーを検討した結果、安定期と比較して急性増悪時ではKL-6およびSP-Dの値が有意に高かった(KL-6:p=0.0003、SP-D:p=0.01)(図1)4)。急性増悪の原因は明らかではなく、予測することは困難であるが、血清バイオマーカーを経時的に測定することで、リスクの高い患者を検出することができる可能性が示唆されている。

肺線維化のメカニズム

IPFの病因および線維化への進展メカニズムについては未だ十分に解明されていないが、近年の科学技術の進歩に伴い、分子細胞生物学的解析によるさまざまな研究報告がなされ、徐々に明らかになっている(図2)5)。慢性的な刺激に対する肺胞上皮細胞の感受性の亢進、それに伴うアポトーシスや小胞体へのストレス、さらにオートファジーの異常がIPFにおける異常修復の起点となり、線維芽細胞の活性化を促すことが一因と考えられている。IPFの病態にはトランスフォーミング増殖因子(TGF-β)や血小板由来増殖因子(PDGF)などさまざまな増殖因子が関与している。なかでもTGF-βは線維化の中心的な役割を担っており、コラーゲンなどの細胞外基質の産生を亢進し、筋線維芽細胞への分化を促進する一方で、筋線維芽細胞のアポトーシス抑制効果を持つ6)。また、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を減少させ、組織メタロプロテアーゼインヒビター(TIMP)、およびプラスミノーゲン活性化抑制因子(PAI-1)を増加させることにより線維化を促進すると考えられている。

新規バイオマーカー候補

線維化のメカニズムが分子レベルで明らかになるにつれ、これらの分子をターゲットとしたIPF特異的な新規バイオマーカーの研究・開発も加速している。今後の臨床応用が期待される血清バイオマーカーとしては、マトリライシン(MMP-7)やネオエピトープ*、ペリオスチン、リゾホスファチジルコリンなどがあげられる。
MMPは活性部位に亜鉛基をもつプロテアーゼ群であり、細胞外基質の分解・リモデリングをはじめ、細胞の分化・増殖の抑制などさまざまな役割を担っている。なかでもMMP-7は、コラーゲンの分解に関与しており最も注目されている血清バイオマーカー候補のひとつである。IPF患者213例を対象に拘束性換気障害および予後予測におけるMMP-7の検討を行った結果、観察開始時MMP-7は4ヵ月後の努力性肺活量(FVC)変化率と有意に相関し(p=0.00397)、血清値が高いほどFVCが減少しやすい傾向が認められた7)。さらにMMP-7低値群と比較して高値群では有意に予後が不良であった(HR:2.2、95%CI:1.4-3.7、p=0.001)7)
細胞外基質の分解産物であるC-reactive protein degraded by MMP-1/8(CRPM)やcollagen 1 degraded by MMP-2/9/13(C1M)、collagen 3 degraded by MMP-9(C3M)などはMMPにより分解されたペプチド断片であり、ネオエピトープとして知られている。IPF患者134例を対象に血清中のネオエピトープ解析を行った結果、コントロール群と比較してCRPM、C1M、C3Mにおいて有意な上昇がみられた(CRPM:p=0.024、C1M:p=0.001、C3M:p=0.044)(図3)8)。また、1、3、6ヵ月後の安定期および進行期のIPF患者において同様の解析を行った結果、CRPMにおいては経過を通じて一貫して有意な上昇がみられた(1ヵ月:p=0.028、3ヵ月:p=0.030、6ヵ月:p=0.001)(図4)8)。さらに、これらマーカー値の安定群および上昇群において全生存率を検討した結果、CRPMにおいて最も顕著に有意差がみられた(p=0.002)(図5)8)

