プラザキサ 製品紹介 不整脈非薬物治療ガイドライン
(2018年改訂版)改定のポイント

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野上 昭彦 先生

不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン 班長、
筑波大学医学医療系 循環器不整脈学 教授
野上 昭彦 先生

今回、「不整脈非薬物治療ガイドライン」が8年ぶりに改訂された。カテーテルアブレーション(以下、アブレーション)治療の技術向上や植込み型心臓電気デバイスの進歩に伴い、不整脈非薬物治療が急速に発展したことを背景に、2018年改訂版では、最新のエビデンスを踏まえて内容が改められた。近年、増加が著しい心房細動(AF)に対するアブレーションの治療適応に関する記述では、症候性AFの場合、抗不整脈薬の投与を経ずにアブレーションを施行することも第一選択として妥当性があるとされた。また、AFに対するアブレーション周術期の抗凝固療法として、ダビガトラン継続投与もしくはワルファリン継続投与が推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAと明記された。本企画では、本ガイドライン改訂に至った背景や主な改訂ポイントに加えて、AFに対するアブレーション治療やその周術期における抗凝固療法に焦点をあて、ガイドラインの班長である野上昭彦先生にご解説いただいた。

2018年改訂版の作成にあたって

不整脈非薬物治療(心臓電気デバイス治療、アブレーション、心臓外科手術)に関するガイドラインは、2001年の初版発表後、2006年に第1回、2011年に第2回の改訂が行われました。アブレーションに関しては、同手技の多岐にわたる内容を網羅するため、2012年に「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」が発表されました。不整脈非薬物治療の進歩はその後さらに加速し、新たな機能や有用性・エビデンスが次々に現れてきました。このような目覚ましい発展を背景として、本ガイドラインは多くの点で変更・改訂を迫られることとなり、今回、両ガイドラインを統合する形で改訂しました。
2011年以降、①植込み型ループレコーダー、②皮下植込み型除細動器、③装着型除細動器、④遠隔モニタリング、⑤MRI対応型デバイス、⑥リードレスペースメーカ、⑦AFに対する肺静脈隔離を目的としたバルーンテクノロジー、⑧経皮的リード抜去術、⑨左心耳閉鎖デバイスなどの革新的な機能や治療法が次々に登場し、本ガイドラインではこれらについて新しく項目を設ける必要がありました。なお、今回のガイドライン改訂においては、9学会からなる合同研究班を設けて活動しましたが、このうち特に中心的な役割を果たした日本循環器学会と日本不整脈心電学会の合同ガイドラインとして発表することになりました1)

ガイドラインの目的

本ガイドラインの目的は、徐脈性不整脈、上室性頻拍、AF、心室期外収縮、心室頻拍、心室細動などの不整脈、ならびにそれらに伴う心不全や血栓塞栓症などに対する治療の適応、成績、合併症を明確にし、その手技を明示することにより、治療の標準化をはかることです。ただし、ガイドラインは医師が実地診療において疾患を診断、治療するうえでの指針であり、最終的な診断や治療方針は主治医が個々の患者の臨床的背景や社会的状況を十分考慮し、判断することが重要です。
なお、推奨度とエビデンスのグレードは、従来の米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)/米国不整脈学会(HRS)ガイドラインに準拠して、各診断法・治療法の適応に関する推奨の程度をクラスⅠ、Ⅱa、Ⅱb、Ⅲに、その根拠のレベルをA、B、Cに分類しました。また、公益財団法人日本医療機能評価機構のEBM 普及推進事業(Minds)が診療ガイドラインの作成方法として公開している推奨グレードとエビデンスレベルも併記しました。ただし、Minds分類はエビデンスレベルに関する考え方がAHA/ACC/HRSガイドライン分類とは基本的に異なるため、参考程度に留めていただければと思います。

2018年改訂版の主な改訂ポイント

2018年改訂版の中で、「植込み型心臓電気デバイス」および「アブレーション」を中心に、主な改訂ポイントをお話しします。

植込み型心臓電気デバイス(植込み型除細動器)

