スピリーバ 喘息 効果と対象患者専門医の意見 ~スピリーバ®レスピマット®の特徴と用法

<< 専門医らによるディスカッションへ戻る

専門医らによるディスカッション

ウイルス感染に伴う喘息増悪の原因とそのメカニズム

  • 松瀬 厚人 先生
    松瀬 厚人 先生
    東邦大学医療センター大橋病院
    呼吸器内科 教授
  • 玉田 勉 先生
    玉田 勉 先生
    東北大学病院
    呼吸器内科 講師
  • 長瀬 洋之 先生
    長瀬 洋之 先生
    帝京大学医学部内科学講座
    呼吸器・アレルギー学 教授

はじめに

松瀬
本日のテーマは喘息の増悪です。増悪は患者さんのQOLに大きな影響を与えますし,医療経済的にも増悪を予防していくことは非常に重要です。
そこで,本日は喘息治療のエキスパートであるお2人の先生に,ウイルス感染が増悪に与える影響,特にアセチルコリンに焦点を当て,増悪のメカニズムとその予防についてお話を伺いたいと思います。

ページTOPへ

ウイルス感染と喘息増悪のメカニズム

長瀬
喘息症状が発現あるいは悪化する原因はさまざまありますが,やはり一番多いのは風邪だということがわかっています(図11)。風邪はウイルス感染によるものであり,成人喘息増悪の80%に感冒様症状が認められます。原因となるウイルスのなかでも最も多いのはライノウイルスだといわれています2)
ライノウイルスに関しては,喘息患者さんでは,一旦感染すると長引き重症化する傾向があります。
そのメカニズムですが,気道上皮細胞については,ウイルスの二重鎖RNAによりサイトカイン・ケモカインが産生され,気道上皮自体がアポトーシスに陥ることがわかっています3)。また好酸球にはウイルスの単鎖RNAを認識する受容体が発現しているので,これにより好酸球が活性化され生存延長し,活性酸素を産生します4)
そのほか,脱顆粒をしてヒスタミンや脂質メディエーターを出すマスト細胞も,ウイルスの二重鎖RNAで活性化し,サイトカインを産生することがわかっています。このようにウイルスはさまざまな細胞を活性化させ,多様な物質を分泌させて,アレルギー性の気道炎症を増悪させるのであろうと考えられています。
喘息においてウイルスによる増悪は非常に重要ですが,それは多くの細胞・多くの分子が関与した増悪であるということです。


図1:喘息症状が発現する要因

  • 目的: 喘息の治療管理下における喘息症状発現/症状悪化の実態および患者の対応方法の調査
  • 対象: 喘息の長期管理薬を継続的に服用しており,2ヵ月に1回以上,喘息治療を目的に定期的に医療機関を受診している軽症持続型~重症持続型喘息患者537例
  • 方法: インターネット調査。患者の背景情報,喘息症状/症状悪化の頻度と程度,対処方法および治療薬のニーズなどについて回答を求めた。本調査では,喘息症状の発現を『咳や痰,息苦しさや「ゼーゼー」「ヒューヒュー」などの症状』,症状悪化を『いつもよりひどい咳・痰・息苦しさのいずれか』,喘息増悪を『予定外受診,緊急受診および入院』と定義し,患者に説明した。

(秋山一男.アレルギー・免疫.2012;19:1120-7.より引用)

松瀬
これはウイルスの作用ですから,喘息でなくても同じようなメカニズムが起こるのではないでしょうか。
長瀬
通常ではこのような炎症が起こることは,ウイルスを殺すという生体防御的な方向に働きます。
しかし喘息の場合は,もともと気道上皮に剥離などが認められ,また好酸球数も増加しています。そこで,アレルギー性炎症が悪化し,剥離して脆弱になっている気道の破壊がより進むという喘息に特殊な状態が起こるのだと考えられます。


図2:ウイルス感染によるムスカリンM2受容体刺激薬の作用抑制

  • 方法: モルモットにパラインフルエンザウイルスもしくは溶媒(コントロール)を接種(感染)させた。4日後に麻酔下状態で,迷走神経への電気的刺激による,肺膨張圧(気道収縮),1回換気量,血圧,心拍数の変化およびこれらの指標に対する,Pilocarpine 投与(i.v.)の影響を検討した。

(Fryer AD, et al. Br J Pharmacol. 1991;102:267-71.より引用)

