医療サポート事例:地域医療戦略

Round-table discussion in Kurashiki
地域医療戦略における成功要因となる病棟薬剤管理業務
~変わりゆく病棟での薬剤業務のカタチと薬剤師の将来像

(2017年12月14日開催 会場:倉敷国際ホテル)舟越亮寛 先生 亀田総合病院、翁長真一郎 先生 浦添総合病院、金澤康範 先生 飯塚病院、筒井祐佳 先生 近森病院、三浦誠 先生 洛和会音羽病院

病棟薬剤業務実施加算が2012年度診療報酬改定で新規に評価されました。1988年度の同改定における入院調剤技術基本料(現在の薬剤管理指導料)の設定以来、24年ぶりの大改定です。同加算は薬剤師が経営に寄与できる加算であり、この加算の新設は、地域医療戦略の中で病院として薬剤師の関わりが重要であることを改めて印象づけられたできごとでした。これを境に病院薬剤師の役割は日々変化し、一部の先端病院では病棟薬剤業務の多様化と深化が進んでいます。
本座談会は、各種制度改正を含めた外部環境の変化を見据えた業務改善に積極的に取り組まれている、各地域の基幹病院の薬剤師の先生方にご参加いただきました。各病院における病棟薬剤業務の実際やDOAC*1などの処方提案の考え方、今後の薬剤師業務の方向性など、広範囲にわたってディスカッションいただいた議論の模様を、自施設の業務改善のエッセンスとしてご紹介していきます。

*1 DOAC:direct oral anticoagulants, 直接経口抗凝固薬

この記事のキーワード

病棟薬剤業務/薬剤管理指導業務/PBPM/DOAC/処方提案/ハイリスク薬管理/適正使用への取り組み/薬剤師の教育/アウトカム評価/服薬指導/保険薬局との連携/AI/働き方改革

1.病棟における薬剤師の役割

A. 病棟薬剤業務の実際

金澤:

金澤康範 先生 飯塚病院

日本薬剤師会が2012年4月に発出した『薬剤師の病棟業務の進め方』によると、薬剤師の病棟業務を「病棟薬剤業務」と「薬剤管理指導業務」に大別し、基本的に前者は処方前、後者は処方後の関与と位置づけています(図1)。2012年に病棟薬剤業務が病棟薬剤業務実施加算として評価されてから6年が経ちますが、皆さんの病院ではどのような取り組みを行ってきたのかを教えていただきたいと思います。

図1 「病棟薬剤業務」と「薬剤管理指導業務」

図1 「病棟薬剤業務」と「薬剤管理指導業務」

三浦:

洛和会音羽病院の場合、薬剤師を一日中常駐させる体制には至っていませんが、2015年からICUを含めた病棟に薬剤師を配置しています。現在では、プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM:Protocol Based Pharmacotherapy Management)の進展を背景に、外科系の処方チェックはほとんど薬剤師に任されている状況です。DOACについても処方前の腎機能のチェックなど、年々業務は変わってきている印象があります。

舟越:

舟越亮寛 先生 亀田総合病院

亀田総合病院では、ICUやNICUを含め全病棟に薬剤師を常駐させています。近年力を入れているのはやはりPBPMです。検査の予約や処方の用量変更等に関して医師と合意形成が取れたところは薬剤師で行うことを進めています。特にICUとNICUは処方の用量変更等が処方箋ではなく指示で行われることが多いためプロトコール化は重要です。ICUではハイリスク薬の最大用量の規定、抗菌薬のTDM*2を含めた処方設計支援が基本で、NICUでは特に問題となっている小児用量設計に関してPK/PD*3などから評価し、医師の相談や質問に応えていくという業務が大半を占めています。

*2 TDM:Therapeutic Drug Monitoring(治療薬物モニタリング)、治療効果や副作用に関する因子をモニタリングしながら、患者に個別化した用法・用量を設定すること
*3 薬物動態を意味するPharmacokinetics(PK) と薬力学を意味するPharmacodynamics(PD) を組み合わせて関連づけることにより、有効性や安全性の観点から最適な用法・用量を設定する考え方

筒井:

