医療サポート事例:地域医療戦略

診療報酬改定でも注目!の「働き方改革」
クリニカルパスの精緻化とともに病院全体を底上げ

大阪警察病院
小牟田 清 副院長

大阪警察病院	 小牟田 清 副院長

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入院期間の短縮や、医療安全の確保、医療スタッフの「働き方改革」―。大阪警察病院(大阪市天王寺区)ではさまざまな病院改革が進められています。
このうちの「働き方改革」は2018年度の診療報酬改定では基本方針の一つと定められ、医師事務作業補助体制加算の引き上げや、医療従事者の常勤要件や専従要件の緩和が改定項目に盛り込まれました。
(参考:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000197979.pdf)
一連の病院改革を主導する小牟田清副院長の念頭にあるのは、精緻なクリニカルパスこそが病院をレベルアップさせるという考え方。各部署から上がってくるインシデントレポートやスタッフの声を丹念に拾い、改善の糸口を見いだします。
2017年12月には、医師や看護師、医事課スタッフらによる「クリニカルパス推進チーム」を院内に立ち上げ、4月からこれらの見直しに着手しました。その際、特に重視するのは、退院時に必要な書類の不備をなくし、円滑な退院支援を完成させることです。

この記事のキーワード

平均在院日数/病床稼働率/クリニカルパス/インシデントレポート/スタッフの業務改善/スタッフの「働き方改革」/ICTの活用

1.平均在院日数と病床稼働率の現状

──大阪警察病院では入院期間の短縮を進めつつ、病床稼働率を高い水準で維持されていると伺っています。

当院の平均在院日数は2016年度が11.9日、2017年度は11.5日。最近は11日を切る月もあります。これは、大阪府全域と近畿他府県の登録医が計661人(2018年3月現在)いることによって、退院後の受け皿が確保できていることが大きいと考えます。
一方、病床の稼働率(平均)は2016年が98.9%、2017年が99.6%とここ数年は通年でほぼ満床です。1週間の変動を見ると、土日に落ち込むものの平日は100%を超えることが多いことが分かりました。予定入院だけでなく緊急入院も可能な限りすべて受け入れているためでしょう。
最近は高齢の患者さんが増えており、誤嚥性肺炎のように完治することが極めて困難な症例にどう対応するかが課題です。緊急入院と予定入院の症例で平均在院日数を比較すると、2017年11月1ヵ月の検討では「緊急」が14.9日、「予定」が9.5日でした。また、1症例当たりの単価は「緊急」の59,370円に対し、「予定」は89,451円とはるかに高いことが明らかとなりました(図1)。
予定入院では、クリニカルパスを用いて検査や処置を実施するタイミングをあらかじめ決められますが、緊急入院ではそうはいきません。退院調整も難しく、入院期間をコントロールしにくいことになります。さらに入院が長引くと単価は下がるので、必ずしも“救急を積極的に受け入れることが経営に寄与する”というわけではありません。

──緊急入院では、あらかじめ情報を把握していないことから予定を立てられず入院期間を短縮しにくいのですね。

そうです。予定入院では、クリニカルパスに退院日を組み込んでいますので、退院日が大きくずれ込むことはありません。入院日数をDPCの「入院期間II」内に設定すれば経営的な安定も見込めます。しかし、緊急入院ではこうしたことが格段に難しくなります。

図1 DPC緊急・予定入院比較資料(2017年11月度)

図1 DPC緊急・予定入院比較資料(2017年11月度)

(資料:小牟田 清先生ご提供)

2.クリニカルパス推進委員会の設置

──地域における役割を考えるとコントロールは難しいですね。

はい。当院では麻酔科医17名と手厚い体制を敷いていることもあり、救急入院、緊急手術が可能となっています。 そうしたことから搬入数は多くなりがちであり、緊急入院数のコントロールは難しくなります。私たちも、平均在院日数や病床稼働率ばかりに注目せず、地域の医療機関のそれぞれの役割を考慮すべきでしょう。
そこで、「クリニカルパス推進委員会」を2017年12月に立ち上げ、まずは誤嚥性肺炎のパスの見直しに着手しています。それに先立っておこなった現状把握から、さまざまなことが分かってきたのです。例えば、最近経験した誤嚥性肺炎の3症例を検討すると、DPC点数よりも出来高換算点数の方がいずれも高く、赤字になっていました。加えて、診療プロセスを検証したところ、入院期間は9日~17日、採血の回数は4回~8回。胸部CTは実施したりしなかったりとばらつきが目立ちました(図2)。

