医療サポート事例:地域医療戦略

急性期病院のトップランナーで居続けるために
「常に付加価値を」相澤病院に学ぶサバイバル戦略

社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院
田内 克典 院長

田内 克典 院長

急性期病院のトップランナーとして知られる社会医療法人財団慈泉会相澤病院(460床)が近年、病院改革を加速させています。
2014年以降は病床再編を進め、同年6月に回復期リハビリテーション病棟45床(2017年10月現在は50床)を立ち上げると、2016年2月には地域包括ケア病棟のみの相澤東病院(42床)を開院。相澤病院の急性期病床はこの間、90床以上削減しています。
そして2013年2月には、「医療の質と患者安全の継続的な改善」を掲げる国際的な医療機能評価機構「Joint Commission International」(JCI)の認証を取得しました。
日本病院会の会長に就任した慈泉会の相澤孝夫理事長に代わり、2017年6月に就任した田内克典院長が描く相澤病院のサバイバル戦略は、付加価値を生み出し続けて差別化を図ること。
先駆的な取り組みに挑戦し続ける背景には、何があるのでしょうか。

この記事のキーワード

病床再編/回復期リハビリテーション病棟/地域包括ケア病棟/病床稼働率/ダウンサイジング/JCI

1. 病床再編の背景と現状

――地域医療支援病院の認定を民間病院としていち早く受けたり、「陽子線治療センター」などの設備を充実させたりと、相澤病院は急性期病院のトップランナーとして全国に知られています。

田内 克典 院長

他院との差別化を図るために、新しいことに挑戦し続けてきました。一方で、連携にも早くから注力して取り組んでおり、医療連携センターの設置などは全国的にも早い時期だったと思います。
 1次~3次医療のすべてに対応しているのが相澤病院の大きな特徴で、この地域では、「相澤に行けば、とりあえず診てくれる」という意識が、住民だけでなく救急隊にも浸透しています。これも相澤理事長(前院長)が、地域医療に貢献するために救急機能を整備してきたことの大きな成果です。しかし、冬になると地域の介護施設からお年寄りがどんどん搬入され、病床が埋まってしまいます。そのため一刻を争う救急患者さんへの対応が難しくなり、スタッフの疲弊も深刻でした。現場の疲弊は労務管理の面だけでなく安全管理の面でも問題です。

――そうした状況への対策として病床再編が進められてきたのでしょうか。

この地域には回復期リハビリテーション病院が5ヵ所ほどあり、以前は急性期の治療が一段落した患者さんへの対応をすべてお任せしていました。しかし、冬場にはこれらの病院もすぐに満床になり、「転院待ち」の患者さんがたくさん出てしまうのです。それならこうした患者さんも自分たちでカバーしようと2014年6月にまず、回復期リハビリテーション病棟を開設しました。

東病院を2016年2月に開院させたのは、相澤病院の急性期機能をさらに高めるためで、容体がある程度落ち着いた患者さんにはこちらに移っていただくことで空床を確保できるようにしました。

――相澤病院の回復期リハビリテーション病棟(50床)と、相澤東病院の地域包括ケア病棟(42床)とはどのように使い分けているのでしょうか。

相澤病院の回復期リハビリテーション病棟では、急性期病棟を退院した回復期リハビリの対象疾患の患者さんをフォローしています。東病院の患者さんも相澤病院からの転院が中心ですが、介護施設に入居しているお年寄りの救急搬入や、開業医やご家族の負担を和らげる「レスパイト入院」もかなりあります。

相澤病院 本院/相澤東病院

(相澤病院ご提供)

2. 病床再編の効果

――病床再編によってどのような効果が表れていますか。

相澤病院の急性期病棟から回復期リハビリテーション病棟に転院・転棟した患者さんの入院期間のデータを取ると、面白いことが分かりました。回復期リハビリテーション病棟が院内になかった2013年、他院へ転院した脳卒中134症例のトータルでの入院期間は平均136.9日でした。これに対して2015年、院内の回復期リハビリテーション病棟に転棟した178症例の入院期間は平均60.0日と、半分以下です。翌年には57.1日と、さらに短くなりました(図1)。

