スピリーバ 喘息 効果と対象患者専門医の意見 ~スピリーバ®レスピマット®の特徴と用法

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専門医らによるディスカッション

気管支喘息治療の歴史における抗コリン薬の役割

  • 足立 満 先生
    足立 満 先生
    国際医療福祉大学臨床医学研究センター 教授/山王病院 アレルギー内科
  • 橋本 修 先生
    橋本 修 先生
    日本大学医学部内科学系 呼吸器内科学分野 主任教授
  • 相良 博典 先生
    相良 博典 先生
    昭和大学医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授
  • Reinoud Gosens, PhD
    Reinoud Gosens, PhD
    Associate Professor of Department of Molecular Pharmacology, University of Groningen, Groningen, The Netherlands

はじめに

足立
本日は、「気管支喘息治療の歴史における抗コリン薬の役割」をテーマに、吸入用抗コリン薬の歴史、そして基礎および臨床研究の成果をご紹介いただき、討議したいと思います。

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喘息治療と吸入用抗コリン薬の歴史

足立
最初に、橋本先生から喘息治療と吸入用抗コリン薬の歴史について解説をお願いします。
橋本
歴史に入る前に、喘息の病態を整理しておきたいと思います。喘息における気流閉塞の主因はアセチルコリン-ムスカリン受容体系の活性化であり、その抑制が治療の重要なポイントになります。気道に存在するムスカリン受容体にはM1、M2、M3の3つのサブタイプがあり、M3受容体は気道平滑筋の収縮、M2受容体はアセチルコリンの過分泌を抑制するためのネガティブフィードバックをそれぞれつかさどっていると考えられています。喘息ではM2受容体の機能不全が生じているとされ、相対的にアセチルコリンの過分泌が起こっていると推察されます。
 このような病態を念頭に置くと抗コリン薬の有用性が期待され、歴史的にも喘息の治療は抗コリン作用を含む薬草に端を発します。表に治療の歴史を示します。紀元前2000年頃の古代インドでは、ダツラなど抗コリン作用のある薬草の燻した煙を吸入、古代アッシリア人やアメリカンインディアンはダツラの葉を乾燥させたストラモニウムを吸入して咳を抑えたとされます1)。1800年代に入ると、チョウセンアサガオの葉を乾燥させ、その煙のストラモニウムの吸入が喘息症状の改善に有効であることが報告されました2)。その後、ダツラ・ストラモニウムから活性のあるアルカロイドとしてアトロピンが単離されました3)。このように、喘息の治療は抗コリン作用を含む植物の葉を燻した煙の吸入から始まりましたが、1901年に副腎髄質からアドレナリンが単離・精製され4)、アドレナリン吸入療法の有効性が報告5)されると喘息治療の主流はβ2刺激薬吸入療法へと移っていきました。

喘息の病態解明と治療の歴史

足立
ここでいったん、抗コリン薬への関心が薄れたということですね。再び抗コリン薬に目が向けられるきっかけは何だったのですか。
橋本
1959年のアトロピン吸入療法の有効性6)の報告です。
これを契機に抗コリン薬の研究・開発が進められ、SAMAのイプラトロピウムやオキシトロピウム臭化物が登場しました。しかし残念ながら、さまざまな比較研究を経て時代の主流はICS/LABAとなっていきました。そして、2010年に大きな転換点が訪れます。倍量ICS、ICS+LABA(サルメテロール)、ICS+LAMA(チオトロピウム)の比較検討で、LAMAとLABAにおいて同等の気管支拡張効果が示されたのです7)。これにより喘息治療の概念が変わり、LAMAへの期待が高まっているという状況です。
足立
ありがとうございました。喘息治療の歴史は抗コリン薬に始まり、β2刺激薬の時代を経て、再び抗コリン薬の重要性に注目が集まっているということです。

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喘息の病態におけるアセチルコリンの多彩な作用

足立
続いて、アセチルコリンの喘息に及ぼす影響とチオトロピウムの効果について、Gosens先生にお話しいただきましょう。
Gosens
アセチルコリンは副交感神経の伝達物質として、気管支の収縮や粘液腺からの粘液分泌に関与しているだけでなく、炎症性メディエーターの産生、粘液下腺のリモデリングや杯細胞の過形成にも関わっていることが明らかになってきました。気管支上皮細胞、平滑筋細胞、マクロファージ、線維芽細胞、炎症細胞などにはアセチルコリンの結合部位であるムスカリン受容体が発現していることからも(図18)、アセチルコリンが気道のさまざまな部位での作用を介し、気管支喘息の病態形成に主要な役割を果たしていることがうかがえます。このような病態を踏まえると、喘息治療においてはアセチルコリンが重要なターゲットの1つになると考えられます。実際、アセチルコリンの抑制が気道の炎症を抑制する9,10)、アセチルコリン刺激によりマクロファージや単球が産生した炎症性サイトカインによる好中球の集積を抑制する11)、杯細胞の過形成を抑制する12)、気道平滑筋特異的ミオシンの発現を減弱させる13)など、気管支喘息の改善につながり得るさまざまな基礎的知見が報告されています。