図2 誤嚥性肺炎3症例の比較

図2 誤嚥性肺炎3症例の比較

(資料:小牟田 清先生ご提供)

さらに、2016年度のDPCデータを他病院と比較すると、誤嚥性肺炎の平均在院日数が13.9日という病院もあるのに対して当院は18.3日。抗生物質の使用や検査の回数も当院は明らかに多いことがわかりました。

──そうしてパスの見直しに至ったのですね。

そうです。パス見直しに向けて「クリニカルパス推進委員会」を新たに立ち上げました。看護部単独による既存の委員会や各病棟・診療科と連携し、効率的なパスの作成・修正を進めています。推進委員会のメンバーには、看護師だけでなく医師や医事課スタッフも加えました。円滑なパスの作成・修正を進めるには、一つの部署に任せ切るのではなく、一連の診療プロセスに関与する各部署の意見を聴く必要があると考えたからです。
例えば誤嚥性肺炎では、白血球やCRPの数値が初期に高まります。そこで新たなパスでは、抗生剤の投与期間、経管栄養から経口摂取へ切り替えるタイミングも考慮するように検討しています。

3.クリニカルパス修正の際に工夫している点

──修正のポイントはどのような点ですか。

最大のポイントは容態の安定後、退院支援をパスに取り入れることです。家庭環境、患者さんの社会的背景によって、自宅へ退院するのか、転院するのかをパスで想定しておかなければ円滑な退院支援はできません。退院のめどが立ってから「退院時カンファレンス」を開いたりサマリーを書いたりしていると、場合によってはそれらのために入院を延ばすことになってしまうでしょう。逆にいうと、各部署の意見を聴いたうえでこの時期のイベントを詳しくパスに組み込んでおけば、いつ何をすればいいのかが「見える化」できるということです。

──現在はどのくらいの数のパスがあるのですか。

全部で2,139のパスが院内にあります。うち900程度は現在、円滑に運用できていますが、内科系を中心とした1,000余のパスには修正の余地があります。退院時の業務を細かく組み込めていないものが大半で、順次修正を進めます。もちろん、看護部だけでなく医師の関与も必要ですし、例えば抗生剤の使用法なら感染管理センターに相談して現場主導で決めるべきでしょう。それが入院期間の短縮や医療の効率化につながる。我々の「のびしろ」はそこにこそあると思っています。

──パスの見直しが医療の効率化につながるのですね。

大阪警察病院 小牟田 清 副院長

パスの精緻化は結果として経営改善につながります。ただ、入院期間の短縮を進め過ぎると病床の稼働率は当然下がります。入院待ちがない状況でどこまで入院を短縮させるべきか、病院経営の観点からは、こうしたことも大きな課題だと感じています。
さらにいうと、パスの修正は医療安全の確保にも不可欠です。私は、院内の医療安全センター長も兼任しており、以前各部署や病棟から上がってくるインシデントレポートを詳しく調査したことがありました。そのときに分かったのは、持続点滴やEDチューブのはずれや、バルーンの自己抜去などチューブ関連のインシデントが非常に多いということでした。
そこで、関連のパスを精査し、経口摂取への切り替えのタイミングなどを詳しく書き込むという修正を行うことを考えています。これを曖昧にしたまま、経管栄養を続けているからこうしたインシデントが発生すると考えたためです。インシデントレポートにパス改訂するための大きなヒントがあると考えています。

4.院内業務改善のポイント

──院内の業務改善にも取り組んでいるとお聞きしています。

これもパスの修正に関連しますが、まず、医師の時間外オーダーの件数をチェックしました。午後4時以降のオーダー件数を医師別に見たところ、特定の医師に集中していました。検査が必要なら、翌朝まで持ち越さずにすぐオーダーしておけば、それだけ早く業務を手放せるという心理のもとでしょう。しかし、看護師は医師からのオーダーに基づき働きますから、もしそれが翌朝で構わない検査オーダーであれば当日の夜の担当看護師さんの業務負担が軽減されることになります。

