プラザキサ “ThinkFAST”campaign:対談 循環器内科医が知っておきたい抗血栓薬内服者における頭部外傷の危険性とその対応
“ThinkFAST”campaignを通じて-

<< 関連記事一覧へ戻る

萩原 誠久 先生

東京女子医科大学
循環器内科学 教授 講座主任
萩原 誠久 先生

池田 隆徳 先生

東邦大学大学院医学研究科
循環器内科学 教授
池田 隆徳 先生

(発言順)

抗血栓薬内服中の高齢者における頭部外傷は重症化するリスクがあり、細心の注意が必要となる。このことを社会に広く啓発することを目的として、日本脳神経外科学会、日本救急医学会、日本脳神経外傷学会、日本脳卒中学会、日本循環器学会および日本脳卒中協会が後援する“Think FAST ” campaignがスタートした。本対談では、東京女子医科大学の萩原誠久先生、および本キャンペーンの実行委員を務める東邦大学の池田隆徳先生に、抗血栓薬内服中の高齢者における頭部外傷の危険性とその対応、さらに中和剤を有する抗血栓薬について、循環器内科医の視点からご討議いただいた。

(2018年8月27日 ミュンヘンにて開催)

高齢の非弁膜症性心房細動患者数の推移と抗血栓薬内服中の留意点

萩原先生
本日は、抗血栓薬内服中の高齢者における転倒・転落による頭部外傷の危険性およびその対応について医療関係者、一般市民に対して啓発する、“Think FAST ”campaignの実行委員として活躍されている池田先生から、本キャンペーンの取り組みなどについてお話を伺っていきたいと思います。
はじめに、われわれ循環器内科医は非弁膜症性心房細動(NVAF)患者に対して抗血栓薬を処方する機会が多いと思われますが、今後、加齢とともに増加するNVAFの患者数はどのように推移すると考えられますか。
池田先生
超高齢社会を迎えたわが国ではNVAFの患者数が年々増加し、2020年には慢性心房細動に限っても100万人を超えると予測されています(図11)。また、発作性心房細動を加味すると、わが国では高齢のNVAF患者が今後さらに増加すると考えられます。
図1 わが国における慢性心房細動患者数の推移および今後の予測
拡大する
萩原先生
高齢のNVAF患者の増加に伴い、今後、抗血栓薬の必要性がさらに高まると考えられますね。では、抗血栓薬を内服する高齢者に対して、どのような点に注意する必要がありますか。
池田先生
抗血栓薬内服中の高齢者においては、転倒・転落による頭部外傷に特に注意する必要があります。当院の循環器外来のうち転倒・転落の既往がある患者は、65歳以上で1~2割程度、80歳以上では3割程度に達する印象があります。また、日本頭部外傷データバンクによると、65歳以上の頭部を受傷した患者の約3割がなんらかの抗血栓薬を内服していることが明らかとなりました(図22)。抗血栓薬内服中の高齢者における頭部外傷は重症化しやすく、生命を脅かすケースも少なくないため、転倒・転落の既往がある患者およびそのご家族に対しては、抗血栓薬内服中に頭部を受傷した場合は止血が困難になる可能性があることをしっかりと説明しておく必要があります。ただし、鼻出血や歯肉出血などの軽微な出血時に自己判断で抗血栓薬の内服を中止してしまうと、虚血性脳卒中などの血栓塞栓症リスクが高まる点も併せて注意することが重要です。
図2 高齢※頭部外傷患者における抗血栓薬の内服率
拡大する