相澤病院の回復期リハビリ病棟では手厚く人員を配置して濃密なリハビリを提供している上、院内の急性期病棟と緊密に連携できるので効率化も進んだのでしょう。しかも、リハビリの対象患者さんに早めに転棟していただくことで、急性期病棟の入院期間を大幅に短縮できました。こうした傾向は大腿骨頸部骨折でも同じように見られました。これは、患者さんにとっても、病院の経営上も大きなメリットです。

図1 回復期リハ病棟開設前後での在院日数比較

図1 回復期リハ病棟開設前後での在院日数比較

(資料:相澤病院ご提供)

3. 選ばれる病院でいるために

――高齢化が進むと、在宅療養支援の役割が高まりそうです。東病院の規模や機能を拡充する選択肢もありますか。

田内 克典 院長

現時点では、最終的には100床程度にするビジョンを描いています。一方の相澤病院では2014年以降、急性期病床を他院に先駆けて92床削減してきました。一般的に、平均在院日数を短縮しすぎると、患者が増えなければ空床が出てしまい稼働率が落ちます。地域で高齢化が進んでいる一方で、それに伴う需要増が思ったほど大きくありません。さらなるダウンサイジングが必要だという判断に、いずれなるかもしれません。

――適正な平均在院日数や病床稼働率はどのくらいだとお考えですか。

平均在院日数が9日を切ると稼働率はドンと落ちますね。短くすれば良いのではなく、ある程度標準的な流れを作った方が良いでしょう。現在、相澤病院では10日を切るぐらいを標準として調整しています。病床稼働率は、冬季以外は82%前後を推移しています。冬季は90%前後で、全体をならすと85%前後を行ったり来たりしています。

――稼働率を保つための増患の課題はどのようなことでしょうか。

医療連携と救急機能の強化ということになりますが、救急搬入の増減をコントロールするにも限界があるので、予定入院をどれだけ増やせるかがポイントでしょう。地域全体での症例数に限りがあることを考えると、予定入院を増やすには連携を強化して紹介率を上げるしかありません。

これまで、地域から選ばれる病院を目指していろいろなことに挑戦してきましたが、先進的な試みをいくら始めても数年もすれば追い付かれてしまいます。相澤病院が生き残るためには、付加価値を生み出して差別化を図り、患者さんや連携先から選ばれる病院でいなくてはなりません。2013年にJCIの認証を取得したのもそのためです。

4. JCI認証取得までの道のり

――相澤病院は2013年2月に甲信越地方では初、国内の病院では6番目にJCIの認証を取得しました。

JCIの認証を取得したのはサバイバル戦略の一環でした。実際に受審して特に戸惑ったのが、米国からやって来るサーベイヤーたちとの文化の違いです。何かのルールを作るとき、日本では「性善説」を前提にしがちですが、米国では「性悪説」が基本です。JCIには、誰がいつ、何をどう進めるのか、あらゆる事柄をマニュアル化・ルール化することが求められます。これは、質の低い医療機関を受診して患者さんが不利益を被るのを防ごうという性悪説に基づくものです。

例えば医薬品の冷所保存に関しては、冷蔵庫に備え付けの温度計が壊れることを想定してもう一つ入れているかだけでなく、医薬品が卸を通じて運ばれて来る際の温度管理が徹底されているのかまで確認を求められました。

水質管理でも同じです。「市内全域に上水道が整備されている」と説明しても、「実際に水質を確認したのか」と(笑)。「偽医者」が紛れ込んでいないことを証明するため医師全員の出身大学に卒業証明書の交付も依頼しました。常勤だけでなく、アルバイトの医師の確認まで指示する徹底ぶりです。