──看護師も疲弊してしまいますね。

はい。さらに、退院時処方のオーダーの見直しにも着手しました。退院時処方は当初、「退院前日の午後4時まで」に行うルールでしたが、これを「退院当日の午前8時半まで」にシフトしました。翌朝までオーダーの期限を延ばすことで夜間の業務を減らす目的です。
もう一つは検査の“緊急性”の見極めです。医師がオーダーした緊急検査の結果を実際にいつ確認しているのかを電子カルテでチェックしています。例えば午前6時頃に採血をしたら、緊急の場合は8時頃には結果が出るはずですが、実際に医師は何時にチェックをしているのか。すぐに見ていないのであれば「緊急」で行う意味はありません。
さらに、週単位で見ると検査のオーダーは月曜に集中しがちです。月曜にはただでさえ業務が集中しがちなのに、本当にこの日に行う必要があるのか。こうした観点からも業務改善を進めていこうと考えています。

5.スタッフの「働き方改革」の概要

──大阪警察病院の働き方改革について教えてください。

政府の「働き方改革実行計画」が2017年3月に固まったのを受けてさまざまな取り組みを進めています。2018年1月には「時間有給制度」をスタートさせました。1日分の有給休暇を、1時間単位で取得できるようにする仕組みで、「子どもの急な発熱で早く帰らなければならないときにも助かる」などと好評です。

大阪警察病院 小牟田 清 副院長

4月には、ER・救命救急科に交替勤務制を試験導入する予定です。救命救急科は当直が多く、なかでも当直明けの勤務が長時間になるケースでは、業務の負担増と医療事故のリスクが懸念されてきました。4月に救急医2名の増員が決まったので、当直の一部を「夜勤業務」に切り替えることで当直の回数を減らす試みです。まずは4~5月の月~木曜日に限って試験導入し、検証結果を踏まえて本格導入するかどうかを見極めます。
このほか、年1,200万円ほどの費用をかけてオンラインで雑誌を購入したり、学会への年会費・出張費を支援したり、米国の救急医を招いて研修医向けに講義していただいたりと、スタッフのスキルアップも支援しています。

──こうした施策は院内の声を反映して展開しているのでしょうか。

もちろんです。現場の声を聴き、院内の「QOL委員会」で具体的な対応を話し合っています。例えば会議やミーティングでは、大まかな方向性をコアメンバーであらかじめ決めておくことと、これまで夕方から開いていた会議をなるべく早朝に開いて診療が始まる午前9時までに終わらせるように見直しています。

──スタッフの働き方改革にそれほど力を入れるのはなぜでしょうか。

入院期間の短縮や病床稼働率の向上など、急性期病院としての機能を高めるほど現場には業務負担増が及びます。病院は医療スタッフによって成り立っているからこそ、勤務環境の改善が不可欠だと感じていることが大きな動機です。

6.薬剤交付待ち時間解消のポイント

新システムを導入して2016年にスタートさせた薬剤交付業務の見直しも働き方改革に関連します。患者さんの負担を和らげる観点から、当院では院内調剤を採用しています。新たな取り組みは、患者さんが窓口で薬剤を受け取るまでの待ち時間をゼロにしようというものです。
患者さんを診察してから医薬品をお渡しするまでには通常、処方のオーダーを経て調剤、監査などの手順を踏みます。当院では、患者さんを診察している段階で電子カルテからオーダーされた処方を、患者さんが会計を行っているうちに薬剤部が調剤と監査を済ませられるように業務を見直しました。こうすることで、患者さんは窓口に到着したらすぐ薬剤を受け取れるわけです。
最大のポイントは、薬剤師が一方的に薬のことを説明するのではなく、短縮した待ち時間を有効活用するため、患者さんや付き添いの方がその場で薬の内容を確認できる体制を実現させたことです。院内での調剤は1日約900件。システムの導入前は、既に帰宅した患者さんからの薬剤に関する問い合わせの電話が、多いときには月に60件を超えていました。それが現在は多くて10件前後です(図3)。患者さんの待ち時間を解消できただけでなく、薬剤部の業務負担も大幅に削減でき、効率化が図られています。

図3 帰宅した患者からの問い合わせ推移

図3 帰宅した患者からの問い合わせ推移

(資料:大阪警察病院 薬剤部ご提供)

──これも現場の声を反映させた試みだったのでしょうか。

きっかけは薬剤部からの要望でした。現場の声を聴き、現場の状況を把握すればさまざまな改善につなげることができます。先ほどお話ししたインシデントもそうです。インシデントはいわば“現場の叫び”です。バルーンの自己抜去が起きたなら、「次は気を付けよう」で済ませるのではなく、なぜ起きたのかを突き詰めて業務プロセスを見直し、それをクリニカルパスの中に組み込む。そうすれば状況は改善できるでしょう。
入院期間の短縮に医療安全の確保、スタッフの働き方改革――。これらはそれぞれ独立したテーマのように見えますが、実はすべてつながっているような気がします。

