プラザキサ “ThinkFAST”campaign:対談 日経メディカル掲載 前橋医療圏での“Think FAST”campaignの取り組み

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鈴木 倫保 先生

山口大学大学院医学系研究科
脳神経外科学 教授
鈴木 倫保 先生

朝倉 健 先生

前橋赤十字病院 副院長
兼 脳神経外科部長
朝倉 健 先生

(発言順)

近年、高齢者の転倒や転落による頭部外傷患者数は増加している。特に、抗血栓薬内服中の高齢者が頭部を受傷すると重症化するリスクが高いため、細心の注意を払う必要がある。このような背景の中2018年3月より、日本脳神経外科学会、日本救急医学会、日本脳神経外傷学会、日本脳卒中学会、日本循環器学会、日本脳卒中協会の5学会1団体が後援する“Think FAST”campaignが、医療従事者および一般市民に対して高齢者頭部外傷の危険性およびその対応を啓発するために行われている。本対談では、本キャンペーンの実行委員長を務める山口大学の鈴木倫保先生のご司会のもと、前橋赤十字病院の朝倉健先生に前橋医療圏における“Think FAST”campaignの取り組みについてお話しいただいた。

(2019年6月29日 東京都にて開催)

転倒・転落による高齢者頭部外傷患者の抗血栓薬の服用状況

鈴木先生
高齢化が進むわが国では心房細動の患者数が年々増加し、2030年には100万人を突破することが予測されています1)。わが国のFushimi AFレジストリのデータでは、心房細動患者のほとんどが60歳以上の高齢者であり2)、その60%以上の患者に抗凝固薬が投与されていることが報告されています3)。さらに、抗血小板薬の服用患者も考慮すると、日本人高齢者のかなり多くが抗血栓薬を服用していると推測されます。一方で、わが国の外因死の原因をみると、最近は転倒・転落による死亡が交通事故死よりも多いことが知られています4)。また、日本頭部外傷データバンクによると、転倒・転落のリスクは60歳以上で著明に増加するうえ、65歳以上の頭部外傷患者の約30%は抗血栓薬を服用していることが明らかになりました5)

高齢者頭部外傷の危険性およびその対応を啓発する“Think FAST”campaign

鈴木先生
抗血栓薬を服用中の高齢者が転倒・転落により頭部を受傷すると、一見軽症で最初は会話が可能なものの、経過中に急速に意識障害が進行する“Talk & Deteriorate”と呼ばれる病態が発現し、重症化するリスクが高いため、細心の注意が必要です。このことを医療従事者および一般市民に対して広く啓発することを目的に、“Think FAST”campaignを開始しました。この点について、朝倉先生のご意見はいかがですか。
朝倉先生
まず、当院における最近の自験例について紹介させていただきます。患者は67歳の男性で、もともと発作性心房細動のためワルファリンを服用していました。朝に転倒し、その後頭痛が発現、昼には嘔吐し15時頃までは意識は清明でしたが、16時頃に意識障害で倒れ当院に搬送されました。来院時のCT所見から両側慢性硬膜下血腫に合併した右急性硬膜下血腫と診断しました。ワルファリンの中和剤を投与し右急性硬膜下血腫除去術を施行したところ意識が回復し、現在はリハビリ病院に転院しています。
鈴木先生
抗凝固薬服用患者における緊急時の対応を考慮すると、中和剤のある抗凝固薬は安心感がありますね。現在、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)であるダビガトランは、特異的中和剤イダルシズマブを有しており、中和剤のある唯一のDOACです。患者によっては、緊急手術や外傷など予期せぬ事態が起こり、中和剤が必要になるケースがあるかもしれないことを考えると、実臨床においては、中和剤を念頭においた抗凝固薬の処方を考えることが必要です。
朝倉先生
本症例の術中所見では、新鮮な硬膜下血種や層状の慢性硬膜下血腫が認められ、過去にも転倒による外傷があったことが分かりました。このようなケースもあるため、抗凝固薬服用中に頭部外傷を負った際には、すぐに医療機関を受診することを地域住民に広く啓発していく必要があると考え、私たちは“Think FAST”campaignに参加しています。
鈴木先生
“Think FAST”campaignでは、一般市民への啓発活動として、頭をぶつけた場合は軽症であっても病院受診が必要であることや、抗血栓薬の作用や服用に関する正しい理解を促進するための情報提供などを行っています。一方で、医療従事者に対する啓発活動にも力を入れています。具体的には、①抗血栓薬内服中の頭部外傷患者は軽症であっても医師受診の必要性がある、②迅速に画像診断にて出血の有無を確認し、出血を認める場合は軽症であっても最低24時間は厳重に神経症状の観察を行う、③中和剤がある場合には抗血栓薬の中和を行い、適切なタイミングで速やかな再開を検討する、この3点を啓発のポイントとしています()。
表 医療従事者への啓発活動
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前橋医療圏における“Think FAST”campaignを通じた地域医療連携モデルの取り組み

