医療サポート事例:地域医療戦略

がん専門病院のさらなる可能性引き出した
スタッフを尊重した組織づくり

一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院
坪井 永保 理事長

一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院 坪井 永保 理事長

がん専門病院として40年以上にわたり地域のがん医療を支えてきた一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院(福島県郡山市)。坪井永保(えいやす)先生は、父親から同院を継承し、東日本大震災直後の2011年6月に理事長に就任しました。以降、がん治療におけるリハビリテーションの導入や非がん領域への挑戦といった新たな視点を盛り込み、同院をさらなる高みへと押し上げています。がん専門病院を運営していくうえでの理念や考え方、それらを踏まえた数々の取り組みとその成果についてお伺いしました。

この記事のキーワード

がん専門病院/ホスピス/がん治療におけるリハビリテーション/「坪井劇場」「チーム坪井」/自己実現/特殊外来/イノベーションチーム/間質性肺炎・肺線維症センター/医師臨床研修による連携/働き方改革

1.専門病院としての理念と体制

──坪井病院はがん診療連携拠点病院であると同時に、全国的にも数少ない「がん専門病院」として地域のがん医療の向上に努められています。

一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院 坪井 永保 理事長

父親で元日本医師会会長・世界医師会長の坪井榮孝は草創期の国立がんセンター(現国立がん研究センター)に勤めていましたが、1970年に郷里の郡山に戻って坪井病院の原点となる診療所を立ち上げ、1977年に102床で坪井病院を開設しました。がん診療連携拠点病院などなかった当時、首都圏と地方のがん医療には歴然とした格差がありました。同院の開設は、「地域によって、受けられるがん医療に差があってはならない」「がんセンターと同水準のがん医療を郷里の人たちにも提供したい」との思いからの決断だったようです。

──どのような方針や体制でがん医療を提供されてきたのでしょうか。

わが国初のがん専門の民間病院として創設時から「予防啓発」「早期発見」「集学的治療」「ホスピスケア」を4つの柱に、高い水準の医療技術と全人的医療の提供に力を注いできました(図1)。現在、病床数は230床で、うち18床のホスピスは1990年、全国で5番目に認可を受けました。

図1 坪井病院における4本の柱

図1 坪井病院における4本の柱

(資料:坪井 永保 先生 ご提供)

2.リハビリテーション概念の啓発

──先生は坪井病院を引き継ぐにあたり、どのような病院づくりを目指されたのでしょうか。

私は、当院に戻るまでの20数年間、虎の門病院(東京都港区)の呼吸器科でCOPDや喘息、肺がんなどの呼吸器疾患全般を診ていました。なかでもCOPDの治療では呼吸リハビリテーションや吸入療法、栄養療法など多職種との連携による包括的治療が必要になります。したがって当院では、がんの専門病院という機能を維持しながら、そうした包括的治療やチーム医療を充実させることにより「トータルで人を診る」という面をより一層強化していこうと考えたわけです。

──そのためにどのようなことに注力されてきたのでしょうか。

一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院 坪井 永保 理事長

リハビリテーションセンターを新設し、まず、病院スタッフへのリハビリテーションの概念の啓発に努めてきました。リハビリテーションには、“身体的な改善による日常生活・社会適応への復帰”というイメージがありますが、がん医療の現場では少し異なります。治療によって食欲や筋力、ADLが低下するのを予防し、やむを得ず低下してしまったものは改善させ、退院後の仕事や生活にもうまく順応できるようにします。さらに、心理的な落ち込みの予防や緩和を目的としています。
また、ホスピスでのリハビリテーションも重要です。リハビリテーションによって体位変換時の痛みが軽減したり、自分で更衣ができるようになったり、いったん退院できる方もいらっしゃいます。もう限られた時間しかないという意識があるだけに、一時帰宅や退院は患者さんやご家族にとって大きな喜びとなります。

──患者さんに喜びや希望などを与えることも広義のリハビリの一つということでしょうか。

そのとおりです。当院のリハビリスタッフは、患者さんの全身状態が悪化し意識レベルが低下した状況になったとしても、患者さんに話しかけたり手をさすったりしています。そうした行為によってそばにいるご家族は、患者さんの生きている証を見出すことができるでしょう。家族の方からも「最後まで続けて下さい」と希望されます。もちろん診療報酬の算定はしません。