――JCIの厳しい基準に沿った院内のルール作りは具体的にどのように進められたのでしょうか。

米国流のシビアな考え方を相澤病院のルールに落とし込んでいくようなイメージです。サーベイヤーには、こうした柔軟な対応でも「『患者安全』を担保できるなら構わない」とアドバイスされました。ただ、従来に比べて安全性が本当に高まったのか、認証の更新時に立証するという条件付きです。ここは完全にデータ勝負。雰囲気では絶対に許されません。

JCIの当時の評価基準書は「品質改善と患者安全」など14章立てで、当時の判定項目は全部で1,224項目でした。ルール作りはこれらに沿って一つ一つ進め、1年くらいをかけて500超を作りました。例えば「患者認証」では、今は氏名と生年月日を使っています。心電図、採血、レントゲン撮影などのたびに、氏名と生年月日を誰がどのタイミングで確認するかを明確にしました。救急搬入された患者さんが意識不明ならどうするか、障害などでコミュニケーションを取れないときにはどうするかも含めて決めなくてはなりません。

――そのようなルールを現場に落とし込むための工夫を教えてください。

全診療科や部署にどのような業務があるのかをまず洗い出してもらいました。内視鏡検査なら、受付から会計までの業務ラインで、誰が何をするのかをすべて把握すれば内視鏡検査での患者認証や安全管理の規定を作ることができます。当時はJCI認証を取得した病院が国内に少なく、手探りで作業を進めましたが、事前審査では半分以上がNG判定。そこから新しいものを作り直しました。

審査で重視されるのは現場です。院内のルールが本当に機能しているのか、あらゆる部署を抜き打ちでチェックされます。病棟では、若手の看護師を見つけ出してインタビューをしてきます。見かねたベテランが助け舟を出そうとすると、「あなたには聞いていない」。ごまかしようがありません。

5. JCI認証取得の効果とは

――取得によってどのような効果がありましたか。

JCIの認証取得は病院のブランド化に寄与しますが、一番大きかったのは、職員の意識の変化でしょう。以前は、何事も医師や看護師の主導で物事を進めることが大半でしたが、多職種が集まってディスカッションする風土ができました。

院内のさまざまな職種が参加する「JCIミーティング」を毎月開き、ライン全体での安全管理をどうするのか、部署や職種横断の大所帯で話し合うようになったからです。そこで見えてきた課題を解決するためのルールを話し合うことで、そのルールがなぜ必要で、どういうプロセスで決めたのかを共有できます。ルールを作る理由が分かれば皆、協力してくれます。

――ハード面ではどのような改善を行ったのでしょうか。

医薬品のカートや、清掃用のカートなどをすべて一新し、バックヤードも改築しました。これらハードの整備を伴ったので、認証取得の費用は億単位です。ただ、改築での対応が難しい部分もあります。例えば感染制御のための動線の整備です。汚染された物とされていない物が交わらないようにと「one way(一方通行)」の徹底を求められましたが、日本の多くの病院はそもそもそういう構造になっていません。相澤病院にもごみ運搬専用のエレベーターがないので、ごみの運搬での使用は午前中や夜間に限る「時間差」で運用することにしました。

JCI審査終了後の記念撮影

JCI審査終了後の記念撮影

(相澤病院ご提供)

6. 相澤病院が抱く危機感と戦略

――相澤病院の将来構想をどのように描いていますか。

将来も急性期機能を維持するのが相澤病院の基本路線です。ただ、課題や悩みもあります。一つは、2018年度にスタートする第7次医療計画への対応です。ここで地域医療構想がどう書き換えられるか。松本医療圏の人口減少に伴ってダウンサイジングの対応を求められたらどうするべきか。

急性期病院の経営は近年、急速に悪化していて、特に厳しいのがわたしたち400床前後の病院だといわれています。後ろ盾のない民間病院が今まで通りのことをしていたら生き残りはまず無理でしょう。

2018年には診療報酬改定があり、その翌年10月には消費増税が控えています。消費税率が予定通り引き上げられれば“損税”がさらに膨らみ、多くの病院がとどめを刺されかねません。それでも自分たちは生き残れるのか。旧態依然としていたら存亡の危機に――。そういう気持ちでマネジメントしていかなければなりません。