植込み型心臓電気デバイスの章「4.植込み型除細動器(ICD)」の項では、冠動脈疾患および非虚血性心筋症に関するICDの適応クラス分類とその条件について、それぞれフローチャートで整理されています。フローチャートでは、まず、心室細動・持続性心室頻拍、または電気ショックを要する院外心肺停止の既往の有無により、一次予防/二次予防に分かれます。ICD適応の考え方や推奨度について、冠動脈疾患に対しては2011年以降に注目される大規模な介入試験がなく、わが国のレジストリ研究であるCHART-2のエビデンスなどを加昧して、一次予防/二次予防ともにこれまでとほぼ同じ推奨内容となっています。また、非虚血性心筋症に対しても、一次予防/二次予防ともにこれまでのガイドラインから大きな変化はありませんが、一次予防では、DANISH試験を含むメタ解析、Nippon StormやCHART-2など国内発のエビデンスなど、最新試験結果による推奨度の裏付けがなされました。これら2つの国内データから、非虚血性心筋症の一次予防におけるICD適応の根拠を得ることができた意義は大きいと思います。

植込み型心臓電気デバイス(心臓再同期療法)

植込み型心臓電気デバイスの章「5.心臓再同期療法(CRT)」の項では、今まで非常に複雑であったCRTの適応について、NYHA心機能分類、最適な薬物療法、左室駆出率(LVEF)、QRS波形、QRS幅、調律に応じた推奨度を一覧にした表を掲載しました。この中で特に議論となったのが、CRT適応とするQRS幅の下限値です。2013年のEchoCRT試験の結果を受けて、欧州心臓病学会(ESC)2016年のガイドラインでは、QRS幅130 ms未満はクラスⅢ(禁忌)となりました。しかし、わが国ではQRS幅120~130 msの心筋症患者でもCRTの効果が認められた(CRTレスポンダー)報告は多く、さらに近年発表されたEchoCRT試験のサブ解析でも、左室拡張末期容量(LVEDV)の小さな患者におけるCRTの有用性が示されたことなどから、2018年改訂版ではCRTの適応におけるQRS幅の下限値をこれまでと同じ120msとしています。

新たなデバイス治療

2018年改訂版では、新たにリードレスペースメーカ、ヒス束ペーシング、皮下植込み型除細動器、経皮的リード抜去術、着用型心臓除細動器、左心耳閉鎖デバイスなど、2011年以降に実臨床への導入が始まった多様なデバイスについて言及しています。さらに、「非薬物治療後の就学・就労」について独立した章を新設し、デバイスを植込んだ小児患者の学校生活での注意点、ICD植込み成人患者の自動車運転に関するステートメントなども収載しています。

AFアブレーションの治療適応

現在、アブレーションは年間8万件以上も行われており(図12)、その大多数がAFへの施行です。

図1 アブレーション治療施行数の変遷
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アブレーションの章「4.心房細動」の項では、アブレーション施行前および施行後におけるAFリスク管理の重要性を強調しています。甲状腺機能亢進症や肥満、睡眠時無呼吸症候群、高血圧、糖尿病、高脂血症、アルコール多飲、喫煙といったAFのリスク要因がある場合は、まずこれらの介入を十分に行います。さらに、AFアブレーション施行の判断にあたっては、年齢(高齢者より若年者が好ましい)、症状の有無と程度(無症候性よりは症候性が好ましい)、AFの進行度(持続性よりは発作性が好ましい)の3因子について、患者ごとに総合的に評価することが重要です。
AFに対するアブレーションの適応は、従来のガイドラインでは症候性AFで薬剤抵抗性のものとされ、AFアブレーションは第一選択治療ではありませんでした。しかし、近年発表された複数の無作為化比較試験(RCT)やメタ解析において症候性の発作性および持続性AFに対するアブレーションの有用性が示されたことから、2018年改訂版では、症候性の発作性あるいは持続性AFに対して、抗不整脈薬の投与を経ずにアブレーションを施行することを、第一選択として推奨し、推奨クラスⅡaとしました(図21)。また、長期持続性AFについては、アブレーションを第一選択とするには十分なエビデンスが存在しませんが、抗不整脈薬による治療効果が乏しいため、症候性の再発例であればアブレーションは第一選択として妥当であると考え、推奨クラスⅡbで推奨しました(図21)。一方、無症候性AFでは、アブレーションにより長期予後を改善するというエビデンスは十分でありません。そのため従来のガイドラインから変更なく、発作性および持続性AFともに推奨クラスはⅡbとなっています。

図2 症候性AFの持続性に基づくリズムコントロール治療のフローチャート
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心室不整脈に対するアブレーション

