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糖尿病チーム医療における薬剤師の役割

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薬剤師に期待される「第2、第3の主治医」としての役割

食事療法、運動療法、薬物療法が中心となる糖尿病治療においては、医師、薬剤師、看護師、管理栄養士など多職種の医療スタッフによるチーム医療が基本となっている。なかでも、薬剤師は服薬や自己注射などが正しく行われているかをチェックし、副作用や合併症などへの影響にも配慮しながら、薬物療法による血糖コントロールを管理している。特に、最近は新しい作用機序を有する血糖降下薬が相次いで登場し、薬剤師の役割はますます重要になっている。そこで、今回は糖尿病専門医と薬剤師の先生にお越しいただき、糖尿病チーム医療の中における薬剤師の役割について討議していただいた。

薬剤師に期待される「第2、第3の主治医」としての役割

野見山 糖尿病治療の目標は、高血糖を中心とする代謝異常を改善することに加え、糖尿病に特徴的な合併症、および糖尿病に併発しやすい合併症の発症や増悪を防ぎ、健康な人と変わらない生活の質(QOL)の維持、健康な人と変わらない寿命の確保にあるとされています1)。つまり、私たち医療従事者は、糖尿病患者さんが満足できるQOLを維持できるような医療を提供することが求められています。一方で、2型糖尿病の治療は、いずれの治療プログラムにおいても患者さん中心のアプローチにより個別化すべきであるとする、米国糖尿病協会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)によるPatient-centered approachという考え方が提唱されています2)。この患者さん中心の医療を実践するためには、多職種の医療スタッフが互いに密接に連携し、各々の専門性を生かしたチーム医療が重要となります。兼重先生、薬剤師の立場からは、この患者さん中心のアプローチについてどのように考えますか。

兼重 私たち薬剤師も、個々の患者さんに対応した調剤や服薬指導を実施するよう、常に心掛けています。たとえば、入院中の患者さんに対しては生活環境や家族のフォロー体制などの背景をしっかりと確認し、退院後にはその患者さんに適した一包化や服用方法の工夫などをしながら、服薬アドヒアランスの向上を見据えた対応をするようにしています。

野見山 平成24年度の診療報酬改定において、「糖尿病透析予防指導管理料(月1回350点)」が新設されました。HbA1cが6.5%を超える糖尿病性腎症第2期以上の外来患者に対し、チーム医療によって日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド」等に基づいて指導した場合に算定できるもので、医師、看護師または保健師、管理栄養士による透析予防診療チームが設置されていることが施設基準となり、薬剤師、理学療法士が配置されていることが望ましいとされています。なお、全国472施設に対する横断調査により、73%の施設が糖尿病透析予防指導管理料を算定しており、算定施設では自身の腎症の理解を促す指導や腎症の状態に応じた療養指導などが積極的に行われていることが明らかになっています3)。兼重先生は、この糖尿病透析予防指導管理料をどのように捉えていますか。

兼重 特定機能病院など医療スタッフの人数が豊富な施設では算定することが可能ですが、一般の病院では施設基準を満たすことができず、まだまだ算定できていない施設が多いのではないかと思います。また、この施設基準の中で、薬剤師が配置されていることが望ましいとの記載に留まっていることは、少し残念です。おそらく、薬剤師の参画によるエビデンスが不足していることが原因だと思いますが、薬剤師もチーム医療の一員として配置されるべき医療スタッフであると考えています。

福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科准教授 野見山 崇 先生

野見山 糖尿病療養指導チームのメンバーには、各々にさまざまな役割が求められ、日本糖尿病療養指導士(CDE-J)認定機構の糖尿病療養指導ガイドブックには例として各職種に求められる役割の一覧が掲載されています(表1)4)。これによると、医師はすべての療養指導項目に関与する必要がありますが、薬剤師には糖尿病の診断、治療方針の決定、栄養管理、検査などの項目にはチェックが入っていません。確かに、治療方針については最終的には医師が決定するものかもしれませんが、治療方針が決定されるまでのプロセスには全職種が関与すべきだと私は考えています。日常診療の中で、患者さんは医師には話さないことが多くあります。たとえば、医療費の自己負担がきつい、この薬剤は服用しにくい、本当はあの薬剤を服用したいのになどということは、なかなか医師には直接訴えてこないものです。このような患者さんの生の声を聞くことが出来るのは、薬剤師などの医療スタッフであることが多く、この声を全職種で共有しながら治療方針が決定されることが理想的ではないかと考えています。また、最近は新しい血糖降下薬の発売が相次ぎ、糖尿病患者さんに対する薬剤選択の幅が広がっている反面、他剤との相互作用など複雑な知識が必要となるケースも多く、特に薬剤師の先生方には第2、第3の主治医としての糖尿病療養指導チームへの貢献を期待しています。

