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腎臓内科医が考える糖尿病診療

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2型糖尿病患者の半数近くが糖尿病性腎症を合併

糖尿病性腎症はわが国の透析導入の最大の原疾患となっている。透析導入後の糖尿病患者の予後は不良であり、腎症は心血管イベント発症リスク上昇にもつながるため、予後とQOL、医療経済的な観点から、糖尿病性腎症の発症・進展を抑制することが急務である。そこで本対談では、糖尿病内科医の古家大祐先生(司会)と腎臓内科医の深水圭先生に、糖尿病性腎症の早期発見の重要性とバイオマーカー、低血糖リスクの問題、腎症進展阻止を目指した血糖コントロールにおけるDPP-4阻害薬の役割などについてお話しいただいた。

2型糖尿病患者の半数近くが糖尿病性腎症を合併

金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学教授 古家 大祐 先生

古家 本日は、糖尿病性腎症患者が増え続けている状況を鑑みて、腎臓内科医の深水先生に腎症を伴う糖尿病に対する治療方針や血糖管理を中心にお話をいただきたいと思います。
近年の日本における透析導入患者の主要原疾患の割合推移をみると、糖尿病性腎症は1998年に第1位となって以降増加の一途をたどっていましたが、この数年間は横ばいで推移しています1)。ただし、慢性糸球体腎炎、腎硬化症と比べると特筆すべき多さであることから、2016年度から国策として糖尿病性腎症重症化予防プログラムが始まりました。糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)のデータによると、2型糖尿病患者のうち32%が微量アルブミン尿期(第2期)、7%が顕性アルブミン尿期(第3期)を合併し、腎不全期(第4期)は2.6%です(図1)2)。42%が糖尿病性腎症を合併しているわけですが、正常アルブミン尿の人でも推算糸球体濾過量(eGFR)60(mL/分/1.73m2)未満の腎機能低下例が12%ほどいますので、それも含めると糖尿病性腎症の有病率は50%を超えることになります。

図1 アルブミン尿の測定がされている2型糖尿病患者のうち、42%が糖尿病腎症を合併している

悪化要因と保護要因のアンバランス是正戦略が治療の鍵

金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学教授 古家 大祐 先生

古家 心腎連関のメカニズムはまだ明らかになっていませんが、腎不全または心不全は両方の臓器に影響を及ぼし悪循環を招くことが知られており、血行動態の変異、あるいは一酸化窒素(NO)/活性酸素(ROS)のアンバランス、交感神経の活性化、レニン・アンジオテンシン系の活性化、炎症を介した心腎連関が考えられています。
現在、糖尿病血管合併症に対して抜本的な治療法はありません。悪化要因(causal factor)と保護要因(protective factor)のアンバランスが生じると腎症を含めた血管合併症を起こすとされています。これまではPKC活性、ROS、終末糖化産物(AGEs)、NF-κBなどの悪化要因が注目されてきましたが、最近は、インスリン、血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、抗酸化酵素などの保護要因にも注目が集まっています。例えば、深水先生はAGEsがRAGEという受容体を介してROSを発生させ、さらにNF-κBを活性化して炎症を誘発させ、それによって腎障害だけでなく動脈硬化、冠動脈疾患、血管石灰化を起こすという組織障害メカニズムを提唱されていますが3)、このような要因の制御あるいはAGEsを除去する戦略が今後重要になってくると思われます。

重症化予防の課題はかかりつけ医、糖尿病専門医と腎臓専門医の連携強化

古家 続きまして、深水先生から糖尿病性腎症の治療方針、特に重症化予防、かかりつけ医や糖尿病専門医からどのタイミングで腎臓専門医に紹介するのが良いのか、そのあたりも含めてお話しいただきたいと思います。

久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門主任教授 深水 圭 先生

深水 最初に、糖尿病性腎症重症化予防プログラムから紹介いたしますと、このプログラムはかかりつけ医、腎臓内科医、糖尿病内科医などの専門医、そして行政が三位一体となって連携しながら特に重症化リスクの高い患者を守っていく仕組みです(図2)4)。腎症の患者を早期に拾い上げるためには糖尿病専門医と腎臓専門医の連携が重要であり、また課題ともなっています。早期発見にはかかりつけ医または糖尿病専門医が尿中アルブミンを定期的に測定することが不可欠ですが、実際に年1回定量している臨床医は50%ぐらいでしょうか。

