プラザキサ 製品紹介 「ガイドラインを踏まえたアブレーション周術期抗凝固療法」

<< 関連記事一覧へ戻る

  • 清水 渉 先生
  • 髙橋 尚彦 先生
  • 池田 隆徳 先生
  • 宮﨑 晋介 先生

清水 渉 先生 日本医科大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 大学院教授(司会)
髙橋 尚彦 先生 大分大学医学部 循環器内科・臨床検査診断学講座 教授
池田 隆徳 先生 東邦大学大学院医学研究科 循環器内科学 教授
宮﨑 晋介 先生 福井大学医学部 不整脈・心不全先端医療講座 特命講師

(発言順)
2019年8月31日 パリにて開催

心房細動(AF)患者に対するカテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)においては、周術期の出血性合併症や血栓塞栓症を防ぐために、適切な抗凝固療法が重要である。周術期の抗凝固療法については、近年、ワルファリン継続投与と直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)継続投与とを比較するエビデンスが続々と発表され、2019年3月には日本循環器学会で約8年ぶりに不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)が発表された。そこで、本座談会ではAF治療のエキスパートの先生方にお集まりいただき、ガイドラインを踏まえたアブレーション周術期における適切な抗凝固療法についてご討議いただいた。

アブレーション周術期抗凝固療法のエビデンス

清水先生
2009年にダビガトランのRE-LY試験が発表されてから10年が経過し、現在では、ワルファリンを含めた5種類の経口抗凝固薬が使用可能となりました。不整脈領域における近年の1つのトピックスとして、AFに対するアブレーションが挙げられます。アブレーションは有効である一方、血栓塞栓性・出血性いずれの合併症にも注意が必要な手技であり、周術期の適切なマネジメントが求められます。そこで本日は、アブレーション周術期の抗凝固療法について、先生方と知見を共有したいと思います。まず、ワルファリンについては、COMPARE試験において、術当日もワルファリンを継続投与してアブレーションを施行することの安全性が示されました1)。一方、DOACについては、アブレーション周術期におけるワルファリン継続投与とDOAC継続投与とを比較した臨床試験の結果が続々と報告されています。そこで、髙橋先生にDOACによるアブレーション周術期抗凝固療法のエビデンスについてご紹介いただきます。
髙橋先生
まず、アブレーション周術期におけるダビガトラン継続投与の安全性および有効性を検討したRE-CIRCUIT試験の結果をご紹介します2)。本試験はわが国も参加した国際共同無作為化比較試験で、発作性または持続性の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者678例を、ダビガトラン継続群(150mg×2回/日)またはワルファリン継続群[プロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR):2.0~3.0]に1:1の比率で無作為に割り付け、アブレーション開始から施行後8週までの安全性と有効性を比較検討しました。その結果、主要評価項目である国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血の発現率は、ダビガトラン継続群1.6%(5例)、ワルファリン継続群6.9%(22例)であり[絶対リスク差-5.3%、95%CI(-8.4~-2.2)、P<0.001、χ2検定]、ダビガトラン継続群で有意なリスク減少が認められました[ハザード比0.22、95%CI(0.08~0.59)、Cox比例ハザードモデル、wald信頼区間]。また、副次評価項目である血栓塞栓性イベントでは、ワルファリン継続群で一過性脳虚血発作(TIA)を1例認めましたが、脳卒中や全身性塞栓症は両群ともに認められませんでした。小出血はダビガトラン継続群18.6%(59例)、ワルファリン継続群17.0%(54例)でした。
清水先生
ダビガトラン以外のDOACの臨床試験の結果はいかがでしょうか。
髙橋先生
ダビガトラン以外のDOACもワルファリン継続投与と直接比較した臨床試験が実施され、いずれの薬剤もワルファリン継続投与と比較して、安全性および有用性に差はないことが報告されました3~5)。これらの臨床試験の結果から、不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では、AFアブレーション周術期の抗凝固療法として、ワルファリンもしくはダビガトランが投与されている患者では、休薬なしでAFアブレーションを施行することが、推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAと明記されました(表16)。また、ダビガトラン以外のDOAC継続投与は、推奨クラスⅡa、エビデンスレベルBとなりました(表16)
表1 AFアブレーション周術期の抗凝固療法の推奨とエビデンスレベル:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)
拡大する

アブレーション周術期におけるイダルシズマブのメリット

清水先生
ダビガトランには特異的中和剤であるイダルシズマブがありますね。次に、池田先生からアブレーション周術期におけるイダルシズマブのメリットについて解説していただきます。
池田先生
アブレーションは有効である一方、一定の頻度で出血や血栓塞栓症のリスクを伴う侵襲的手技です。わが国のアブレーションに関する登録調査であるJ-CARAFでは、2011~2016年におけるアブレーション周術期の重篤な出血性合併症である心タンポナーデの発現は、10,795件中105件(1.0%)であったことが報告されています(表27)。心タンポナーデは生命を脅かす状況になることもあり、発現時に迅速かつ適切な対処が必要です。
表2 国内におけるアブレーション周術期の合併症(J-CARAF : 2011~2016年)
拡大する