大阪警察病院 小牟田 清 副院長

取材の裏話・・・

インタビュアー
インタビュアー:2018年度の診療報酬改定に向けてどのような戦略を描いていますか。
大阪警察病院 小牟田 清 副院長
小牟田先生:今回の診療報酬改定では、入院医療への評価体系が抜本的に見直され、大きく注目されました。急性期医療では、これまでの7対1と10対1入院基本料による評価から、急性期一般入院料1~7によって7段階で評価する形に再編されます。新点数での詳しいシミュレーションの結果はまだ見ていませんが、7対1に相当する「急性期一般入院料1」を再編後も算定し続ける方針です。
インタビュアー
インタビュアー:そうした戦略を検討する際にもクリニカルパスが絡んでくるのでしょうか。
大阪警察病院 小牟田 清 副院長
小牟田先生:施設基準が大きく変わるので、パスの見直しにそれを反映させることになるでしょう。当院は、大学病院本院並みの診療機能を持つDPC病院II群(2018年度診療報酬改定で「DPC 特定病院群」に名称変更)に位置付けられています。パスの修正で入院期間の短縮がさらに進めば、急性期機能を一層高められるとみています。
インタビュアー
インタビュアー:地域医療構想にはどのように対応する方針でしょうか。
大阪警察病院 小牟田 清 副院長
小牟田先生:大阪市やその周辺にはたくさんの急性期病院がありますが、この地域では入院医療への需要が今後も高まり、2025年までに大阪府全域で1万床程度が不足するといわれています。こうした中で、中核病院としての役割を担っていきたいと考えています。

(2018年3月5日のインタビューより)

【解説】進む“医師の働き方改革”

―厚生労働省検討会の「中間的な論点整理」などをもとに㈱医薬情報ネットが作成―

最大の焦点は「応召義務」 個人ではなく「組織としての対応」を検討へ

政府の「働き方改革実行計画」が2017年3月にまとまりました。この計画は、労働者の残業時間上限を月45時間・年360時間を原則とし、繁忙期など特別な事情がある場合でも年720時間、単月で100時間未満(休日労働を含む)、複数月で平均80時間に罰則付きで規制するという内容です。政府は、多様な働き方を選択できる社会の実現を目指すとしていて、会期中の通常国会に労働基準法などの改正案を提出したい考えです。
実行計画では、医師の残業時間も規制の対象に位置付けました。ただ、医師法に基づく応召義務などの特殊性を踏まえて具体的な対応を考える必要があるため、規制の適用は、改正法の施行から「5年後をめど」に猶予されました。
これを受けて厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」を2017年8月に立ち上げ、医師の残業時間に対する規制の枠組みと、医師の勤務環境改善策をめぐる話し合いをスタートさせました。この検討会が2018年2月にまとめた「中間的な論点整理」では、医師の応召義務の在り方について、個人ではなく組織としての対応をどう整理するかという観点から、諸外国の例も踏まえて話し合う方向性を打ち出しました。また、医師の業務負担を和らげるため、静脈採血や静脈注射、静脈ラインの確保などの業務について、看護職員への移管(タスク・シフティング)を推進する必要があるとしています。検討会では今後も議論を続け、2019年3月をめどに報告書を取りまとめます。
厚生労働省が2016年12月、全国の医師約10万人を対象に実施した調査の結果によると、1週間の勤務時間が60時間以上の常勤医は全体の39%を占めました(図)。こうした過酷な勤務環境を改善させるには医師の働き方改革が不可欠ですが、仮に残業時間を規制されると医療機関はその分、医師を増員させなければなりません。このため、経営面への影響を懸念する声もあります。
医師など医療従事者の働き方改革は2018年度の診療報酬改定に向けた議論でも重要なテーマになり、厚生労働省は、小児科や産婦人科、リハビリテーション科などの診療報酬の常勤要件を緩和することを決めました。例えばリハビリ科では心大血管疾患リハビリテーション料などが対象で、見直し後は、「週3日以上かつ週 24時間以上」勤務する非常勤職員を複数組み合わせた常勤換算の配置でも算定を認めます。

図 病院と診療所の常勤医師の週当たり勤務時間別の割合

図 病院と診療所の常勤医師の週当たり勤務時間別の割合

(医師の働き方改革に関する検討会(2017年9月21日)資料より)