“Think FAST ”campaignにおける医療関係者および一般市民への啓発活動

萩原先生
抗血栓薬内服中の高齢者における頭部外傷の危険性についてお話しいただきました。続いて、“Think FAST ”campaignにおける具体的な啓発活動についてご紹介いただきたいと思います。
池田先生
まず、医療関係者に対しては、抗血栓薬内服中の頭部外傷は軽症であっても医療機関を受診する必要があること、また、画像診断にて出血の有無を迅速に確認し、出血が認められる場合は軽症であっても最低24時間は厳重に神経症状を観察することを周知しています。さらに、抗血栓薬内服中に頭部を受傷した患者に対しては、中和剤がある場合には抗血栓薬の中和を行い、適切なタイミングで速やかな抗血栓薬の再開を検討することを推奨しています。特に、高齢者の頭部外傷では一見軽症で受傷直後には会話が可能であっても、時間が経過すると急速に意識障害が進行する“Talk & Deteriorate”の発現リスクが高まるため、軽症で会話が可能であっても画像診断にて出血の有無を確認することが重要です。
一般市民に対しては、①頭をぶつけた場合は軽症であっても病院受診が必要であることを啓発する、②抗血栓薬の作用や服薬に関する正しい理解を促進する、③内服している薬剤名及び中和剤の有無を再認識する、④お薬手帳や携帯カードなどを持ち歩くよう注意喚起する、この4点をポイントとして啓発活動を進めています()。
表 一般市民への啓発活動
拡大する
萩原先生
一般市民への啓発活動の一つとして、抗血栓薬の作用や服薬に関する正しい理解の促進を掲げていますが、高齢患者の中には認知症などを合併し、薬剤に関する理解が困難なケースもみられます。このような場合、池田先生はどのような工夫をされますか。
池田先生
このようなケースでは、ご家族や介護者といった患者にとって身近な第三者に対しても、患者が内服している抗血栓薬の情報をしっかりと説明して知識を共有いただくことが大切であると考えています。また、緊急時に内服中の抗血栓薬の種類が患者以外の第三者に対して一目で分かるように、内服している薬剤名が記載されている携帯カードを財布に入れたり、シールを携帯電話に貼ったりすることも、有効な方法であると考えています。
萩原先生
認知症などを合併する高齢患者においては、携帯カードなどを活用して患者以外の第三者にも内服中の抗血栓薬の情報を知っていただくことで適切な対応が可能となりますね。また、内服中の抗血栓薬に対する中和剤の有無を再認識いただくことも、一般市民へ啓発する必要があると示されていますが、この点はどのようにお考えですか。
池田先生
抗血栓薬として抗凝固薬を内服しているNVAF患者400例を対象としたアンケート調査では、75%の患者が中和剤の有無について医師から伝えてほしいと回答しています(図3)。この結果を考慮すると、新たに抗血栓薬を処方する際はもちろん、現在抗血栓薬を内服中の患者にも中和剤の有無を伝えておくことが望ましいと考えます。
図3 抗凝固薬内服患者における中和剤に関するアンケート結果
拡大する

“Think FAST ”campaignを推進していくために

萩原先生
“Think FAST ”campaignでは、抗血栓薬内服中の高齢患者における頭部外傷の危険性とその対応について、医療関係者のみならず一般市民に対しても啓発活動を行っていることをお話しいただきました。一方で、抗血栓薬を販売している製薬会社に対して、今後どのような役割を期待していますか。
池田先生
抗血栓薬は循環器内科や脳神経内科、脳神経外科の専門医だけではなく、さまざまな疾患を診ているプライマリケア医も処方する薬剤であるため、製薬会社には抗血栓薬の有効性・安全性のみならず、緊急時の対応方法を含めた情報提供活動を幅広く行っていただきたいと思います。例えば、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)であるダビガトランは特異的中和剤イダルシズマブを有しており、中和剤を有する唯一のDOACですが、実臨床でのイダルシズマブの使用状況を調査した市販直後調査(最終報告)によると、2016年11月18日~2017年5月17日の間に集積されたイダルシズマブ投与患者130例における投与理由のうち、約6割が緊急手術前または外的要因(外傷や侵襲的な手技)が示唆される出血時の中和でした3)。このように、抗血栓薬内服中には予期せぬ事態で中和剤が必要になるケースもあることが伺えます。本キャンペーンを推進していくにあたり、抗血栓薬を販売する製薬会社には、医療関係者が緊急時に備えられるような情報提供活動を期待しています。
萩原先生
“Think FAST ”campaignは6つの学会または協会の後援により実施されていますが、日本循環器学会においては本キャンペーンをどのように推進していくべきでしょうか。
池田先生
われわれ循環器内科医は、抗血栓薬を処方する機会は多いものの、頭部外傷を診る機会は限定的です。そこで、日本循環器学会においても抗血栓薬を処方する立場として、本キャンペーンを通じて、抗血栓薬内服中の頭部外傷への対応方法などを共有し、医療関係者および一般市民の双方に周知徹底することが重要であると考えています。そして、本キャンペーンの啓発内容が循環器領域の診療ガイドラインに今後盛り込まれることを期待しています。
萩原先生
今回は、池田先生から“Think FAST ”campaignにおける啓発活動について、示唆に富む貴重なお話を伺うことができました。また、ダビガトランをはじめとする中和剤を有する抗血栓薬についても、より理解が深まったのではないでしょうか。本キャンペーンを通じて、抗血栓薬内服中の高齢患者における頭部外傷の危険性やその対応について社会に広く周知され、多くの患者が救われることを期待しています。本日はありがとうございました。

<文献>

  • 1)Ohsawa M, et al. J Epidemiol 2005 ; 15: 194-196.
  • 2)日本脳神経外傷学会. 日本頭部外傷データバンクプロジェクト2015.
  • 3)プリズバインド®市販直後調査・最終報告
PC
2019年8月作成

<< 関連記事一覧へ戻る

図1 わが国における慢性心房細動患者数の推移および今後の予測

図2 高齢※頭部外傷患者における抗血栓薬の内服率

表 一般市民への啓発活動

図3 抗凝固薬内服患者における中和剤に関するアンケート結果