近森病院は2010年から全病棟に薬剤師を配置し、2012年から病棟薬剤業務実施加算(図2)を算定できる体制を整えています。超急性期の病院は患者を早く退院させ、自宅へ返すことが使命ですので、それを達成していくうえでの課題を薬剤師として解決できないかという視点で業務を拡大してきました。
一つは、例えば外科系病棟における周術期の介入で、特に糖尿病患者さんの術後インスリン量の調整や内服薬の開始等は代謝内科の医師と一緒にカンファレンスしながらほぼ全面的にかかわっています。整形外科に骨折で入院してきた患者さんの未治療の糖尿病を見つけて治療につなげていくというところでも、ある程度役割を果たせていると思っています。
もう一つは抗菌薬の適正使用です。もともと病棟での薬剤師の居場所をつくるという狙いから2008年頃から薬剤師の処方提案にこだわりを持ち、TDMにより唯一、医師に提案できた分野ということもあって、まずそこから着手しました。今は感染症に対して薬剤師全員が対応できるようにしようという目標を持って取り組んでいます。

翁長:

翁長真一郎 先生 浦添総合病院

浦添総合病院では病棟薬剤業務実施加算を2012年に届け出たのですが、マンパワーの問題で2014年に取り下げざるを得ませんでした。ただ、当時始めた病棟薬剤業務は現在も維持しており、ICUやHCUに合わせて薬剤師を2名配置しています。ICUでは看護師と薬剤師でせん妄ラウンドを開始し、睡眠剤などをチェックして他剤への切り替えなどを提案し、徐々に医師から受け入れられるようになっています。
一般病棟に関して、持参薬はこれまで看護師が管理して1剤ずつ切り替えていましたが、処方漏れや重複投与などの問題が生じていました。そこで処方を切り替えていく際に、病棟薬剤師が看護師や配薬などを手伝ってもらうスタッフと連携して切り替えをスムーズにしていくといった試みを進めています。実際、3カ月間で十数件の重複投薬を事前に止めることができ、インシデント防止につながっていると思います。
全般的にはやはり感染にかかわる機会が多いため、病棟薬剤師全員がTDM解析をして処方提案できるような形ができあがってきたと感じています。ただ、初回の投与量設計で全件かかわれていないところが課題です。

図2

図2 病棟薬剤業務実施加算の概要

(出典:厚生労働省 2015年11月4日開催中医協 総‐3)

B. 今後の病棟薬剤業務改善策

金澤:

病棟薬剤業務を追求していくうえで、まだ手がつけられていない点など、今後の課題はありますか。例えば、飯塚病院ではどの薬剤師でも同じような病棟薬剤業務ができるようにするための教育で頭を痛めているのですが。

舟越:

当院の特色ですが、医師をはじめとする医療従事者の教育に力を入れている分、生産効率が悪く、やりきれていないところが多いです。具体的には、病棟薬剤業務というと、どうしても持参薬や処方薬の扱いが中心となります。基本的には造影剤やその他の検査で使う薬剤についてもすべて把握しておく必要があるのですが、それが把握しきれていません。すべての薬歴や処方歴が電子カルテに反映されていないというシステム的な要因もあり、そのために薬剤師がインシデントの対応に迫られるということも生じています。

筒井:

筒井祐佳 先生 近森病院

医師と円滑に連携を図っていくうえで、薬剤師は病態についてもある程度理解しておかないとこれからは難しいと考えていますが、どの施設でもようやく力がついた頃に退職してしまうということが繰り返されていると思います。それでもレベルアップを図っていくために、当院の薬剤部では17時以降に週1回、カンファレンス形式の勉強会を開催しており、そこに参加できない子育て中の薬剤師に向けて昼間にミニカンファレンスを行っています。女性の薬剤師が継続してキャリアを築いていくためにはそういった工夫も大事です。

三浦:

厚労省が求めているような、医師と対等に話せる薬剤師になるためには、レベルアップのための段階を踏んでいく必要がありますね。まず病棟薬剤師として配置される。次に医師から質問や相談が受けられる。そして、薬剤師から医師に処方提案などをしていくという3ステップがあるとすると、当院の薬剤師は恐らくまだ2ステップ目の段階で、課題は提案力を磨くことだと考えています。そのために毎週症例検討会を行い、また平日の昼間15分間を利用して減薬カンファレンスを開催しています(図3)。それをもとに医師と相談しながら実際に減薬し、その結果を追っています。多忙ななかでの、隙間時間の効果活用に注力しています。