図1 気道におけるコリン作動系

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M3受容体の重要性

Gosens
喘息におけるリモデリングでは、ムスカリン受容体のなかでも特にM3受容体が大きな役割を果たしています。血小板由来成長因子(PDGF)による気道平滑筋増殖はアセチルコリンにより増強され、それは主にM3受容体を介することが示唆されているほか14)、M3受容体ノックアウトマウスでは野生型マウスと比べ気道平滑筋のリモデリングが抑制されていることが示されています15)図2)。なお、分子学的には、M3受容体の下流にあるPI-3キナーゼカスケードおよびプロテインキナーゼC(PKC)の活性化を介して成長因子による気道平滑筋増殖が惹起されていると考えられます。  まとめますと、アセチルコリンは気道平滑筋収縮と粘液分泌だけでなく、炎症反応の促進や気道リモデリングに影響を及ぼしていること、そしてその反応においてM3受容体が大きな役割を果たしているということです。M3受容体に選択的に作用することによって、臨床において長期的な視点でベネフィットが期待されます。
足立
炎症やリモデリングを含め、アセチルコリンの多彩な作用について基礎データに基づいて解説いただきました。何かコメントがあればお願いします。
相良
気道平滑筋の収縮もリモデリングに関与することがわかってきており、気道収縮への対処の重要性を再認識しています。この観点からも抗コリン薬に意義があると思います。

図2 M3受容体ノックアウトマウスにおける気道リモデリングの抑制

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チオトロピウムの臨床的エビデンス
—PrimoTinA-asthma試験とCadenTinA-asthma試験の結果より

足立
次に、チオトロピウムの臨床的有用性について、PrimoTinA-asthma試験16)およびCadenTinA-asthma試験17)の結果を相良先生に紹介していただきましょう。
相良
PrimoTinA-asthma試験は、高用量ICS/LABAによる治療でも症状が持続する重症喘息患者912例を対象に行われました。チオトロピウムレスピマット®2.5μg、1日1回2吸入を48週間投与した際の有効性と安全性がプラセボと比較検討されました。主要評価項目である24週間後におけるピークFEV1(0-3h)のベースラインからの変化量は、チオトロピウムレスピマットR5μg群で有意な改善が認められたほか、重度の喘息増悪発現リスクを21%抑制、喘息増悪リスクを31%抑制しました(図3)。有害事象に群間差は認められませんでした。
 また、日本人の中等症~重症喘息患者285例を対象としたCadenTinA-asthma試験では中用量ICSにチオトロピウムを併用した際の安全性、有効性が検討されました。主要評価項目の長期安全性ではチオトロピウムの忍容性が確認されました。副次評価項目であるトラフFEV1のベースラインからの変化量は、52週間後においてチオトロピウムレスピマット®5μg群で有意な改善が認められ、1年間にわたって呼吸機能を改善し続けることが示されました(図4)。

図3 国際共同第Ⅲ相臨床試験:PrimoTinA-asthma 試験 喘息増悪および重度の喘息増悪の発現リスク(48週間、併合解析)

図4 国内長期投与試験:CadenTinA-asthma 試験トラフFEV1変化量の推移(52週間)

足立
今後のLAMAの位置付けについてご意見をお願いします。
相良
例えば痰が非常に多い患者さんにはICS+LAMAが有用だと思われますが、明確なエビデンスがありません。今後、ICS+LABAあるいはICS+LAMAがよい適応となる患者集団を臨床研究で明らかにしていく必要があると思います。
橋本
同感です。気流閉塞の状態など、症状に応じてICS+LABA、ICS+LAMAあるいはICS+LABA+LAMAなどを使い分けることで、成績向上につながると考えます。

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まとめ

足立
喘息治療の歴史に始まり、基礎と臨床の両面から抗コリン薬の意義についてご討議いただきました。チオトロピウムは、いわば”古くて新しい薬”であり、幅広い喘息患者さんに寄与し得る選択肢として、今後の可能性の広がりが期待されます。本日はありがとうございました。

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引用文献

  1. 1) Gandevia B. Postgrad Med J 51: 13-20, 1975
  2. 2) English W. Edinburgh Medical and Surgical Journal 7: 277-280,
  3. 3) Geiger PL, et al. Ann Pharm(Heidelberg): 5143-5181, 1833
  4. 4) Takamine J. Ther Gaz 17: 221-224, 1901
  5. 5) Camps PWL. Guyʼs Hosp Report 79: 496-498, 1929
  6. 6) Herxheimer H. BMJ 2: 167-171, 1959
  7. 7) Peters SP, et al. N Engl J Med 363: 1715-1726, 2010
    [ 著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料などを受領している者が含まれます。]
  8. 8) Kistemaker LE and Gosens R. Trends Pharmacol Sci 36: 164-171, 2015
  9. 9) Bos IS, et al. Eur Respir J 30: 653-661, 2007
  10. 10) Kistemaker LE, et al. Respir Res 17: 13, 2016
  11. 11) Bühling F, et al. Respir Med 101: 2386-2394, 2007
  12. 12) Kistemaker LE, et al. Thorax 70: 668-676, 2015
  13. 13) Gosens R, et al. Am J Respir Crit Care Med 171: 1096-1102, 2005
  14. 14) Gosens R, et al. Am J Respir Cell Mol Biol 28: 257-262, 2003
  15. 15) Kistemaker LE, et al. Am J Respir Cell Mol Biol 50: 690-698, 2014
  16. 16) Kerstjens HA, et al. N Engl J Med 367: 1198-1207, 2012
  17. 17) Ohta K, et al. PLoS One 10: e0124109, 2015

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