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循環器医が考える糖尿病診療

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メタボリックシンドローム世代の糖尿病患者は血糖・血圧管理に一層の注意が必要

糖尿病と循環器疾患は合併する頻度が高く、糖尿病は心血管イベントの主要な危険因子であるとともに末期腎不全に至る腎障害の主要原因となることから、両疾患を合併した病態の適切な管理が重要である。そこで本座談会では、糖尿病専門医の前川 聡先生(司会)、循環器専門医の浦 信行先生が各々のお立場から、循環器疾患を合併する糖尿病患者の診療の現状と課題、注意点などをお話しいただくとともに、薬剤選択について意見交換をしていただいた。

糖尿病患者の血管障害による死亡は減少しているのか?

前川 糖尿病専門医は網膜症、腎症、神経障害などの細小血管障害だけでなく、心筋梗塞・狭心症、脳血管障害などの大血管障害の発症・進展阻止のために診療を行っています。これらの血管合併症は生活の質(QOL)に影響を与えるだけでなく、生命予後を左右する非常に大きな疾患です。循環器専門医も同じように、心血管系に問題がある糖尿病患者を診療しています。そこで本日は、両領域の立場から糖尿病診療、特に高齢者に対する治療の方針・選択、注意点などについてディスカッションしたいと思います。

前川 聡先生

まず、日本人糖尿病患者に関する最新の臨床疫学データとして、日本糖尿病学会の委員会報告である糖尿病患者の死因アンケート調査結果1)を紹介したいと思います。2001~10年のデータをみると、死因のトップが悪性疾患(38.3%)、第2位が感染症(17.0%)、そして脳血管障害、虚血性心疾患、腎機能障害などを合わせた血管障害(14.9%)が第3位となっています。一般集団と比較して、糖尿病患者は、感染症が多く(対12.1%)、血管障害はむしろ少ない(対18.8%)という結果でした。1970年代、80年代は血管障害で死亡した糖尿病患者がそれぞれ41.5%と39.3%と一般集団よりも多かったのに対し、近年は血管障害による死亡は減少したことになります(図1)。それを反映してか、糖尿病患者の平均寿命は延びており、1970年代から2000年代にかけて一般集団との差が男性では10.3歳→8.2歳、女性では13.9歳→11.2に短縮しています。寿命の延伸は喜ばしい一方で、今後は、高齢化が循環器系疾患を合併する糖尿病患者数が多くなるという課題も予見されます。

糖尿病専門医のクリニックを中心とする糖尿病データマネジメント研究会の報告では、2型糖尿病患者の平均HbA1cの年次推移は、2002年の7.42%を起点に経年的に低下傾向を示し、2013年には6.96%にまで低下、2015年も7.01%と血糖管理は比較的良好になっています。一方、2015年時点の平均年齢は65.9歳と増加しています2)。糖尿病の罹病期間が長くなるほど、腎症、慢性腎臓病(CKD)、網膜症などの合併症の有病率が上昇してきますし(表1)、当然、冠動脈疾患や脳血管障害も多くなってきます。罹病期間の長い患者の増加は今後の新たな問題になるでしょう。また、JDDM40では血糖、脂質、血圧の目標達成率が悪いほど腎症をはじめとする細小血管障害の有病率が上昇すること、細小血管障害が心血管イベントの危険因子となることが示されています3)

図1 糖尿病患者の血管障害による死亡が減少している -日本人糖尿病の死因アンケート調査統一-

表1 罹病期間が長くなるほど最少血管障害、大血管障害の有病率が増加する-JDDM40-

メタボリックシンドローム世代の糖尿病患者は血糖・血圧管理に一層の注意が必要

前川 臨床疫学データからは糖尿病患者の血管障害による死亡が減少しています。しかし、実際は、虚血性心疾患や心筋梗塞など心血管病の発症は増加しており、循環器医が頑張られて心血管病そのものによる死亡が減ってきているのではないでしょうか。

 手前みそながら、そうだと思います。

前川 例えば脳卒中発症後にdisabilityのある患者が感染症や心不全で死亡した場合、血管障害は直接の死因としては報告されません。特に腎症に関しては、啓発活動や行政の取り組みや血糖・血圧・脂質管理など集学的治療によって、最近、透析導入が鈍化しているのではないかと思います。循環器専門医として何かコメントをいただけますか。

