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COPD Summit2019 WEB講演会記録集

CONTENTS

Episode 1 | 11月18日(月) 19:00―20:05 会場:KIT STUDIO 東京第1スタジオ

Opening Remarks

三嶋 理晃 先生  大阪府済生会 野江医療福祉センター 総長/野江病院 院長/京都大学 名誉教授

Chair 永井 厚志 先生  新百合ヶ丘総合病院 呼吸器疾患研究所 所長/東京女子医科大学 名誉教授

Before 2000

Teller  福地 義之助 先生  順天堂大学 名誉教授

2000's

Teller  西村 正治 先生  豊水総合メディカルクリニック/北海道呼吸器疾患研究所/北海道大学 名誉教授

Episode 2 | 12月6日(金) 19:00―19:30 会場:KIT STUDIO 東京第2スタジオ

Chair 柴田 陽光 先生  福島県立医科大学医学部 呼吸器内科学講座 教授

2010's

Teller 室 繁郎 先生  奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授

Episode 3 | 12月17日(火) 19:00―19:35 会場:東京ステーションコンファレンス6F 606

Chair 佐藤 篤靖 先生  京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科学 助教

2020 onwards

Teller 鈴木 雅 先生  北海道大学大学院医学研究院 呼吸器内科学教室 助教

Closing Remarks

福地 義之助 先生  順天堂大学 名誉教授

三嶋 理晃 先生 大阪府済生会 野江医療福祉センター 総長/野江病院 院長/京都大学 名誉教授

Opening Remarks

三嶋 理晃 先生
大阪府済生会 野江医療福祉センター 総長/野江病院 院長/京都大学 名誉教授

COPDは多様な併存症を有する全身疾患であり,COPDと併存症のコントロールは双方向性であることから,様々な治療手段がターゲットとなる。近年,運動により骨格筋から分泌されるマイオカイン(myokines)の抗炎症効果や代謝改善などの多様な臨床効果が明らかとなり,またiPS細胞研究では肺胞上皮前駆細胞の誘導および肺胞上皮細胞・気道上皮細胞の分化誘導法が開発されるなど,有望な研究が進められている。
呼吸器病学の変遷(表1)は,それまで主流であった呼吸生理学から1970年以降は細胞・分子生物学が席巻し,2000年に入りIntegral Biology発展の時代となった。今後,deep thinkingや量子コンピュータ,仮想空間などの新たなパラダイムの創生が期待される。本会「COPD Chronicle」ではCOPDの歴史変遷を2000年まで,2000年代,2010年代,これからの2020年代に分けて語っていただく貴重な機会となる。

表1 呼吸器病学の変遷

~1970 :
呼吸生理学が主流
~2000 :
細胞・分子生物学が席巻
~2020 :
Integral Biologyの発展
2020~ :
全く新しいパラダイムの創生(deep thinking,量子CP,仮想空間,etc…)

(三嶋先生ご提供)

Episode 1 |Chair 永井 厚志 先生
新百合ヶ丘総合病院 呼吸器疾患研究所 所長/東京女子医科大学 名誉教授

永井 厚志 先生
福地 義之助 先生

Before 2000

Teller

福地 義之助 先生
順天堂大学 名誉教授

COPD概念の変遷

 COPD概念の変遷を辿ると(表2),1950年代には閉塞性換気障害を示す慢性肺疾患に対し,大西洋を挟んで米国では肺気腫,英国では慢性気管支炎と,臨床診断が異なる状況であった。欧米の研究者が集まったCIBAGuest Symposiumでは,肺気腫を病理診断,慢性気管支炎を慢性の咳嗽と喀痰による臨床症状で診断し,肺気腫・慢性気管支炎・喘息を包括してchronic nonspecific lung diseases(CNSLD)と呼称する方針が示された1)
 COPDを最初に疾患名として用いたのは1963年のWilliamsらの研究報告である2)。肺気腫を病理診断名に限定し,持続性の呼吸困難が著明で気道閉塞が主要な問題となる慢性肺疾患をCOPDとして提唱した。翌年,米国のBurrowsらがCNSLDに非可逆性気流制限(AFL)を伴う喘息を加えた病態をchronic obstructive lung disease(COLD)とし,英米の症例からCOLDをType A(肺気腫型),Type B(気管支炎型),Type X(中間型)に分類した3)
 さらに1958年より開始されたASPEN Lung Conferenceでも,1966年の第9回開催よりCOPDの疾患名が使用されている。本会はCOPD研究史上,国際的な知見共有の場としてきわめて重要である。第1回に日本から参加した研究者が閉塞性肺疾患の重要性を認識し,「肺気腫研究会(現 閉塞性肺疾患研究会)」を立ち上げた。これにより日本独自の肺気腫診断基準が作成され,今日まで継続されている。その後,1987年に米国胸部学会(ATS)がCOLDから喘息を分離してCOPDへの呼称変更に至った。