玉田
健常者よりも喘息患者においてウイルス感染後の症状が長引くのは,まさに長瀬先生のおっしゃったように,気道上皮の剥離と好酸球の増多が原因だと思います。しかし,喘息患者のなかにも,増悪を頻繁に繰り返す人と比較的早めに終息する人がいるのは,何か違いがあるのでしょうか。
長瀬
普段から吸入ステロイド薬(ICS)によるコントロールが不十分で,好酸球数が増加傾向にあれば,ウイルス感染により好酸球が活性化されるため,増悪する可能性が高くなると思います。基本的には普段から好酸球・マスト細胞およびそれによる気道上皮のダメージを抑制しておくことが,増悪の予防につながると考えます。それにはICSをはじめとした普段の基本的薬物治療が重要だと思います。
松瀬
日頃のメンテナンスが何よりも大事だろうということですね。

ページTOPへ

ウイルス感染のムスカリンM2受容体とアセチルコリンへの影響

松瀬
次に玉田先生にアセチルコリンと増悪のメカニズムについてご解説いただきます。
玉田
アセチルコリンが気道平滑筋を収縮させ,喘息の症状に悪影響を及ぼすことはよく知られています。つまり気道で迷走神経末端からアセチルコリンが放出されると,気道平滑筋表面に発現するムスカリンM3受容体に結合して気道を強く収縮させます。一方で,迷走神経の末端にはムスカリンM2受容体があり,アセチルコリンの放出を調整していることも知られています。神経末端が放出されたアセチルコリンは,同時に神経そのものにも作用して,ムスカリンM2受容体を介してアセチルコリンの放出を抑えるような反応が同時に起きています。
喘息病態において,このムスカリンM2受容体の機能低下を起こすものが,さまざまな研究で明らかになってきています。実験的に迷走神経刺激により気道平滑筋を収縮させる条件下で,ムスカリンM2受容体刺激薬の濃度を高めていくにつれて,正常なモルモットでは収縮が弱まってきます。一方,そこにウイルス感染(この実験ではパラインフルエンザウイルス)が存在すると,ムスカリンM2受容体刺激薬による抑制が効かなくなることが示されています(図25)
ムスカリンM2受容体がフルに活性化すると,ほぼ完全にアセチルコリンの放出を抑えるといわれています。それほど強いムスカリンM2受容体のアセチルコリン放出抑制効果ですが,ウイルス感染や,好酸球,IgEが周囲に存在することにより機能低下を起こし,結果的にアセチルコリンの過剰な放出が惹起されることが知られています(図36)-12)


図3:ムスカリンM2受容体の機能低下とアセチルコリンの過剰放出

  • (Kummer W, et al. Histochem Cell Biol . 2008;130:219-34. Wessler I, et al. Br J Pharmacol. 2008;154:
    1558-71. Fryer AD, et al. Eur J Pharmacol. 1990;181:51-8. Fryer AD, et al. Br J Pharmacol. 1994;112:
    588-94. Jacoby DB, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998;157:A715. Evans CM, et al. J Clin Invest.
    1997;100:2254-62. Ichinose M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1996;154:1272-6より作図)

ページTOPへ

チオトロピウムの喘息増悪抑制作用

松瀬
では次に実際の治療の話に移りたいと思います。長瀬先生に抗コリン薬チオトロピウムについてご解説をお願いします。
長瀬
アセチルコリンはムスカリンM3受容体に働けば気道平滑筋を収縮させますし,分泌腺に働けば痰が増加することが想定されます。また気道過敏性の亢進にも関与しています。
長時間作用性抗コリン薬(LAMA)であるチオトロピウムは,ムスカリンM3受容体をブロックするので,アセチルコリンを阻害して気道平滑筋収縮を抑制します。さらに動物実験では多面的な作用が示唆されていますが,本日はヒトにおける増悪抑制作用のデータを紹介いたします。
PrimoTinA13)という第Ⅲ相無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験で,高用量ICS/LABA(長時間作用性β2 刺激薬)による併用療法にもかかわらず症状を有する喘息患者912例を対象に,チオトロピウム5μg 群とプラセボ群に無作為化して48週間投与しています。主要評価項目は,24週間後におけるピークFEV1とトラフFEV1,48週間の治療期間における最初の重度の喘息増悪までの期間としています。
この試験では,呼吸機能の有意な改善もみられましたが,特に増悪に関しては,重度の喘息増悪発現リスクを21%低下させ,また喘息増悪発現リスクを31%低下させました(図4,HR:0.79,p=0.03,48週間併合解析)13)
増悪の原因の第1位はウイルス感染ですから,チオトロピウムがウイルス感染による増悪リスクを低下しているためにこのようなデータになるのだと考えられます。
ウイルス感染はムスカリンM2受容体を機能低下させ,アセチルコリンを過剰発現させます。ウイルス感染時にはアセチルコリンが過剰になるわけですが,普段からチオトロピウムを投与してアセチルコリンをブロックできる状態で待機しておけば,たとえウイルスに感染しても大きな増悪を回避できるのではないかとこのデータから推察できると思います。
  • ※1: 重度の喘息増悪とは,全身性ステロイド薬を必要とするか,すでに使用している場合には2倍以上の全身性ステロイド薬を少なくとも3日間にわたって必要とした場合とした。重度の喘息増悪が最初に発現するまでの期間とは,患者の25%が少なくとも1回の重度の喘息増悪を発症するまでの治療期間とした。
  • ※2: 喘息増悪とは,患者の喘息症状が通常の日内変動を超えたものであり,連続2日以上認められた場合,及び/または患者の朝のPEF平均値と比較して,朝のPEF最大値に30%以上の減少が連続2日以上認められた場合とした。喘息増悪が最初に発現するまでの期間とは,患者の50%が少なくとも1回の喘息増悪を発症するまでの治療期間とした。
  • ※3: 喘息増悪及び重度の喘息増悪が最初に発現するまでの期間についての,投与群のみを効果とするCox比例ハザードモデルによるスピリーバ®レスピマット®群のプラセボ群に対するハザード比,その95%信頼区間及びp値。リスク減少割合(%)=(1-ハザード比)×100

