プラザキサ 製品紹介 「エビデンスとガイドラインを踏まえたアブレーション周術期抗凝固療法」

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  • 萩原 誠久 先生
  • 井上 耕一 先生
  • 深谷 英平 先生

萩原 誠久 先生 東京女子医科大学 循環器内科学 教授・講座主任(司会)
井上 耕一 先生 桜橋渡辺病院 心臓・血管センター 内科部長
深谷 英平 先生 北里大学医学部 循環器内科学 診療講師

(発言順)
2019年9月1日 パリにて開催

心房細動(AF)患者に対するカテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)周術期においては、血栓塞栓症や出血性合併症を防ぐために適切な抗凝固療法を行うことが重要である。近年、ワルファリン継続投与と直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)継続投与とを比較するエビデンスが次々と発表され、2019年3月には約8年ぶりに国内における不整脈非薬物治療ガイドラインが改訂された。そこで、本座談会ではAF治療のエキスパートの先生方にお集まりいただき、ガイドラインを踏まえたアブレーション周術期の抗凝固療法について討議していただいた。

アブレーション周術期抗凝固療法のエビデンス

萩原先生
はじめに、井上先生からAFアブレーション周術期抗凝固療法のエビデンスについてお話しいただきます。
井上先生
まず、RE-CIRCUIT試験1)の結果をご紹介します。本試験は、アブレーション施行予定の発作性または持続性の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者678例を対象に、ワルファリン継続群[プロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR):2.0~3.0]に対するダビガトラン継続群(150mg×2回/日)の安全性と有効性を比較検討した国際共同無作為化比較試験です。主要評価項目であるアブレーション開始から施行後8週までの国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血の発現率は、ダビガトラン継続群1.6%(5例)、ワルファリン継続群6.9%(22例)であり[絶対リスク差-5.3%、95%CI(-8.4~-2.2)、P<0.001、χ2検定]、ダビガトラン継続群で有意なリスク低下が認められました[ハザード比0.22、95%CI(0.08~0.59)、Cox比例ハザードモデル、wald信頼区間]。また、副次評価項目である血栓塞栓性イベントは、ワルファリン継続群で一過性脳虚血発作(TIA)が1例に認められましたが、脳卒中や全身性塞栓症は両群ともに認められませんでした。なお、小出血はダビガトラン継続群18.6%(59例)、ワルファリン継続群17.0%(54例)でした。
萩原先生
本試験は、アブレーション周術期の標準的な抗凝固療法であったワルファリン継続投与に対して、ダビガトラン継続投与の安全性が示された重要な結果であると思います。では、アブレーション周術期にダビガトランを短期休薬したエビデンスについてはいかがでしょうか。
井上先生
国内28施設が参加したアブレーション周術期の抗凝固療法として、短期休薬(1〜2回)を伴うダビガトラン投与群とワルファリン継続群の有効性・安全性を比較検討したABRIDGE-J試験2)では、ダビガトラン投与群では血栓塞栓症は1例も認めず、ISTH基準による大出血の発現頻度はダビガトラン投与群で3例(1.4%)、ワルファリン継続群で11例(5.0%)でした。
萩原先生
アブレーション周術期のダビガトラン投与については、ご紹介いただいた2試験によって、継続と休薬の両方のエビデンスが得られたわけですね。
井上先生
そうですね。不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では、ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしでAFアブレーションを施行することが推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAと明記されました(表13)。また、DOACのアブレーション施行前1〜2回の休薬については、推奨クラスⅡa、エビデンスレベルBとなりました(表13)
表1 AFアブレーション周術期の抗凝固療法の推奨とエビデンスレベル:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)
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アブレーション周術期におけるイダルシズマブのメリット

萩原先生
ダビガトランは、特異的中和剤としてイダルシズマブがあり、中和剤を有する唯一のDOACです。次に、アブレーション周術期における注意すべき合併症とイダルシズマブのデータについて、引き続き、井上先生に解説していただきます。
井上先生
アブレーションは出血リスクや血栓塞栓症リスクを伴う手技であるため、周術期の合併症には十分注意が必要です。わが国で実施されたAFアブレーションに関する登録調査であるJ-CARAF 4)のデータをみると、アブレーション周術期の出血性合併症である心タンポナーデ、穿刺部血腫は、それぞれ1.0%に認められています(表2)。特に心タンポナーデは生命にかかわることもある重篤な合併症のため、発現時には迅速かつ適切な対処が必要です。
表2 国内におけるアブレーション周術期の合併症(J-CARAF : 2011~2016年)
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萩原先生
AFアブレーション周術期におけるダビガトラン投与下の心タンポナーデ発現例に対するイダルシズマブの使用経験が最近発表されました。この報告についてご紹介いただけますか。
井上先生
国内14施設における心タンポナーデに対してイダルシズマブを使用した21例の報告では5)、ダビガトランの抗凝固作用をある程度反映することが知られている活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)および活性化凝固時間(ACT)は、いずれもイダルシズマブ投与前に比べて投与後で有意な低下が認められました(P=0.0004およびP=0.0156、Wilcoxon signed-rank検定)。また、止血状態などの最終的な臨床転帰をみると、21例中16例でイダルシズマブ投与後24時間以内に止血が確認され、止血に要した時間(中央値)は2.1時間でした。全例でイダルシズマブ投与後24時間以内に血行動態が安定しました。なお、1例はイダルシズマブを投与しても止血に至らず、開胸が必要となりました。また、全例でイダルシズマブ投与後30日間までに血栓塞栓症の発症はなく、死亡例も認められませんでした。
萩原先生
先ほどご紹介いただいたJ-CARAFのデータでは、発現頻度はそれほど高くはないものの、塞栓性合併症として脳梗塞やTIAなども散見されます(表2)。ダビガトラン服用中の患者では、血栓塞栓性イベントに対してどのように対処すべきでしょうか。
井上先生
静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針(第三版)では、ダビガトラン内服中の虚血性脳卒中に対するrt-PA施行の指針が記載されており、虚血性脳卒中を発症後4.5時間以内に治療開始が可能な方は、病歴の確認や臨床検査を行い、その結果、aPTTが前値の1.5倍(目安:約40秒)以下、かつダビガトランの最終服用後4時間以降の場合には、原則としてイダルシズマブを使わずにrt-PA 療法を行うことが推奨されています(図16)。言い換えると、上記に該当しない場合(aPTTが前値の1.5倍超またはダビガトラン最終服用から4時間以内)は、rt-PA 療法の適応外となります。しかし、ダビガトラン投与例においてはrt-PA 療法の適応外とみなされた場合も、イダルシズマブ投与後のrt-PA 療法を考慮してもよい、と明記されています。これは、イダルシズマブそのものに凝固亢進作用を認めない、という薬剤特性があるためと考えられます。
図1 ダビガトラン内服中の虚血性脳卒中に対するrt-PA療法施行の指針
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実臨床におけるアブレーション周術期抗凝固療法