表1 糖尿病療養指導チームのメンバーの主な役割

薬剤師に求められるのは全般的な療養指導能力と薬剤やデバイスのリスクマネージメント

野見山 糖尿病チーム医療における薬剤師の役割について、兼重先生はどのように考えていますか。

福岡大学病院薬剤部 副薬剤部長 兼重 晋 先生

兼重 医療の質の向上や医療安全の確保の観点から、チーム医療においては薬の専門家である薬剤師が主体的に薬物療法に参加することが有益であるという見解が、平成22年4月30日の厚生労働省医政局長通知で示されています。そして、糖尿病チーム医療における薬剤師のかかわりについての変遷を見ると、薬剤師のかかわりはかなり高まってきており、具体的にはインスリン注射手技の指導、低血糖やシックデイ関連などの指導など、従来に比べ多岐にわたり、患者さんとのかかわりが急増していることがわかります(図1)5)。また、薬剤師がかかわる糖尿病に関する療養指導については、薬剤の適正使用だけでなく、患者さんの背景を理解しながら、食事療法や運動療法などを含めた全般的な指導ができる能力が求められています。さらに、良好な血糖コントロールを行うためには、病態や薬剤に対する正しい知識、前向きな治療への取り組み態度、注入デバイスや血糖自己測定器などを正しく使いこなせる技能などを、薬剤師から患者さんに療養指導する必要があります。一方で、リスクマネージャーとしての薬剤師の役割も重要です。たとえば、操作不備や不適切な保管などにより注入デバイスに不都合が起こるようなケースもあり、患者さん自身のセーフティマネジメント能力を向上させるような指導意識をもった薬剤師の取り組みも求められます。

野見山 薬剤師は、糖尿病だけでなくすべての疾患に対応する必要がありますが、薬剤師の専門性はどのように発揮されるのですか。

兼重 まず、薬剤師はどの疾患にも対応できるゼネラリストである必要があります。そして、ゼネラリストとしての土台ができたうえで、次のステップとして各領域のスペシャリストへの道を選択する薬剤師がでてきます。現在は、日本病院薬剤師会が認定するがん専門薬剤師、感染制御専門薬剤師、精神科専門薬剤師、妊婦・授乳婦専門薬剤師、HIV感染症専門薬剤師などがありますが、糖尿病領域についても日本くすりと糖尿病学会が認定する認定薬剤師制度がスタートしています。

図1 糖尿病チームにおける薬剤師のかかわりの変遷 インスリン療法の療養指導に関連した事項へのかかわりが急増

医師と薬剤師との良好な信頼関係が好循環を生む

野見山 兼重先生は2017年3月まで福岡記念病院の薬局長をされておられましたが、福岡記念病院における薬剤師の取り組みについて紹介していただけますか。

兼重 糖尿病チームの一員として、当院の薬剤師は糖尿病教室や多剤処方への対応に積極的に取り組んでいます。糖尿病教室では、経口血糖降下薬やインスリンによる薬物療法、低血糖症状とその対処法などの指導を行い、さらに最近は高齢者に対する多剤処方(ポリファーマシー)への対応にも力を入れています。高齢者に6剤以上の薬剤が投与されると、有害事象が増えることが報告されています6)。そのため、高齢者に対して漫然と投与されている薬剤はないか、その漫然と投与されている薬剤の中に認知機能低下や食欲低下への影響が疑われる薬剤はないかなど、常に確認をするようにしています。

福岡大学病院薬剤部 副薬剤部長 兼重 晋 先生

また、低血糖は認知症の発症リスク、認知症は低血糖の発現リスクとなり、両者は相互に関連していることが知られています7)。薬剤師として、このような観点から低血糖の発現を注視していくことも重要ではないかと考えています。

野見山 医師の立場としても、薬剤師からの処方提案は大変重要であり、医師の負担軽減にも大きな役割を担っていると思います。兼重先生は、医師への疑義照会や処方提案に関して、どのような点を重要視していますか。