古家 専門医でおよそ50%、かかりつけ医で10%台と言われていますね。

深水 ですから、尿中アルブミン測定の啓発がとても大切です。微量アルブミン尿から腎症のリスクが上昇してきますが、正常アルブミン尿でも数値が高いほどリスクが高くなるからです。

図2糖尿病性腎症重症化予防プログラム:基本的考え方

L-FABPは糖尿病性腎症の重症化予防に役立つ高感度バイオマーカー

久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門主任教授 深水 圭 先生

深水 最近、糖尿病性腎症の早期発見に役立つ高感度バイオマーカーとして注目されているのがL-FABPです。L-FABPは近位尿細管細胞で産生される脂肪酸結合蛋白で、活性酸素を介して生じた過酸化脂質と結合し細胞外へ排出されることから、腎保護的に働くと考えられています。近位尿細管の虚血/再灌流障害など酸化ストレスが増大する病態ではL-FABPが上昇することから、L-FABP測定は腎障害マーカーとして保険収載されています。

2型糖尿病患者61例を中央値12年追跡した研究によると、尿中L-FABP値が高いほど、複合腎・心血管イベントが増加することが報告されています(図3)5)。しかも、ベースラインが正常アルブミン尿期の患者でも、尿中L-FABP排泄量(三分位別)の高位群では低位群に比べて複合腎・心血管イベント発症のハザード比が2.26(95%CI,1.15-4.45)と高くなります。このようにL-FABPは糖尿病患者における早期腎症の予測に役立つことから、アルブミン尿検査と併せた評価というのは今後興味深いと思います。

図3 糖尿病性腎症の重症化予防、早期の予測-複合腎・心血管イベントは尿中L-FABP値の増加に伴い上昇する-

糖尿病専門医から腎臓専門医への紹介のタイミングは?

金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学教授 古家 大祐 先生

深水 糖尿病性腎症重症化予防で重要な点は、バイオマーカーを用いたモニタリングのほかに、腎臓専門医への紹介のタイミングがあげられます。CKD診療ガイド2012では紹介の基準として、(1)高度蛋白尿:尿蛋白/Cr比0.50g/gCr以上または2+以上、(2)尿蛋白と血尿がともに陽性(3)eGFR50mL/分/1.73m2未満(40歳未満ではeGFR<60、腎機能の安定した70歳以上ではeGFR<40)を規定しています6)。ただ、これはかかりつけ医から腎臓専門医への紹介ですから、糖尿病専門医の先生方はもう少し進行するまで診られているのかなと思います。この部分の連携が難しいですね。

古家 確かにそこは難しいですね。実際、私自身は腎臓専門医でもあるためかもしれませんが透析療法に近い腎不全の患者以外は紹介しません。
例えばクレアチニンが1を超えて2mg/dLに近づいても自覚症状がなく、尿蛋白は2+、eGFRが40mL/分/1.73m2ぐらいの患者ですと、かかりつけ医や糖尿病専門医が診療を続けていることがあると思います。そのときに、腎機能の低下速度が年3~5%の場合、腎臓専門医と連携して治療手段を変えないと、末期腎不全に進行して透析導入に至ってしまうため、腎臓専門医あるいは学会が重症化予防について指導や啓蒙を行っていく必要がありますね。

深水 そうですね。学会レベルの問題になってくると思います。

古家 1996年に設立された糖尿病性腎症合同委員会には、日本糖尿病学会と日本腎臓学会以外に、日本透析医学会、日本病態栄養学会の委員も参加しており、このような専門家組織を通じた啓蒙活動により、腎障害マーカーの推移を見ていくことの重要性を浸透させ、重症化予防の実現を目指すことが必要ですね。

深水 その通りです。やはりかなり進行すると腎臓専門医による腎不全管理が必要になると思いますので、糖尿病専門医と腎臓専門医が連携し、お互いの長所を生かした治療を患者さんに提供していくことが大切だと思います。

