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新しい疾患概念
塞栓源不明の脳塞栓症(Embolic Stroke of Undetermined Source:ESUS)

監修:国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授
山王病院・山王メディカルセンター脳血管センター長
内山 真一郎 先生

脳卒中は虚血性脳卒中(脳梗塞)と出血性脳卒中(脳出血、くも膜下出血)に大別されます。脳梗塞の主要3病型として、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症が知られており、その他の原因(動脈解離や血管炎など)であるものを含めると全体の約75%は何らかの原因が特定されている脳梗塞と言えます。しかし、原因疾患の明らかでない脳梗塞が全体の約25%程度を占めるとされ、潜因性脳卒中(Cryptogenic Stroke)と呼ばれてきました。しかし、近年、脳卒中の画像診断と病態生理学の進歩により、潜因性脳卒中の大部分は塞栓性の梗塞であることが分かってきたため、「潜因性」の再定義が急務になったという背景があります。そのため、2014年に自身を含めた国際的な脳神経内科医のワーキンググループにより、塞栓源不明の脳塞栓症(Embolic Stroke of Undetermined Source : ESUS)という新しい概念が提唱されました。本サイトでは、主に脳梗塞に焦点を当て、新しい疾患概念であるESUSについても解説します。

虚血性脳卒中(脳梗塞)の病型とその特徴

脳梗塞の病型分類として、脳細動脈(穿通枝)の血栓性閉塞に伴うラクナ梗塞、脳へ灌流する主幹動脈に存在する50%以上のアテローム硬化による狭窄性病変が原因となるアテローム血栓性脳梗塞、心房細動などの心疾患により生じた心内血栓が脳内の血管を閉塞したと考えられる心原性脳塞栓症の主要3病型で脳梗塞全体の約70%程度を占めます。その他の特定の原因による脳梗塞で頻度の高いものとしては、動脈解離、血管炎、抗リン脂質抗体症候群、もやもや病などが知られています。しかし、これら以外に原因疾患の明らかでない脳梗塞が全体の25%程度を占めるとされ、潜因性脳卒中(Cryptogenic Stroke)1-3)と呼ばれてきました。潜因性脳卒中の大部分は塞栓性の梗塞であると考えられることから、そのような脳梗塞を新たな疾患概念として塞栓源不明の脳塞栓症(Embolic Stroke of Undetermined Source:ESUS)と呼ぶことが、2014年に国際的な脳神経内科医のワーキンググループ(Cryptogenic Stroke/ESUS International Working Group)により提唱4)されました。

脳卒中の分類
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脳卒中の分類

脳卒中の分類

文献

  1. 1)内山 真一郎. 日医誌 2017; 46(特別号): S226-S227.
  2. 2)内山 真一郎. Medical Practice 2016; 33: 409-412.
  3. 3)内山 真一郎. 分子脳血管病 2016; 15: 128-131.
  4. 4)Hart RG, et al. Lancet Neurol 2014; 13: 429-438.

潜因性脳卒中とESUS

脳梗塞のうち、原因疾患の明らかでないものが全体の25%程度を占めるとされ、潜因性脳卒中(Cryptogenic Stroke)と呼ばれてきました。潜因性脳卒中は、基本的には原因疾患が明らかな脳梗塞を除外した後に残る診断であり、「検査が不十分であったもの」、「十分な精査にもかかわらず原因が見つからないもの」、「原因の可能性がある異常を有するが、その所見が一定の診断基準を満たさないもの(例:狭窄率50%未満の頸動脈プラークなど)」と言い換えることができます。潜因性脳卒中のうち、「塞栓源となる心疾患がない」、「虚血病巣近位の動脈狭窄がない」、「ラクナ梗塞ではない」、「他の明らかな原因がない」ことを満たす塞栓性の脳梗塞はESUS(塞栓源不明の脳塞栓症)と総称され、私自身はESUSの和訳を「潜因性脳塞栓症」と提唱しています。

ESUSの診断手順
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潜因性脳卒中とESUSの概要図
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ESUSで想定される塞栓源疾患

ESUSの主な塞栓源として下表1)のような疾患が挙げられます。

ESUSの主な塞栓源疾患
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文献

  1. 1)北川 一夫. 神経治療 2016; 33: 382-386.

脳梗塞病型別の機能予後と脳卒中再発率

脳梗塞の病型別の臨床的な特徴について、ギリシャのアテネ脳卒中レジストリー1)の結果から、追跡終了時の予後良好例(mRS 0~2の割合)は心原性脳塞栓症が最も少なく、ESUSとアテローム血栓性脳梗塞が同程度でした。また、本レジストリーではESUS患者の多くが抗血小板薬を服用していましたが、年間100人あたりの脳卒中再発率はアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞といった非心原性脳梗塞と比べてESUSで高く、心原性脳塞栓症と同程度であることが報告されました。また、ESUSを含む潜因性脳卒中の観察研究2)においても、患者の大多数が抗血小板薬を服用していましたが、再発率が高く、再発病型は潜因性脳卒中が多かったことが報告されました。これらの研究結果は、ESUS患者に対する最適な抗血栓療法について疑問を投げかけています。

アテネ脳卒中レジストリーにおけるESUSの臨床的特徴
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文献

  1. 1)Ntaios G, et al. Stroke 2015; 46: 2087-2093.
  2. 2)Li L, et al. Lancet Neurol 2015; 14: 903-913.

虚血性脳卒中(脳梗塞)患者に占めるESUS患者の割合

2016年に報告された、世界19ヵ国における後ろ向き調査であるESUS Globalレジストリー1)では、全脳梗塞患者2,144例中、ESUS患者を351例(16%)に認めました。日本を含む東アジア地域においても脳梗塞患者268例中、ESUS患者は55例(21%)であり、世界の各地域と同程度の割合に認められました。

文献

  1. 1)Perera KS, et al. Int J Stroke 2016; 11: 526-533.

ESUSの診断基準および診断のための推奨検査

ESUSの診断基準および診断のための推奨検査は下表1)の通りです。

ESUSの診断基準および推奨される検査
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文献

  1. 1)Hart RG, et al. Lancet Neurol 2014; 13: 429-438.

ESUSの治療

AHA/ASAの脳卒中2次予防ガイドライン2014年度版では「非心原性脳梗塞における2次予防は経口抗凝固薬よりも抗血小板薬が勧められる(Class I)」1)とされ、わが国の脳卒中治療ガイドライン2015においても脳梗塞慢性期の治療として「非心原性脳梗塞の再発予防には、抗凝固薬よりも抗血小板薬の投与を行うよう強く勧められる(グレードA)」2)とされています。しかし、ESUS患者に対する適切な抗血栓療法については現在までに確立したエビデンスが存在していません。そのため、ESUS患者に対して、その他の治療法も検討されており、今後の展開が注目されています。

脳卒中治療ガイドライン2015[追補 2017]:再発予防のための抗血小板療法:非心原性脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞など)
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文献

  1. 1)Kernan WN, et al. Stroke 2014; 45: 2160-2236.
  2. 2)日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン[追補2017]委員会. 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017]. 東京: 協和企画; 2017: 101.
PC
2018年6月作成

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ラクナ梗塞(25%)

アテローム血栓性脳梗塞(25%)

心原性脳塞栓症(20%)

ESUSの診断手順

潜因性脳卒中とESUSの概要図

ESUSの主な塞栓源疾患

アテネ脳卒中レジストリーにおけるESUSの臨床的特徴

ESUSの診断基準および推奨される検査

脳卒中治療ガイドライン2015[追補 2017]:再発予防のための抗血小板療法:非心原性脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞など)