表2 COPD概念の変遷

  • 慢性閉塞性換気障害,喀痰・咳,呼吸困難があるびまん性肺疾患に別の診断名を適用
     ―米国学派 (American emphysema)
     ―英国学派 (British bronchitis)
  • Ciba Guest Symposium (1959):
     ―肺気腫は病理診断,慢性気管支炎は臨床症状で診断する
     ―両者を包括してCNSLD (chronic nonspecific lung disease)と呼ぶとした
  • Orie (1960) 肺気腫、喘息、慢性気管支炎は同一起源
  • Williams (1963):COPD (肺気腫は病理診断名のみ)
  • Burrows (1964):COLD (CNSLDに非可逆性気流制限を伴う喘息を加えた名称);type A (pink puffers), type B (blue bloaters)
  • ATS (1987):COPDと気管支喘息を分離した

(福地先生ご提供)

末梢気道病変とCOPD

 末梢気道病変(SAD)のCOPDとの関連についても長い歴史がある。1967年,Macklemらは逆行性カテーテルによる気道抵抗の測定から,内径2mm以下の末梢気道抵抗が全気道抵抗の15%以下と小さいことを明らかにした4)。さらにHoggらによりSADがCOPDの重症度と相関すること5),Meadらにより末梢気道は“quiet zone”であるためCOPD病変は臨床症状がないまま進行すること6)が示された。1972年にはMacklemが末梢気道は”silent zone”であり,COPDの気流制限の中核病変であるとする「SAD仮説」を提唱している7)。これにより,1960 ~ 70年代にSADを早期検知する検査法の研究が進められた。1973年には臨床導入されたCTによって肺気腫の定量的評価が可能となった。

COPD研究上の“3大仮説”

  1997 年に「2020 年にはCOPDが世界の死亡原因の第3位になる」との予測が発表され8),翌年Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)が立ち上げられた。GOLD以前のCOPD研究上の3大仮説として注目すべきは肺気腫・慢性気管支炎・喘息を同一起源の疾患とするオランダ仮説,COPDの発症原因を感染とする英国仮説,そしてSAD仮説である(表3)。オランダ仮説,SAD仮説には科学的エビデンスにより正しさが証明され,今日に至る。

表3 COPD研究上の“3大仮説”

  • 英国仮説(British Hypothesis)
    ―Fletcher, Peto, Burrow, Reidら(1960年代)
    ―Petoらが否定的見解を示した(1983)
  • オランダ仮説(Dutch Hypothesis)
    ―Orieら(1960)
    ―21世紀にも継続して研究対象(ACOなど)
  • 末梢気道仮説(Silent Zone Hypothesis)
    ―Mead (1970), Macklem (1972)
    ―21世紀にはエビデンスとなり臨床導入

(福地先生ご提供)