アルブミン補正GAは腎性貧血患者の血糖コントロールに有用

古家 ではまず、腎臓専門医としてのお立場からの糖尿病性腎症患者における血糖コントロールについて、お考えをお伺いできますでしょうか。

深水 糖尿病治療ガイド2016-2017では、血糖コントロール目標としてHbA1c値が決められ7)、高齢者糖尿病の血糖コントロールに関しては低血糖リスクの高い薬剤を服用している場合には、目標HbA1cに下限値が定められました8)。しかし、一部の病態においては、HbA1cだけでは血糖コントロール指標として十分ではないという問題があります。例えば、腎性貧血が存在し、エリスロポエチンを使用すると赤血球寿命が短縮するため、見かけ上、HbA1cが低くなります。それではグリコアルブミン(GA)ではどうかというと、尿蛋白が存在する場合、低アルブミン血症によるアルブミン代謝回転の亢進から、こちらも見かけ上は低くなってしまいます。このような患者では何を指標に血糖コントロールを判断したら良いのか分からないのです。とくに第4期になると本当に血糖コントロールができているのかどうかの評価が難しい。

久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門主任教授 深水 圭 先生

そこでわれわれは、eGFR30未満の末期腎不全(ESRD)合併糖尿病患者30例を対象に、HbA1cとGAのそれぞれ実測値と推定値(推定HbA1c9)=平均血糖[mmol/L]/35.6+2.17,推定GA10)11)=推定HbA1c×2.7)の関連を調べました。患者背景をみると、HbA1cは6.0%、GAは17.8%と良好でしたが、eGFR9.3mL/分/1.73m2、ヘモグロビン(Hb)9.2g/dLと腎性貧血があり、血清アルブミン3.0g/dL、尿蛋白6.8g/gCr、半数がエリスロポエチン使用例でした。ただ、実測HbA1cと推定HbA1cはまったく相関しないのに対し、GAの実測値と推定値は弱い相関を示しました図411)。HbA1cとHbの関係をみると、実測HbA1cとHbはまったく相関しないのに対し、推定HbA1cでは相関します(r=−0.502)。つまり、貧血を呈している糖尿病性腎症患者は実際には血糖がコントロールされていない可能性があるのです。さらに検討した結果、血清アルブミンで補正したGA[アルブミン補正GA=GA×19.2/(0.432×血清アルブミン+4.81)]は推定GAと強い相関を示すことがわかり(r=0.638)、血糖の変動とも相関することが確認されました(図4)11)。そこで現在、われわれの病棟では血糖コントロールをアルブミン補正GAで評価しています。

図4 腎性貧血がある糖尿病性腎症患者ではHbA1cは見かけ上低くなる

低血糖が危惧される糖尿病性腎症にはDPP-4阻害薬が使いやすい

古家 続いて、糖尿病性腎症患者に対する血糖降下薬を用いた治療、とくに腎機能に応じた血糖降下薬の適応について、深水先生のお考えを伺いたいと思います。

金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学教授 古家 大祐 先生

深水 もちろん合併症進展を防ぐためにも血糖コントロールは重要ですが、われわれが一番危惧しているのは低血糖です。多くの経口血糖降下薬が低血糖のリスクから腎機能低下例には使用しにくい中、DPP-4阻害薬は低血糖を起こしにくいという利点があり、臨床の現場では透析患者も含めてDPP-4阻害薬を広く使用しています。こういう状況でSU薬を使用されている先生もいらっしゃいますが、血糖コントロールは難しいですね。

なぜ低血糖を注視しているかというと、ADVANCE試験で重症低血糖は心血管イベントおよび全死亡のリスクだけでなく、呼吸器系、消化器系イベントのリスク上昇とも関連していることが明らかになっているからです12)。しかも、カナダの高齢者を対象にした後ろ向きコホート研究のeGFRステージ別低血糖発症率の解析により、腎機能が低いほど低血糖の頻度が高くなり、血糖降下薬の未使用患者に比べて血糖降下薬使用患者では高頻度に低血糖を起こしやすいことが示されています(図5)13)

図5 腎機能低下と低血糖頻度の関係-eGFRステージ別の低血糖発症率(人口10,000人あたりの3年発症率)-

腎機能障害のある糖尿病患者に対してもリナグリプチンが有用

深水 腎機能低下例では慎重投与や禁忌となる糖尿病治療薬が多く、とくに糖尿病性腎症第4期の患者に安全に使用できる薬剤は非常に限られます。このような状況からDPP-4阻害薬が汎用されているのだと思いますが、その中でも、リナグリプチンは1日1回投与で、腎機能、肝機能に関する慎重投与または禁忌がないため、透析患者を含めわれわれが多く使用している薬剤です。