兼重 日頃から、薬剤師は医師と良好なコミュニケーションと信頼関係を築いておくことが大切です。これが欠けていると、薬剤師からの処方提案が医師に受け入れられにくいこともあると思います。そして、医師と信頼関係を構築するためには、薬剤師自身がしっかりと病態について理解し、患者さんの治療について医師とディスカッションができるレベルまで研鑽を積み重ねていくことが重要だと考えています。

野見山 医師側からも、糖尿病チーム医療を行っていくうえで薬剤師との信頼関係は特に重要だと思っています(図2)8)

兼重 糖尿病チーム医療の中で活動していると、患者さんの治療方針などについて医師から意見を求められることも多くあります。できるだけ即答ができるように研鑽しておくことが大切ですが、それができない場合には持ち帰って検討し、後日しっかりとした回答をすることで医師から評価を得ることができます。そして、このように患者さんの治療に貢献できることが薬剤師としてのやりがいにもつながり、さらに研鑽意欲が高まるという好循環が生まれることになります。

図2 診療科で実施している勤務医の負担軽減策の効果 ~薬剤師による処方提案等~(当該負担軽減策を実施している診療科に所属する医師)

腎機能を考慮した血糖降下薬を

野見山 高齢化の進展に伴い、最近は高齢の糖尿病患者さんが増えています。高齢者は腎機能が低下しているケースが多くありますが、腎機能が低下した患者さんに関してはどのような処方提案を心がけていますか。

兼重 腎機能低下に影響を及ぼす代表的な薬剤がNSAIDsであり、この薬剤が漫然と投与されている場合は疑義照会するようにしています。また、すべての患者さんに対して推定糸球体濾過量(eGFR)やクレアチニンクリアランスなどの値から腎機能をチェックし、腎機能低下例に減量が必要な薬剤が通常用量で処方されているような場合には、処方提案するように心がけています。

野見山 血糖降下薬についてはいかがですか。

兼重 腎機能低下例の患者さんに対しては、腎機能の影響を受けにくい薬剤かどうかをチェックし、問題がある場合は減量や薬剤変更などの処方提案をしています。

野見山 例えば、リナグリプチンは肝臓ではほとんど代謝されずに未変化体のまま胆汁中へ排泄される胆汁排泄型選択的DPP-4阻害薬となっています(図3)9)。このため、腎機能が正常な患者さんはもちろん、腎機能が低下した患者さんに対しても、リナグリプチンは通常用量の5 mgで使用することが可能です。一方、胆汁排泄型の薬剤は胆道閉鎖症の患者さんには使用することはできませんが、胆道閉鎖症は食物摂取ができないためDPP-4阻害薬が選択されることはありません。つまり、リナグリプチンは多くの2型糖尿病患者さんに対して使用することができるという特徴を有しています。

兼重 私たちも、腎機能が低下してきた段階でDPP-4阻害薬の用量調節をするのではなく、腎機能低下が予想されるようなケースも想定し、薬剤師の立場としては、最初からリナグリプチンのような腎機能に影響を受けにくいDPP-4阻害薬を選択するような処方提案を行うこともあります。

福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科准教授 野見山 崇 先生

野見山 大学病院などでは、eGFRやクレアチニンクリアランスの値などの検査結果は当日中にわかりますが、一般的な医療施設では血液検査を外注しているため、結果がでるまでに数日間を要します。その間、患者さんの腎機能がわからないままに血糖降下薬を選択する必要があるようなケースもあり、このような時には腎機能に関係なく通常用量が投与できるリナグリプチンのような薬剤が有用と考えています。

兼重 リナグリプチンの血糖降下作用については、どのように考えればよろしいですか。

野見山 当院の外来通院中の2型糖尿病患者を対象に、リナグリプチン単剤投与による血糖低下作用についての検討を行いました。その結果、初診または他の血糖降下薬からの切り替えによりリナグリプチン5mgを1日1回投与し12週間にわたり観察したところ、約2%のHbA1cの低下作用が認められました(図4)10)。この結果は、2型糖尿病患者さんに対する早期からのリナグリプチン投与により、単剤で良好な血糖コントロールが得られることを示唆しています。