福地 義之助 先生

2000’s

Teller

西村 正治 先生
豊水総合メディカルクリニック/北海道呼吸器疾患研究所/北海道大学 名誉教授

COPD疾患概念のパラダイムシフト

 2000年代はCOPDの疾患概念におけるパラダイムシフトが起こった時期と総括できる。従来の疾患概念ではCOPDは慢性気管支炎と肺気腫が様々に混合して起こると説明されていた。また末梢気道病変の位置づけが不明で,慢性気管支炎の症状(咳・痰)がないCOPDはすべて肺気腫優位型と誤解される懸念があったが,2001年刊行のGOLD Reportでは慢性気管支炎・肺気腫の病名を排して「COPDは完全には可逆的ではない気流閉塞を特徴とする疾患である。この気流閉塞は通常進行性で,有害な粒子やガスに対する異常な炎症性反応と関連している」と定義された9)。気流閉塞は末梢気道病変と肺気腫が様々な割合で混合して起こること,気流閉塞の評価はスパイロメトリーを用いて行うことが明記された。つまり,新たなCOPDの疾患概念は末梢気道病変と肺気腫で特徴づけられ,慢性気管支炎はCOPD全体に対して併存しうる症候と捉えられる(図1)。北海道COPDコホート研究においても,気流閉塞は同程度でも肺気腫の程度には個人差があること,どの病期でも肺気腫の程度にかかわらず慢性気管支炎患者が分布していることが示された10)
 GOLD Reportで「完全には可逆的ではない気流閉塞」と表現されたことで,気流閉塞の可逆性が強調されたインパクトは大きい。実際,COPDにおける気流閉塞の可逆性は気管支喘息が合併していなくても多くの患者で様々な割合で認められることが報告されており11),可逆性の大小だけで喘息合併の有無を判断せず,個体内変動をふまえ複数回の検査で可逆性を判断する必要がある。2004年に刊行された本邦の「COPD診断と治療のためのガイドライン第2版」でもGOLDの疾患概念が取り入れられ12),気流閉塞の可逆性はCOPD自然歴を改善しうる薬物治療へと導く道筋となった。
 さらに本邦独自の特徴として,画像解析手法の進歩による肺CT画像分析を用いたCOPDの病型分類が挙げられる。気腫病変に加え気道病変の評価が可能となり,2009年のCOPDガイドライン第3版ではCOPDを気腫型と非気腫型に分類し13),それぞれを連続した病態と捉える病型理解が進んだ。
 2006年に改訂されたGOLDガイドラインでは,「COPDは予防と治療が可能な疾患である」との見解が加わり,COPDの基本病態は肺にとどまらず全身に影響を及ぼす全身疾患であることが強調された14)。本邦のCOPDガイドライン第3版でも全身性の炎症疾患としてのCOPDの全身的影響を記載し13),全身管理の重要性が指摘された。

図1 COPDの概念図

図1 COPDの概念図

(福地先生ご提供)

長時間作用性気管支拡張薬を中心とする薬物治療の基盤確立

 2000年代には薬物治療の長期的効果を検討するランドマーク研究が実施された。2007年のTORCH試験では,長時間作用性β2刺激薬(LABA),吸入ステロイド薬(ICS),LABA/ICS,プラセボの4群を3年間追跡して生命予後を評価した15)。結果,プラセボ群とLABA/ICS群で有意差はなかったものの,全死亡率を17%抑制することが示された。
 翌年報告されたUPLIFT試験では,LABAやICSによる先行治療に長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を加えた群と,LAMA以外の薬物療法を許可した対照群を4年間追跡し1秒量を評価した16)。結果,1秒量経年低下に関して有意差はなかったが,LAMA群で全死亡率が13%有意に抑制され,呼吸機能やQOLの改善が試験期間を通じて継続すること,心筋梗塞や増悪を増やさないことが確認された。これらの臨床試験の成果は,その後のCOPD薬物治療の進歩に大きな影響を与えている。

本邦における初の疫学調査とコホート研究の開始

 2000年代はCOPDの疾患概念においてパラダイムシフトが起こり,治療においては2つのランドマーク研究をもとに今日の薬物治療の基盤が確立された時期である(表4)。
 そのほか,2000年代のトピックスとして本邦初のCOPD疫学調査NICE studyが挙げられる17)。さらに2003年に開始された北海道COPDコホート研究をはじめ,本邦で複数の前向き観察研究が立ち上げられたことも2000年代の特徴といえる。

表4 2000年代におけるCOPD まとめ

  • 疾患概念のパラダイムシフト
    新しい定義
    気流閉塞の可逆性
    肺CT画像分析を用いた病型分類
    全身疾患としてのCOPD
    (GOLD Report 2001, 2006の発行)
    (JRS COPDガイドライン2004, 2009の発行)
  • 長時間作動型気管支拡張薬を中心とする薬物治療の基盤確立
  • 本邦における初の疫学調査とコホート研究の開始