田内 克典 院長

取材の裏話…

インタビュアー
インタビュアー:相澤東病院の開設後、相澤病院の急性期病棟では、入院1症例当たりの単価はどのような水準で推移していますか。
田内 克典 院長
田内院長:入院診療の単価は、手術が必要な外科系の患者さんがどれだけいらっしゃるかに大きく左右されます。相澤病院では、手術が多い月には7万円を超えますが、内科の患者さんが増える冬場には落ち込みます。これらをならすと大体6万8,000~7万2,000円程度で推移しています。
インタビュアー
インタビュアー:院内で病床機能の分化を進めたことで、相澤病院の急性期病棟では病床を確保しやすくなりましたか。
田内 克典 院長
田内院長:そうですね。ただ、ここも季節変動があり、冬場になると一気に満床になります。急性期病棟全体での病床数が減った分、病床利用率が1%でも上がると影響はシビアです。そこで2016年には、救急専用に22床を確保しました。
インタビュアー
インタビュアー:病床機能の再編をはさんで、相澤病院と東病院を合わせた全体での収支はどう変化しましたか。
田内 克典 院長
田内院長:相澤病院の急性期病棟の50床をシフトさせた回復期リハビリテーション病棟では、言うまでもなく単価が下がりました。相澤東病院は地域包括ケア病棟単体なので、単価の減少はさらに顕著です。
インタビュアー
インタビュアー:急性期病棟と回復期リハビリ病棟、地域包括ケア病棟とで症例単価はどれだけ異なるのでしょうか。
田内 克典 院長
田内院長:急性期病棟での売上を1とすると、回復期リハビリ病棟は3分の2、地域包括ケア病棟は3分の1といった感じです。単純に売上増を目指すなら502床すべてを急性期のままにしておくのがベストだったでしょう。ただ、一連の病床再編は、相澤病院の急性期機能を高めるという戦略に基づくものだったので、売上減は織り込み済みです。それを見込んだうえで相澤病院の機能をどこまで高められるかが鍵なのです。

【解説】JCIって何だ?

患者安全と医療の質向上を掲げる国際的な認定機関

Joint Commission International(JCI)は、患者安全の確保と医療の品質向上を目的とする国際的な認定機関で、本拠地は米国のシカゴにあります。
病院だけでなく、診療所や長期療養の受け入れ先を対象としたプログラムもあるのが特徴で、JCIのホームページによると、世界の1,000施設以上が認証を取得しています。しかし、JCIは世界的にも審査基準が厳しく、取得できるのは世界の上位1~2%の病院であるともいわれています。

日本で認証を取得しているのは、大学病院や急性期病院、診療所、介護老人保健施設など24施設(2017年10月現在)。2013年2月に認証取得した相澤病院は、国内では6番目でした。2016年度の診療報酬改定では、総合入院体制加算1と加算2の施設基準として、日本医療機能評価機構が定める機能評価か、これと同等の基準で第三者の評価を受けている病院と定められ、JCI(「大学医療センター病院プログラム」か「病院プログラム」)は、これに該当すると認められました。

審査の際、審査員(サーベイヤー)は、院内スタッフはもちろん、売店スタッフや清掃員、ときには患者さんにも抜き打ちで質問し、 患者安全や医療の品質向上を担保する仕組みが整備されているか、徹底的にチェックします。相澤病院が受審した評価基準のバージョンでは、サーベイヤー3人が1,200以上の項目を5日間にわたって審査しました(表)。

表 JCI評価基準書の章ごとの判定項目数(2013年当時)

表 JCI評価基準書の章ごとの判定項目数(2013年当時)

(資料:相澤病院ご提供)

JCIの認証は3年以内に更新する必要があり、施設側は認証を取得した後も継続的な改善が求められます。認証を取得しそれを維持するのにある程度の費用を要しますが、自院のブランド化に繋がるばかりでなく、審査に向けた業務プロセスの改善によって医療の質向上が見込めることから、患者さんや他の医療機関からの信頼を獲得する上での強力なツールになると注目されています。