──がんリハビリテーションの啓発に努めた成果はいかがでしょう。

当院でのがんリハビリテーションは2007年から始まりましたが、2010年に保険収載され、経営的には安定した部門になりました。センターのスタッフも、始めた当初は1~2名でしたが、現在は10名前後にまで増えており、入院患者の約3分の2の方にリハビリテーションの指示が出ている状況です。ただ、それ以上に大きな成果は看護師などの多職種のスタッフがリハビリテーションの必要性を感じ取ってくれたことです。最初は何をしているのだろうと不思議そうに眺めていたスタッフたちも、実際に患者さんが良くなる姿、あるいはご家族が喜んでいる姿を何度も目の当たりにすることで、必要な取り組みなのだと認識してくれたようです。

3.自己実現を図れる職場環境づくり

──保険収載の話が出ましたが、緩和ケア病棟ではリハビリテーションは入院基本料に包括されてしまいますね。

「やらなければならないことはやる」これは私の臨床医としての信念ですが、一方で理事長職という経営者の立場では「診療報酬が算定できない行為をしていいのか?」というジレンマがあります。しかし、答えは明確で、仮に診療報酬を算定できなくても「患者さんにとって必要なことはやるべき」だと思っていますし、職員にもそう指導しています。「診療報酬が算定できない部分は他で埋め合わせるから自由に、思う存分治療に当たれ」と。
よく緩和ケアの現場では「患者さんに寄り添う」という言葉が使われますが、そう簡単なことではありません。なぜなら私たちは患者さん本人にはなれないわけです。であるがゆえ、ケアする立場であるスタッフが自分の中に多くの引き出しを備え、その引き出しを開けながら患者さんのケアに当たることで、患者さんが心と体を預け、何でも言える関係が形成されることが理想です。
人生観や文化、趣味について共有することができれば「寄り添う」ことの形も変わってくるでしょう。さまざまな患者さんに合わせて適切な引き出しを開けるスキルも身に着けていくことが大切であり、それを提供することこそが全人的なケアの姿であると考えています。
「無駄だと思うことにもどんどんチャンレジして自分の引き出しを増やしていこう」と、全スタッフに言い続けています。

──スタッフの考えや判断を尊重した組織にしていこうということでしょうか。

トップダウンとボトムアップの融合です。スタッフ一人ひとりが、プロ意識を持って自分のやるべきことは何かを常に考え実践し、当院に来られた患者さんに気持ちよく帰っていただくことに全力を尽くすことが重要です。患者さんと接するそのプロセスのなかで自己実現を果たしていくということです。「坪井劇場」と表現していますが(図2)、役者は観客が感動して帰ることに生きがいを感じるように、当院のスタッフにもそうなって欲しい。そのうえで医療職はもちろん、事務スタッフや清掃、給食を担当する方まですべてのスタッフが「坪井劇場」の一員として「観客である患者さん」一人ひとりをケアする。それが理想的な医療機関の姿だと思います。
劇場には舞台監督が必須で、時には総監督である私がトップダウン的に修正や新たな指示を出します。
時と場合によってのトップダウンとボトムアップの融合です。
2007年の当院への着任以降、数多くの取り組みを行ってきましたが、「坪井劇場」はすべてにおいての共通した考え方、源流となっています。

図2 坪井劇場の理念

図2 坪井劇場の理念

(資料:坪井 永保 先生 ご提供)

4.特殊外来の開設と成果

──近年、相次いで薬剤師外来やリンパ浮腫外来、病理外来といった特殊外来を開設していますが、どのような狙いがあるのでしょうか。

前述のように「必要なことはする」ということです。幸いこれらの特殊外来は診療報酬の算定が可能ですので追い風が吹きましたが。
当院は、がん薬物療法認定薬剤師、緩和ケア認定看護師(リンパ浮腫専門医療従事者)など、各医療職にがん治療のスペシャリストが揃っています。そうしたスタッフに「舞台」を整えてあげると、スキルを活かすためにも「薬剤師外来を、リンパ浮腫外来をやりたい」という声が上がるわけです。病理外来についても、他の病院に勤めていた医師がそこでの開設が叶わず、当院に来て実現させたものです。
全入院患者のうち、常時がん患者7割以上というがん専門病院の要件(【解説】参照)を維持しているうちに「今やるべきこと」があぶり出されたということかと思います。