(福地先生ご提供)

Episode 2 |Chair 柴田 陽光 先生
福島県立医科大学医学部 呼吸器内科学講座 教授

柴田 陽光 先生
福室 繁郎 先生

2010’s

Teller

室 繁郎 先生
奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授

病態理解の深化と疾患概念の転換・変遷

1.FEV1偏重への反省と併存症

 2010年代には,COPDに関する多数の大規模観察研究や介入研究が報告された。2010年のECLIPSE研究により,6分間歩行距離(6MWD)や増悪数などの臨床的に重要な指標と閉塞性障害の程度との関連は強くはなく,COPDは呼吸機能だけでは規定できないこと18),さらに急性増悪を予測する最も重要な因子はCOPDの重症度にかかわらず前年度の急性増悪の既往であることが報告された19)
 また,COPDの予後因子として息切れ症状や運動耐容能,身体活動性が示され,COPDの病態把握において呼吸機能とともに症状・問診の重要性が再認識された時期といえる。COPDの生命予後に有意に影響する12の併存症について研究結果が報告されたのもこの時期であった20)

2.COPDの初期病変と肺の発育障害

 2011年には,病理学的検当においてCOPDでは気流閉塞の初期から気腔拡大に先行して末梢気道数が減少していることが示された21)。私たちはヒト生体において肺気腫の初期病変を検出する画像検査法として,フラクタル解析が微細な肺野の破壊様式を反映することを報告している22)。さらにhigh resolution CT(HRCT)でvoxel-wise解析を改良したパラメトリック応答マップ(PRM)法で得られた指標が早期の末梢気道病変を反映することが報告された23)
 近年,幼少期からの呼吸機能の経年変化,trajectoryに関する報告が相次ぎ,最大到達FEV1が発育過程の障害により低値であり,COPDに進行する群が報告されている。このことが,COPDの疾患概念から気道炎症が後退した背景の1つと考えられる(図224)25)

図2 発育過程でCOPDへ進展する群?~気道炎症が後退した背景

図2 発育過程でCOPDへ進展する群?~気道炎症が後退した背景

(文献24, 25より作成)

ガイドライン・指針の変遷

 2001年のGOLDでは気道炎症・閉塞性障害で定義されていた疾患概念が,スパイロメトリーによるFEV1だけではCOPDの病態把握には不十分とのエビデンスが蓄積され,2011年改訂のGOLDではABCD分類が提唱された26)。COPD薬物療法の指標として増悪歴と閉塞性障害を縦軸,患者報告アウトカム(息切れあるいは健康関連QOL)を横軸に,4象限に分類して重症度分類するものである。さらに2017年改訂のGOLDでは治療指針から% FEV1が,定義から炎症が除外された27)。これらの変更は,2010年代に認識された増悪因子としての前年度の増悪,併存症,肺の発育障害の重要性を含めたCOPDの多様性・表現型への対応といえる。
 一方,日本呼吸器学会による「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」では,2009年(第3版)ですでに「FEV1の低下だけでなく,症状の程度を加味し,重症度を総合的に判断したうえで治療法を選択する」と定義され,全身の併存症,合併疾患についても1章が割かれている13)。この考え方は最新のJRSのCOPDガイドラインにも継承されている。