このような背景の中、国内14施設でアブレーション周術期にダビガトランが投与され、心タンポナーデ発現によりイダルシズマブが投与された21例のケースシリーズが発表されました8)。本解析では、ダビガトランの抗凝固作用をある程度反映することが知られている活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)および活性化凝固時間(ACT)のいずれも、イダルシズマブ投与前に比べて投与後で有意に低下しています(P=0.0004およびP=0.0156、Wilcoxon signed-rank検定)8)

清水先生
最終的な臨床転帰についてはいかがでしょうか。
池田先生
イダルシズマブ投与24時間以内に止血が確認されたのは16例、止血に至らず開胸を要したのは1例でした。全例でイダルシズマブ投与後24時間以内に血行動態が安定しました。また、21例全例でイダルシズマブ投与後30日間までに血栓塞栓症の発症はなく、死亡例も認められませんでした。
清水先生
特に侵襲的手技を予定している患者の場合、中和剤が存在することで、万一の出血性合併症の発現に対しても速やかな対応が可能ですね。また、アブレーション周術期の合併症として頻度は少ないですが、血栓塞栓症もみられることがあります。ダビガトラン投与例では、血栓塞栓性イベントに対してどのように対処すればよいですか。
池田先生
静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針(第三版)では、ダビガトラン服用患者で虚血性脳卒中が発症した場合、aPTTが前値の1.5倍(目安:約40秒)を超えている、または、ダビガトラン最終服用から4時間以内の場合、rt-PA療法の適応外とされています。しかし、上記により適応外とみなされた場合も、イダルシズマブ投与後のrt-PA療法を考慮してもよい、と記載されています(図19)
図1 ダビガトラン内服中の虚血性脳卒中に対するrt-PA療法施行の指針
拡大する

これは、イダルシズマブそのものに凝固亢進作用を認めない、という薬剤特性があるためと考えられます。イダルシズマブがあることで、ダビガトラン服用中の虚血性脳卒中発症時のrt-PA 療法という打ち手を考慮できることは、臨床医にとって重要なポイントだと思います。

アブレーション周術期抗凝固療法におけるダビガトランのメリット

清水先生
最後に、実臨床におけるアブレーション周術期抗凝固療法について宮﨑先生からお話しいただきます。
宮﨑先生
当施設では2017年12月まで、DOACが投与されているNVAF患者は、アブレーション施行当日にDOACを休薬し、施行後にヘパリンを翌日まで投与するプロトコールを実施してきました。しかし、RE-CIRCUIT試験の結果と中和剤イダルシズマブの存在を加味し、2018年1月以降は、ダビガトラン以外のDOACが投与されている患者は、周術期にダビガトランに変更して術当日もダビガトランを継続投与の上、アブレーションを施行しています。今回、2017年4月~2018年10月までに当施設においてアブレーション周術期にDOACが投与された患者を対象に、ダビガトラン変更群(135例)とDOAC休薬群(137例)の安全性および有効性を比較検討する観察研究を実施しました10)。その結果、アブレーション施行前から施行3ヵ月後までのすべての有害事象(血栓塞栓性および出血性イベント)の発生は、ダビガトラン変更群8例、DOAC休薬群8例でした。なお、心タンポナーデはダビガトラン変更群で1例、脳卒中はDOAC休薬群で1例認められました10)
清水先生
本研究に登録された患者の採血データについても教えてください。
宮﨑先生
本研究の登録患者のうち採血できた患者158例においてアブレーション施行中の総ヘパリン投与量を調べたところ、DOAC休薬群と比べてダビガトラン変更群で有意に少ないことが示されました(P<0.001、t検定)。また、アブレーション施行前の可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC)、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)といった凝固活性化の程度を表すマーカーは、ダビガトラン変更群と比べてDOAC休薬群で有意に高いことが示されました(P<0.001、t検定)。観察研究のため、解釈に注意は必要ですが、継続投与することの意義を感じた結果でした。
清水先生
現在の先生のご施設におけるアブレーション周術期の抗凝固療法プロトコールについて具体的に教えていただけますでしょうか。
宮﨑先生
現時点では、アブレーション施行予定のAF患者で、ダビガトラン以外の抗凝固薬が投与されている場合は、アブレーション施行1ヵ月前に可能な限りダビガトランに変更しています。また、アブレーション施行当日もダビガトランを投与し、施行後少なくとも1~3ヵ月はダビガトランを継続しています(図2)。
図2 福井大学におけるアブレーション周術期抗凝固療法のプロトコール
拡大する

ダビガトランの用量はRE-CIRCUIT試験のエビデンスを踏まえて基本的には150mg×2回/日を選択しています。私は、アブレーションを目的に患者をご紹介いただく際には、アブレーション周術期におけるダビガトランのメリットを紹介元の先生にきちんと説明し、できる限りダビガトランを処方していただいてから患者を紹介してもらえるよう連携しています。