萩原先生
最後に、実臨床におけるアブレーション周術期の抗凝固療法について深谷先生のご施設のプロトコールをご紹介いただきます。
深谷先生
当院では、RE-CIRCUIT試験の結果を踏まえ、アブレーション周術期の抗凝固療法として、ダビガトラン継続投与をスタンダードとしています(図2)。
図2 北里大学病院におけるアブレーション周術期の抗凝固療法のプロトコール
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また、アブレーション施行前にダビガトラン以外のDOACが投与されている場合は、万一の出血性合併症発現の際に対処可能な特異的中和剤イダルシズマブを有するダビガトランの特性を患者さんにきちんと説明した上で、アブレーション施行前にダビガトランに変更しています。ダビガトラン変更のタイミングは、可能であれば入院前に行い、退院後も一定期間はダビガトランを継続していただくようにしています。アブレーション周術期に万一脳梗塞が発症すると、重篤な後遺症が残る可能性があるため、私は、万一の際にも対処可能な中和剤を有するダビガトランを継続投与することの意義は大きいと考えています。

萩原先生
ダビガトラン変更時、特に注意されている点はありますか。
深谷先生
他のDOACからダビガトランに変更する際に、ディスペプシアなどの消化器症状を懸念される先生方もいらっしゃると思います。ダビガトランの市販後調査(J-Dabigatran Surveillance)によると7)、ディスペプシアの発現頻度は10%程度と報告されていますが、ダビガトランの長期の有効性・安全性をみたRELY-ABLE試験では、ディスペプシアが発現した患者さんに対して適切に服薬指導(多めの水で服用など)をしたり、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬などを併用したりすることにより、症状が改善した割合が8~9割に達しました8)。当院では、ダビガトランを処方する際の服薬指導の工夫として、患者さんには多めの水で食事中に服用いただくよう指導しています。また、胃まで薬剤を落とし込んでいただくことが大事なので、食直前に服用いただくケースもあります。こうした少しの工夫をすることで、患者さんの服薬アドヒアランス向上につながることを期待しています。
萩原先生
近年、アブレーションの施行例数は増加していますが、紹介元の先生方とうまく連携するコツはありますか。
深谷先生
ダビガトラン以外のDOACを服用している患者さんがアブレーション目的で当院に紹介された場合、私は、紹介元の先生方にガイドラインでの推奨や中和剤のあるダビガトランの有用性について丁寧に説明をしてから、ダビガトランに変更するようにしています。
安全かつ有効なアブレーションを施行するために、患者さんをご紹介いただく紹介元の先生方と密接な連携をすることが重要だと考えています。
萩原先生
本日は、アブレーション周術期におけるダビガトランの特性を中心にお話しいただきました。今後、より多くの先生方にガイドラインでの推奨や中和剤のあるダビガトランのエビデンスが十分に認識され、適切な抗凝固療法が普及するとともに、より安全かつ有効なアブレーションが浸透していくことを期待したいと思います。先生方、本日は有意義なお話をありがとうございました。

<文献>

  • 1) Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376:1627-1636.
  • 2) Nogami A, et al. JAMA Netw Open 2019; 2: e191994.
  • 3) 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:
    不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
    http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_kurita_nogami.pdf(2019年10月閲覧)
  • 4) Murakawa Y, et al. J Arrhythm 2018; 34: 435-440.
  • 5) Okishige K, et al. J Thromb Thrombolysis 2019; 47: 487-494.
  • 6) 日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会静注血栓溶解療法指針改訂部会.: 脳卒中 2019; 41: 205-246.
  • 7) Inoue H, et al. J Cardiol 2019; 73: 507-514.
  • 8) Ezekowitz MD, et al. Europace 2016; 18: 973-978.
  • 1)、2)、7)、8)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。
PC
2019年12月作成

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表1 AFアブレーション周術期の抗凝固療法の推奨とエビデンスレベル:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)

表2 国内におけるアブレーション周術期の合併症(J-CARAF : 2011~2016年)

図1 ダビガトラン内服中の虚血性脳卒中に対するrt-PA療法施行の指針

図2 北里大学病院におけるアブレーション周術期の抗凝固療法のプロトコール