薬物療法の成熟

 2010年代はCOPD病態の多様性理解が進み,薬剤治療では気流閉塞だけでなく動的肺過膨張や身体活動性の低下,増悪などの広範なアウトカムの検証が求められるようになった(図3A28)29)。こうしたアウトカムに対し,長時間作用性抗コリン薬/長時間作用性β2刺激薬(LAMA/LABA)配合剤スピオルト®(チオトロピウム臭化物水和物/オロダテロール塩酸塩製剤)は,増悪抑制効果についてはDYNAGITO試験30),運動耐容能および身体活動性の改善効果についてはVESUTO試験31),QOL改善効果についてはTONADO試験32)でそれぞれエビデンスが報告されている(図3B)。さらに呼吸機能が顕著に低下する軽症~中等症のCOPDに対して,LAMA単剤(チオトロピウム)の長期投与がFEV1の経年低下を抑制することが示されている33)
 一方で,2010年代は好酸球性炎症・喘息病態の関与について混乱が起きた時代でもある。2014年,喘息の国際指針であるGlobal Initiative for Asthma(GINA)とGOLDがAsthma-COPD Overlap Syndrome(ACOS)診断に関する合同ドキュメントを提唱した。2018年にわが国でもACOについての手引きが出版され34),2018年のCOPDガイドライン第5版では吸入ステロイド(ICS)は喘息病態が合併するACOのみ推奨となった28)。ただし2020年改訂のGOLDではACOに言及せず,COPDと喘息を異なった病態として捉える見解が示されている35)
 2018年にはトリプル製剤(ICS+LAMA+LABA)の効果を検討した大規模臨床試験の報告が相次いでいるが,実臨床での検証が今後の課題と考えられる。

図3 ‘More’ Treatable

図3 ‘More’ Treatable

A:広範なアウトカムに対する検証 B:LAMA/LABA=スピオルト®のエビデンス

(文献28, 29より引用改変)

2010年代のCOPD治療のまとめ

 2010年代は気道炎症・閉塞性障害で定義されたCOPDの疾患概念の多様性が改めて認識された時代である(表5)。その多様性を評価する標準方法,表現型毎の治療法の確立も2010年の課題であるが,長時間作用性気管支拡張薬による治療効果,予後に及ぼす影響に関しては知見が集積されつつある。今後,非薬物治療の均てん化やさらなる治療法の開発が待たれる。

表5 COPDの2010年代 まとめ

  • 1.GOLD2001で気道炎症・閉塞性障害で定義された疾患概念を基に、多様性が改めて認識されるようになった。
    • 呼吸機能の経年変化、増悪、併存症、気道炎症、発育障害
  • 2.多様性を評価する標準方法、表現型毎の治療法の確立が課題
  • 3.発症・病態に関しての議論は継続中
    • 炎症以外の機序
    • 末梢気道病変
    • 好酸球性炎症・喘息病態の関与に関しては混乱が続いている。
  • 4.LABDsの治療効果に関しては知見が集積されつつあり、予後改善が期待できる。
  • 5.非薬物治療の均てん化や、さらなる治療法の開発が待たれる

LABDs:長時間作用性気管⽀拡張薬(LAMA and/or LABA)

(室先生ご提供)

Episode 3 |Chair 佐藤 篤靖 先生
京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科学 助教

佐藤 篤靖 先生
鈴木 雅 先生

2020 onwards

Teller

鈴木 雅 先生
北海道大学大学院医学研究院 呼吸器内科学教室 助教

Precision medicineの発展

 2020年以降のCOPD治療の将来展望の1つとして,Precision medicineの発展が挙げられる。バイオマーカーに基づいて個々の症例に合った治療選択を行うためにはCOPDの疾患概念の再構築,ひいては疾患の背後にある分子生物学的な機序を特定するエンドタイピングから治療標的を定めることが重要となる。今後はCOPDと喘息を同じ「慢性気道疾患」と捉え,各々のkey biological pathwaysと治療標的を同定していく作業が求められる(図4)。
 当施設では,2018年4月よりACOに焦点を当てた慢性気道疾患患者の包括的前向きコホート研究PIRICAの登録を開始した。一方,2020年のGOLDレポートではACOには言及しないことが明記されている35)。2020年代にはCOPDと喘息の位置付けについて改めて検証し,新たな治療標的によるPrecision medicineの発展,薬剤送達技術の発展と再生医療が期待される(図5A)。

図4 慢性気道疾患全体でのエンドタイピングの必要性

図4 慢性気道疾患全体でのエンドタイピングの必要性

(鈴木先生ご提供)

