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特発性肺線維症(IPF:Idiopathic Pulmonary Fibrosis)の特徴

IPFの特徴は?

特発性肺線維症(IPF)は、原因不明の間質性肺炎(特発性間質性肺炎:IIPs)の中の約半数を占める頻度の高い疾患であり、慢性かつ進行性の経過をたどり、高度な線維化が進行して不可逆性の蜂巣肺形成をきたします。IPFは、予測できない多様な臨床経過をたどる致死的な疾患であり、生存期間は診断から2~3年と予後不良です。50歳未満の発症は少なく、一方で、加齢、喫煙、男性などで発症リスクが高くなります。発症時の主症状として、労作時呼吸困難(息切れ)や乾性咳嗽などが認められ、時間の経過とともに呼吸機能が低下します。
画像所見および病理所見では、IPFに特徴的な通常型間質性肺炎(UIP:Usual Interstitial Pneumonia)パターンが認められます1)

IPFの特徴

病型 慢性かつ進行性の線維化を伴う原因不明の慢性型間質性肺炎の1つ
画像所見の特徴 高度な線維化の進行および不可逆性の蜂巣肺形成
病理組織パターン UIP
発症時の主症状 労作時呼吸困難および乾性咳嗽
臨床経過 時間の経過に伴い呼吸機能が低下
予測不能かつ多様な臨床経過
予後 致死的で、生存期間(中央値)は診断から2~3年
リスクファクター 加齢(50歳未満はまれ)、喫煙、男性など

文献1)より作成

文献

  1. 1)Raghu G, et al. Am J Respir Crit Care Med 2011; 183: 788-824.

IPFの臨床症状は?

IPFの初期症状は、労作時呼吸困難(息切れ)や乾性咳嗽です。このような初期の非特異的症状は、加齢、心臓病、肺気腫、気管支炎、喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)によるものと誤解されることがあります1)

IPFの一般的な徴候として、聴診所見による「捻髪音(fine crackles、ベルクロラ音)」があり、IPF患者の90%前後に認められます2)。IPFの初期段階において、この捻髪音は背側肺底部で聴取され、病変が広がるにつれ、上方へと広がっていきます。
このほかにIPFの症状として「ばち指」があります。指の先端や爪部が幅広くなり、ばち状にふくれ丸い形状に変化します。「ばち指」は、アメリカ胸部医学会(ATS)/ヨーロッパ呼吸器学会(ERS)による報告では25~50%3)、日本の報告では約30~60%に認められたと示されています4-6)
また、肺以外での症状(肺に関連しない症状)はまれですが、体重減少、倦怠感および疲労感が認められる場合があります。

文献

  1. 1)Collard HR, et al. Respir Med 2007; 101: 1350-1354.
  2. 2)日本呼吸器学会 びまん性肺疾患 診断・治療ガイドライン作成委員会. 第Ⅲ章 IIPs各疾患の概念と診断・治療. In: 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き(改訂第3版). 東京: 南江堂; 2016: 47.
  3. 3)American Thoracic Society. Am J Respir Crit Care Med 2000; 161: 646-664.
  4. 4)近藤有好, ほか. 厚生省特定疾患びまん性肺疾患調査研究班平成4年度研究報告書1992; 11-18.
  5. 5)泉孝英. 日本内科学会雑誌 1995; 84: 1396-1406.
  6. 6)坂東政司, ほか. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患に関する調査
    研究平成25年度研究報告書 2014; 59-64.

IPF患者の臨床経過は?

IPFの臨床経過は、患者ごとに異なります。
診断時より、病勢が数年単位で緩徐に進行する症例がある一方で、急速に進行する症例もあり、これらを予測することは困難です。また、IPFの特徴として、経過中に突然起こる急性増悪と呼ばれる急激な病態の悪化により、呼吸不全が急速に進行し、予後不良となる場合があります。


IPFの潜在的な臨床経過

IPFの潜在的な臨床経過

文献

  1. 1)Kim DS, et al. Proc Am Thorac Soc 2006; 3: 285-292.

IPFの急性増悪とは?

IPFの急性増悪とは、慢性経過中に両肺野での新しいすりガラス影・浸潤影の出現に伴い、急速な呼吸不全の進行がみられる病態です。IPFの急性増悪は、肺炎や肺塞栓、気胸、心不全などによる原因によらず、原因不明な場合に診断されますが、その誘因が推定できる場合があり、ステロイドの減量、手術後、気管支肺胞洗浄(BAL)などの検査手技後、薬剤性などが報告されています。
高分解能CT(HRCT)による画像所見では、既存の慢性経過の間質性肺炎を示唆する網状影や蜂巣肺所見に加えて、新たに両側性にすりガラス影や浸潤影などの濃度上昇域が加わります。