浦 信行先生

 糖尿病性腎症の患者は増えていますが、透析導入まで進行する患者の人数は少なくとも頭打ちになってきました。その背景には、腎症の予防として降圧薬による管理が行われるようになってきていること、糖尿病性腎症に対する治療・ケアの選択肢が増えてきたことなどが考えられます。また一般内科医も糖尿病管理の重要性を認識するようになり、糖尿病の合併症を発症しない、発症しても適切な管理がなされるようになり血管障害による死亡が減少してきたのだと思います。

前川 そうですね。頭打ちになったのは、現場で糖尿病だけでなく腎症など合併症への意識が高まったことが大きいと思います。

 ただ、現在高齢の糖尿病患者を診療していると、高血圧や脂質異常症を合併している方はおりますが、メタボリックシンドロームは若い患者より少ない印象があります。しかし、中年期からメタボリックシンドロームの状況を経て高齢者になる糖尿病患者では病態が違ってくるのではないかと思われ、今後は高齢者においてもメタボリックシンドロームが糖尿病の合併症に与える影響に注視していく必要があります。

たとえば、端野・壮瞥町研究データで血圧レベル別の心血管死の相対危険度を算出すると、耐糖能異常(IGT)が軽度でも正常耐糖能者と比較して、収縮期血圧139~130mmHgでリスクが倍近く上昇します(図24)。糖尿病患者では高血圧が加わると心血管疾患の発症率が高くなるため、血糖も血圧も適正に管理する必要があり、メタボリックシンドロームを中心とした病態ではリスクに拍車がかかるため、一層の注意が必要になってくると思います。糖尿病性腎症もメタボリックシンドロームの影響が懸念される合併症です。全国平均で、透析導入患者の原因疾患の推移をみると、慢性糸球体腎炎は減少しつづけているのに対し、2000年ごろから横ばいになってきたものの、糖尿病性腎症が43.7%と第一位を占めています(図35)。ただ、糖尿病性腎症で透析になる方の平均年齢が上がっており、生命予後の改善とも連動して高齢化とメタボリックシンドロームの増加で新規透析導入率が上昇することが懸念されます。

図2 耐糖能異常と正常耐糖能における血圧レベル別に見た(端野・壮瞥町研究)心血管死亡の相対危険度

図3 導入患者の主要原疾患の割合推移

”准高齢者”の糖尿病患者は脂質異常、高血圧を伴い血糖管理も不良

前川 高齢者糖尿病に関する種々の統計データをみると、65歳以上の糖尿病患者が3分の2ぐらいを占め、全体の年齢が高くなっています。滋賀県医師会の糖尿病実態調査(SDCS)によると、“准高齢者”とも言われるようになった65~75歳の糖尿病患者と比較すると、75歳以上の糖尿病患者は肥満でも検査値がそれほど悪くありません6)

75歳以上ではHbA1cが比較的良好で、血圧も年齢相応、顕著な脂質異常もない糖尿病患者が多いです。ところが65~75歳の准高齢者は肥満があると、若年者の肥満糖尿病患者と同様に脂質異常も高血圧も伴うことが多く、血糖の管理も不良な場合が多い。したがって、同じ准高齢者でも個人差が大きくなると考えられます。一方、後期高齢者の場合、耐糖能異常が軽度の糖尿病患者は比較的管理しやすいと思います。

 そうですね。たとえば、団塊の世代の方は二面性をもっていて、メタボ健診の対象年齢であった方が後期高齢者になっていくと、糖尿病患者の集団が変わってくるかもしれません。

前川 その可能性はありますね。

前川 聡先生

 おそらく、インスリン抵抗性を背景に持つことで高度の肥満や高血圧ではなくても、心血管リスクがワンランクアップする時代が到来するでしょうね。

前川 SDCSでは、滋賀県全体のBMIはそれほど高くないのですが、糖尿病患者で肥満者(BMI 25以上)の割合が上昇しています。全国あるいは滋賀県だけで起きている現象なのかは分からないのですが、今後の問題としては60代までの若年者で、メタボリックシンドローム型の肥満を有する糖尿病患者に対する治療を考えていく必要があると思います。

高齢者は低血糖による心血管イベントが誘発しやすい

 年齢層別に血糖コントロールと全死亡、全合併症、その両者との関連を解析した報告によると、全合併症に関してはHbA1cが上昇するほどリスクが上昇するのですが、年齢差はほとんどありません。ところが、全死亡リスクとHbA1cにはJカーブの関係があり、非高齢者と高齢者のあいだに違いがみられます7)