──スタッフが自己実現を追求できる職場を体現していますね。

2017年8月には比較的若手のスタッフで組織されたイノベーションチームを立ち上げ、自分たちで新しい施策を実行したり、チーム以外の職員が実現させたい新しい取り組みを円滑に実行できるよう支援したりしています。「チーム坪井」を動かす実働部隊ですね。病理外来の開設も当チームの働きによって開設にこぎ着けました。

──特殊外来の運営でどのような成果が生まれていますか。

薬剤師外来は開設から5年目を迎えますが、年々指導件数は増加しています(図3)。最近では主治医に先駆けて薬剤性間質性肺炎を発見するなど、薬剤師のスキルも向上しています。特に薬剤に詳しい主治医が一人増えたようなものですから、患者さんにとっても安心でしょうし、医師の負担軽減にもつながっていると思います。

図3 薬剤師外来の指導件数推移

図3 薬剤師外来の指導件数推移

(資料:坪井 永保 先生 ご提供)

5.非がん領域でのチャレンジ

──2018年1月には間質性肺炎・肺線維症センターを開設していますが、その経緯を教えてください。

福島県全域で間質性肺炎の診断・治療がたち遅れており、適切に診断・治療できる医師が少ない状況でした。そんなとき、東邦大学医療センター大森病院(東京都大田区)で間質性肺炎(Interstitial pneumonia; IP)センターを開設する動きがあり、間質性肺炎の専門医であり虎の門病院時代の同僚だった同センター呼吸器内科教授の本間栄先生から、そのサテライトとなるIPセンターを坪井病院に新設しないかと声をかけていただいたのが、間質性肺炎・肺線維症センター開設のきっかけです。

──がん以外の診療にも積極的に取り組んでいくということでしょうか。

がん専門病院という機能は当面変えるつもりはありませんが、非がん領域でも地域に不足している診療機能があれば、それを補っていくという考えで取り組んでいます。IPセンターの立ち上げもその一環といえます。また、緩和ケアも、がんだけでなく慢性呼吸器疾患なども対象にするべきだと思っており、今後学会レベルで診療報酬収載が実現すればと思っています。将来的にはすべての病気の末期に対応するQOLケアセンターを創設する構想も練っています。

6.地域での活動や連携の現状

──地域での活動を含め、他医療機関との連携についてはどのような状況でしょうか。

当院の4本の柱の一つである「予防啓発」として、地域住民を対象とした健康講座を定期的に開催しているほか、地域の医療機関と、がん治療やリハビリテーションをテーマに年数回研修会を開催し、情報の提供・共有に努めています(図4)。
地域医療構想や地域包括ケアシステムなどを背景に各地で地域医療の役割分担が進められています。郡山を含む県中医療圏には、それぞれの特色を有した財団法人病院が多数あり、それぞれが連携し合ったら最強の医療コンプレックスになると思っています。そのきっかけとして私が音頭をとり、読売テレビ系列の福島中央テレビと共に企画して『福島ドクターズTV』という番組を毎月一回放映しています(図4)。毎回、順番で各病院の診療科を取り上げ、それぞれの強みを知っていただいて市民の受診の助けにしてもらうのが狙いです。ただ、これは患者さんの受診行動に訴えたものにすぎません。医療機関同士が具体的な話し合いを持って、連携推進や役割分担を協議することが必要だと思っています。それが今後の大きな課題です。

図4 イベント一覧

図4 イベント一覧

(資料:坪井 永保 先生 ご提供)

──連携を進めていくうえで何かお考えはございますか。

医師の初期研修プログラムで各病院が連携し、それぞれの得意診療科を組み合わせて3カ月ごとにローテートさせるという案を考えています。総合病院でも診療科によっては常勤医が充足しているとは言えない場合があり、それは研修医にとっては不幸なことです。 各病院の得意領域ごとに研修が受けられるようにすれば、研修医が専門領域の腕を磨けるメリットがありますし、病院側も強みをアピールできることから3年目以降の後期研修先として選んでもらえる確率が上がります。医師の地元への定着や、地域の医師不足解消にも寄与できるのではないでしょうか。また、他病院の診療科に研修医を奪われまいと教育にも熱が入るし、切磋琢磨して両方が選ぶ立場、選ばれる立場になるWin-Winの関係が成り立ちます。併せて、地域の役割分担も進むと考えます。

7.結果としての「医療改革」

──現在、医療現場では働き方改革、タスク・シフティング、さらにはアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)などの取り組みが求められていますが、お話を伺っているとこれらの問題はすべてクリアされているように思います。