薬剤送達技術の発展と再生医療

 さらなるCOPD治療の将来展望として,薬剤送達技術には吸入デバイスの開発・進歩のほか,経気道投与のメリットを生かしたsiRNAやアンチセンス核酸吸入による遺伝子発現の直接制御が可能性として挙げられる(図5B)。ヒトへの応用では免疫反応,off-target効果,キャリアシステムについての検討が必要であるが,すでにマウスモデルでは有用性が報告されている。さらに経静脈投与による肺血管標的型多機能性エンベロープナノ構造体のほか,ミトコンドリア標的型キャリアの開発も進行中である。
 再生医療については脱細胞化骨格による臓器再生やヒトiPS細胞からのⅡ型肺胞上皮細胞・気道上皮細胞の分化誘導,さらに脱細胞化骨格とヒトiPS細胞からの移植肺の培養などの臨床応用が期待されている(図5B)。
 日本には世界をリードする研究のポテンシャルは十分にある。日本ならではのリサーチクエスチョンを持ち,オールジャパン体制で基礎研究・臨床研究に取り組むことがCOPD治療の明るい未来に繋がると考えられる。

図5 COPD治療の将来展望

図5 COPD治療の将来展望

(鈴木先生ご提供)

福地 義之助 先生 順天堂大学 名誉教授

Closing Remarks

福地 義之助 先生
順天堂大学 名誉教授

 本会のテーマである「COPD Chronicle」は,“温故知新の展開”とも言い換えられる。20世紀は呼吸生理学・画像診断の進歩,世界規模の疫学的負荷の認知,そして分子生物学・遺伝子学研究の進歩の時代であり,21世紀はCOPDを全身性疾患として捉えるPrecision medicineへの指向性,薬物・非薬物療法によるCOPD治療の進歩,さらに発育・加齢の病因子論的意義の認識が進んだ時代といえる(表6)。
 温故知新の真意は,歴史的変遷を検証することで新たな知識を獲得し,知新を次世代に伝えることの重要性であると理解できる(表7)。たとえば気流制限の定義を固定値(FEV1<70%)から正常下限値(LLN)に変更することの臨床的意義について論争が行われてきたが,2019年にCOPD関連の入院と死亡率に関してLLNよりも固定値のほうが正確であることが示された36)。さらにタバコ感受性の遺伝子背景の解明や免疫異常によるCOPDの病態生理学的研究や,強制オシレーション(FOT)法による気道抵抗の評価が新たなCOPDの診断・評価法として世界的に確立されつつあることなど,“温故”を受けて“知新”に活かすべきポイントとして挙げられる。

表6 COPD Summit 2019 ーCOPD Chronicleー“温故知新の展開”

  • 20世紀
    ―呼吸生理学;AFLの定義、末梢気道病変の評価
    ―画像診断;CTの開発、LAA、フラクタル解析導入
    ―世界規模の疫学的負荷の認知
    ―分子生物学、遺伝子学の研究の進歩
  • 21世紀
    ―全身性疾患として;Precision medicineへの指向性
    ―治療法の進歩;薬物;非薬物療法;外科;内視鏡療法
    ―発育:加齢の病因子論的意義の認識

(福地先生ご提供)

表7 知新を生かすためのヒント

  • AFLの定義の決着
    ―Fixed ratio(FEV1<70%)とLLN
    臨床的インパクトはFixed ratioで十分
  • タバコ感受性の遺伝子背景の解明
  • 免疫異常のCOPDの病態生理的研究
  • FOTのCOPDが診断・評価法として確立

(福地先生ご提供)

 本会「COPD Chronicle」では2000年以前,2000年代,2010年代,さらに2020年以降について歴史的変遷を概観し,多くの知見と解決すべき課題を見出すことができた。これからのCOPD診療を担う医師に貴重な学びの機会となれば幸いである。

References

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  27. 27) The Global Strategy for the Diagnosis, Management and Prevention of COPD, Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)2017.
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  33. 33) Zhou Y, et al. N Engl J Med. 2017; 377: 923-35.*
  34. 34) 日本呼吸器学会喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD オーバーラップ:ACO)診断と治療の手引き作成委員会.喘息と COPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap ; ACO)診断 と治療の手引き2018.東京,メディカルレビュー社,2017
  35. 35) Global Strategy for the Diagnosis, Management and Prevention of COPD 2020.[https://goldcopd.org/wp-content/ uploads/2019/11/GOLD-2020-REPORT-ver1.0wms.pdf]
  36. 36) Bhatt SP, et al. JAMA. 2019; 321: 2438-47.
  37. *(本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました)
PC
作成年月:2020年3月