日本のJ-EDIT研究でも、高齢者においてHbA1cと脳卒中の頻度にJカーブの関係がみられ、興味深いのは、脳卒中の発症率が一番高いのは当然血糖コントロール不良の群ですが、2番手は血糖コントロールが最良の群なのです。心血管イベント、糖尿病ともに非高齢者と高齢者では違いがあることが示唆されており8)、私は循環器専門医の立場から、この差は低血糖の問題によるのではないかと考えています。

浦 信行先生

心血管リスクが高い脂質異常症を有する患者を対象に血糖降下療法を行ったORIGIN-Hypo試験の解析では、重症の低血糖は心血管死/非致死性心筋梗塞/脳卒中、全死亡、心血管死、不整脈死のリスクをハザード比1.58~1.77で有意に上昇させることが示されています9)。高齢者はもともと低血糖を起こしやすいことに加えて、年齢の上昇に伴って腎機能が低下してきます。腎臓における糖新生の割合は文献的に20%ぐらいあり10)、肝機能障害があるとインスリン代謝が低下するだけでなく、糖新生の反応が悪化する可能性もあります。このような障害を伴う高齢者で低血糖が重症化した場合、主な転帰は心血管疾患ということになるわけです。

低血糖に対する糖新生の反応を若年者と高齢者で比較した研究によると、高齢者ではエピネフリンの反応の閾値がより低い血糖値であることから反応が遅れ、しかも反応の絶対値が低いんですね11)。グルカゴンは主に肝臓、エピネフリンは主に腎臓の糖新生に関与するといわれており、高齢者では若年者に比べノルエピネフリンの交感神経活性を介した心血管系の作用が相対的に強いことがわかっています。したがって、高齢者の場合、低血糖の回復能力が低いため、低血糖が起こり遷延すると、末梢血管の収縮作用による圧負荷が上昇し、心臓への過剰負荷や不整脈が生じる可能性が考えられます。つまり、高齢者ではエピネフリン反応の閾値がより低い血糖値であることに加え、腎臓や他の臓器での糖新生が低下しているため低血糖が遷延し、最終的に心血管リスクが上昇すると推察されます。

低血糖を起こしにくい治療の選択

前川 聡先生

前川 ACCORD試験やVADT試験により厳格な血糖管理が死亡につながるというデータの発表以降、低血糖の問題に対する関心が高まりました。もともと高齢者では無自覚性低血糖が知られていますが、さらに腎機能が低いとインスリンのクリアランスが低下したり、経口血糖降下薬の半減期が延長することも考えられます。このような問題から、高齢者糖尿病では、低血糖を起こさないよう治療することが重要な課題になると思います。

最近、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会から高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(図412)が発表され、高齢者の低血糖リスクを考えて、治療の強度を少し緩めようという流れに変わってきました。低血糖を起こしにくい薬剤の中心はDPP-4阻害薬になると思います。DPP-4阻害薬は血糖コントロール目標の下限設定がない薬剤ですので、治療のモダリティーが増えましたね。

 当院の入院患者で経口血糖降下薬のみで薬物療法をしている高齢者を調べたところ、70%近くの患者にDPP-4阻害薬が使われていました。当院は高齢者医療の施設で、潜在的に腎機能障害を有する患者が非常に多いです。腎機能障害のある患者に対して安全に使用できる薬剤として、当院ではDDP-4阻害薬のリナグリプチンが最も多く使われています。

前川 そうですね。65歳以上の糖尿病患者では40%近くにCKDが併存していると想定して治療することになるので、たとえば何らかの原因で腎機能が低下しても用量を変えずに使えるリナグリプチンは、服薬数が多くなりやすい高齢者には特に使い勝手がよいと思います。 

図4 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)

心臓・脳だけでなく腎臓も含めて血糖の厳密な管理が大切

前川 若年者を含めて循環器疾患を合併している糖尿病患者では高血圧も大きなリスクを与えます。循環器医が考える糖尿病治療の例として、高血圧を合併した糖尿病患者における減塩を含めた生活習慣の改善についてご意見をお聞かせください。

 食塩摂取は高血圧だけでなく糖尿病による腎症の負荷を増大させる可能性があります。微量アルブミン尿は最も重要な心血管系危険因子の一つとも言われていますので、減塩は高血圧のみならず糖尿病性腎症にも意義があると思います。