IPF患者では、細胞外基質のターンオーバーの過程において、疾患特異的に亢進するMMPにより切断されたネオエピトープが産生される。したがって、これらネオエピトープはIPFの疾患活動性を反映するバイオマーカーと考えられ、より確度の高い診断や予後の予測、さらには抗線維化薬の治療効果の予測に有用なマーカーとして期待されている。
ペリオスチンはTh2サイトカインであるIL-13によってその発現が誘導される細胞外基質であり、Ⅰ型コラーゲンやフィブロネクチンなどのほかの細胞外基質と結合することで線維化に関与しているといわれている。また、ペリオスチンは肺胞上皮細胞が障害を受けた際に、線維芽細胞から分泌され、TGF-βの産生亢進および筋線維芽細胞への分化を促進することが示唆されている9)。IPF患者60例を対象に、ペリオスチンの有用性について検討した結果、従来の血清バイオマーカーであるKL-6およびSP-Dと同様の陽性率を示した10)。またペリオスチンは、KL-6およびSP-Dでは捉えられなかった%VCおよび%DLcoの短期変化率を有意に反映した10)。肺が何らかの障害を受けることで上昇するマーカー(KL-6、SP-A、SP-D、MMP-7など)とは異なり、ペリオスチンは線維化を純粋に反映している可能性があるという点からも今後の臨床応用が期待される。
脂質についてもリゾホスファチジルコリンがIPF患者において有意に上昇することが報告されている11)

*ネオエピトープ:タンパク質の分解や変性、または遺伝子変異などによって出現する新たな抗原(エピトープ)

肺内マイクロバイオームとIPFのただならぬ関係

長きにわたり下気道は上気道とは異なり、免疫機構が正常な健常人においては無菌であると考えられてきた。これは培養主体の検査には限界があったことによるが、16sリボソームRNA解析やメタゲノム解析といった手法が確立されたことにより、下気道にもさまざまな常在細菌が存在することが明らかとなった。肺内細菌叢は肺内マイクロバイオームと呼ばれ、IPFとの関連について興味深い報告がなされている。IPF患者65例においてBALF中の総菌数と生存率を検討した結果、総菌数が多いほど予後が不良であることが示唆された(HR:4.59、p<0.05)12)。また、IPF患者34例において肺内マイクロバイオームとFVCについて検討したところ、特定の菌種において有意な相関関係が認められた(ファーミキューテス門:p=0.0007、レンサ球菌科:p=0.0159、プロテオバクテリア:p=0.0015)(図6)13)。肺内マイクロバイオームとIPFとの関連については研究が始まったばかりであるが、従来のバイオマーカーとは異なった側面からIPFの病態を把握する一助となるかもしれない。

IPF特異的なバイオマーカーの開発をめざして

抗線維化薬の登場に伴い、バイオマーカーの重要性は益々高まると考えられる。KL-6やSP-D、SP-Aといった既存の血清バイオマーカーは、IPFの診療において有用であることが示されているが、肺の線維化を特異的に検出できるものではない。IPFの病因に特異的な複数のバイオマーカーが開発されることで、より的確な診療が可能となることが望まれる。

 

まとめ

 

新規バイオマーカー候補

バイオ
マーカー
現在の検証 今後期待されること
MMP-7 FVC変化率と負の相関がみられた
MMP-7低値群と比較して高値群では
有意に予後が不良であった
拘束性換気障害と予後の予測
ネオエピトープ
(CRPM、C1M、C3M、など)
IPF患者において病態進行および
予後との相関がみられた
患者ごとの病態の把握や予後の予測、
抗線維化薬の治療効果の予測
ペリオスチン KL-6、SP-Dと同様の陽性率を示した
%VC、%DLcoの短期変化率を有意に反映した
線維化を特異的に検出できる
バイオマーカー
リゾホスファチジルコリン IPF患者において上昇がみられた 新たな脂質バイオマーカー
マイクロバイオーム BALF中の総菌数が多いほど予後が不良であった
特定菌種とFVCに相関がみられた
従来のバイオマーカーとは
異なる側面からのIPFの病態の把握

文献

  1. 1)Harigai M, et al. Mod Rheumatol 2013; 23: 284-296.
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2019年3月作成