図3

図3 減薬カンファレンス(毎日15分)

(資料:三浦 誠先生ご提供)

翁長:

当院の場合は、やはり病棟に薬剤師1名の常駐を目指していますが、多忙になるのが想定されるので、それに加えて横断的にかかわれるフリーの薬剤師を置きたいと考えています。
教育に関しては、3~5年目でもまだ学びたいという薬剤師が多いですね。その時期には学びよりも貢献という意識を持ってほしいのですが、それを植え付けていくのが難しいと感じています。また、筒井先生が指摘されたように戦力になった薬剤師の退職をどう防いでいくかも課題です。当院でも育休復職者に関するカリキュラムを来年にはつくっていく予定です。

C. 経営貢献のためのアウトカムの設定

金澤:

金澤康範 先生 飯塚病院

議論のなかで出てきましたが、病棟薬剤業務ではアウトカムを出していくことが重視されています。有効性・安全性の向上やQOLの向上などが挙げられますが、実際に現場ではどのようなアウトカムが出せているのか。インシデント数やプレアボイド*4の件数等は数値化できますが、QOL向上などはどのように表していくのかといったところをお話いただければと思います。

*4 薬剤師が薬物療法に直接関与し、薬学的患者ケアを実践して患者の不利益(副作用、相互作用、 治療効果不十分など)を回避あるいは軽減した事例のこと

筒井:

骨折患者の周術期に介入することでの在院日数の短縮、あるいはインスリンのスライディングスケール*5の使用日数を短くする等の数値は出しています。抗菌薬の削減についても政府より2020年度までに13年度比3割減という目標が提唱(図4)されたことを受けて、当院でも目標値を出しました。重症例に多くの用量が使えるようになったといった背景から2016年度は使用量が増えてしまっていますが、数値よりも削減していく姿勢が大事だと考え、なかなか難しい面があるものの継続して取り組んでいます。

*5 患者ごとの病態や血糖値の変動パターン、体重あたりのインスリンの必要量などを加味し、血糖値に応じたインスリン量を決めるための目安表

図4

図4 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(概要)

(出典:厚生労働省 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(概要)2016年4月5日)

三浦:

病棟薬剤師の配置によるICUのインシデント、アクシデント件数の減少(図5)を学会等で発表していますが、病棟薬剤業務をチーム医療の一環として捉えると、平均在院日数の短縮やそれに伴う新規の入院患者増などがアウトカムになってくるのではないでしょうか。一方で、処方提案や疑義照会をどれだけ行っているかというデータベースをつくり、それを見て教育や啓発などに活用し、次につなげるようにしています。

図5 薬剤別のインシデント・アクシデント件数

図5 薬剤別のインシデント・アクシデント件数

(資料:三浦 誠先生ご提供)

翁長:

私も在院日数の短縮に薬剤師がかかわることは大きなアピール材料になると思います。病院全体で多職種連携を強化していくなか、先程の、せん妄ラウンドがICUの在院日数にどれだけ影響を与えるかなど、薬剤師が入退院にかかわり、どのようなアウトカムを出していけるかを検討していこうと考えています。

舟越:

当院では緩和病棟のラウンドで薬剤師が介入した場合のオピオイドの使用量、最近ではプロトコールを組んでの心不全患者の再入院率を出しており、論文化しています。
ただ、平均在院日数の短縮に薬剤師がどれだけ関与しているかは交絡因子が多すぎて非常に難しい。厚労省もアウトカムを出すのが困難な場合はストラクチャーやプロセスによる評価でよいと定義づけています。例えば、体制をつくった結果としてインシデント・アクシデントが減少したことも十分なアウトカムだと思いますし、その定義に合わせれば介入率などを押さえていくのも一つだと考えています。

D. 経済性の観点からみた適正処方

金澤:

多剤併用や残薬への対応も薬剤師の大きな役割となっていますが、一方で高額な薬剤が増えているなか、フォーミュラリー、つまり患者に対して最も有効で経済的な医薬品の使用に薬剤師がどうかかわっていくかも問われています。ここについてはいかがですか。

三浦:

三浦誠 先生 洛和会音羽病院

減薬に関しては外来にシフトしていかないと対応が難しいですね。当院はケアミックスですから、慢性期病棟でゆっくり減らすことができますが、急性期病棟の場合は、外来で保険薬局とどう連携を図っていくか、院内から院外へと考え方を広げていかなければなりません。
経済性という点では、各診療科が使いたい薬を使用していくなかで、年々医薬品の購入額が膨らんでいるのが現状です。薬剤部トップの立場としては、治療にとって本当に必要なものを見極めた購入が重要であるという意識づけをし、各論では吸入薬のデバイスなども医師にどんどん提案していくといった取り組みを行っています。

舟越:

どの薬剤を最初に使うかという選択に関しては、診療部長を集めてコンセンサスミーティングを開き、高額薬剤と吸入剤など劣化する薬を対象に院内ルールをつくり、そのルールから逸脱した先生は薬事委員会で振り返りをしています。
もともと大幅に膨らんだ薬剤をルール化して使いたいと薬剤部が薬事委員会に提案し、購買部も在庫管理してもらいたいと賛同して始まりました。

金澤:

そのようにある程度、病院全体で薬の使い方を決めてもらうと、病棟での処方提案もやりやすくなりますね。非常に画期的な取り組みだと思います。

2.DOACにおける病棟薬剤業務

A. doseに関する医師への提案

金澤:

次に、処方が増えているDOACに絞り、それぞれの病院で薬剤師がどのように介入しているのかをお聞きしたいと思います。

翁長:

循環器病棟では、入院時に年齢や腎機能、体重をベースに適正な用量が処方されているかを確認しています。under doseのケースでは疑義照会を行いますが、そのほとんどが目的によって量が減っているケースですが、確認しながら治療につなげています。

筒井:

当院はSCU(stroke care unit, 脳卒中集中治療室)がある関係で、頭蓋内出血等による緊急搬送の受け入れも多いのですが、緊急にリバース剤を使用した症例が年間20例ほどあります。2017年9月に、ワルファリン服用中の出血傾向を抑える新薬が発売されたことをきっかけに院内で緊急時の使用薬剤についてフローをつくり、ERと共有するようにしました。
また、地域全体で抗凝固薬の安全性に対する意識を高めていくことも重要です。そこで保険薬局の薬剤師を集めた勉強会を開き、ERにおける対応やDOACについても取り上げ、それぞれの長所や短所も含めて考えてもらう機会をつくるようにしています。

金澤:

DOACでは、over doseのときは提案しやすいのですが、under useの場合、増量の提案をためらうという薬剤師も多いようです。皆さんはどのように対応されていますか。

舟越:

おっしゃるとおり、医師は治療効果を十分に出したいという考えからover dose気味に処方する場合があるので、それに対して慎重に減量していくという提案のほうが多いですね。私はそのバランスが取れていればいいと思いますが、治療の本来の目的は血栓の予防ですので、あまり慎重になりすぎるのも…。そこは血栓を起こしやすい合併症の既往があるかなどで個別の対応になってきます。
under doseの議論では、高年齢や低体重、腎機能低下といった減量基準がありますが、それだけで測れないケースもあります。そのために当院では血栓の素因があるかないかの評価を兼ねてスコア化を進めており、医師には潜在的なリスクを伝えたうえで、投与量について話し合っています。

三浦:

舟越先生が言われるように、個々の症例で考えていかないといけないでしょうし、神経内科と整形外科ではdoseに対する考え方が違いますので、そこも考慮にいれて提案していく必要があると思います。また、高齢者においては加齢に伴う腎機能低下を考慮すべきで、under doseでいくほうがいいかなど実データをもとに考えていくようにしています。

筒井:

腎機能が低下している場合だけでなく、腎機能が改善したときにも適切なタイミングで処方量を提案するなど、どうしてこの投与量なのかを施設間で情報共有していくことも大事だと思います。