前川 高血圧合併糖尿病の管理で一番苦労するのは何ですか。

前川 聡先生

 血糖、次が血圧ですね。最近は、トータルケアによって、糖尿病性腎症があっても進行を阻止する、生命予後を悪化させない、場合によっては可逆性を期待できるようになってきました。

前川 そうですね。腎症の可逆性に関しては、集学的に厳格に治療すると、顕性タンパク尿や微量アルブミン尿が改善することが知られています。もちろん、そのためには、薬物療法だけでなく、生活習慣にも介入し、血糖、血圧、脂質、さらに体重を適正化することも重要となります。

腎機能の影響を受けにくいリナグリプチンは幅広い患者に適した薬剤

前川 先ほど指摘されたように、高齢者の薬物療法ではアドヒアランスが問題になりますね。

 特に糖尿病治療薬は誤用による低血糖のリスクがあり、服用量を多少間違っても低血糖が起こりにくい薬剤、しかも朝1回の服用で効果が24時間持続する薬剤は、安全性と利便性の点からメリットが大きいと思います。

前川 低血糖を起こしにくい薬剤ですと、DPP-4阻害薬のリナグリプチンは腎機能にかかわらず一貫して血糖降下作用があり、CKDのステージ分類G1~5、どの状態でも効果が得られることが報告されています(図513)。腎機能に応じて同一用量で治療が可能であり、また1日1回投与のため、高齢者はもちろん、腎機能が良好な患者も含め、シンプルで使いやすい薬剤だと思います。

 そうですね。高齢患者は筋肉量が落ちてサルコペニアの方も少なくなく、血清クレアチニンで算出したeGFRでは腎機能を過大評価する可能性があります。この様な潜在性の腎機能障害が多いことを考えると、現場の医師に一番ストレスが少ない薬剤の特徴として、低血糖を起こしにくい、腎機能障害の有無に影響されない、そして服薬アドヒアランスを維持しやすいことが求められます。リナグリプチンは非専門医にとっても、効果と利便性の観点から幅広い患者さんに使いやすい薬剤です。

前川 まとめますと、循環器専門医の立場からも、腎機能が低下してきた高齢患者でも低血糖に影響を受けない血糖管理が非常に重要であり、腎機能の影響を受けにくいリナグリプチンはシンプルで使い勝手がよく、若年から高齢者まで幅広い患者さんへの有用な選択肢の1つになる薬剤だという結論になるかと思います。本日は、糖尿病と循環器の2領域を俯瞰しながら、大変有意義な議論ができました。貴重なお話をありがとうございました。

前川 聡先生 浦 信行先生

図5 トラゼンタは、腎機能の程度にかかわらず、一貫したHbA1c低下作用を示しました(単独投与)

引用文献
  • 1)中村二郎、 神谷英紀、 羽田勝計、 ほか. -糖尿病の死因に関する委員会報告-アンケート調査による日本人糖尿病の死因-2001~2010年の10年間、 45,708名での検討-. 糖尿病. 2016;59:667-84.
  • 2)糖尿病データマネジメント研究会. 基礎集計資料(2015年).
  • 3)Yokoyama M, Oishi M, Takamura H, et al. Large-scale survey of rates of achieving targets for blood glucose, blood pressure, and lipids and prevalence of complications in type 2 diabetes (JDDM 40). BMJ Open Diabetes Research and Care 2016;4:e000294.
  • 4)斎藤重幸、 三俣兼人、 千葉瑞恵、 ほか. 端野・壮瞥町研究-地域疫学研究よりみた糖尿病-. Diabetes Frontier. 2008;19:596-600.
  • 5)日本透析医学会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況. 2015年12月31日現在.
  • 6) 宮澤伊都子、 門田 文、 岡本元純、 ほか. 糖尿病患者における肥満合併率増加とその臨床的特徴 滋賀県糖尿病実態調査から見た12年間の推移. 肥満研究. 2015;21巻Suppl:148.
  • 7)Huang ES, Liu JY, Moffet HH, et al. Glycemic control, complications, and death in older diabetic patients: the diabetes and aging study. Diabetes Care. 2011;34:1329-36.
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  • 12)日本老年医学会・日本糖尿病学会(編・著). 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017. 東京:南江堂;2017.
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