久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門主任教授 深水 圭 先生

リナグリプチンは腎機能の程度にかかわらず一貫したHbA1c 低下作用を示す

古家 深水先生より腎機能低下例におけるリナグリプチンの有用性をお話しいただきました。この有用性について、薬物動態学的特徴の点からお話ししたいと思います。リナグリプチンは胆汁と消化管を介した排泄が80%、腎臓を介した排泄が5%程度と、腎排泄が非常に少ない薬剤です。肝臓を通過しても90%が未変化体、10%が不活性代謝物に代謝されるため、肝臓と腎臓に悪影響は与えにくい薬物動態を示します。
実際に、日本人2型糖尿病患者さん216例を対象にリナグリプチン(5mg1日1回投与)のHbA1c低下作用をGFR区分に基づきG1+G2群(eGFR60mL/分/1.73m2以上)、G3a群(eGFR45~59mL/分/1.73m2)、G3b+G4+G5群(eGFR45mL/分/1.73m2未満)の3群に層別して検討したところ、いずれの群においても腎機能の程度にかかわらず一貫したHbA1c低下作用を示し、各群の投与開始6ヵ月後のHbA1c低下幅は0.8~1.0%でした(図6)。また、G1+G2群(eGFR60mL/分/1.73m2以上)、G3a群(eGFR45~59mL/分/1.73m2)、G3b+G4+G5群(eGFR45mL/分/1.73m2未満)において、各群の単独療法での有害事象発現率はそれぞれ25%、29%、42%でした14)。主な有害事象は便秘などの消化器障害で、投薬中止に至った有害事象は全体で6例(2.8%)でした。リナグリプチンは腎機能が良好な患者も含め、同一用量で血糖降下を期待してシンプルに使える薬剤であることが支持されます。

深水 そうですね、先ほどお話したようにHbA1cの値だけを鵜呑みにすることはできませんが、ベースラインからの変化を見ても下がっていますので、この変化幅は評価できると思います。

古家 本日は、腎臓内科医の立場から深水先生に糖尿病性腎症の病態や評価法、新しいバイオマーカー、そして血糖降下薬の使い方、特にDPP-4阻害薬の有用性についてお話をいただきました。どうもありがとうございました。

金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学教授 古家 大祐 先生/久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門主任教授 深水 圭 先生

図6 トラゼンタ®は、腎機能の程度にかかわらず、一貫したHbA1c低下作用を示しました(単独投与)

引用文献
  • 1)日本透析医学会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況. 2015年末
  • 2)Yokoyama H, Kawai K, Kobayashi M, et al. Microalbuminuria is common in Japanese type 2 diabetic patients: a nationwide survey from the Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group (JDDM 10). Diabetes Care. 2007;30:989-92.
  • 3)深水圭. 腎障害とAGEs(終末糖化産物). 循環plus. 2015;16:2-6.
  • 4)厚生労働省 糖尿病性腎症予防プログラム(概要)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000121935.html
  • 5) Araki S, Haneda M, Koya D, et al. Predictive effects of urinary liver-type fatty acid-binding protein for deteriorating renal function and incidence of cardiovascular disease in type 2 diabetic patients without advanced nephropathy. Diabetes Care. 2013;36:1248-53.
  • 6)日本腎臓学会(編). CKD診療ガイド2012. 東京:東京医学社;2012.
  • 7)日本糖尿病学会(編・著). 糖尿病治療ガイド2016-2017. 東京:文光堂;2016.
  • 8)日本老年医学会・日本糖尿病学会(編・著). 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017. 東京:南江堂;2017.
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  • 11)Fukami K, Shibata R, Nakayama H, et al. Serum albumin-adjusted glycated albumin is a better indicator of glycaemic control in diabetic patients with end-stage renal disease not on haemodialysis. Ann Clin Biochem. 2015;52:488-96.
  • 12)Zoungas S, Patel A, Chalmers J, et al. Severe hypoglycemia and risks of vascular events and death. N Engl J Med 2010;363:1410-8.
  • 13)Hodge M, McArthur E, Garg AX, et al. Hypoglycemia Incidence in Older Adults by Estimated GFR. Am J Kidney Dis. 2017;70:59-68.
  • 14)Ito H, Abe M, Antoku S, et al. Comparison of the antidiabetic effects of linagliptin among groups with a normal renal function and a mild or severe renal impairment - retrospective observation study of Japanese patients with type 2 diabetes mellitus. Expert Opin Pharmacother. 2015;16:289-96.