プラザキサ “Think FAST” campaignThink FAST” campaign
~スペシャルインタビュー~ 坂本 哲也 先生

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抗血栓薬内服中の頭部外傷患者さんに適切な対応をするために

坂本 哲也 先生

帝京大学医学部附属病院 病院長
坂本 哲也 先生

高齢頭部外傷例で最も多い受傷原因は転倒・転落

日本脳神経外傷学会の日本頭部外傷データバンク(2015~2017年の集計)によると、重症頭部外傷患者さんの半数以上が高齢者(65歳以上)であり、その高齢者における頭部外傷の受傷原因の54.8%が「転倒・転落」であることが報告されています(図1)。
当院においても頭部外傷患者さんのうち高齢者(65歳以上)が過半数を占めています。以前は交通事故による重症頭部外傷患者さんが多かったのですが、シートベルト着用の義務化や飲酒運転の厳罰化などが進んだことにより、交通事故による重症頭部外傷例は減少しました。一方、高齢者の歩行中の事故や自転車事故などによる頭部外傷は依然として減少しておらず、階段からの転落や段差を踏み外して転倒するなどといった頭部外傷例は増加しています。

抗血栓薬内服例では“Talk & Deteriorate”のリスクが高い

高齢者が頭部を受傷した際、一見軽症で受傷直後は会話が可能なものの、経過の中で急速に意識障害が進行し転帰不良となる“Talk & Deteriorate”を発現しやすいことが知られています。特に、抗血栓薬を内服していると“Talk & Deteriorate”となる割合が高いのですが、日本頭部外傷データバンクの報告では、高齢頭部外傷患者さんのうち抗血栓薬の内服率は30%を超えていることが報告されています(図2)。当院の高度救命救急センターに搬入された患者さんにおいても約13%が何らかの抗凝固薬を内服していました。抗血栓薬内服中の高齢患者さんの場合は、頭部外傷が軽症であっても、すぐには帰宅させず入院下での小まめな経過観察が必要だと考えています。
一方、“Talk & Deteriorate”となるリスクが高い患者さんを正確に予測することは困難です。しかし、初診時にボーッとしている、会話が噛み合わないなどの神経症状がわずかでも認められる場合、搬入時に意識がはっきりしていても、受傷時に30秒や1分といった短時間でも意識消失が観察された場合や受傷時の記憶がない場合は注意が必要です。反対に、抗血栓薬内服例であっても、受傷直後から一貫して意識がはっきりとしていて、CT画像で出血が認められない場合は“Talk & Deteriorate”となるリスクはそれほど高くないと考えられます。
このことから、抗血栓薬内服中の患者さんが頭部を受傷後、短時間でも意識消失が認められた場合やご家族がいつもと様子が違うと感じた場合には、すぐに受診していただくよう指導しておくことが非常に大切です。また、階段からの転落など頭部に強い力が加わった外傷の場合は、神経症状が認められなくても“Talk & Deteriorate”への進展を防ぐために、受診していただいた方がよいと思います。

中和剤がある場合は抗血栓薬の中和を検討

当院では、頭部外傷患者さんが搬入された場合、まず神経症状を診察した上で、迅速にCT検査を実施しています。大脳鎌周辺の薄い急性硬膜下血腫や脳表面の脳溝の微小なくも膜下出血、出血が明らかでない脳挫傷などは発見が困難で見逃しやすいため、特に抗血栓薬内服中の高齢患者さんでは、これらに注意してCT画像を読影しています。こうした所見を見逃さないため放射線科や脳神経外科など他科の医師にもCT画像を評価してもらえる環境があるとよいと思います。
抗血栓薬内服中の患者さんにおいて頭部外傷後のCT画像で頭蓋内出血が認められた場合、“Talk & Deteriorate”を発現して致命的となる恐れがあります。したがって、例えばプラザキサのように中和剤のある抗血栓薬を内服中であれば直ちに中和剤の投与を検討します。ただし、“Talk & Deteriorate”のリスクよりも、抗血栓薬を中和することによる塞栓症の発症リスクが高いと考えられる場合は、中和剤を投与せずに経過観察することもあります。また、抗血栓薬の中和後は、適切なタイミングで抗血栓薬の投与を再開することが重要です。投与再開のタイミングは確立されておらず担当医師の判断となりますが、“Talk & Deteriorate”は受傷後6~24時間以内に起こりやすいことを念頭において治療方針を決定することが重要です。

抗血栓薬内服の有無と薬剤名が判別できるように

前述のように抗血栓薬内服中の頭部外傷は“Talk & Deteriorate”の発現リスクが高いことから、抗血栓薬内服患者さんのみならずご家族にも抗血栓薬を内服中であることを認識し、さらにその薬剤名を知っていただくことが大切です。薬剤名を憶えておくことが困難な高齢患者さんに対しては、内服している薬剤名が記載されているカードやシールを、日々持ち歩く機会の多いお財布などに入れていただくことや、携帯電話などに貼付いただくことが有効です。救急搬入時に、そうした情報を入手できることで医師は速やかに適切な対応ができ、中和剤のある抗血栓薬であれば中和剤の投与も検討できます。是非、抗血栓薬を処方する機会の多い先生方には、これらのことを患者さんに説明していただくようにお願いしたいと思います。
救急医の立場としては、抗血栓薬内服中の頭部外傷患者さんを治療する機会も多いため、CT画像の読影時に見逃しやすい出血の所見や入院による注意深い経過観察が必要な頭部外傷の特徴、中和剤の適切な使用方法などを“Think FAST” campaignを通じて啓発していきたいと考えています。

図1 全年齢層ならびに高齢者※における受傷原因の割合
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図2 高齢※頭部外傷患者における抗血栓薬の内服率
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2018年9月作成

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図1 全年齢層ならびに高齢者※における受傷原因の割合

図2 高齢※頭部外傷患者における抗血栓薬の内服率