髙橋先生
ダビガトラン変更時に、特に注意されている点はありますか。
宮﨑先生
ダビガトランの場合、ディスペプシアを懸念される先生もいらっしゃると思います。薬剤を胃までしっかり落とし込んでいただくことが大事なので、そのような懸念がある場合には、食中服用や食直前服用など、投与方法を工夫するようにしています。私は、ダビガトランの忍容性を確認する上でも、アブレーション施行約1ヵ月前からダビガトランを処方して、患者の状態をチェックするのがよいと考えています。
清水先生
アブレーション周術期の抗凝固療法のエビデンスが出揃ったことで、今後は実臨床での知見が集積されていくことと思います。今後もエビデンスに基づいた適切な抗凝固療法が行われ、安全かつ有効なアブレーションが浸透していくことを期待したいと思います。本日はありがとうございました。

* RE-LY試験(国際共同試験):試験概要
対象:脳卒中リスクを有するNVAF患者18,113例。
★: 脳卒中・一過性脳虚血発作・全身性塞栓症の既往、左室駆出率40%未満、症候性心不全(NYHAⅡ度以上)、75歳以上、65歳以上74歳以下の糖尿病・高血圧・冠動脈疾患のいずれか1つ以上
方法:対象を無作為に割付け、ダビガトラン150mgを1日2回、ダビガトラン110mgを1日2回、あるいはワルファリン(INR2.0~3.0、日本人の70歳以上は2.0~2.6)を1日1回、2年間(中央値)投与し、各ダビガトラン群のワルファリン群に対する有効性と安全性を検討した。
解析計画:主要解析は最大の解析対象集団(FAS)で実施する。投与群を因子としたCox比例ハザードモデルを用い、主要評価項目のイベント(全脳卒中/全身性塞栓症)の初回発症までの時間を解析する。
評価項目:【有効性の主要評価項目】脳卒中/全身性塞栓症の発症率 【有効性の副次評価項目】脳卒中(出血性を含む)、全身性塞栓症、総死亡 他【安全性の評価項目】大出血 「大出血」の定義:次の基準を1つ以上満たす場合:①ヘモグロビン20g/L(2g/dL)以上の減少を示すもの、または全血もしくは濃縮血液2単位(日本における4.5単位)以上の輸血を必要とするもの、②重要部位または臓器の症候性出血:眼内、頭蓋内、脊髄腔内またはコンパートメント症候群を伴う筋肉内出血、後腹膜内出血、関節内出血あるいは心嚢内出血
主要評価項目の結果:主要評価項目である脳卒中/全身性塞栓症の発症率は、ダビガトラン150mg×2回/日群1.11%/年、110mg×2回/日群1.54%/年vs.ワルファリン群1.71%/年であり、ダビガトラン両用量群でワルファリン群に対する非劣性が認められ、さらに、ダビガトラン150mg×2回/日群はワルファリン群に対する優越性も示された[ダビガトラン150mg×2回/日群:P<0.001(非劣性、優越性)、ダビガトラン110mg×2回/日群:P<0.001(非劣性)、P=0.30(優越性)、Cox回帰]
安全性:第Ⅲ相国際共同試験でのダビガトラン群における副作用発現率は21.4%(2,575/12,043例)で、主な副作用は、消化不良365例(3.0%)、下痢136例(1.1%)、上腹部痛134例(1.1%)、鼻出血133例(1.1%)、悪心131例(1.1%)であった。一方、ワルファリン群における副作用発現率は15.8%(949/5,999例)で、主な副作用は、鼻出血107例(1.8%)、挫傷68例(1.1%)、血尿63例(1.1%)、血腫61例(1.0%)であった。

<文献>

  • 1) Di Biase L, et al. Circulation 2014; 129: 2638-2644.
  • 2) Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376: 1627-1636.
  • 3) Cappato R, et al. Eur Heart J 2015; 36: 1805-1811.
  • 4) Kirchhof P, et al. Eur Heart J 2018; 39: 2942-2955.
  • 5) Hohnloser SH, et al. Eur Heart J 2019; 40: 3013-3021.
  • 6) 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:
    不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
    http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_kurita_nogami.pdf(2019年10月閲覧)
  • 7) Murakawa Y, et al. J Arrhythm 2018; 34: 435-440.
  • 8) Okishige K, et al. J Thromb Thrombolysis 2019; 47: 487-494.
  • 9) 日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会静注血栓溶解療法指針改訂部会.: 脳卒中 2019; 41: 205-246.
  • 10)Aoyama D, et al. Int Heart J 2019; doi:10.1536/inj.19-143.[Epub ahead of print]
  • 2)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。
PC
2019年12月作成

<< 関連記事一覧へ戻る

表1 AFアブレーション周術期の抗凝固療法の推奨とエビデンスレベル:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)

表2 国内におけるアブレーション周術期の合併症(J-CARAF : 2011~2016年)

図1 ダビガトラン内服中の虚血性脳卒中に対するrt-PA療法施行の指針

図2 福井大学におけるアブレーション周術期抗凝固療法のプロトコール