金澤:

やはりDOACについても診療科ごとに医師が集まり、どう使うかという病院統一のルールをつくっていただくほうが薬剤師としてもやりやすいですね。

翁長:

翁長真一郎 先生 浦添総合病院

DOACの薬剤選択については当院の場合、循環器センターである程度使い分けを決めています。年齢や腎機能に応じてエビデンスベースでの薬剤を使用推奨しているため薬剤師も介入しやすく、処方確認がやりやすい状況です。しかし、診療科によっては異なる用量での使用を求めるケースもあり、先ほどの適正処方ワーキングのような形で統一していければと思います。

筒井:

薬剤の選択では剤形や投与回数、中和剤の有無なども絡んできますが、当院では特にフォーミュラリーなど院内で使用に関する規定をつくっていませんので、薬剤師から特定のDOACを勧めるということはないと思います。むしろ投与後の関与として脳卒中を起こした患者などの退院後の服薬について、一包化や簡易懸濁などいろいろな面を考慮して提案しています。

B. 服薬指導における留意点

金澤:

DOACの服薬指導ではアドヒアランスの向上が最も重要だと思いますが、副作用リスクがあるなかでどのように注意されているのか、お話いただけたらと思います。

三浦:

入院時、持参薬について尋ねても、薬についてあまり理解されていない患者が多いです。そのためDOACに限らず、患者の理解が乏しくかつ治療上重要な薬については重点的に説明するようにしています。医師だけでなく薬剤師がしっかり説明することでアドヒアランスを上げることが大事だと思います。

金澤:

患者は症状が良くなる薬は飲み忘れませんが、DOACのような予防的な薬をどう説明し、いかに正しく飲んでもらうかは非常に難しいと思います。どのように工夫していけばいいでしょうか。

舟越:

舟越亮寛 先生 亀田総合病院

スタチンと一緒ですね。高齢者に関しては心不全のガイドラインでも患者の意思決定として「飲まない」という選択肢も出てきていますので、まず飲んでもらうというより、リスクとベネフィット、そのバランスを説明し、患者に選んでもらうという形にしていかざるを得ない。選んでいただくために一人ひとり丁寧に説明をしていくしかないと思います。
例えば、腎機能が悪い体重35㎏以下の女性の高齢者は結構います。そうすると、合併症で血栓素因があれば、どういうリスクを抱えているのかの説明は医師だけでは不十分です。ここは議論があると思いますが、私はアドヒアランスが悪い方に対しては薬剤師が少しリスクを強調して理解していただくことも必要だという考えです。

筒井:

確かにこれまでの服薬指導はコンプライアンス重視でしたが、今はそれだけでは立ちゆかなくなっている。薬剤師が服薬指導で感じたことや課題を医師とのディスカッションに活かしていくべきですし、そのうえで、なぜこの人は飲めないのかという患者背景を考えて剤形などについて提案していくということも重要です。時間がかかりますので最初はハイリスク薬に絞っていくということが必要だと思います。

C. 保険薬局との連携

金澤:

抗凝固療法中の服薬指導で中和剤がある場合はそれをどこまで伝えていくかもアドヒアランスの向上を図っていくうえで重要です。

翁長:

抗凝固薬を服用している患者には中和剤に関する情報提供が必要なケースがあると思いますが、実際は外来での対応が多いので、病院薬剤師がかかわる機会はなかなかありません。保険薬局では中和剤があるということを知らないケースも多々あると思います。
話は変わりますが、お薬手帳に薬剤アレルギーを明記したのにもかかわらず、他施設で情報共有できなかったケースがあったため、手帳の表紙にシールを貼ってより具体的に情報提供を行うようにしました。抗凝固薬についてもシールを貼って情報共有していけば保険薬局のほうでもいろいろな気づきにつなげていけると考え、今後取り組んでいく予定です。

筒井:

筒井祐佳 先生 近森病院

ただ、薬局によっては半数以上の方がお薬手帳を持ってこないというところもあるので、ICTによる情報共有が必要ではないかと思います。当院でも勉強会で中和剤があることについて情報提供しましたが、保険薬局の方はほとんど知りませんでしたね。中和剤に関しては患者指導の前にまず保険薬局への周知が必要です。