そうした新しいキーワードにパッと飛びついて改革を進めているつもりはありませんし、ホスピスの運営も、形式にこだわったり、ただ痛みを和らげるケアを提供したりしているのではありません。当院では、18床のホスピスが埋まっても一般病床でホスピスと同様のサービスを提供できることを誇りに思っています。
私は、スタッフが夢や自己実現を見いだせる職場づくりこそが働き方改革だと考えています。また、医療者がやるべきことができる環境を整えていくことでチーム医療が自ずと形成され、終末期の意思決定を含めた支援なども自然発生的に行われていくと信じています。ただ結果としてついてきたということであり、制度や診療報酬だけを見ていたら真の改革はできないでしょう。

一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院 坪井 永保 理事長

取材の裏話・・・

インタビュアー
インタビュアー:医師の人材確保ではやはりご苦労が多いでしょうか。
一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院 坪井 永保 理事長
坪井先生:一時期、医師のリクルートサイトを利用していたことがありましたが、当院に骨を埋める覚悟で来て下さる医師は少なく、早期に他施設に移られる方が多かったです。待遇面で不満を抱いていたり、組織のなかで他の職種と上手くやりとりができなかったりすることも多いですね。少し時間をかけて病院の理念に共感してもらったうえで入職してもらわないと難しいのかもしれません。
インタビュアー
インタビュアー:坪井病院でぜひ働きたい、と強い意思を持った先生方が長く活躍されているのですね。
一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院 坪井 永保 理事長
坪井先生:そうです。大規模な病院で数百人も常勤医がいるような大組織と違って、当院は常勤医が21人しかいませんから、一人でも異なる理念を持った医師がいればその行動は鮮明に色濃く浮き出るわけです。そうなってしまうと経営にも影響しかねないので、ドラスティックな対応をせざるを得ないこともあります。
インタビュアー
インタビュアー:つまり引導を渡したということでしょうか。
一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院 坪井 永保 理事長
坪井先生:はい、患者さんに不快な思いをさせたり、組織の和を乱したりするような医師は、その人が辞めることでその診療科を閉じざるを得なくなったとしても諦めざるを得ません。良い医療を提供していくために、そういった姿勢を貫いています。 結局、学会や会合などで当院の理念に共感してくれる医師を草の根的に探していくしかないのですが、急がば回れで、それがよい医師を見つけ、職場に定着させていくための最良の方法なのかもしれません。

(2018年11月28日のインタビューより)

【解説】専門病院入院基本料、届出医療機関は全国で22病院

―厚生労働省 中医協の議論などをもとに㈱医薬情報ネットが作成―

全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるよう、2007年策定のがん対策推進基本計画に基づいて設けられたがん診療連携拠点病院は、2018年4月時点で401施設が指定されています。その要件として、▼手術や抗がん剤治療、放射線治療などを組み合わせた専門的ながん医療の提供▼治療の初期段階からの緩和ケアの実施▼地域の医療機関への診療支援と在宅医療との連携――などが定められています。
本稿でご紹介した「がん専門病院」とは、がん診療連携拠点病院ではなく、専門病院入院基本料を算定している病院を指します。そして、その数は循環器疾患の専門病院を含め、現在わずか22病院にすぎません。下記の施設基準のとおり、がん専門病院の場合は7割以上のがん患者の入院を必要としているからです。例えば、がん患者がいない診療科を数多く扱う総合病院等でこの基準をクリアすることは難しいでしょう。
一方、専門病院入院基本料の7:1入院基本料は1,591点(2018年12月現在)で、急性期一般入院料1と同じです。初期加算で14日以内は専門病院入院基本料では512点、一般病棟入院基本料では450点、15~30日以内は207点と192点、と若干の差は設けられているものの、診療報酬上で特段優遇されているとはいえない点数です。報酬が魅力というよりも、専門の疾患であれば集客しやすい、専門性の高い人材が集まる、専門技術・知識の集積が効率的に図れるといったブランド力を背景としたメリットのほうが大きいといえるでしょう。

図 専門病院の施設基準と専門病院入院基本料の届出数

図 専門病院の施設基準と専門病院入院基本料の届出数

(出典:厚生労働省 告示第34号通知[保医発0305第1号]/中医協 総‐6‐1[29.11.15]をもとに改変)

PC
2019年1月作成