図4:喘息増悪および重度の喘息増悪の発現リスク(48週間,併合解析 PrimoTinA試験)

  • 目    的: 高用量ICS/LABAによる治療に追加してスピリーバ®レスピマット®を48週間吸入投与した際の有効性及び安全性を検討する。
    ※ ブデソニド800μg以上または同力価ICS[GINA(Global Initiative for Asthma)2007の基準では高用量,喘息予防・管理ガイドライン2015の基準では中~高用量]。ブデソニドの国内承認用法・用量は,「通常,成人には,ブデソニドとして1回100μg ~ 400μgを1日2回吸入投与する。なお,症状に応じて増減するが,1日の最高量は1,600μgまでとする。」である。ベースラインでブデソニド換算で平均1198.1μgを使用。
  • 対    象: 高用量ICS/LABAの治療下でも症状が持続する喘息患者912例(スピリーバ®レスピマット®5μg群456例,プラセボ群456例)(日本人65例)
  • 方    法: 2つの国際共同再現性無作為化二重盲検並行群間比較試験からなる第Ⅲ相臨床試験を実施した。高用量ICS/LABAにスピリーバ®レスピマット®2.5μgを1日1回2吸入追加投与する群とプラセボを追加投与する群とに無作為に割り付け,48週間投与した。
  • 主要評価項目: 24週間後におけるピークFEV1(0-3h)及びトラフFEV1のベースラインからの変化量(各試験),48週間の治療期間中における最初の重度の喘息増悪発現までの期間(併合解析)
  • 副次評価項目: 24週間後におけるFVC,FEV1AUC(0-3h),48週間の治療期間中における最初の喘息増悪発現までの期間,朝・夕のPEF,喘息症状,ACQ-7,AQLQ,有害事象,脈拍,血圧 など
  • 安 全 性: 副作用はスピリーバ®レスピマット®5μg群の456例中26例(5.7%),プラセボ群の456例中21例(4.6%)に認められた。スピリーバ®レスピマット®5μg群に認められた主な副作用は喘息7例(1.5%),口内乾燥6例(1.3%),咽喉乾燥3例(0.7%)であった。プラセボ群に認められた主な副作用は喘息7例(1.5%),口内乾燥2例(0.4%)であった。
  • 効能・効果,用法・用量,禁忌を含む使用上の注意等については添付文書をご確認ください。

Kerstjens HA, et al. N Engl J Med 2012; 367 (13): 1198-1207.(承認時評価資料)
[本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。]
Kerstjens HA, et al. N Engl J Med 2012; 367 (13): 1198-1207. Supplementary Appendix(承認時評価資料)
[本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。]
Seibold W, et al. 社内資料(承認時評価資料) 48週間投与国際共同二重盲検比較試験(205.416/205.417試験)