舟越:

当院では登録した保険薬局さんに先ほどの適正処方ワーキングの結果をメールで配信するといった試みを行っています。

三浦:

保険薬局はどのように用量選択されたかというプロセスがわからないため、腎機能だけを確認して終わっているかもしれません。出血や血栓は在宅でも起こるので、そこはしっかりとした情報提供が必要です。

3.今後望まれる薬剤師・薬剤業務

金澤:

今後望まれる薬剤師・薬剤業務について、まず今後、チーム医療で本当に望まれる薬剤師業務について考えていきたいと思います。

翁長:

「薬あるところに薬剤師あり」が当たり前になってきていますので、病棟だけでなく外来にも必要になってくると思いますし、安全管理という視点も考えていかないといけません。

筒井:

薬剤師の仕事と責任が増加し、薬剤の選択から投与量まですべて薬剤師に任せるという風潮になっています。そうなると逆に取捨選択で、全体を見ながら絶えず業務を見直して、本当に必要なものをだけに絞っていくということも、経営的な観点からは必要になってくると思います。

舟越:

働き方改革の観点から言わせてもらうと、医師が薬について記載することが少なくなり、その分、薬剤師が残業して記入している状況です。筒井先生が指摘されるように必要ではない業務を削ることも重要ですが、一方でAIや機械化による省力化や効率化を進めていくことも考えていかなければなりません。大手薬局チェーンではAIによる自動入力ができるシステムの導入を開始していますが、当院でもそういったことを検討しています。

三浦:

三浦誠 先生 洛和会音羽病院

膨大な薬の作用や副作用などのチェックはAIに勝てないため、薬剤師という職業はいずれなくなるのではという記載を、ある本で読みました。最終的には、データサイエンティストとして薬剤師は残っていくべきとその本では提唱していますが、現状の薬剤師は、ある薬物治療の最終的なアウトカムはどうなったかというn=1でしか見ていない。やはり個別の患者さんをトータルにとらえて本当に良いものかどうかを考えていくという業務体系へのシフトが迫られていると思います。

金澤:

私も皆さんも管理で手一杯ですが(笑)今後、若い薬剤師に望むことは?

翁長:

病院全体としてのニーズがどこにあるのかは、もう管理者だけが考えるものではありません。薬剤師目線だけで物事を考えず、それぞれの薬剤師が自分たちの立ち位置を理解して欲しいと思います。

筒井:

AIなども業務に組み入れられて薬剤業務もどんどん変わってきます。これからの薬剤師にはそういったテクノロジーをうまく使いながら、「変化するものだけが生き残る」ではないですが、変化し続ける能力をつけた薬剤師になってもらいたいです。

舟越:

私の目標でもありますが、生まれたときから最期までその人の人生に寄り添う、かかりつけ薬剤師になってほしい。私は在宅業務も経験していますが、かかりつけ薬剤師として患者の終末期だけでなく、遺族まで面倒をみるという覚悟は、対人業務を目指すというのであれば不可欠だと考えます。今後はそういう薬剤師を育成していくための業務体系をつくっていきたいです。

三浦:

今後の薬剤師は患者のニーズにどこまで寄り添えるかです。以前、当院の薬剤師たちに介護施設を見学させたところ、患者の生活上の困りごとに薬剤師がかかわれていないことを実感して帰ってきました。患者に対して何ができるのかを薬剤師として考え続け、それを共有していくサイクルを回し続けていけたらと思います。

金澤:

病棟薬剤業務を中心に、広範囲にお話をいただきましたが、なかでも病院全体で医師や多職種を巻き込んだ適正使用のルールづくりは、処方提案をより円滑に進めていくうえで有用だと考えます。また、これからの薬剤師が進むべき道筋も示していただきました。本日はありがとうございました。

舟越亮寛 先生 亀田総合病院、翁長真一郎 先生 浦添総合病院、金澤康範 先生 飯塚病院、筒井祐佳 先生 近森病院、三浦誠 先生 洛和会音羽病院

参考:
プラザキサ®添付文書
プリズバインド®添付文書