鈴木先生
続いて、朝倉先生から群馬県の前橋医療圏における“Think FAST”campaign の具体的な取り組み内容について紹介していただきたいと思います。
朝倉先生
当院では、済生会前橋病院と共同で「からっ風ネット」(ID-Link)というネットワークを利用し、周囲の医療機関、調剤薬局、介護施設などを結ぶ地域医療連携ネットワークサービスを展開しています(図1)。「からっ風ネット」は、前橋赤十字病院と済生会前橋病院の診療情報を、個人情報を保護したうえでインターネット回線を用いて共有するシステムです。本ネットワークを利用することで、患者が病院で受けた診療情報をかかりつけ医が閲覧することができ、現在は入院期間、バイタルチャート、オーダー情報(処方、注射、画像)、検査結果、放射線画像と読影レポート、血管造影画像・内視鏡画像・生理検査画像・病理診断レポートが開示されています。
図1 前橋赤十字病院・済生会前橋病院を中心とした地域医療連携モデルの取り組み
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特に、最近は「からっ風ネット」を利用した調剤薬局との患者情報の共有に力を入れ、調剤薬局に抗血栓薬を服用している患者向けのパンフレットを配布してもらうような取り組みを行っています。「からっ風ネット」を利用する調剤薬局側のメリットとしては、患者の腎機能などの検査データを常に確認することが可能で、病院側とのダブルチェック機能にもつながります。また、病院への疑義照会の手間を省くことができ、病院間の重複した薬剤の処方や検査を防ぎ、医療費の負担軽減につながることが期待されます。また、このネットワークを利用するための費用は病院が負担するため、調剤薬局の費用負担はありません。
鈴木先生
調剤薬局で配布される抗血栓薬服用患者向けのパンフレットには、どのような情報が掲載されているのですか。
朝倉先生
抗血栓薬を服用している患者に知っておいてほしいこととして、抗血栓薬の作用や服用に関する留意点、事前に医師に相談すべきこと(手術や抜歯など)や医師に相談すべき症状(鼻や歯茎からの出血、内出血、転倒など)、頭をぶつけた際に医療機関を受診する必要がある症状(頭痛・吐き気、急な視力低下など)、さらに一部の抗血栓薬には中和剤があることなどが分かりやすく記載されています。
鈴木先生
朝倉先生は日本脳卒中協会群馬県支部の副支部長としてもご活躍されていますが、こちらではどのような事業に注力されているのですか。
朝倉先生
県内における脳卒中に関する正しい知識の啓発活動に努めるとともに、脳卒中の医療連携にも力を入れています。その一環として、群馬脳卒中医療連携の会を通じて患者向け冊子「ぐんまちゃんの脳卒中ノート」を作成し、脳卒中患者が脳卒中で入院した病院やリハビリで転院した病院、かかりつけ医などの情報を記入しながら脳卒中地域連携クリティカルパスに役立てるツールとして活用しています(図2)。
図2 ぐんまちゃんの脳卒中ノート(表紙)
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鈴木先生
朝倉先生からは、前橋医療圏での“Think FAST”campaign の具体的な取り組みとして地域連携や啓発活動などについて紹介していただきました。このような活動を通じ、抗血栓薬内服中の頭部外傷の危険性やその適切な対応についての認識がより深まり、多くの患者に適切な治療が普及することを期待しています。本日はありがとうございました。

<文献>

  • 1)Inoue H, et al. Int J Cardiol 2009; 137: 102-107.
  • 2)Akao M, et al. J Cardiol 2013; 61: 260-266.
  • 3)Yamashita Y, et al. Circ J 2017; 81: 1278-1285.
  • 4)厚生労働省 人口動態統計(平成25年)
  • 5)日本外傷診療研究機構, 日本外傷データバンクレポート2015
PC
2019年9月作成

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表 医療従事者への啓発活動

図1 前橋赤十字病院・済生会前橋病院を中心とした地域医療連携モデルの取り組み

図2 ぐんまちゃんの脳卒中ノート(表紙)