松瀬
チオトロピウムを使用することで増悪リスクの回避を意識した治療が可能になるということですね。
長瀬
ウイルスに感染したときにすでにアセチルコリンをブロックできていれば,過剰な気管支収縮や痰分泌を起こさない状態で,増悪を浅くやり過ごすことも可能なのではないかと思います。
松瀬
喘息の病態からみると,アセチルコリンをブロックすることで,増悪時の気道過敏性も低下できることが示唆されます14)
玉田
喘息発作が起きて早期に短時間作用性β2 刺激薬(SABA)を投与して症状を緩和することも大切ですが,アセチルコリン過剰放出が関与する喘息発作が起きる前の段階からLAMAを使用しておくことも細胞レベルのアセチルコリンに対する反応の特性からみてきわめて重要だと考えています。

ページTOPへ

増悪予防のために心がけること

松瀬
最後に,ウイルス感染と喘息増悪に関して,お2人の先生が実臨床のなかで留意して実践されていることをお聞かせいただければと思います。
長瀬
 喘息におけるチオトロピウムの作用は呼吸機能改善や増悪発現リスクを低下させるデータがありますが,メカニズムが多彩なように,個人個人の患者さんにみられる作用も多彩だと思います。咳がよくなる方もいますし,痰が減る方もいます。また,増悪をしても軽い症状で済むという方もいますので,いろいろな面から総合的に効果を判断していくことが重要だと考えています。そのためには3ヵ月くらい投与してみて判断するのがよいのではないかと思います。症状の改善が不十分であるならば,チオトロピウムを選択肢の一つとして検討するのが良いと思います。
玉田
喘息が増悪する時期に注意して診療を行っていますが,増悪が多いのは春と秋だと思います。特に秋はウイルス感染が多いので,私は秋に向かうまでの夏の喘息の症状が一見落ち着いているようにみえるときであっても,コントロール不十分な症例や過去に増悪を繰り返している症例に対しては特に,適切な薬物治療や吸入指導も含めた患者教育に力を入れています。
たとえばハウスダストを減らすように掃除をしましょうとか,吸入はしっかり行いましょうとか,うがい・手洗いを励行しましょうといった基本的な指導をして,秋にウイルス感染しないよう,また感染しても喘息増悪に至らないよう心掛けています。特にチオトロピウムについては,ウイルス感染によるアセチルコリンの放出増加と関連して生じる増悪症状の抑制効果があることがわかりました。ICS/LABAにチオトロピウムを追加するとすれば,ウイルス感染を起こしやすい季節より少し前からがよいのではないかと思います。

ページTOPへ

まとめ

松瀬
チオトロピウムは2016年8月から症状のあるすべての喘息に使用可能になったわけですが,本日のお話を聞いて,軽症でも風邪を引いて増悪を起こすような時期に導入していくのも1つの使い方だと思いました。増悪抑制には基本は日頃から使いやすい薬剤を用いてコントロールの状態をよくしておくことが重要です。薬物療法だけではなく,ワクチンやうがい・手洗い,禁煙なども含めて日頃からメンテナンスをしっかりしておくことが,重篤な増悪を防ぐには何よりも大事だということを改めて認識できたと思います。
本日は誠にありがとうございました。

ページTOPへ

●References

  1. 1) 秋山一男.アレルギー・免疫.2012;19:1120-7.
  2. 2) Nicholson KG, et al. BMJ. 1993;307:982-6.
  3. 3) Koizumi Y, et al. Allergol Int. 2016;65 Suppl:S30-7.
  4. 4) Nagase H, et al. J Immunol. 2003;171:3977-82.
  5. 5) Fryer AD, et al. Br J Pharmacol. 1991;102:267-71.
  6. 6) Kummer W, et al. Histochem Cell Biol. 2008;130:219-34.
  7. 7) Wessler I, et al. Br J Pharmacol. 2008;154:1558-71.
  8. 8) Fryer AD, et al. Eur J Pharmacol. 1990;181:51-8.
  9. 9) Fryer AD, et al. Br J Pharmacol. 1994;112:588-94.
  10. 10) Jacoby DB, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998;157:A715.
  11. 11) Evans CM, et al. J Clin Invest. 1997;100:2254-62.
  12. 12) Ichinose M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1996;154:1272-6.
  13. 13) Kerstjens HA, et al. N Engl J Med. 2012;367:1198-207.
    [本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。]
  14. 14) Blais CM, et al. Respir Med. 2016;118:96-101.

見落としがちなスピリーバ®レスピマット®の効果・対象患者

無料会員登録のご案内

会員限定コンテンツについて詳しくはこちら

  • 会員限定コンテンツが読める会員限定コンテンツが読める
  • ニーズにあった情報をお届けニーズにあった情報をお届け

無料会員登録

※medパスのサイトへ移動します
※「medパス」とは「Medy」や「Medpeer」等
のサイトを利用できるIDです。