図3 リナグリプチンの薬物動態活性

図4 日本人2型糖尿病患者におけるDPP-4阻害薬リナグリプチンの効果検討

糖尿病チームへの薬剤師のより一層の参画が期待される

福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科准教授 野見山 崇 先生

野見山 最後に、糖尿病診療における多職種の連携とチーム医療の重要性について考えてみたいと思います。糖尿病診療は、地域において病院の専門医とかかりつけ医が連携する病診連携と、医師と多職種とがチームを組んで治療にあたるチーム医療が基本となります。それらを支援するツールとして、日本糖尿病協会は「糖尿病連携手帳」を作成し、2016年には第3版が発行されています。この中では、かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ眼科医、病院、かかりつけ薬局、保健師、ケアマネージャーなどが連携しながら糖尿病患者さんの診療を行うことが見開きページで掲載されています(図5)11)。このように、糖尿病診療は患者さんを中心に多職種が役割分担をしながらチーム医療を進めていく必要があり、今後は薬剤師の役割がますます重要になってくると思われます。
一方で、糖尿病患者さんに対してセルフケアを指導する医療スタッフ(看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士など)として、CDE-J、CDE-L(地域糖尿病療養指導士)が全国で活躍していますが、薬剤師の割合がまだまだ少ない状況です。今後、一人でも多くの薬剤師の先生方にCDE-J、CDE-Lとして糖尿病チーム医療に参画していただくことにも期待をしたいと思います。兼重先生、その牽引役として今後ともよろしくお願いいたします。

兼重 糖尿病治療において、特に服薬アドヒアランスの向上は大変重要な課題だと思っています。患者さんが血糖降下薬をきちんと服用しないと血糖コントロールが不良となり、医師は効果不十分と判断して新たな血糖降下薬を追加するようなケースもあります。その結果、ポリファーマシーとなり服薬アドヒアランスがさらに悪化することになります。このような悪循環を断ち切るためにも、糖尿病診療の中で薬剤師が活躍できる場はまだまだ多く存在すると考えています。

野見山 今回は、糖尿病チーム医療における薬剤師の役割をテーマとして、兼重先生から示唆に富む貴重なお話を伺うことができました。糖尿病チーム医療の中で薬剤師の役割がいかに重要であるかについて、改めてご理解いただけたのではないでしょうか。今後、一人でも多くの糖尿病患者さんが救われるよう、薬剤師の先生方のますますのご活躍を期待しております。兼重先生、本日はありがとうございました。

福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科准教授 野見山 崇 先生/福岡大学病院薬剤部 副薬剤部長 兼重 晋 先生

図5 糖尿病連携の概略と説明

引用文献
  • 1)日本糖尿病学会(編). 糖尿病治療ガイド2016-17,東京:文光堂;2016. p26.
  • 2)Inzucchi SE, Bergenstal RM, Buse JB, et al. Management of hyperglycemia in type 2 diabetes: a patient-centered approach: position statement of the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD). Diabetes Care. 2012;35:1364-79.
  • 3)柴山大賀, 青木美智子, 小江奈美子, ほか. 糖尿病腎症患者への療養指導状況と糖尿病透析予防指導管理料の算定がそれに及ぼす影響 糖尿病看護認定看護師・慢性疾患看護専門看護師の横断的調査から. 日糖尿教看会誌. 2016;20:167-74.
  • 4)日本糖尿病療養指導士認定機構 (編・著). 糖尿病療養指導ガイドブック2017. 東京:メディカルレビュー社;2017. p.8.
  • 5)朝倉 俊成. 糖尿病療養指導士の現状と薬剤師の課題. くすりと糖尿病. 2013;2:24-6.
  • 6)Kojima T, Akishita M, Kameyama Y, et al. High risk of adverse drug reactions in elderly patients taking six or more drugs: analysis of inpatient database. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:761-62.
  • 7)Yaffe K, Falvey CM, Hamilton N, et al. Association between hypoglycemia and dementia in a biracial cohort of older adults with diabetes mellitus. JAMA Intern Med. 2013;173:1300-6.
  • 8)平成27年10月23日 中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会. 平成26 年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成26 年度調査)の結果について.
  • 9)トラゼンタ®錠5mg添付文書.
  • 10)永石綾子, 野見山崇, 岡村亜紗美, ほか. 日本人2型糖尿病患者におけるDPP-4阻害薬リナグリプチンの効果検討. Prog Med. 2012; 32: 2225-30.
  • 11)日本糖尿病協会 (編). 糖尿病連携手帳(第3版). 2016.