アブレーションの章「6.心室不整脈」の項では、臨床的に重要である反復する心室細動(心室細動ストーム)に対する治療選択としてアブレーションを推奨しています。また、アブレーション手技については、心室頻拍におけるマッピング方法に関して詳しく記載するとともに、バイポーラ高周波アブレーションや化学的(アルコール)アブレーションなどの特殊なアブレーション法(保険適用外)に関しても、2018年改訂版で言及しました。さらに、心室頻拍・心室細動に対するアブレーション・デバイス以外の非薬物治療として胸部交感神経遮断術(保険適用外)についても明記しています。

AFアブレーション周術期における抗凝固薬の位置付け

AFアブレーションにおいて血栓塞栓症は重篤な合併症の1つであり、そのリスクを軽減するためには、周術期の適切な抗凝固療法が重要です。2018年改訂版では、AFアブレーション周術期の抗凝固療法として、ワルファリンもしくはダビガトランが投与されている患者では、休薬なしでAFアブレーションを施行することが、推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAと明記されました(1)。これは、COMPARE試験においてワルファリン継続投与群がワルファリン中止ヘパリン置換群に比べて脳卒中リスクおよび出血リスクを減少させたこと、また、RE-CIRCUIT試験においてダビガトラン継続投与群がワルファリン継続投与群に比べて出血リスクを減少させたことが影響しています。一方、その他の抗凝固薬(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)継続投与に関しても、それぞれVENTURE-AF試験、AXAFA AFNET5試験、ELIMINATE-AF試験の結果が発表されましたが、いずれもワルファリン継続投与と比べて、イベント発生率が同等であったため、これらの抗凝固薬継続投与は推奨クラスⅡa、エビデンスレベルBとなりました(1)
また、現在多くの病院で行われている直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)のアブレーション施行前1~2回の休薬については、推奨クラスⅡa、エビデンスレベルBとなりました(1)。わが国で行われたダビガトラン短期休薬(1~2回)とワルファリン継続投与を比較検討したABRIDGE-J試験では3)、ダビガトラン短期休薬の安全性と有効性が示され、アブレーション周術期の抗凝固薬の休薬に関する国内のエビデンスも蓄積されつつあります。

表 AFアブレーション周術期の抗凝固治療の推奨とエビデンスレベル
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なお、ダビガトランには特異的中和剤であるイダルシズマブがあり、万一、出血性合併症が発現しても速やかに対応できることがアブレーションを施行する医師にとって利点の1つです。わが国において心タンポナーデに対してイダルシズマブを使用した21例の報告では4)、イダルシズマブ投与前後の凝固検査値について、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)や活性化凝固時間(ACT)が速やかに改善したことが記述されています。また、イダルシズマブ投与後の血栓塞栓症や死亡例が認められなかったことは、注目すべきポイントだと思います。

ガイドラインの役割、今後への期待

ガイドラインには医療の標準化を目指す医学的な目的がある一方で、国民医療費にかかわる社会的な側面(保険適用、治療の限界など)も存在するため、医療制度が異なる国ごとのガイドライン作成およびその検証が必要です。今後は、わが国における質の高いエビデンスをさらに構築していくことが大切です。現在、わが国におけるアブレーション治療の現状を把握することを目的に、「カテーテルアブレーション全例登録プロジェクト(J-ABレジストリ)」が進行しています。このようなアブレーションの全例登録は世界でも類を見ないものであり、今後その有益な研究結果が公表されていくことで、進むべき医療の方向性が示されることが期待されます。
また、AFおよび心室期外収縮は日常診療において最も遭遇する機会の多い不整脈であり、不整脈を専門としない医師でも日常診療においてこれらの不整脈を診療することが増えてきています。さらに、今後は心不全患者の爆発的増加も予測されています。このような背景があるため、2018年改訂版をご参照いただき、アブレーションや植込み心臓電気デバイス治療の適応となる患者は、すぐに専門医にご紹介いただきたいと思います。2018年改訂版が多くの医師に活用され、早期に適切な治療が行われることで、多くの患者の福音となることを期待しています。

文献

  • 1)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
    http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_kurita_nogami.pdf (2019年6月閲覧)
  • 2)一般社団法人日本循環器学会. 循環器疾患診療実態調査報告書(2006~2018年度)
  • 3)Nogami A, et al. JAMA Netw Open 2019; 2: e191994.
  • 4)Okishige K, et al. J Thromb Thrombolysis 2019; 47: 487-494.

3)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。

PC
2019年7月作成

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図1 アブレーション治療施行数の変遷

図2 症候性AFの持続性に基づくリズムコントロール治療のフローチャート

表 AFアブレーション周術期の抗凝固治療の推奨とエビデンスレベル