急性増悪による画像所見の変化

急性増悪による画像所見の変化

「日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎診断と治療の手引き,
改訂第3版, p.70, 2016, 南江堂」より許諾を得て抜粋改変し転載

IPFの急性増悪は日本で提唱された疾患概念であり、日本では2004年に下表の診断基準案が示されています1)

日本におけるIPFの急性増悪の診断基準案

  1. IPFの経過中に、1ヵ月以内の経過で
    • (1)呼吸困難の増強
    • (2)HRCT所見で蜂巣肺所見+新たに生じたすりガラス影・浸潤影
    • (3)動脈血酸素分圧(PaO2)の低下(同一条件下でPaO2 10mmHg以上)の
      すべてがみられる場合を「急性増悪」とする
  2. 明らかな肺感染症、気胸、悪性腫瘍、肺塞栓や心不全を除外する
    参考所見:
    • (1)CRP、LDHの上昇
    • (2)KL-6、SP-A、SP-Dなどの上昇

「日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎診断と治療の手引き,
改訂第3版, p.71, 2016, 南江堂」より許諾を得て抜粋改変し転載

一方、欧米ではIPFの急性増悪は、長年IPFの自然経過や肺炎の合併と理解されていましたが、近年では、欧米でもIPFの急性増悪に対する理解が深まり、2007年には米国から診断基準が報告され、その改訂版として2016年に国際作業部会レポートにより下表の診断基準が示されています1)。なお、本レポートでは、感染、手術後、検査手技後、薬剤性、誤嚥など、誘因の推定できる場合をtriggered acute exacerbation、誘因が認められない場合をidiopathic acute exacerbationと定義しています。


米国におけるIPFの急性増悪の診断基準

  1. (1)過去、あるいは増悪時のIPFの診断
  2. (2)通常1ヵ月以内の急性の悪化、あるいは呼吸困難の進行
  3. (3)HRCT所見では背景のUIP パターンに矛盾しない所見の存在と、
    新たなすりガラス影かつ/あるいは浸潤影の出現
  4. (4)心不全、あるいは体液過剰のみでは説明できない悪化
  5. (1)~(4)のすべてを認めた場合を「急性増悪」、欠損データがある場合は、「急性増悪疑い」とする

「日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎診断と治療の手引き,
改訂第3版, p.71, 2016, 南江堂」より許諾を得て抜粋改変し転載

文献

  1. 1)日本呼吸器学会 びまん性肺疾患 診断・治療ガイドライン作成委員会. 第Ⅲ章 IIPs各疾患の概念と診断・治療. In: 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き(改訂第3版). 東京: 南江堂; 2016: 69-71.

IPFの合併症は?

IPF患者では、肺癌の合併率が5~30%と高いことが報告されており1-4)、肺癌は急性増悪や慢性呼吸不全とともにIPFの主要な死因の1つです5)
IPFの合併症としては、肺気腫(気腫合併肺線維症)、肺癌、気胸、縦隔気腫、肺高血圧、右心不全、感染症などがあります。IPFでは、IPF自体の治癒は期待しがたいため、経過中の合併症対策が重要になります。

IPFの合併症と管理

合併症 対策と管理
肺気腫
(気腫合併肺線維症)
肺癌や肺高血圧の合併率が高く、それらを早期に発見し管理する。
肺高血圧が疑われる場合には右心カテーテル検査の実施が推奨される。
肺癌 外科療法、化学療法、放射線治療のいずれにおいても急性増悪を惹起する可能性があり、IPFの存在そのものが治療の制限となる。
気胸、縦隔気腫 気胸は、無症状では経過観察、呼吸困難を生じた場合にはチューブドレナージが適応となる。
縦隔気腫は、対症療法で対応する。
肺高血圧、右心不全 治療の中心は持続的酸素療法であるが予後改善効果は不明である。
浮腫、心不全に対しては、利尿薬、ジギタリス製剤、抗凝固薬の使用を考慮する。
感染症 免疫抑制薬の使用中は白血球数、グロブリン量、β-D-グルカンなどを状況に応じてチェックする。
イソニアジド、スルファメトキサゾール・トリメトプリムの予防的投与が推奨される。

文献4) より作成

文献

  1. 1)Kawasaki H, et al. J Surg Oncol 2001; 76: 53-57.
  2. 2)Kawasaki H, et al. J Surg Oncol 2002; 81: 33-37.
  3. 3)Park J, et al. Eur Respir J 2001; 17: 1216-1219.
  4. 4)日本呼吸器学会 びまん性肺疾患 診断・治療ガイドライン作成委員会. 第Ⅳ章 管理総論. In: 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き(改訂第3版). 東京: 南江堂; 2016: 123-125.
  5. 5)Natsuizaka M, et al. Am J Respir Crit Care Med 2014; 190: 773-779.